軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第82話 そういうところ

「えーっと……どういう状況かな」

やや久しぶりに学園へやって来たグザヴィエは生徒会室の隅で膝を抱えたまま腐っているヴィクトルを見て苦く笑う。

「一週間ほど前から、ニコレット嬢がこいつを避けるようになったようで」

「え」

幼少からヴィクトルの婚約者となったニコレットは必然的にグザヴィエやアンセルムとも付き合いが長い事になる。

しかしその長い期間の中、ニコレットがヴィクトルを邪険にするような事は一度もなかった。

「……一体何をして怒らせたんだい?」

故にこのような疑問が現れるのも当然の事であり、グザヴィエとしては純粋に不思議に思った事を口にしただけだった。

だが、その瞬間。

「っ、分っかんねーですよぉっ!!」

「うわ、声が大きい」

グザヴィエに背を見せ、壁と向き合っていたヴィクトルが振り返る。

そして彼は情けなく床に跪いたまま喚き出したのだ。

「何かした覚えなんかないし、何して怒らせたのか聞こうとしても逃げられるし! 謝る事すら出来ないし! ラガルド殿下とは普通に話してるし!」

「ああ、やっぱり気に入られてしまったみたいだね」

「殿下、今は多分そこではありません」

研究棟での一件で、ラガルドを止めるべくニコレットが彼に接触したという話はグザヴィエも聞いていた。

現状は多少ニコレットが手を焼いているものの、大事に至るような様子もなく、上手く手綱を握っているとグザヴィエは把握していた。

……という事にのみ言及したのは、分かりやすく落ち込み、心を乱しているヴィクトルの反応を見て楽しむ為だったのだが。

生真面目なアンセルムは少々困ったような顔で、ヴィクトルの話の主題はそこではないだろうとすぐさま首を横に振った。

無様に四つ這いになるヴィクトルは迫真的な面持ちだ。

「そもそもニコルは、たとえ相手に嫌悪を抱いていたってそれを態度に出すような事はしないはずなんだ。微笑んだまま上手く躱したり距離を取ったりすることが出来る、理性的で聡明な女性だし、仮に俺が無意識の内に彼女を怒らせていたとしても普段なら他の視線がある中であんなにわかりやすく避けたりしないし何なら彼女が心に壁を作っている時の笑顔や声音の特徴くらい覚えてるし起こらせるきっかけを生んでしまえばその瞬間には気付ける自信だってあるけどそんな様子は一切なくて――」

「うわぁ、キ」

「殿下。直接的過ぎる罵倒は王族の品性には合いませんから……お気持ちは分かりますが」

至って深刻そうな面持ちで、早口で捲し立てるヴィクトルの言葉に対して率直な感想が漏れそうになったグザヴィエの声を、アンセルムが遮る。

ゆっくりと首を横に振るアンセルムを視界に留めながら、グザヴィエは大きく肩を竦めた。

「まあ、ニコレット嬢が絡んだ彼の言動が気持ちが悪いものになるのも、今に始まった事ではないからね」

「殿下、殿下。言ってしまっています」

「き、キモくないですけどぉ!?」

「いや、割としっかりキモくはあるが」

「ぐ、ギィ……ッ、か、仮にそうだとしても、ニコルの前では出してねーし!」

「いや、案外そういうところがバレたんじゃない?」

グザヴィエの何気ない言葉にヴィクトルは動きを止める。

石のように固まってしまった彼の異変には気付かないまま、グザヴィエは顎を撫でながらヴィクトルへの態度を変えたというニコレットの事情を考えようとする。

「というのは、冗談だけれども。君が隠し事を得意としているのは知っているしね」

「……殿下」

そんな彼へ、アンセルムは渋い顔で眼鏡を押し上げながら声を掛ける。

金色の瞳は憐れむようにヴィクトルへ向けられていた。

「多分、聞こえていないです」

婚約者に嫌われたかもしれないという可能性が余程ショックなのだろう。

思考が真っ白になったヴィクトルは顔を青くさせたまま項垂れるのだった。

***

その日の昼休憩。

アンセルムは自分に出されたカップに口を付けながら視線を彷徨わせる。

「それで、何故」

眼鏡の奥の視線は左右に行ったり来たりと忙しなく動き、居心地の悪さを表している。

「俺を呼び出したのでしょうか」

おずおずと問う彼の周囲には満面の笑顔のジュリエンヌや彼女の友人達、そして……首を竦めたまま俯いているニコレットの姿がある。

アンセルムを呼び出したのはジュリエンヌだ。

公爵令嬢である彼女の誘いを断る訳にもいかず、何故か女性ばかりの昼食の中に一人放り込まれたアンセルムは、自分の置かれている状況に疑問を抱いていた。

「たまにはいいでしょう、アンセルム。私達とお話をしましょう?」

「であれば殿下をお誘いになられては? 最近あまりゆっくりとお話も出来ていないでしょう?」

「それは魅力的な提案だけれど、今回は貴方が適任なのよ。殿下をわざわざ呼び出して俗っぽい話に付き合わせるわけにはいかないわ」

「俺なら構わないだろうと? ……はぁ。それで、女性の集まりの中に招いてまで、一体何のお話をしようというのです?」

ジュリエンヌの、自分に対する扱いの軽さにアンセルムは呆れ交じりの溜息を吐く。

彼女のアンセルムに対するこの扱いは今回が初めてでもなかったのだ。

振り回される状況に慣れつつあるアンセルムが問えば、ジュリエンヌは愉快そうに笑ってから口を開いた。

「恋バナよ」