軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 精神力薬剤

「コホン」

深い藍色のローブを纏った老魔法使いが軽く咳払いをすると、立ち上がって父に向かって恭しく礼をし、微笑んだ。

「セレストーム侯爵、今回貴家を訪れましたのは、実はお願いがございまして」

「ほう、ハインリヒ殿。何なりと仰ってください。力になれることであれば、セレストーム家として断る理由はございません」

父はすぐに立ち上がって丁重に応じた。ただ、相手の用件が分からないため、あまり断定的な言い方は避けていた。

無理もない。ハインリヒはカエルム・アルカナムの上級魔法使いだ。普段は王都に在る父とはいえ、この老魔法使いを粗末に扱うわけにはいかない。

俺は隅の席に座り、黙ってこの光景を眺めていた。

心の中では、すでに予感していたことだったが。

「ほほ、侯爵閣下。このお嬢様をご存知でしょうか?」

ハインリヒは微笑みながら、隣の少女を示した。

「申し訳ない。このお嬢様は……」

父は少女を眺めたが、やや気まずそうに首を横に振った。

リーゼロッテがステラリアに弟子入りしたのは九歳の時で、カエルム・アルカナムで五年間修行を積んでいた。女の子の成長は早い。何年も会っていなければ、父が目の前の少女を息子の婚約者だと気づかないのも無理はない。

俺はリーゼロッテの冷たげな美貌を見つめながら、言葉にできない感情が湧き上がってくるのを感じた。

喪失感とも違う。怒りとも違う。

それはむしろ——無力感だった。

「コホン……彼女の名は、リーゼロッテ・フォン・クラウゼンブルクと申します」

「リーゼロッテ・フォン・クラウゼンブルク? クラウゼンブルク公爵のご令嬢か!?」

父ははっとした後、満面の笑みを浮かべた。昔の約束を思い出したのだろう。すぐに少女へと穏やかな笑顔を向けた。

「リーゼロッテお嬢様。もう何年も会っていなかったものだから、見分けがつかなかった。許してくれたまえ」

突然の展開に、周囲の人々も少し戸惑いの表情を浮かべた。五人の元老が互いに目配せをし、眉をひそめる……

俺は父の満面の笑顔を見つめながら、心の中で苦い思いを噛みしめた。

父はまだ知らないのだ。この令嬢が今日ここに来た本当の目的を。

「セレストーム侯爵、私が今まで挨拶に伺わなかったことこそ、お詫びしなければなりません。侯爵を責めるなど、とんでもございません」

リーゼロッテは優雅に微笑んだ。

「ほほ、リーゼロッテお嬢様。以前からステラリア様の門下に入られたと噂には聞いていたが、まさか本当だったとはな。お嬢様は本当に素晴らしい才能をお持ちだ……」

父は笑いながら感嘆の声を上げた。

「リーゼロッテは幸運に恵まれただけですわ……」

控えめに笑いながら、リーゼロッテは父の熱意に少々戸惑った様子で、テーブルの下で隣のハインリヒの袖を軽く引いた。

俺はその様子を見て、口元に薄い笑みを浮かべた。

幸運に恵まれた、だと?

ステラリアに直接弟子入りできたことが、幸運の一言で片付けられるものか。

これは強者の謙遜に過ぎない。

いや——強者が弱者に向ける余裕、とでも言うべきか。

「ほほ、侯爵閣下。実を申しますと、今日の用件はリーゼロッテお嬢様に関することでして……しかも、院長閣下ご自身からの……」

ハインリヒは軽く笑ったが、「院長」という言葉を口にする際、表情がわずかに厳粛なものとなった。

父の顔色が変わり、笑みが消えた。

カエルム・アルカナムの院長ステラリアは、エルデンハイム王国でも最高位の大魔導師だ。侯爵とはいえ、辺境の領地を持つに過ぎない父が、逆らえる相手ではない。だが彼女ほどの実力と権力を持つ者が、いったいセレストーム家に何の用があるというのか?

ハインリヒはリーゼロッテに関することだと言った。まさか——

父の手が微かに震えているのが見えた。

彼も察したのだ。

「ハインリヒ殿、どうぞお聞かせください!」

父の声はわずかに震えていたが、それでも冷静さを保っていた。

「コホン……」

ハインリヒの顔に一瞬気まずさが浮かんだが、院長のリーゼロッテへの寵愛を思い、覚悟を決めたように微笑んだ。

「侯爵閣下もご存知の通り、カエルム・アルカナムは古き掟を厳格に守る学院でございまして、また院長閣下はリーゼロッテお嬢様への期待も非常に高く、すでに次期院長として育成しておられます……そして古来より伝わる掟により、院長の後継者は正式に院長職を継承するまで、婚約関係を結ぶことが禁じられているのです……」

「院長閣下がリーゼロッテお嬢様に尋ねられたところ、貴家とのご縁があることを知り……それで院長閣下は、侯爵閣下にこの婚約を……解消していただけないかと……」

ガシャン!

父の手にあった銀の杯が、テーブルに叩きつけられて砕け散った。

広間の空気が、一瞬にして凍りついた。

俺は隅の席に座ったまま、静かにこの光景を眺めていた。表情一つ変えずに。

だが心の中では、荒れ狂う波が立ち騒いでいた。

やはりか。

やはり婚約破棄に来たのだ。

しかもカエルム・アルカナムの威光を背景に、ステラリアの名を借りて。

こうなれば、父がどれほど憤ろうとも、頭を下げるしかない。

なぜならセレストーム家は、カエルム・アルカナムに逆らえないのだから。

上座の五人の元老もハインリヒの言葉に衝撃を受けたようだったが、すぐに父を見る目に嘲りの色が混じった。

「ふん、カエルム・アルカナムに婚約破棄を突きつけられるとは。セレストーム家の名もここまでか」

若い世代の少年少女たちは俺とリーゼロッテの婚約のことを知らなかったが、両親に尋ねた後、その表情が一変した。好奇と嘲りの視線が、隅にいる俺へと向けられる——

俺は依然として平静を保っていた。

まるで嘲笑されているのが自分ではないかのように。

だが袖の中の拳は、さらに強く握りしめられていた。

爪が掌に食い込み、鋭い痛みが走る。

その痛みだけが、俺の意識を保ってくれている。

父の険しい表情を見て、リーゼロッテも顔を上げられず、うつむいたまま指を絡め合わせていた。

「侯爵閣下、無理なお願いであることは重々承知しておりますが、どうか院長閣下のお顔を立てて、婚約を解消していただけませんでしょうか……」

ハインリヒは無念そうに溜息をついて、静かに言った。

父は拳を握りしめた。その体から、灼熱の魔力が溢れ出す。赤い炎が腕を伝い、肩を覆い、やがて全身を包み込んでいった。

セレストーム家秘伝魔法——フレイムアーマー。位階:第四位階上級。

揺らめく炎熱が広間の空気を歪ませ、近くにいた者たちが思わず後ずさった。

父の反応を見て、ハインリヒの表情も一気に険しくなり、リーゼロッテの前に立ちはだかる。手のひらを素早く掲げると、紫色の雷光が掌に集まり、鋭い音を立てた。

カエルム・アルカナム上級魔法——サンダーハンド。位階:第五位階初級。

二人の魔力がぶつかり合い、広間にいた実力の劣る少年たちは顔色を失い、息が苦しくなった。

俺は静かにこの光景を眺めていた。

父は戦おうとしている。

だが俺には分かっていた。彼は本当に手を出すつもりはないと。

なぜなら彼は侯爵だ。

一時の感情で、領民と家臣たちに災いをもたらすわけにはいかない。

案の定——

父の呼吸がさらに荒くなった瞬間、五人の元老の怒号が広間に響き渡った。

「セレストーム卿! おやめください! 貴方はセレストーム家の当主なのですぞ!」

父の身体がびくりと硬直し、体を覆っていた炎がゆっくりと収束し、やがて完全に消えた。

どっかりと椅子に座り直すと、父は頭を下げたままのリーゼロッテを冷たい目で見つめ、嗄れた声で言った。

「リーゼロッテお嬢様、見事な決断力だ。クラウゼンブルク公爵は、貴女のようなご令嬢を持って、さぞかし誇らしいことだろう」

華奢な身体がわずかに震え、リーゼロッテは消え入りそうな声で呟いた。

「セレストーム侯爵……」

「ほほ、侯爵と呼んでくれたまえ。もはや私には、貴女から親しみを込めて呼ばれる資格などない」

父は冷たく手を振った。

「貴女は将来のカエルム・アルカナムの院長、いずれエルザ大陸全土にその名を轟かせる大魔導師となる方だ。我が息子レオンは平凡な才能しか持たぬ者、確かに貴女には不釣り合いだ……」

父のその言葉を聞いて、俺の心は引き裂かれるような痛みに襲われた。

だが表情は、依然として平静を保っていた。

「ご理解いただき、誠にありがとうございます」

その言葉にハインリヒは大いに安堵し、父に向かって深々と礼を述べた。

「院長閣下も、今日の要求が礼を失していることは承知しておられます。それゆえ、お詫びの品を持参するようにと……」

そう言うと、ハインリヒは指のラオムリングに魔力を込めた。空間に波紋が広がり、蒼白い光を纏った古びた宝箱が虚空から現れた。

ラオムリング——正式魔法使い以上しか所持を許されない魔法具だ。

俺は思わず目を見開いた。

慎重に箱を開くと、芳しい香りが広間に漂い、それを嗅いだ者は皆、頭がすっと冴えるのを感じた。

五人の元老が覗き込み——その身体が震えた。

「ノエシス・エリクサー!?」

広間が、瞬時にざわめきに包まれた。

ノエシス・エリクサー。

魔力の源泉たる精神力を、恒久的に引き上げる伝説級の魔薬だ。

市場では、最も低品質なものであっても千金貨以上の値がつく。

そして宝箱に納められたこの一瓶は、その輝きから判断するに、少なくとも中級品だ。

その価値は——少なくとも五千金貨——