軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第68話:逆転

金色の光が、舞台全体を照らし出した。

青白い氷の世界に、黄金の太陽が昇ったかのようだった。レオンは全身を金色の光で包まれて立っている。足元の氷は砕け散り、金色と白の破片が混じり合って舞台に散らばっていた。

オースティンは、僅かに後退していた。

「俺の全域氷結を——内側から砕いたのか」

その声は冷静だった。だが目が、レオンの全身を覆う金色の光を注視している。

「なるほど。最初からゴールデンフォームを薄く全身に纏っていたな。氷が体に触れる前に、防御膜を張っていた」

「ご明察」

レオンは不敵に笑った。

「兄上のフロスト・ドメインは、ディートリヒとの試合で見せてもらった。だから備えていた」

オースティンは頷いた。そして再び構えを取った。

オースティンが動いた。

右手を振るい、五本の氷槍を同時に生成した。先ほどの全域展開とは違う——精密に狙った集中攻撃だ。五本が異なる角度からレオンに迫る。

レオンは身を低くして一本目をかわし、金色の拳で二本目を砕いた。三本目は横に跳んで避ける。だが四本目が右脇腹を掠め、布地が裂けた。五本目を左腕の硬質化で弾き、破片が顔の横を飛んでいく。

「レオン様!」

観客席からローシーの悲鳴が響いた。

レオンは脇腹を押さえず、そのまま前に踏み出した。距離を詰める。

オースティンは即座に新たな氷槍を生成した。だがレオンは右手をオースティンに向けた。見えない吸引力がオースティンの体を引き寄せ始め、氷槍の照準が狂った。

吸引を切った瞬間、レオンの金色の右足がオースティンの腹部に突き刺さった。

ドゴォッ!

オースティンの体がくの字に折れた。だが折れた体勢のまま、左手がレオンの足首を掴んだ。掌から冷気が噴き出し、足首が瞬時に凍りつく。

「捕まえた——」

「遅い」

レオンの左掌が、オースティンの胸を押した。ゴールデンフォームの光が弾け、オースティンが吹き飛ばされる。同時にレオンは凍った足首に金色の光を集中させて砕き、距離を取った。

攻防が、一瞬で交錯した。

貴賓席で、カッセルリックが低く唸った。

「互角に見えるが——違う」

クロードが拳を握りしめている。甥の戦いから目が離せなかった。

「レオンの魔力が、目に見えて落ちている。全身硬質化の維持と攻撃の連発——あの子の消耗速度は、オースティンの倍以上だ」

クロードの顔が強張った。

「オースティンは冷気に特化している分、燃費がいい。このまま打ち合いが続けば——先に切れるのは、レオンの方だ」

カッセルリックの分析は正しかった。

レオンは自分でもそれを感じていた。全身のゴールデンフォームが、一撃ごとに薄くなっていく。金色の光が、先ほどより明らかに暗い。

オースティンの氷は精密で、速い。一本砕いても次が来る。接近すれば掴まれて凍らされる。距離を取れば氷槍が飛んでくる。隙がない。

だが——戦っていて、分かることがあった。

理屈では説明できない。言葉にもできない。ただ——拳を交えた者にしか感じ取れない、直感のようなもの。

この男は、まだ何かを隠している。

全力ではない。氷の壁の向こうに、まだ出していない力がある。

(兄上。お前は——本気じゃないだろう)

(——なら、出させてやる)

レオンは構えを変えた。

攻撃を止め、舞台の中央に立った。金色の光を全身に纏ったまま、両手を下ろした。

「兄上」

静かな声だった。

「これが、お前の全力か?」

オースティンの目が、僅かに細くなった。

「何が言いたい」

「お前は——まだ何か隠しているだろう」

レオンは一歩前に出た。

「全力じゃない。俺と戦っていて、一度も本気を出していない」

場内が、微かにざわめいた。

オースティンの表情が一瞬だけ固まった。すぐに元に戻ったが——レオンはそれを見逃さなかった。

「片腕を縛ったまま、俺と戦っているつもりか」

碧い目が、鋭く光った。

「それで負けたら——お前の誇りは、どうなる」

沈黙が落ちた。

オースティンは何も答えなかった。だがその蒼い目の奥で、何かが揺れていた。

レオンは待たなかった。

地面を蹴り、一直線にオースティンに突進した。右拳に金色の光を集中させ、全力で振り抜く。

オースティンは氷の盾を生成して受けた。金色の拳が氷盾に激突し、蜘蛛の巣状の亀裂が走った——だが砕けなかった。四つ星の氷は、まだ硬い。

二撃目。左拳。亀裂が広がる。

三撃目。右足の蹴り。

四撃目。左掌からゴールデンフォームの衝撃波。

五撃目——

パキィンッ!

氷盾が砕けた。

だがオースティンはすでに後退し、新たな氷盾を構えていた。割れた氷の破片の向こうで、冷静な目がレオンを見ている。

「無駄だ」

オースティンは静かに言った。

「お前が砕くより、俺が張る方が速い」

事実だった。レオンが全力で砕いても、オースティンは即座に次の防御を張る。攻撃のたびにレオンの魔力が削られ、オースティンはほとんど消耗していない。

レオンの息が荒くなっていた。金色の光が、さらに薄くなっている。

「レオン」

オースティンの声が、少し変わった。

「もう十分だ。お前は強い。認めている。——だが、これ以上は——」

「まだ認めてない」

レオンは荒い息の中で、笑った。

「俺が認めたいのは——氷の壁の後ろに隠れている兄上じゃない」

オースティンの目が、揺れた。

「本当の兄上を——見せてくれ」

レオンは全身の魔力を、右拳に集中させた。

ゴールデンフォームの光が全身から消え、右拳だけに凝縮された。全身の守りを捨てて、一点に全てを注ぎ込む。

これが、最後の一撃だ。

足が地面を蹴った。残った全ての力を乗せて、オースティンに向かって突進する。

「——来い」

オースティンは両手を前に突き出した。これまでで最大の氷盾が生成される。分厚く、硬く、四つ星の全力——

金色の拳が、氷盾の中心に叩き込まれた。

ドォォォン——!

衝撃波が舞台全体に広がった。氷盾に亀裂が走る。走り続ける。拳が、盾の中に沈んでいく。

パキ、パキパキパキ——

氷盾が——砕けた。

金色の拳が、氷の向こう側に突き抜けた。

そしてその拳は——オースティンの胸の、数寸手前で止まった。

レオンの魔力が、尽きたのだ。

金色の光が消え、ただの拳が、オースティンの目の前で震えていた。

場内が、静まり返った。

レオンは肩で息をしていた。全身から汗が滴り落ち、膝が震えている。魔力は完全に空だ。立っているのがやっとだった。

だが——氷盾は砕けていた。

オースティンは、レオンの拳を見つめていた。自分の胸の数寸前で止まった、震える拳を。

あと少し——魔力が残っていたら、この拳は自分の胸に届いていた。

全てを、この一撃に賭けたのだ。全身の守りを捨てて。自分が壊れることも厭わず。

——俺を、本気にさせるために。

長い沈黙があった。

「……レオン」

オースティンは、低い声で言った。

「お前は——馬鹿だな」

「ああ」

レオンは笑った。立っているのがやっとの体で、それでも笑った。

「馬鹿で結構だ」

オースティンは目を閉じた。

(……ごめん、母さん)

目を開けた時——その右手から、熱が立ち昇り始めた。

空気が、変わった。

先ほどまでの冷気とは真逆の波動が、オースティンの右手から放たれていた。石畳の霜が蒸発し、白い蒸気が立ち上る。

左手からは冷気。右手からは熱気。

二つの相反する力が、オースティンの体を中心に渦巻き始めた。

「まさか——」

クロードが立ち上がった。

「あいつ、冷却と加熱を同時に——!」

舞台の左半分が、さらに凍りついていく。右半分は、石畳が赤く焼け始めた。二つの世界の境界線の上に、オースティンが立っていた。

場内が騒然となった。

「冷却と加熱を同時に操るとは——」

「熱力系の完全制御——あれが、オースティンの真の力か——」

大長老が審判席で身を乗り出した。「ついに、出したか……」

カッセルリックは——微笑んでいた。

「レオンが、引き出したか」

レオンは魔力の尽きかけた体で、オースティンを見上げていた。

立っているのがやっとだ。ゴールデンフォームは右腕にしか残っていない。それすらも薄く明滅している。

だが——目が見開かれていた。

冷気と炎。蒼と赤。二つの力が同時にオースティンの両手に灯っている。

知らなかった。こんな力を隠していたなんて。

(兄上——お前、こんな——)

驚きの中に、笑みが浮かんだ。

これだ。これが——本当の兄上だ。

「レオン」

オースティンが言った。その声は、先ほどまでとは違っていた。冷たくもなく、穏やかでもない。ただ——真っ直ぐだった。

「お前が見たかったものだ。——後悔するなよ」

レオンは震える足で、構えを取り直した。右腕の金色の光が、最後の力で輝きを増した。

「後悔なんか——するわけないだろ」

二人の視線が、交錯した。

演武場の空気が、張り詰める。

貴賓席の最奥で、ヴィルヘルムが——煎餅を置いた。

この老人が煎餅を手放したのは、今日初めてだった。

蒼い鷹の目が、舞台の上の二人の孫を射抜いている。

「面白い孫たちだ」

低い呟き。その声には——五十年、この演武場を見続けてきた老兵だけが浮かべられる、深い感慨が滲んでいた。

【続く】