軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第57話 挑戦

演武場が、死んだように静まり返った。

水晶の上空に浮かぶ金色の文字を、場内の全ての者が凝視していた。

魔力値:125。二つ星中期。

しばらくして——あちこちから、荒い呼吸が聞こえ始めた。風車が回るような、ひゅうひゅうという音。

「125……だと?」

「嘘だろ……」

「デキソコナイが……二つ星中期……?」

囁きが、波紋のように広がっていった。

高台の上。

カッセルリックの右手が、椅子の肘掛けを握った。

ぎしり——と、木が軋んだ。

「125……」

声にはならなかった。唇が、かすかに動いただけだった。だが、その目が——七年の間ずっと凍りついていた父親の目が、わずかに潤んだ。

(やったか……レオン……本当に……ここまで戻ってきたのか……)

この一年、いや、この七年間。あの子がどれほどの苦しみに耐えてきたか。誰よりもよく知っている。知っていて——何もできなかった。

だからこそ、この数字の重みは、他の誰よりも自分にこそ突き刺さった。

傍らの七人の長老たちは、一様に信じられないという顔を浮かべていた。

「馬鹿な……七年間、魔力回路を封印されていたはずだぞ……」

「どうやって……この回復速度は……聞いたことがない……」

二番目の長老は唾を飲み込んだ。先ほどまでの冷笑がまだ完全には消えきらない顔に、呆然とした色が混ざり合い、何とも言えない表情を作り上げていた。

「何か特別な薬でも……使ったのでしょうかな……あはは……」

乾いた笑い声を絞り出しながら、取り繕うように言った。

カッセルリックは横目で一瞥した。肘掛けを握る手を、静かに放した。

「二長老。お前は、二級の薬程度で七年の封印を解けると思うか」

二番目の長老は口をつぐんだ。馬鹿ではない。薬が修行速度を上げるのは事実だが、七年間の封印から二つ星中期まで回復するなど——薬だけで説明がつくはずがない。

彼の顔に張り付いた作り笑いが、ゆっくりと凍りついていった。

魔法水晶の傍で、審判員は呆然と宙に浮かぶ金色の数字を見つめていた。あの冷たい面差しが、今は驚愕に塗り替えられている。

この少年が七つの時、初めて水晶に手を当てた日のことを、この審判員は覚えていた。あの日放たれた光が眩しすぎて、思わず目を庇った。王都中を驚嘆させた天才の誕生を、最初に目撃したのは自分だった。

そして——天才が一歩一歩堕ちていく七年間も、同じ目で見てきた。

今、その少年が水晶の前に立ち、再び光を放っている。

「レオン・セレストーム——魔力値125、二つ星中期。合格」

深く息を吐きながら告げた。平静を装おうとしたが、声にはまだ隠しきれない震えが残っていた。

その声が響いた瞬間——元から静まっていた演武場が、さらに深い沈黙に沈んだ。

誰かが唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。

人群の中央で、ソフィアは小さな手で唇を覆い、目を見開いていた。

七年間、魔力を失っていたはずなのに——二つ星中期。

この回復速度は尋常ではない。七年前、全盛期のレオンでさえ、一年でここまで駆け上がることはできなかったはずだ。

なのに、今——

複雑な感情が込み上げてくる。視線が水晶の下に立つ銀髪の少年に吸い寄せられ、心の中で、混乱した思いが渦を巻いた。

(あの子の……あの驚異的な才能が……戻ってきた、というの……?)

演武場の端では、レオンの惨めな姿を見届けるつもりだったニコラスが、呆然と水晶の上の数字を睨みつけていた。

「これは……どういうことだ……?」

声を失い、呟いた。つい先ほどまで誇らしく思っていた自分の105という数字が、急に色褪せて見えた。

隣のエイドリアンの表情は、もっと酷かった。拳を握りしめ、怒りと困惑がぐちゃぐちゃに混ざり合った顔で、水晶を凝視していた。

「ありえない……あのデキソコナイが……」

水晶の前で、レオンは顔を上げた。

金色の数字が、頭上で静かに輝いている。

軽く息を吐いた。

周囲の視線が、一斉に変わったのを感じた。嘲笑が消え、驚愕に取って代わられ、その奥に戸惑いや疑い、そして——恐れに似た何かが入り混じっている。

七年前を思い出した。あの頃の自分は、この水晶の前で得意満面だった。周囲の称賛を一身に浴びて、天才だと持て囃されて、鼻が天を突きそうだった。

今は違う。

修行の才能は戻ってきた。だが、それと共に戻ってきたのは——七年分の重みを知った心と、簡単には折れない意志だった。

何度も自分の運命を決めてきたこの水晶を、レオンは静かに見つめた。

そして、淡く笑った。

七年前、測定の後に得意の絶頂にいた少年とは——まるで別人だった。

軽く息を吐き、レオンは満場の視線を背に受けながら、ゆっくりと隊列の最後方へ歩いていった。

エヴィルの笑みを含んだ紅い瞳と目が合い、その隣に腰を下ろした。

レオンが退いた後も、場内はしばらく沈黙に包まれていた。

「さて——」

高台の上で、大長老が立ち上がり、咳払いを一つした。それだけで、場内の視線がぴたりとそちらに集まった。

「測定は終了した。次の段階に移る。不合格者は、合格者に一度だけ挑戦する権利がある。覚えておけ——機会は、一度だけだ」

朗々とした声が、演武場に響いた。

大長老の言葉を聞き、場内にざわめきが戻ってきた。合格ラインにあと一歩だった者たちは、すぐさま熱い視線を合格者たちに向けた。

対する合格者たちは、不遜に顎を上げている。魔力値90台と100以上では、根本的に格が違う。余程のことがなければ、90台の者が100以上を正面から倒すのは難しい。

それは、90台の者たちも百も承知だった。だが、これが最後の機会だ。成功するにせよしないにせよ、命がけで試すしかない。

一時、場内の空気が奇妙になった。挑戦者たちの熱い視線が、合格者たちの間を巡っている。誰もが密かに、最も与しやすい相手を品定めしていた。

地面に座ったまま、レオンはふと眉を上げた。

あの視線の大半が——自分に向いている。

「俺って、そんなに軟そうに見えるのか?」

心の中で苦笑した。

「レオン兄さんが急に強くなったのは確かに皆を驚かせたわ」

隣で、エヴィルが静かに微笑みながら言った。

「でも、まさにその驚きのせいで、多くの人は心の奥底で信じたくないのよ。だから自然と、レオン兄さんを一番挑戦しやすい相手だと思ってしまう」

肩をすくめ、レオンは袖の埃を軽く払った。

「信じたくないから、自分を騙すことを選ぶか……」

エヴィルは浅く微笑み、小さく頷いた。

その時——静まっていた場内で、ついに一人が立ち上がった。

体格のいい少年が、衆目の中を早足でレオンの前に歩み寄った。軽く腰を折り、大きな声で言った。

「レオン従兄弟、お願いします!」

一見恭しいが、レオンを見る目にはちらちらと疑いの色が過ぎっている。顔にも隠しきれない不遜が滲んでいた。どうやら、まだ「デキソコナイ」の印象から抜け出せていないらしい。

レオンは、ゆっくりと立ち上がった。

「いいだろう」

静かな声だった。

だが——その底に宿る自信は、聞く者の背筋をわずかに震わせた。

【続く】