軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第56話 奇跡

緩やかに歩み出た銀髪の少女を見て、演武場は静まり返った。

瞬きすることすら忘れたように、灼熱の視線が少女に注がれる。

高台の上では、長老たちの囁きがぴたりと止んでいた。カッセルリックも、七人の長老も、皆一様に視線を注いでいる。侯爵家で最も輝く宝石と称えられるこの少女が、一年の修行を経て、今どこまで到達したのか——彼らもまた、知りたかったのだ。

全場の視線が注がれる中、少女は急ぐことなく魔法水晶の前に歩み寄った。

小さな手を伸ばす。袖口がするりと滑り落ち、雪のように白く細い手首が露わになった。

掌が、水晶の冷たい表面に触れた。

エヴィルは静かに目を閉じた。

一瞬の静寂。

次の瞬間——

魔法水晶が、爆ぜた。

蒼白の光が水晶の内部から溢れ出し、みるみるうちに結晶体全体を覆い尽くした。光は水晶に留まらず、周囲に拡散していく。凍てつくような冷気が波紋のように広がり、地面に白い霜がじわりと生じた。

水晶の前に立つ少女の銀髪が、魔力の奔流に煽られて舞い上がる。紫の瞳が、蒼い光の中で静かに輝いている。

光が最も強まった瞬間——水晶の上空に、金色の文字が浮かび上がった。

魔力値:180。

三つ星初期。

演武場が、一拍の沈黙の後——嵐のようなざわめきに呑まれた。

「三つ星……だと……?」

「十三歳で、三つ星初期……!?」

「化け物か……」

吸い込まれるような息の音が、あちこちから響いた。先ほどニコラスの結果に沸いていた者たちは、今はもう声も出ない。次元が違う。

高台の上で、カッセルリックは微かに目を細めた。口元がわずかに動いたが、言葉にはならなかった。

七人の長老たちは頷き合い、驚嘆の色を隠そうともしなかった。三つ星初期——十三歳でこの域に達する者など、数十年に一人いるかいないかだ。

人垣の中でもみくちゃにされていたニコラスは、水晶の上に輝く金色の数字に目を射抜かれたように立ち尽くしていた。自分の105という数字が、急に矮小に見えた。超えようがない。次元が違いすぎる。

二番目の長老は、黙って口を閉じた。先ほどまでの冷笑は跡形もなかった。

水晶の前で、少女は困ったように眉を寄せた。

こういう注目の浴び方は好きではないらしい。身を翻し、足早に隊列の最後方へ戻ると——驚愕の表情を浮かべたままのレオンに向かって、唇を小さく尖らせた。

「驚いた?」

レオンは肩をすくめた。

「得意になるなよ。お前の才能なら、一年で三つ星に入らなかったほうが驚くさ」

それを聞いた瞬間、エヴィルの顔がたちまちしぼんだ。少し恨めしそうに、上目遣いでレオンを睨む。

「……ひどい。少しは驚いてほしかったのに」

「驚いたさ。口に出さないだけだ」

「嘘」

「嘘じゃない」

レオンは軽く笑い、エヴィルの肩を引いて再び地面に座らせた。

少女は不満そうに唇を尖らせたまま座ったが、レオンに褒められたのか貶されたのか判断がつかないらしく、紫の瞳がせわしなく左右に動いていた。

それからは、退屈の一言だった。

レオンは顎を手で支え、次々と測定を受ける侯爵家の者たちを眺めていた。

百人以上の測定の中で、ニコラスと同等の魔力値に達した者は一人か二人。二つ星以上は、エヴィルを除けば皆無だった。

不合格者が増えるにつれ、場内の空気は次第に重くなっていく。落ちた者たちは皆暗い顔をしていた。だが不思議なもので、新たに誰かが不合格になるたびに、先に落ちた者たちの顔にはかすかに安堵の色が浮かぶ。

——自分だけじゃない。

そう確認して、少しだけ救われたいのだ。人間というのは、そういう生き物らしい。

レオンはもう測定を見る気も失せていた。目を半分閉じ、ぼんやりと待っていた。

場内で呼ばれていない者が、どんどん減っていく。

最後には、レオンを含む数人だけが残っていた。

この最後の数人について、場内の者たちは皆心得ていた。侯爵家の底辺だ。公平のために名前を呼んでいるだけで、結果は分かりきっている——そう思っている。

すぐ前にいた最後の一人が立ち上がり、水晶に手を当てた。光は弱々しく、不合格。少年は何も言わずに戻ってきた。

「レオン・セレストーム!」

審判員の声に、僅かな複雑さが滲んでいた。

かつてこの少年が七歳で水晶に手を当てた時——放たれた光が眩しすぎて、自分は思わず目を庇った。王都中を驚嘆させた天才の誕生を、最初に目撃したのは自分だった。

そしてその後の七年間——天才が一歩一歩堕ちていくのを、同じ目で見てきた。

今日が終われば、この少年が侯爵家で測定を受ける機会は、おそらく最後だろう。

奇跡でも起きない限り。

「レオン兄さん、あなたの番よ……」

柔らかな手が、そっとレオンの手の上に重ねられた。

少女が静かにそう言った。

レオンは薄く閉じていた目を開いた。

視線を場内に巡らせる。あちこちから向けられる視線——嘲笑、好奇、そして他人の不幸を期待する薄ら笑い。

レオンは静かに口の端を持ち上げた。

ゆっくりと立ち上がる。首を軽く回す。

視線を高台に向けた。

カッセルリックと目が合った。

息子は微かに笑った。

父は静かに頷いた。片手で茶杯を持ち上げ、ゆっくりと椅子の背にもたれた。

深く息を吸い込み、レオンは歩き出した。

大きな歩幅で。

背筋を伸ばし、前だけを見て。

眉の間に突然宿った飛揚の気概が——嘲笑しかけていた者たちの口を、知らず知らずのうちに噤ませた。

『いい面構えだ、小僧』

胸の奥で、オーグリの声が響いた。

『行ってこい。七年分の借りを、返してやれ』

満場の視線が注がれる中、レオンは魔法水晶の前に立った。

群青色の結晶体が、目の前で静かに明滅している。内部の光の脈が、まるで生き物のように蠢いていた。

胸がゆっくりと上下する。

手のひらを真っ直ぐに伸ばし——冷たい水晶に、そっと触れた。

全場の視線が、瞬きもせずに水晶に注がれた。

彼らも分かっていた。

これが、かつて王都中を驚嘆させた天才少年の——最後の測定になるかもしれないと。

水晶はしばし、沈黙した。

しばらくの沈黙の後——

光が、弾けた。

金色の。

眩い、金色の光が。

水晶の内部から溢れ出し、結晶体を丸ごと呑み込んだ。蒼でも赤でも緑でもない——黄金の光だ。先ほどのエヴィルの蒼白とはまるで異質の、暴力的なまでに眩い輝き。

光は水晶を突き抜け、天井まで届いた。

水晶の上空に、金色の文字が浮かび上がる。

全ての者の心臓が——一拍、止まった。

「魔力値……125!」

【続く】