作品タイトル不明
第55話 測定
家族魔闘会は二つの段階に分かれている。
前半は魔力測定。後半は実戦の魔闘。
測定で合格ラインに達した者だけが、魔闘への出場資格を得る。不合格者には一度だけ、合格者への挑戦権が与えられ、勝てば合格とみなされる。
規則は毎年変わらない。だが、あの水晶の前に立つ人間の心は、毎年違う。
演武場の中央に、人の背丈ほどもある巨大な結晶体が据えられていた。
——魔法水晶。
深い群青色の六角柱。内部に幾筋もの光の脈が走り、まるで生きた心臓のように微かに明滅している。名門貴族の家にしか配備されない代物で、一つだけで小さな領地がまるごと買えるほどの値打ちがある。
仕組みは単純だ。手のひらを水晶に押し当てると、結晶体が触れた者の魔力に共鳴し、光を放つ。光の色は属性を映す——炎なら赤、氷なら蒼、風なら緑。光の強さが魔力の深さを示し、水晶の上方に星級と数値が浮かび上がる。
光が鮮やかであればあるほど、才能がある。弱々しければ——それが、その者の現実だ。
◇
「測定の規則を説明する」
カッセルリックが立ち上がり、場内を見渡した。低い声が、演武場の隅々にまで響く。
「魔力値100以上が合格。100未満は不合格。ただし、例年の追加規定に従い、測定後、不合格者は合格者に一度だけ挑戦する権利がある。勝てば合格とする」
一拍おいて。
「では、測定開始」
水晶の傍に立つ審判員が一歩前に出た。懐から名簿を取り出し、氷のような声で名前を読み上げ始める。
呼ばれた者が順番に水晶の前へ進み、掌を押し当てる。
水晶が光る。審判員が結果を告げる。
それだけのことだ。
だが、その「それだけのこと」に、若者たちの人生がかかっている。
合格した者はほっと肩の力を抜き、不合格の者は顔を蒼白にして退場していく。中には、その場で膝をついて泣き崩れる者もいた。
◇
隊列の最後方。
レオンは静かに立ち、その一幕一幕を眺めていた。
不合格で泣き崩れている者たちの中に——見覚えのある顔がいくつかあった。
侯爵府の廊下で擦れ違うたびに、「デキソコナイ」と嗤っていた連中だ。声がよく通るやつに限って、わざと聞こえるように言う。聞こえたこちらの顔色を確認して、満足そうに笑う。
そういう手合いだった。
今、彼らは水晶の前で蒼い顔をしている。
レオンは口元をわずかに歪めた。嘲りではない。かといって、同情でもない。
自分より下の者を嘲笑っていた時——いつか自分にもこの日が来るとは、彼らは思いもしなかったのだろう。
辱人者、人恒辱之。
因果応報。ただ、それだけのことだ。
◇
「ニコラス・セレストーム!」
審判員の声に、レオンはわずかに眉を上げた。
ニコラス。ソフィアの弟。エイドリアンの取り巻きの一人。
数年前——レオンがまだ侯爵府で完全には孤立していなかった頃——この男は「レオン様」と呼んで後ろをついて回っていた。風向きが変わった途端、掌を返した。
世の中とは、そういうものだ。十二歳で覚えた教訓だった。
ニコラスは堂々とした足取りで水晶の前に進み出て、掌を押し当てた。
水晶が光った。橙色——熱力系の光。
「魔力値:105。合格」
審判員が淡々と告げた。
演武場にざわめきが起こった。105。この年齢では悪くない数字だ。ニコラスの顔には隠しきれない得意が浮かんでいる。周囲から羨望の視線が集まり、少年はそれを一身に浴びて、胸を張った。
レオンは鼻の頭をこすりながら、ぼそりと呟いた。
「一年でそれだけか……まあまあだな」
隣のエヴィルは、人垣に囲まれるニコラスにちらりと一瞥をくれただけで、さして関心を払う様子もなかった。銀色の髪を風に遊ばせ、細い指先で一房の髪を弄んでいる。
レオンはふと気づいた。
さっきから——この従妹の視線が、ずっと自分のほうに向いている。
「……何をじっと見ている」
「見てないわよ」
「嘘をつくな」
「本当に見てないもの」
エヴィルはぷいと視線を逸らした。銀髪が頬にかかり、表情が半分隠れる。
だが、耳の先がわずかに赤い。
——こういうところ、昔から変わらない。
◇
ニコラスの測定が山場となった後、続く十数人の中で合格ラインに達した者はわずか数人に留まった。残りは皆、蒼い顔で退場していく。
「今年の苗はますます細いな。この程度で、セレストームの血を名乗るとは」
貴賓席で、二番目の長老が鼻を鳴らした。
隣の長老が相槌を打つ。
カッセルリックは何も言わなかった。その視線は、演武場の最後方——銀色の頭に、静かに留まったままだ。
二番目の長老はその視線の先を追い、嘴の端を吊り上げた。
「族長は、あのデキソコナイに何か期待でもしておられるのかな?」
カッセルリックは、淡々と口を開いた。
「二長老。物事は最後まで見届けてから結論を出せ。さもなくば——最後に痛い目を見るのは自分だぞ」
二番目の長老の笑みが、一瞬こわばった。だが、すぐに取り繕うように肩をすくめた。
「ほう……それは楽しみだ。せいぜい、驚かせてもらおうか」
◇
「エヴィル・セレストーム!」
審判員の声が響いた。
——あの終始冷淡な声が、この名前を呼ぶ瞬間だけ、わずかに張りを帯びたように聞こえた。
全場の視線が、一斉に動いた。
銀髪紅眼の少女。氷の天才。侯爵家でその名を知らぬ者はいない。
エヴィルは立ち上がり、裾の埃を軽く払った。
そして——レオンの前を通り過ぎる瞬間、すっと身を屈め、耳元に囁いた。
「レオン兄さん——後で驚いても知らないわよ」
声は軽やかで、ほんの少しだけ得意そうだった。紫の瞳が、三日月のように細まっている。
レオンは眉を上げ、歩み去る少女の背中を見つめた。
銀色の長い髪が、背中の上でゆるやかに揺れている。華奢な身体。だが、その歩みには、年齢に見合わぬ静かな威が宿っていた。
「……まさか、四つ星に……?」
【続く】