軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第111話 番外編5 若返り効果の秘訣

アントネストの冒険者ギルドのマスターは、あることが気になっていた。

「最近な、妙に調子が良いんだ」

「そうですか。私も同じく調子が良いです」

ギルマスに同調するように、サブマスも応えた。

「そうか……」

「ええ……」

お互い調子が良いことを確認する。

不意に視線がぶつかり、顔色を確かめ合った。

「顔色が随分と良いな」

「あなたもですよ」

「そうか?」

「そうですよ」

色艶が良くなっただけでなく、シミやシワも減ったように思う。

以前は長時間書類仕事をしていると、時々目や手が疲れていた。

自分ももう歳なんだなと実感していたのだが、ここ最近はそれがなくなった。

理由は判っているような気がする。

別に部下が使えるようになったとか、仕事量が減った等ではない。

確かにそれらの要因もあるだろうけれど。

「……久しぶりに、ダンジョンに行きたくなったりは、しないか?」

「もうこの歳ですからね。そんな気力はなくなったと思うのですが」

「試してみたくはないのか?」

「多少は、なくはありません」

冒険者の引退は早い。無理なダンジョンアタックによる怪我や故障もあるが、年齢的な身体の衰えが主な理由だ。

アントネストは長時間アタックし続けなくても良い日帰りダンジョンだからこそ、拠点に選んだと言っても良い。それでも魔物のレベルやドロップ率、アイテムのしょっぱさから、他のダンジョンに比べて効率が良い訳でもなかった。

今までは―――だが。

「そろそろ五十に差し掛かっているのだが」

「私もですよ」

「お前、三十ぐらいに見えると言われないか?」

「あなたこそ。かなり若々しくなっていませんか?」

「……」

「……」

仕事が忙しく、お互い老け込んでいた筈なのだ。

少し無理をするだけで体の節々が痛み、老い行く年齢を痛感していたのに。

「いやいや、まさか……なぁ?」

「ローヤルゼリーでしたか? アルケミスト様が、若返りの効果があるかもとおっしゃっておりましたが……」

「食事の改善をするだけで、かなりの効果が見込めるとも言っていたな?」

「ですから、例のレストランの特別メニューでしたか。健康ランチというのを、デリバリーしてもらっていますよね?」

そして仕事帰りに、ちょっとした筋トレをしてリフレッシュするようにした。

これも例のレストランの隣で始まった、筋トレジムの始めたサービスで、隙間時間に身体を鍛えて健康を維持しようという謳い文句の店舗だ。

冒険者でなくとも、一般人でも身体を手軽に鍛えられる。

既に六ツ星になっている連中だが、最近は後継者を育てると言って、ほぼ筋トレジムやレストラン経営の方に熱が入っていた。

「彫金師のジェリーというヤツのばあさんも、そこに行って健康ランチを食べて、帰りにはジムで身体を鍛えているんだよな」

筋トレジムとは言え、そこでは年齢に合わせてトレーナーが優しく身体に無理のない範囲で指導してくれる。なので年齢問わず、冒険者でなくとも利用できるとあって中々人気なのだ。

近々支店も出来ると言っていたのを思い出す。

「曲がっていた腰が伸びたようですよ」

「玄孫が生まれるまで死ねないと言っていたそうだな」

「どこまで長生きするつもりなんでしょうかね?」

孫であるジェリーにも、工房に閉じこもらず健康ランチを食べ、ジムに行って身体を鍛えろとせっついている。孫の婚約者となった弟子にも同じく言い聞かせ、仲良くジム通いを始めたそうだ。

確かに身体を動かすとリフレッシュされ、思考も切り替えることができた。

「効果があり過ぎる気がするのだが……?」

「ですよねぇ……」

アントネストの商品リストにはない、ローヤルゼリーの瓶を眺めながら、二人とも押し黙った。

クマバチからの贈り物として手に入れたローヤルゼリーだそうだが、知り合い限定でしか配られていない。そもそもこのローヤルゼリーは、アルケミストであるリオンしかまだ手に入れることが出来ないのだ。

どういう条件なのかはいまだ謎であるが、他の子供が手に入れる可能性が全くない訳ではなかった。

だが今のところこのローヤルゼリーはリオンしか手に入れられない為、商品リストに載せられない秘密の商品である。当然商業ギルドにも伝えておらず、ごく僅かの知り合いしか口にできないらしい。それを受け取ったギルマスとサブマスは、一番怪しい効果のあるローヤルゼリーに注目した。

「ド田舎のギルマスも手に入れたんだろうか?」

「そう言えばこの前、嬉しそうに連絡してきましたよ。時間が出来たので、こちらで一狩りしたいと」

向こうの冒険者ギルドは、ギルマスが不在でも仕事が回せるらしい。後継者の育成が上手く行っているのだろう。羨ましいことだ。

だが今やこちらも人材の不足を補いつつある。それもこれもあの魔法使いとアルケミストのお陰であるけれど。

「アイツもイイ歳だろう?」

「我々よりはまだ若かったような気がしますが、頭髪が寂しいせいで老けて見えますよね」

「引退したクセに、今更うちのダンジョンにアタックしたいのか?」

「そうみたいですね。声だけですが、妙にウキウキしてましたよ」

通信魔道具は、各ギルドに設置されている。映像を送れる魔道具もあるが、流石においそれとは使用できず、頻繁に使用しているのは商業ギルドぐらいだろう。

そこで様々な遣り取りをするのだが、私的な用事で連絡してくるのはド田舎のギルマスぐらいである。魔晶石の消費が半端ないので、重要な案件以外での連絡は極力しない筈なのだが、儲かっているのか割と気軽に連絡してくるのだ。

お互い同じブランド商品ラベルを使用しているので、姉妹都市のような関係であるから別にいいのだけれど。

「……やってみるか?」

「何をです?」

「判ってるくせに聞くな」

「ですよね」

もしかしたら諦めていたランクアップが出来るかもしれない―――なんて夢を見てしまった。

現役時代よりも調子が良いような気がして。

「どうせ奴も海域エリアに挑戦したいとか言い出すんだろうなぁ」

「おびき出す方法が判りましたしね」

「しかも最近は、海鮮BBQ目当ての観光客も増えているんだよな」

「そこはまぁ、海に入らない条件を守ればいいですし。砂浜で遊ぶ程度であれば規制するのも難しいところですね」

「今更規制したら暴動が起こりそうだしな。海鮮BBQぐらいは大目に見よう」

ランクアップをする冒険者の邪魔さえしなければ、砂浜に限れば自由に利用できるようになっている。魔素耐性のない者でも魔道具を使えば海域エリアに入れるので、監視員の指示にさえ従っていれば利用できる(冒険者以外は入場料が必要)のだ。

人数制限もあり利用時間は午後から夕方まで。夜間や午前中は出入り禁止。(巨大なオクトパスが夜間に現れ、午前中には六ツ星ランクの魔物が現れるからである)そのルールを守らない者は出禁になる。

よって歓楽街もなく特に娯楽のない街なだけに、ちょっとしたリゾート気分を味わうぐらいは良いと思って開放していた。

それぐらいしか楽しみがないとも言うが、海域エリアのお陰で比較的健全な街となっている。まさかあんなに美味い貝が埋もれているとは思わなかっただけに、勿体ないことをしていたものだ。

リオンがそこまで考えて提案した訳ではないのだろうが(本人は海に来たらやることをしていただけ)、ギルマスはいい具合に娯楽が出来て良かったなと思っていた。

「まぁ、あのハゲが来たら、俺たちも便乗してみるか」

「それまでに、五ツ星エリアで腕試しをしてみますか?」

「三ツ星で肩慣らしをしてからでないと不安だな。流石に現役ほどの筋力は戻っていないだろう?」

「どうですかね?」

なんてことを冗談めかして口にしていた二人が、久しぶりに休暇を取り、肩慣らしで挑んだ三ツ星エリアを思いの外簡単にクリアして。まさかと思って四ツ星に挑めば、これまたおかしなぐらいに調子よく。

「五ツ星エリアは、こんなにも楽にクリア出来るモノだっただろうか?」

「あの、私は四ツ星ランクなのですが……」

願いの叶うタリスマンを持って挑んだ五ツ星エリアで、一番厄介だが高価なドロップ品を落とす巨大蛾の繭を手にしながら呆然と呟いた。

巨大蛾の攻撃は毒鱗粉(痺れ効果)であり、痺れている相手を口から吐き出す糸で縛り上げる。だがその毒鱗粉攻撃をサブマスの風魔法で避け、ギルマスが強力な糸を回避しながら槍の投擲によって斃した。

言葉にすると簡単であるが、実際はそう簡単に斃せる相手ではない。

「いや、まだだ。まだ判らん!」

「で、ですよねっ!」

間違ってランク付けをしていたのかもしれない。そんな疑いを持ったまま、二人は五ツ星エリアの魔物を片っ端から斃して回った。

「あのローヤルゼリーという物の効果なのだろうか……?」

「だとすれば、かなりエグイ効果ですが……?」

「まぁ、酸味がキツイしな」

「そういう意味ではありません」

「判ってるさ」

アルケミストから用法用量を正しく守って摂取してねと言われていたので、それを厳守してはいた。

起床時と就寝前に摂取すること。そして適度な運動と健康的な食生活を続ける。

だからと言って現役時代より調子が良くなることなんてあるのだろうか?

途中から魔物を斃すのが楽しくなり、ナチュラルハイになっていたので、危ない薬が混ぜられていたのではと疑ってしまった程だ。

「―――たまに、我々だけに差し入れされる食べ物もありましたが」

「だが、一見普通の食べ物だったぞ? 美味かったが」

「ですよね……? 美味しかったですよね」

何が違うのか判らないだけに、二人は困惑していた。

何が違うかと言えば大したことはない。そのアルケミストが、心を籠めて二人に若返って元気になるようにと願いと祈りを込めただけだった。

その願いと祈りが届いたのか、その後二人は高齢者でありながら初の六ツ星ランクになったギルマスとサブマスとして、冒険者たちに崇められることとなる。

※おまけ

「何でお前らだけで楽しんでんだよ!」

「いやあなた誰ですか?」

「俺だよ!」

「詐欺師か」

「ちげぇよ!」

ハゲではなくなったド田舎のギルマスが、二人に疑われたのは語るまでもない。