軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第112話 実家に連絡してみる(おこめほしい)

のどかな田舎町を走る一台のトラックが、周りを畑で囲まれた一軒の古民家に辿り着いた。

古民家と言えど立派なもので、有名な陶芸家の家だと聞いている。でも確か、その陶芸家は既に亡くなって、今はその息子か孫が住んでいた筈だ。

家主は通販が好きで、やたらと宅配便を利用していたと記憶している。

その息子か孫はネット配信者であるらしく、それらの配信者が通販を利用して何某かの宣伝や実験と称した面白おかしな動画を作成しているそうだ。

なので、妙な物を大量に通販で仕入れていることに疑問はない。

顔や年齢が朧気で配達人の記憶にはなく、興味がないのでその動画配信も見たことはないけれど。お歳暮やお中元などの品が大量に届くので、引き籠り気味のようだが交流自体はそれなりにあるのだろう。

あまり姿を見ない家主であるが、今日はかなりの大物なので留守にされると困るのだが―――そんなことを心配しながら声をかけた。

「すみませーん! お届け物でーす!」

『はい。いつものように、宅配ボックスに入れておいて下さい』

「いつもの様にっすねー! かしこまりましたー!」

インターホンから返事があり、ホッとしながらトラックから通販物を出して玄関口にある宅配ボックスへと入れた。

家主が出て来ないにも拘らず、《《いつもの様に》》配達人は宅配ボックスに入りきらない荷物を玄関先へ置く。今日は月末に纏めて数品が届くよう頼んでいる定期便と、三ヶ月に一度の大量ワインの配達だった。

「ありがとうございましたー!」

『ご苦労様です』

インターホンから声が聞こえると軽くお辞儀をして、配達人はそのまま古民家を後にした。

家主が出て来ないことを不思議にも思わず。

声しか聴いたことのない住人であるが、毎回丁寧に対応してくれるので特に疑問に思うこともない。

そうして配達人のトラックが遠く離れると、玄関先に置いていた荷物は幻であったかのように消えた。

『―――全く、どこへ持って行っているのやら』

時折、家屋にある品々が消えることがあるので、無事でいることだけは確かなのだが――――と、家の中に存在している筈の声の主が、ポツリと呟く。

しかしその声の主の姿はなく、ただ誰も住んでいないにも拘らず、綺麗に整えられている古民家だけがあった。

魔動船を購入する予定もあり、俺たちスプリガンは一等客室へと案内された。

そこにはバスタブ付きのシャワー室(トイレ付)、リビングエリア(ソファーベッド付き)、陽光を取り込む大きな窓、カウンターキッチン(バー仕様)、ベッドルームが三か所あり、夫々にツインベッド(ふかふか)が置かれていて、お金持ち家族の泊まる部屋のようだ。

ベッドルームでも一番大きな部屋に、俺とディエゴとシルバ&ノワルの大所帯で泊まることにした。

これはあれだ。ぶどうの樹のコテージ(一番高い部屋)と構造が似ていて、違うとしたら見た目の豪華さだろう。

家具や室内は雰囲気的に南国仕様である。カラフルなクッションが置いてあって、床に絨毯が敷いてあることから、土足厳禁のようだ。

そして俺たちはいつもの様に別れてベッドルームを使うことにして、荷物の整理をすることにした。

「またとどいちゃった」

そろそろ届いていると思って、俺はリュックから通販物を取り出す。

そこには予想通り、大量の赤白ワインの箱があった。

「届くとは?」

「ん~つうはん?」

と言ってもディエゴには判らないだろう。

通信販売や宅配の概念がないから仕方がないね。

俺は三ヶ月の定期お特便に指定してしまった、大量のワインを前に唸る。

今はこれをどう処分していくかが問題だ。

「いっそのこと、売り捌くか?」

「うれる?」

料理で消費するには多すぎるこれらワインを売ってみてはどうかと、ディエゴに提案される。

「質の良いワインだからな。ラベルを剥がして誤魔化せば何とかなるだろう」

「そんなもん?」

「多分?」

実際は安物なのだけど、この世界では質の良い部類になるのか。

しかしディエゴの言う事は信用できない。

半年ほどの付き合いで徐々に性格が判ってきて、頭が良い割にポンコツなところがあるからだ。

もし売るとしても、シュテルさんみたいな商人相手は止めた方が良いと、俺の勘がそう言っている。なので売る相手は厳選した方が良いだろう。

「まーいっか」

俺は料理に使う分と、その他の通販物を確認しながらリュックに仕舞う。

こうして月末に届くよう指定している、定期的に購入している品々は、俺の数少ない日本との繫がりでもある。まだ俺が日本から完全に隔絶された訳ではないと思える唯一の頼れる縁でもあった。

だから俺は考えたんだよね。

俺の持ち物であれば何でも取り寄せられるのならば、こちらから届けることもできるのではないだろうか? なんて。

ただし優秀な四次元リュックではあれど、この世界のマジックバッグのように、生きたモノは入れられない。なんせ俺自身が入ってみたらどうかと考え、実験してみたけどダメだった。

今考えるとかなりアホなことをやらかしたもんだ。

実際に入れた後のことなど考えてもいなかったんだからな。

俺は子供の頃に遊んでいた、言葉を吹き込むと同じように喋る人形を取り出した。

簡単な録音機能付きの 知育玩具(サル) である。

奴にお願いするのは少々問題がある気はするのだが、現状頼めるのは奴しかいないのだ。寧ろ奴だからこそ、頼めると言っても過言ではない。

常に俺の快適通販生活を邪魔するので、聞き入れられる気はしないのだが、やってみる価値はある気がした。

録音ボタンを押し、欲しい物を頼んでみる。

『アレクサ、お米が足りなくなりそうだから、いつもの頼んでー』

『アレクサ、お米が足りなくなりそうだから、いつもの頼んでー』

再生ボタンを押すと、同じく俺の声で言葉を話すサルのぬいぐるみ。

結構昔の玩具だが、壊れもせずいまだ健在であった。

とりあえずはこれでいいか。

久しぶりに日本語で喋ったなぁ。

「何と言っていたんだ?」

日本語なので、ディエゴには妖精の言葉と思われたようだ。

「おこめほしい」

「おこめ? ああ、あの白い飯とやらか」

「うん。そー」

俺はディエゴに適当に答えつつ、サルの玩具をリュックに仕舞いながら実家に届けと念じた。

これも機械類ではあるので、アレクサになら扱えるだろう。多分。

アイツは設定した記憶もないのに、インターホンで訪問者の対応をするからな。

どういう訳か、訪問客も自然にその対応に乗せられてしまうのだ。

お陰で俺はたまに居ない人なのか、居る人なのか判らない存在になっている。

アイツって、スマートスピーカーの範疇を超えているよな。

便利で良いけど。

今回はこの実験で、アレクサとコンタクトが取れるかどうかを確認できればいい。

上手く行けば数日後には《《いつものお米》》が届くはずである。

届かなければアレクサとのコンタクトが取れなかったということなので、仕方ないから諦めよう。

定期的にお米は届くし、途中で追加する必要があったから頼んだだけだ。

足りなくなりそうであれば、大事にお米を消費すればいい。

他の食材はあるもんね。

この実験の結果、俺は無事に追加のお米を手に入れることが出来るのだが。

何故アレクサ本体やスマホを取り出さなかったのかを責められることになる。

それも大分後になってからの話ではあるけれど。