作品タイトル不明
とある騎士の回想と現在 ~問題児の取り扱い方~
――キヴェラ王城・会議室にて(サイラス視点)
陛下と側近の皆様が会議をしている――全くの嘘ではないが、実際には魔導師が怒鳴り込んでくるのを待ち構えていた――最中、突撃してきた魔導師は。
――ドレス姿で簀巻きにした公爵夫妻を引き摺り、更には扉を蹴り開けるという、ぶっ飛んだ姿を披露してくれやがった。
おい、アンタは一応、女性だよな?
仕事に必要という理由で、最低限のマナーは習得していたよな?
陛下の御前で一体、何をしてくれてんだ!?
俺とて今回の当事者の一人である。だからこそ、今回の計画に必須なのが『公爵夫人が魔導師を怒らせる』ということだと知っていた。
と言うか、これまでのアロガンシア公爵夫人の言動を思い出す限り、特に何もしなくてもそうなるだろうことは、この計画に係わる者達の大半が予想していた。
ぶっちゃけると、公爵夫人には『誰も』期待していなかった。
相手が他国の人間だとか、魔導師というくらいで真っ当な対応ができるならば、ここまで問題視されてはいない。
『大国キヴェラの王族』、『偉大なるキヴェラ王の実妹』という肩書きは、自己中我侭女をガンガン増長させ、陛下の叱責すら大した意味がない。
勿論、それを放置した事情もあるのだが、ここまで酷くなるとは誰も思うまい。
そもそも、王族としての教育は受けているはずなので、若い頃はともかく、子供が独り立ちできるくらいの年齢ともなれば、多少は落ち着くと思うだろう。
……が。
アロガンシア公爵夫人は変わらないどころか、悪化した。
その原因とも言えるのが、夫であるアロガンシア公爵の存在である。
元から『公爵という地位は重過ぎる』と先代公爵に判断されていたらしく、彼には色々と足りなかった。
補佐官達が居るとはいえ、彼は真面目に仕事はする。悪事を働くわけでもない。
ただ、致命的なまでに当主としての心構えというか、考え方ができない人なのだと思う。
王族・貴族とは感情のままに振る舞える立場ではない。
権力があるからこそ、優先順位を明確にしなければならないのだ。
守るべきは『家』、そして『国』。上が崩れれば、下に居る者達がその影響を受ける。
公爵は個人として見るならば、家族に甘い夫や父親という立ち位置ではあるのだろう。
しかし、当主であるならば、時には家人の我侭を抑え、時には処罰する冷静さ・冷酷さが必要。
一つの家、それも筆頭公爵家とも言えるような家が、その秩序を失えばどうなるかなんて、誰だって予想がつく。
結果として、アロガンシア公爵夫人の言動を咎める者が陛下しか居なくなった。王妃様方も言葉を尽くしただろうが、今でも王族としての意識が強い公爵夫人が相手では弱過ぎる。
最悪の場合、俺は陛下の退位と共に、あの方々を手に掛けようかとすら思っていた。あれは次代に残してはいけないだろう。
しかし、ここにきて救世主が降臨する。
言うまでもなく、異世界人の魔導師ミヅキである。彼女とて突き抜けた性格と碌でもない思考回路の持ち主ではあるが、馬鹿ではない。
しかも飼い主の顔に泥を塗ることを良しとしない上、飼い主の言葉ならば、一応は言うことを聞く。
賢ければ、そして軌道修正が可能な絶対者とも言うべき存在が居れば、欠点も長所と化すという典型である。
そう気づいた時、俺は悟った……『賢さ、大事』と!
賢ければ、自分の与える影響を想定した行動がとれるだろう。
賢ければ、周囲の状況に気付き、自身の足元を揺らがせるような言動はすまい。
賢ければ、陛下や王家の皆様方の迷惑になるような真似はしない……!
正直に言って、ミヅキと公爵夫人の違いは『賢さの差』だと俺は思っている。
ミヅキも大概、自己中な上、それはそれは腕白(意訳)なので、玩具で遊ぶ時(善意的に意訳)は『如何に自分が楽しめるか』という方向に知能が全振りだ。
それでもきちんと結果を出すし、関係者達が納得できるだけの状況も整えてくれるので、誰も本気で止めないのだろう。
しいて言うなら、エルシュオン殿下がミヅキを案じて叱る程度。彼も王族なのに利益だけを考えたりしないあたり、過保護な親猫様である。
余談だが、俺が陛下(と聞き耳を立てていた側近の皆様)に『賢さ、大事』(意訳)と告げた時、陛下だけでなく聞いていた全員が微妙な表情になった。
おそらく、俺同様にこう思ったのだろう……『何故、うちの国に居るのはアレなんだ……?』と。
同じ自己中人間であっても、片方は各国に利益をもたらす外道魔導師(※懐いている飼い主必須)、片方は最高権力者の叱責すら頭に残らぬ公爵夫人。
ミヅキの方は取り扱いに注意が必要とはいえ、えらい違いである。これはキヴェラが他国にやらかしてきたことへの罰か、罰なのか!?
――そんな自己中外道魔導師は今現在、俺の目の前で嬉々として、公爵夫妻に施す刺青モドキの文字を選んでいる。
はっきり言って、何が書いてあるか判らない。やたらと線が細かい絵? いや、術式? のように見える。
ただ、黒で書かれていることもあって、どれももれなく不気味であった。
これが顔や体に浮かび上がっていたら、誰がどう見てもヤバい呪詛でも受けているようにしか思えないだろう。
しかも、これは正真正銘『貴方の身近な恐怖』と公言している魔導師の手に成ったもの。
ミヅキの所業を『正しく』知る者達からすれば、怖過ぎる事態であろう。解呪も勿論だが、効果が全く予想できないのだから。
「ねーねー、サイラス君はどれがいい?」
俺が公爵夫人に対し、長く憤っていたことを知っているミヅキが声を掛けてくる。
間接的とはいえ、報復に携わらせてくれるようだ。相変わらず、気遣いのできる黒猫である。
「そうは言っても、意味が判らないんですよ。って言うか、本当に効果はないんですか?」
「文字が転写されるだけだから、恥ずかしいだけだよー」
……本当に公爵夫妻を辱めたいだけのようだ。いや、それはそれで碌でもないとは思うけど。
しかし、折角の機会である。暴力などは駄目だが、個人的には少しばかり……いや、かなり気になることも事実であって。
「……」
暫し考え。
「ぱっと見て、殺意が高そうな言葉をお願いします」
「うん? 言葉じゃなくて見た目重視なんだ?」
「ええ。どうせ何が書いてあるかなんて判りませんし。『異世界人の魔導師が施した』っていう情報と共に見れば、怖くて仕方がないと思うんですよ」
自分でも中々に性格が悪いことだとは思う。だが、積年の恨みがあるのだ、この程度のささやかな嫌がらせは許してもらいたい。
そして、俺のそんな気持ちは魔導師に正しく伝わったらしく。
「あっはは! なるほど、なるほど、人の目がなくとも、解呪不可能な呪術の恐怖が苛み続ける展開をご所望か」
「そんなところです」
「確かに、『様々な意味で』怖いでしょうねぇ♪ いいよ、それでいこ」
元から嫌がらせの意味合いが強かったこともあり、笑顔で快諾してくれた。
さすが、自己中外道娘。直接的な言い方は避けたのに、こういったことは理解が早い。
「折角だから、全部使って体の方にもやっちゃぇ~♪」
「……」
被害が拡大してしまったようだ。
しかし、俺は聞かれたから答えただけであり、この場に居る者として一般的な反応をしただけである。第一、呪術的な効果はないと確認済み。
……。
そういうことにしてください、生温かい目で見てくる皆様。