軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とある騎士の回想と現在 ~監視している騎士は目撃する~

――キヴェラ王城・地下牢にて(監視している騎士視点)

貴族牢ですらない、一般の牢。

そこに放り込まれた――引き摺ってきた騎士は本当に放り込んでいた!――のは、本来ならば絶対にこのような場所にぶち込まれるどころか、足を運ぶことすらない者達である。

彼らはアロガンシア公爵夫妻。

ご側室様の実家であり、第二王子殿下の最大の後ろ盾。

……そう、本来ならば『最大の後ろ盾』と言える存在のはずなのだ。

王太子であったルーカス様がその地位を失い、第一王子という立場に戻られた以上、次の王太子となるのは第二王子殿下なのだから。

……が。

このアロガンシア公爵夫妻はどうにも『愚か』であった。

正確に言うなら、公爵夫人となった元王女がそう思われる元凶だ。彼女は王女時代から選民意識が強く、また非常に自己中心的な性格であったと聞いている。

彼女の若かりし頃は今と違い、キヴェラが圧倒的に強かった。また『戦狂い』と称される方が王であったこともあり、武力的な意味でもキヴェラは周辺の国々にとっての脅威であったのだ。

まあ、その『戦狂い』の存在はキヴェラにとっても大問題だったらしく、実子であった現在のキヴェラ王陛下が追い落とされたのだが。

陛下が即位された時は、多くの者達が挙って歓声を上げ、跪いて忠誠を誓ったと言われている。

国内で王と王太子が争ったのだ。

どちらにも忠誠を誓う者達が居り、掲げる正義がある。

それを制したのは王太子だった現在の陛下であったが、その争いがどれほどのものだったかは、当時の陛下と生き残った側近の皆様だけが知っているのだろう。

詳細は誰の口からも語られはしないが、当時を知る者達は揃ってこう言うのだ――『陛下は大変ご苦労された』と。

あれほどの才覚を持つ陛下であっても、そのように言われるのだ。対立した『戦狂い』と呼ばれた先代様もまた、一国の王に相応しい才覚をお持ちだったのだろう。

ただ……時代が合わなかった。もっと言うなら、先代様は王に生まれなければ良かったに違いない。王であるには好戦的過ぎたのだ。

大陸中が混乱したと言われる暗黒時代に生まれていれば、あの方は間違いなく英雄だったことだろう。

その在り方の根底にあるものが『殺し合いが楽しい』というものであったとしても、もたらす成果は本物なのだから。

陛下は大変苦労された。その結果、多くの者達から支持されたのだ。決して、『王だから』などという理由だけではない。

だが、そのように優れた陛下であっても、どうにもならないことがあるのだ。国というものは個人の優秀さだけでどうにかできるものではない。

その一つが『血の濃い王族の数』というもの。

『戦狂い』と呼ばれた先代様の牙は、諫めようとした血縁者にも向けられたのだ。

その結果、血の濃い王族は激減した。これは非常に頭の痛い問題だったのだ。

キヴェラは多くの国を取り込んで大国となったが、生粋のキヴェラ人が優遇される傾向にある。

王族、それも継承順位の高い王族ともなれば、非常に数が限られる。それが……居ない。

血の濃さは『血の淀み』が発露する危険性を持つことからも警戒されるが、それを別にしてもキヴェラは継承権を持つ王族の数を劇的に減らしてしまった。

陛下とて、優秀なお妃様方を娶られはしたが、それでもお子様は王子が三人……明らかに足りないのだ。

ゆえに、陛下は同腹の妹を血を残すために使うと決めた。元より愚かで、先代様の標的にならないことも都合が良い、と。

公爵家に降嫁する時も、さり気なくその『役目』を伝えられたのだ。と言うか、まともな思考回路をしていたら、求められている役目には気付けたはず。

少しでも国を憂えていたら。

少しでも王族として危機感を持っていたら。

少しでも陛下のお力になれるよう、協力する気持ちがあったならば。

元王女は……いや、公爵夫人はその役目を理解できたはずだろう。政に携わらず、何の功績も成せなかったとしても、子を産むことくらいはできるのだから。

別に男児を産めというわけではない。性別などどちらでもいい、ただ王家の濃い血を引く者を増やすことを望まれただけだ。

しかしこの元王女は皆の予想以上に愚かであって。

降嫁した後も、その性格は全く変わらなかったのだ。

子供を三人産んだことで、余計に思い上がった、ということもあるのだろう。王妃様方は其々、御子が一人ずつしか居ないのだ。

だが、これは仕方がないことだと思う。……王妃様方は国を第一に考え、陛下を支えることに尽力してこられたのだから。

はっきり言ってしまえば、そこまでの余力がなかったのだろう。先代様が残した傷跡は深く、何より、先代様に従った優秀な者達も潰えてしまった。

こうなってくると『生粋のキヴェラ人が優遇される』という点が仇となり、有能な人材の確保も簡単ではない。

陛下は、皆様方は、本当に努力されたのだ。

だからこそ、魔導師に敗北した後も皆様への敬意は揺るがない。

……だが、しかし。

そこに『公爵夫妻への敬意』が含まれるかと言えば、それはまた別問題であって。

いくら役目を果たしたと言えども、数々の振る舞いが許せるものではないことも事実である。

ゆえに。

今回の魔導師殿への暴挙――魔導師に手を上げたと聞いた。一体、何を考えているのだ!?――からの制裁には内心、拍手喝采だったりする。

あまり接する機会こそなかったが、アロガンシア公爵子息様方は大変優秀な方達だ。

現公爵に危機感を抱いてらした先代公爵からの厳しい教育に耐え、従兄弟だからと甘えることなく、王家への敬意も十分でいらっしゃる。

そんなお二人の姿でも印象に残っているのが――両親への憤り。

それだけでなく、公爵夫人の言動に迷惑を被った方達をよく気遣い、時には謝罪さえもしていらした。

だからこそ、アロガンシア公爵家という『家』は長き歴史を持つ家としての名誉を損なわなかったのだ。

今は耐えるべき時、次からは……と。誰もが思っていることは想像に難くない。

末っ子の長女は公爵夫人に溺愛されたせいもあってか母親と同類のようだが、あれはもう放っておいていいだろう。

先日の夜会で陛下と魔導師に徹底的に遣り込められたせいか、今現在は非常に大人しいのだから。

多少なりとも自己保身ができる人間ならば、今後は大人しくなるに違いない。このキヴェラにおいて『陛下を怒らせる』とはそういうことだ。

そして、怒らせたのは陛下だけではない。『世界の災厄』と言われる魔導師もまた、公爵夫妻と長女に怒りを向けた一人。

イルフェナ在住の魔導師は異世界人ということもあり、この世界に残る魔導師の伝承とは違うようだ。

だが、その容赦のなさには定評があった。現に、キヴェラの王都を死霊だらけにしたこともあるほどだ。

ちらり、と牢の中の公爵夫妻に目を向ける。二人は未だ、眠っているようである。

……何のことはない、此度の制裁を行なうにあたり、騒がれては鬱陶しいという意見の下、少しだけ眠ってもらっただけだ。

寧ろ、薬を使うだけマシ……いやいや、まだ優しく扱われていると思う。

眠り薬は差し入れに混ぜられたが、その際、拘束……いや、簀巻きを解いた時も、公爵夫人の暴言は聞くに堪えないものばかり。

公爵の方は多少なりとも魔導師の説教と己が置かれた状況が堪えたのか、静かなものであったが……騒ぐ妻を諫めないのだから、その評価が上がろうはずもない。

この時点で、監視を担う騎士達の気持ちは一つになった。

即ち……『この馬鹿夫婦に気遣いは無用』。

反省も碌にできないのだから、いくら言葉を尽くしたところで無駄だろう。

魔導師はブラッドフォード殿と護衛らしき騎士――確か、サイラスという名だったと思う――と共に現れ、何やら見慣れぬ術を施していった。

……彼女が離れた後の公爵夫妻を見た時、思わず声を上げそうになったのは秘密である。

何の術式かは判らないが、公爵夫妻の顔には複雑な文字が浮かび上がり、よく見れば、手のあたりにも似たようなものが見えた。

おそらくだが、あれは顔だけでなく体にも何か所か浮かび上がっているのだろう。どのような効果があるかは判らない分、見た目だけでも不気味であった。

「はい、完了♪ さて、少しは大人しくなるかな」

「少なくとも、人には会わなくなるだろう。それだけでも助かるよ」

「ブラッドさん、苦労してたんだねぇ」

清々しい表情で穏やかに笑うブラッドフォード殿に、両親が得体の知れない術を施されたことへの憂いは見られない。

ご本人の言葉通り、本当に今後の憂いが激減することが喜ばしいのだろう。気遣う言葉を口にする魔導師の反応も当然か。

「報告書を書くのが楽しみなんて、初めてですよ。ああ、今日は美味い酒が飲めそうだ……!」

……さすがにサイラス殿は正直過ぎると思うのだが。

ま、まあ、その気持ちも判る。寧ろ、陛下に忠誠を誓っている者ほど似たような反応をするのではあるまいか。

「お邪魔しました! あ、この二人の体に浮かび上がっている文字は何の効果もないので、心配しなくていいですよ」

「ほう、それは……」

「他の人が巻き添えになる必要はないですもんね! 騒いだら私が〆ますので、ご連絡くださいな」

「ご、ご丁寧に……」

物騒な言葉に顔が引き攣るが、それ以上に安心する。そうか、あれは何の効果もないのか。ならばここに居ても安心だろう。

同時に、公爵夫妻へと冷めた目を向けた。あまりにも魔導師との差があり過ぎて。

魔導師は数多の功績を成したはずだが、それでもこちらを見下す気配はない。寧ろ、こちらを気遣い、言葉を尽くしてくれた。

教育の差と言われてしまえばそれまでだが、情けない現実である。

おい、異世界人の方が礼儀正しいってどういうことだ!?

……そして現在、公爵夫妻は未だ夢の中。まだ陛下と話があるのか、三人はさっさと上に戻っていったので、あれからどのような話し合いが行われたのかは不明である。

公爵夫妻へと再度、視線を向ける。……相変わらず不気味な文字? だ。これを見た公爵夫妻がどのような反応をするかは判らないが、これまでのような生活は送れまい。

起きれば騒がしくなることは判りきっているのに、早く目覚めて欲しいと、ついつい願ってしまう。

ああ、それまでに鏡を差し入れておくのも悪くはないな。高貴な立場のお二人なのだから、いくら牢内であろうとも、身嗜みくらいは整えたいだろうからな。