軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒猫の祟りとは 其の三

公爵夫妻への嫌がらせ……もとい、『自分達の意思で引き籠もらせる方法』の説明を終え、今回の裏事情を知っている皆の顔を窺う。

……概ね、納得できているようだ。まあ、命に関わるものでもないし、本当に『引き籠もりたくなる状態にするだけ』(意訳)なので、特に反対意見が出ないとも言う。

だって、顔にヤンキー漢字が刺青されているだけだもの。

見慣れない文字に、この世界の住人達が勝手に恐怖を感じるだけで。

『顔に故郷の文字で文句を書いちゃった♡ 今回はそれで許してあ・げ・る』ということですね!

勝手な感情のまま、魔導師を殴ったのは公爵夫人、そして止めきれなかったのは公爵なのだ……完全に自業自得です。

ブラッドさん達も言っていたように、画数の多い漢字はやはり術式か何かに見えるみたいなので、それを施したのが魔導師ということもあり、恐怖は付き纏うに違いない。

なにせ、この世界の誰もヤンキー漢字を理解できないのだから。居たとしても、グレンくらい。

それに加えて、二人に反省を促すべく、周囲には耐久度を爆上げした鏡を沢山置いてもらう予定。

公爵夫人の切れっぷりを見る限り、すぐに叩き割りそうなので、鏡の強化は魔王様にも許可済みだ。

いやぁ、顔に訳の判らない刺青が入って大変ね♪

これまで王都に居たのに、今後は幽閉同然の生活って寂しいわね♪

ああ、とっっっても! お気の毒ですわー!(棒)

というか、幽閉前に『公爵夫妻がどういった状況にあるか』という情報を拡散すべく、一度は皆の前でお披露目してもらうのだ。

これで『あの二人が魔導師を怒らせたなんて聞いてない!』という言い分も封じられるため、訪ねて来るのは『ここぞとばかりに蔑みに来た暇人』か『忙しい親族の代理で様子を見に来た人』か『利用しようと画策している人』くらいだろう。

後は適度に監視に穴を空けつつ、接触してくる奴を確保すれば今後、この夫婦に国が煩わしい思いをさせられることもあるまい。

リーリエ嬢とて、両親の顔にある恐怖の刺青(笑)を見たら、今以上に大人しくなってくれるさ。

なお、もしもリーリエ嬢がまた何か遣らかしたら、両親と同じ目に遭ってもらうことになっている。

若い女性にはかなりきつい罰となるだろうし、兄弟達のためにも大人しくしているがいい。

……さて、それではキヴェラ王への『おねだり』についても説明しておこうかな。

「あの二人に関しては、これで終わり。次は先日お願いしたことについて話したいのですが」

そう切り出すと、キヴェラ王やブラッドさんはそれが何を指すか思い当たったらしく、表情を改めた。

「ふむ、未だにルーカスを見下す者達への対処……だったな?」

「そうそう、それです! その人達をガニアのシュアンゼ殿下と新米当主二人の練習相手にするお話しです」

嘘は言っていない。シュアンゼ殿下の性格とか、新米当主達を鍛えているのが『洒落にならない経験持ち・基準は己の経験』な鬼教官三人組(私、ヴァイス、シュアンゼ殿下)ということを言っていないだけで。

「シュアンゼ殿下と新米当主の二人……? その、いくら練習相手とはいえ、一応は外交案件になるのですよね? 外交経験のないシュアンゼ殿下方が一方的に不利だと思いますが……」

宰相さんが困惑気味に口を開く。これは他の人達も同じらしく、私の答えを待っているようだ。

「そこまで軟じゃないですよ、シュアンゼ殿下は! と言うか、彼が生かされたのはテゼルト殿下を支えるためなので、どちらにせよ実績が必要になるんです。だから、今回の一件の報酬としておねだりしたんですよ。相手がクズだろうとも、キヴェラ相手の勝利は確実な実績です!」

「……。魔導師殿、自国の恥を晒すようなことを言ってしまいますが、我が国は未だ、『大国キヴェラ』という幻想を抱いている者も多い。無条件にキヴェラが強いと信じているのです。そのような輩に、表舞台に立ったことがない王族を遣り込める機会を与えることはお勧めしません」

伏し目がちに、それでも言わなければならないという決意を宿した声音で、宰相さんはそう告げる。

……。

つまり、宰相さん達は初心者マークなシュアンゼ殿下達が、馬鹿どもの生贄になる未来を想像している、と。

……。

……。

誰のことだ、それは。そんな繊細な奴は居らん。

「あの、シュアンゼ殿下はそれなりに打たれ強くなる環境に置かれていましたし、残りの新米当主二人も後がない状況ですから、大人しく生贄にはならないと思いますよ?」

寧ろ、練習台にして実績になりそうなカモが来たとばかりに、狩る気満々で迎え撃つと思います。

ぶっちゃけ、大人しくはありません。少なくとも、モーリス君には鬼教官三人組が己の経験を元にした教育を施しているので、通常の新米当主よりも凶暴になっている可能性・大。

「うむ、儂もそう言ったのだがなぁ……魔導師はそれでいいと言って聞かん」

キヴェラ王も宰相さん達に近い考えを持っているのか、複雑そう。ブラッドさんもシュアンゼ殿下の情報だけは持っているのか、困惑気味だ。

ただ、唯一、この中でシュアンゼ殿下に接したことがあるサイラス君は、複雑そうな表情ながらも、反対はしていない。

イルフェナで話しただけの関係であっても、シュアンゼ殿下がただの弱者には見えなかったのだろう。

それでも本性までは知らないみたいだけど。

シュアンゼ殿下は灰色猫と呼ばれる生き物ですよ……?

私は馬鹿どもが盛大に負けて欲しいので、それらの情報を黙っているのです。負けて帰ったら、『え、表舞台に立ったことがないド素人に負けたの!?』と周囲に言わせるために!

そして。

弟王子君達にも、ささやかな復讐をさせてやりたいのですよ。

「あ、該当者達についての情報は弟王子君達が証拠付きで持っているので、彼らから聞いてくださいな」

「む? 下の息子達が、か?」

「放っておくと自分達で報復しそうなので、今回、情報提供者として参加させてあげたいんですよ」

彼らの憤りは皆も気付いていたのか、誰もが納得の表情だ。

……が。

私が弟王子君達を巻き込みたいのはそれだけが理由ではない。

「あ! あの二人が集めた情報、しっかりと精査してくださいね? 『お馬鹿さん達が尊敬する人達が【事実】と認めた』ならば、馬鹿にできない才能でしょう? ……子供だと嘗めていると、痛い目に遭いますよ」

「ほう? それも理由か」

「ええ! だって、それもまた『王子達が無能ではない』という証明になるでしょう? 重要なのは馬鹿どもの思い込みを正すこと。……ルーちゃんが黙って仕事をしているのも、それが最善だと判断したからでしょうに」

ルーカスは己の所業を言い訳せず、自分に対する悪意にさえも反論していないらしい。

ただ、それは言われっ放しで良いというわけじゃなく、自分自身が実績を積み上げ、文句を言わせない状況を築くためだ。

それを一部の馬鹿は『事実だから反論できない』と、都合よく解釈しているわけですね!

弟王子達が激怒するのも当然というものです。

なお、馬鹿どもがそういう発想に至る根底にあるのが、側近の皆様の『王太子は頼りない』という発言各種。

マジで罪は重いぞ……個人的には、馬鹿どもをしっかりと躾け直し、思い込みを正してほしいものである。

まあ、その時間や余裕がないことも理解しているんだけどさ。キヴェラは今、改革期真っただ中なんだもの。

その改革期を引き起こした原因の一人としては、一応の責任を感じているのです。

何だかんだ言って、不可侵条約を取り付けた魔王様もその責任を感じているみたいだからね!

「魔導師殿、君、そこまで考えた上で、陛下への『おねだり』なのかい」

「……。一応?」

「何故、疑問形」

「様々な理由があるので」

半分は『灰色猫達への生贄に丁度いいから』と思っただけです。次点で、弟君達の憂さ晴らし。

なので、あんまり好意的に捉えなくていいっすよ? ブラッドさん。

……疑いの目で見ているサイラス君くらいが丁度いいのです。