軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒猫の祟りとは 其の二

公爵夫妻が強制退場――簀巻きのまま、騎士に引き摺られていった。牢に着くまで、さぞ、注目を集めることだろう――し、室内の話題は今後の展開へ。

……『今後の展開』扱いでいいんだよ。だって、元からあの二人の末路は決められていたんだから。

基本的に『公爵夫妻は権限を全て取り上げた上で、領地に幽閉紛い』という扱いになる。

私が『監視は当然だけど、餌として使いたいから、適度に監視に穴を空けてね♡』とリクエストしたこと以外は、事前に決定済み。

なお、『幽閉紛い』などと曖昧な言い方をするのは、あの二人が現役の公爵夫妻のままだから。

さすがに当主夫妻を幽閉しておいて、『まだ、こいつらが当主です』は無理がある。

下手にブラッドさんや弟さんに面倒事が発生してもよろしくないので、まだ形だけでもあの夫婦には公爵夫妻でいてもらうのがベスト。

問題だった『立場はそのままで、幽閉』という状況も、『画策しそうな奴らを釣る餌』という役割が与えられたため、一定数の理解は得られると予想。

そもそも、この発案は魔導師こと私である。

文句があるなら、代案を持って、私に直接言いに来い。

なに、ちょっとばかり詳しくお話しするだけさ。互いに理解し合うって、重要なことだと思う。

二人への処罰はキヴェラ王と側近の皆様公認、そうなった経緯も『じっくり』お話しすれば、判ってくれると思いたい。

……。

自分の考えの浅さ、愚かさを痛感し、泣くかもしれないけど。

まあ、基本的に私に文句を言いに来るような輩は、純粋に第二王子殿下と側室様のことを案じているのだろう。

だから……裏事情までぶちまけてやれば、納得せざるを得ない。

泣くのは、自分の考えの浅さを痛感させられるからだ。しかも、魔導師の方がキヴェラのために動いたという、嫌な事実に直面して。

忠誠心がある人ほど、敗北感は半端ないだろう。だからこそ、そんな人にはこう囁いてあげようと思うんだ……『役立たず』と!

で。

さあさあ、楽しい本命――私の個人的な祟りのお時間ですよ♪

……今までの行ない? キヴェラ側からの依頼に沿っただけですが、何か?

ボランティアとはいえ、お仕事だから、キヴェラ側の望みに沿った決着にしたじゃないですか!

私は超できる子なので、ボランティアであろうとも、きちんと『望まれた』(重要!)結果を出しますよ!

ビンタや暴言なんて、普通は公爵夫妻にできないものね? 口に出さずとも、気分は皆の代表者。

「……。随分と楽しそうだな、其方」

「あ、やっぱり判ります?」

「うむ。己がその対象ではないと知っていても、警戒心がな……。しかも、知らないうちにあの二人を餌にすることを思い付いておる」

確かに、それはこの場で初めて言いました。

いや、だってさぁ……他国にも飛び火(?)するから、反対されるかもしれないと思ったんだもん。

私は魔王様を侮辱したことを許しません。報復するならば、徹底的に。

個人的な祟り(意訳)だろうと、手を抜く気はないのです。

盛大に辱めたいに決まってるだろ!(本音)

「あはは! まあ、それが普通でしょうねぇ。私がこのキヴェラでやらかしたことを知っていれば、警戒して当然だと思いますよ」

ひらひらと手を振りながら肯定すると、キヴェラ王は生温かい目を向けてくる。

「本当に、親猫の目がないと、其方は自由よな」

「基本的に、自分に正直に生きているので」

「……」

「……」

「そうか……」

暫しの見つめ合いの後、溜息を吐いてそれだけを口にするキヴェラ王。どうやら、私の軌道修正は諦めた模様。……無理だと悟ったのかもしれないが。

「ま、まあ、いいじゃないですか! キヴェラのためですからね! それだけは事実!」

嘘ではない。ただ、個人的な感情(意訳)が多分に盛り込まれているだけで。

さて、それでは説明といきましょうか。

「まず、これをご覧ください」

ブラッドさんに持って貰った荷物の中から、ポストカードサイズの封筒を取り出す。

中に入っているのは、数枚のカード。ただし、そこには黒いインクで文字が書かれている。

「これらのうち、二枚程度を選んで、顔に転写しようと思います! ぶっちゃけ、消すことが可能な刺青です」

『は?』

皆の声がハモった。ただ、キヴェラ王だけは何かに思い至ったらしく、すぐに納得の表情になる。

「サロヴァーラの罪人どもに施したあれか!」

「そうでーす! ああ、これは改良型ですよ。イルフェナのゴードン医師の全面協力の下に完成した、人体にとって安心安全なインクです」

マジなのである。しかも、『使ったら、データを寄越せ』と黒騎士達から厳命されていたり。

「あの時は個人の思い付きというか、安全性なんてろくに考えなかったんで、普通によくあるインクを使ったんですが、罪人用の目印として正式採用されました。まだ調整中ですが、これを顔とかに施されると逃げられませんよね」

「いや、アンタ……以前は安全性無視って……」

サイラス君は顔を引き攣らせるが、そんな彼に対し、私はふっと笑う。

「あいつら、ティルシアの怒りを買ってるんだよ? 多少、体調がヤバいことになって寝込むか、ティルシアに狩られるかの違いしかない。ちなみに、あちらの王族公認だったから、お咎めなし」

あの侍女達は日頃からリリアンを馬鹿にしていた。ティルシアは妹を溺愛するお姉様なのだ……復讐の機会を今か今かと待ち構えていた女狐様が温い処罰で済ますとは思えない。

正直なところ、顔に刺青程度で済んでいれば御の字だろう。勿論、見世物的な意味を多分に含むので、死んだ方がマシなのかもしれないが。

「まあ、あちらのことは置いておいて。この文字を二人の顔に転写すれば、自主的に人目を避けると思うんですよね」

「ほう? 何故、それが必要と考えた?」

「あの二人って、自己顕示欲強いでしょ」

キヴェラ王の質問に答えると、宰相らしき人が困惑気味に口を開いた。

「その、公爵夫人についてはその通りだと思いますが……公爵も、ですか?」

「そうですよ」

即答するも、疑う人が大半らしい。まあ……確かに、公爵は妻に引き摺られているだけのように見えるかもね?

「確信があるのかい?」

「何となく、ですね。本人無自覚でしょうし、意識してそういった行動も取らないみたいですが、『妻や娘に頼られる自分』という意識の他に、『公爵として周囲に認められる自分』もあると思ってますよ」

そこまで言うと、思い当たる節があったのか、ブラッドさんは思案顔になり。

「確かに……そういうところはあるかもしれない。夜会などに出れば、必ず『王家に次ぐ立場』という認識はされるんだ。そこに『問題を起こした妻を諫める夫』という、称賛されるような要素が加われば……」

「大満足でしょうねぇ。それもあって、余計に妻を野放しにしたところもあったかと」

実はこれ、『公爵の方は能力が足りないだけで、比較的まとも』と聞いてから考えていたことでもある。

あの公爵様に野心があるとは思えないし、どちらかと言えば、小心者。単純に、妻や娘の我侭を聞いていただけ、という可能性もあるだろう。

だが、『そんな奴が、問題を起こすような妻と共に夜会などに出てくるか?』と思ったのも事実。

問題を起こすと判っているなら、王に協力を頼み、家に引き籠らせればいいのだ。

わざわざ夫婦揃って出席する必要はない。

「第二王子殿下や側室様の後ろ盾という立ち位置を強調したいならば、妻だけ置いて参加すればいい。公爵夫人の性格は皆も判っているんだし、面倒な人が来るくらいならば、夫婦が揃っていないことも目溢しされるでしょう?」

「……確かに」

「優秀な息子達も居る以上、公爵だけでも問題ありませんよね? 必要な場だけ、夫婦揃って参加すればいいだけだと思います」

勿論、公爵夫人が納得しない可能性はある。だが、その時は一服盛ってしまえばいいだけだ。

そもそも、公爵家には王家から使用人が派遣されているらしいので、協力してくれる人の方が多いだろう。

「その結果が、『公爵の方はまとも』という評価では? 普通は『情けない』とかの一択ですよ」

目立たなそうだもん、あの人。寧ろ、息子達が一緒に居たら、その存在は陽炎の如く霞む。

そもそも、いくら公爵家だからといっても、悪評は免れないと思うんだ。『妻の言いなりとは情けない!』ってね。

「ま、そんな感じなので、公爵の方も同じ対処を施します。ちなみに、これは私の故郷で使われている文字です」

言いながら、数枚の紙を近くの机に広げてみせる。興味深そうに覗き込む人々は――予想通り、困惑したような表情になった。

「魔導師殿の故郷の文字……その、国独自の文化とかもあるだろうから否定はしないけれど、随分と変わっているんだね」

「これは一番難しい文字ですよ、ブラッドさん。漢字、と言います。他には平仮名やカタカナというものもありまして、基本的にこの三つを組み合わせて文章にしますね」

「へぇ! 三種類もあるのか。これは絵のように見えるけど、立派に文字なんだね。最初、術式や呪いじみた言葉かと思ったよ」

皆は興味深そうに紙に書かれた文字を眺めている。そんな中、不意にサイラス君が私を見た。

「ちなみに何て書いてあるんです?」

言いながら、一枚の紙を指差す。ああ、これは……。

「それは練習用に書いた奴だから、今回は使わない。読み方は『よろしく』だよ」

「え、これが!? 随分と難しい文字を使うんですね」

感心したようにサイラス君が眺める紙には、『夜露死苦』と書かれている。

そう、彼が『難しい文字』と称した理由。それは『全ての言葉が所謂、ヤンキー漢字と呼ばれる当て字で書かれているから』!

なお、他には『 覇仁婆薇刺(はじさらし) 』や『 泥鬼尊孤那威(できそこない) 』、『 髏苦泥那刺(ろくでなし) 』に『 乃髏威亜烈(のろいあれ) 』、『 悪薔華(おばか) 』、『 堕女悪憂憎苦(だめおうぞく) 』と、割とバリエーションは豊かである。

ただし、ほぼ全てが貶している言葉。

ぱっと見、ヤバい術式や呪文にしか見えないけどなー♡

魔導師が施した時点で、周囲がどう思うかは推して知るべし。

大抵の人間が警戒心も露に『これ、ヤバい奴じゃね? 本当に無害!?』とか思いそう。

なお、私は当然、それを狙っていたり。ただの文字だけど、『魔導師が施した』という事実があるなら、恐怖は倍増さ。

「……本当に、何の効果もないのだな?」

「ありませんよ。ただ、恥ずかしいだけです」

嘘は言っておりません。