軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒猫の祟りとは 其の一

問題の二人が退場し、裏事情を知る共犯者――共犯者、という括りで良いだろう――だけになった部屋。

そこには公爵夫妻に対する哀れみでも、侮蔑でもなく、『漸く片付いた』的な安堵が漂っていた。

まあ、それも当然だろう。

公爵夫妻の役割りを知る人々からすれば、あの二人は非常に厄介な存在だった。

ただの公爵家ならば、多少の温情や政的な不都合があるとはいえ、それなりに処罰することはできたのだから。

それが不可能だったのは偏に、側室様の実家であることと、第二王子殿下の後ろ盾という立ち位置から。

これで二人が『誰が見ても、聞いても、庇うことはできない失態』的なことをやらかしていれば、まだ抑え込めたのだろうけど。

あの二人、特に公爵の方は悪事を企むような性格ではない。

ただ、あの夫婦は揃って『愚か』だった。

ぶっちゃけ、それほどの悪事を企む賢さがなかった……!

先の一件であるリーリエのことは、ただの娘への甘やかしである。彼らが意図的にアルベルダを乱そうとしたとか、キヴェラ王に敵対姿勢を見せたとかではない。

今回の婚約未遂についても、馬鹿親二人が自国で良縁を望めないだろう娘のため、持ちかけられた話に乗りそうになっただけ。

恐ろしいことに……本当に恐ろしいことに、ある意味では『親としての愛』という言葉でその行動が肯定されてしまうのである……!

……。

マジで悪意がないから、あの二人には罪の意識とかなかったんだろうな。

そんな馬鹿二人に振り回されるキヴェラ王と側近の皆様のお気の毒なこと!

いくら『愚かならば戦狂いの標的にならない』とは言っても、ものには限度があるだろう。

しかも、本人達が己が正義を信じているため、他者からの苦言なんて聞きやしねぇ!

……まあ、『処罰されず、王から叱られる程度で済んでいた』という事実が、二人にそう思い込ませていたのかもしれないが。

それが崩れたのが……先ほどの一幕。

少なくとも、公爵の方はこれまでと違うことに気付いたはずだ。公爵夫人の方はともかく、公爵の方は反省が望めるかもしれない。

「さて! それでは今回のメインイベント……もとい、公爵夫妻の今後についてお話ししましょうか」

パン! と手を打ち鳴らして宣言すると、皆の視線が私へと集中した。

「改めて確認しますけど。あの二人の今後に関しては『爵位は暫くそのまま』、『アロガンシア公爵家への処罰はなし』、そして『表舞台に出て来ないよう、幽閉が望ましい』ということで合ってますか?」

最重要事項ですよね、この三点は。

そう暗に尋ねると、キヴェラ王ははっきりと頷いた。

「その通りだ。こちらの都合ばかり押し付けてすまないが、それが望ましい」

「爵位を維持させることから発する不安要素は、そちらに対応をお願いします。あ、ブラッドさん達兄弟には時間が必要という事情は理解してますよ」

弟さんが難しいならば、暫定的にブラッドさんが継げばいいという人も居るだろう。

しかし、そうなった場合、高い王位継承権を持ち、優秀なブラッドさんを推す動きがあっても不思議はない。

その裏には、『王子達は頼りない』という噂や、そう思い込んでいる人達の姿がある。

「そういった輩はこちらで対処する。……儂も原因の一端であるからな」

キヴェラ王はどこか疲れたような声で言うと、溜息を吐く。そこには過去、ルーカスを頼りなく思っていたことへの後悔が滲んでいた。

思わず、側近の皆様へと視線を向けると……彼らも似たような状態だった。

そだな、ぶっちゃけ、キヴェラ王と比較して王子達を貶めていた君らが元凶だもんな?

悪意はなくとも、口にしていた過去は変わりませんものねぇ?

側近の皆様的には、本当に国のことを思っての発言という面もあっただろう。

彼らはキヴェラ王と共に戦狂いに抗ってきた時間があるからこそ、『キヴェラ王に匹敵する能力を持つ次代の王』を求めても不思議はない。

しかし、だ。

それはあまりにも『現在』を見ていないというか、状況把握が甘いとしか言いようがない。

Q:キヴェラ王のような天才が毎回生まれると思いますか?

A:無理。

そう簡単にキヴェラ王並みの天才が生まれるなら、各国、次代の王の選出に悩むまい。

そのキヴェラ王とて、生まれついての才覚ばかりではなく、努力した結果の功績である。

と、言うか。

キヴェラ王の場合、『戦狂いの対抗』(=できなかったら、キヴェラは滅亡の危機)という事情に加え、本人の能力がガンガン鍛えられるイベント(意訳)があったせいだと予想。

経験は人を育てるのである。

根拠は勿論、この私。

そんなイベントもなく、かと言って、王を追い落とす必要もないキヴェラにおいて、王子達が求められる能力は『とりあえず、現状維持』。

間違っても、キヴェラ王の対抗勢力になることではない。やらかしたら、それは『反逆』であろう。

それを理解しないお馬鹿さん達が『王太子は不甲斐ない』と口にしたことが、王子達の不遇の原因。

私が弟王子達に『やっちまえよ!』と応援する理由です。寧ろ、それが能力の証明になるのだから、私怨だけではない。

「その元凶達は反省し、それらを否定したわけですが。……まあ、そうそう素直に聞きませんよね。しかも、その理由が『王や側近達が口にしていたから』」

「……」

「……。馬鹿ですか、貴方達」

『う゛!』

呆れた眼差しと共に言い切った私の言葉が心に痛かったのか、側近の皆様は顔面蒼白だ。やらかした自覚があるキヴェラ王とて、顔色が悪い。

さすがにブラッドさんは『ざまあ! 後悔に沈みやがれ!』とは言わないけれど、当然と言うように頷いている。

なお、サイラス君もこの案件ばかりは私に噛み付いてこない。彼自身も後悔があるからこそ、それを重く受け止めているのだろう。

「これ以上愚かなことをしないよう、しっかりと! 反省してくださいね♡ もしも似たようなことが起こったら、今度こそ『キヴェラは馬鹿揃い』と各国に広めますから♪」

「う……うむ」

よし、キヴェラ王の言質は取った。これでこの類の案件には、私も参戦可能だな。

弟君達が望むならば、お姉さんが快く手助けしてあげようじゃないか。

さて、それじゃ公爵夫妻への祟りの内容を暴露しましょうか。

「じゃあ、話を戻して。公爵夫妻ですが、『爵位を維持したまま、領地の方へと幽閉紛いの状態にする』。これは監視が付くんですよね?」

「ああ。元から仕事を手伝う者達も居るし、見張り程度は居たのだがな。今後は『あからさまな監視要員が付く』。それは決定事項だ」

表情を改めたキヴェラ王が、現時点ですでに決定事項となっていることを口にした。

ほうほう、今後はあの二人にはっきりと『お前らは監視対象』と判らせるわけね。

ただ、私はそれをもう一捻りしたいのですよ。

「その監視体制ですけど、適度に穴を空けてくださいな」

「何だと?」

「あの二人、もしくはアロガンシア公爵家を利用しようとする奴らの餌にしましょう。ああ、穴と言っても『彼らと接触できる』という程度です。勿論、実際にはきちんと記録と報告が成される前提で」

笑顔で話す私に、キヴェラ王は目を眇める。私の案を頭の中で精査しているのだろう。

「ふむ……つまり、『何らかの目的で公爵夫妻を利用しようとする者』を炙り出すのか」

「領地の幽閉自体は王の決定ですからね~。それを無視する以上、『徹底的に』調べられても仕方がないと思うんですよ」

第二王子殿下の派閥に属する奴らが勝手なことをするかもしれない。もしくは、本当にブラッドさん達を王子達の対抗勢力にしようとする奴が湧くかもしれない。

ただ、そういった気配はあっても、証拠がなければ『疑わしいだけ』。

ならば、公爵夫妻に役に立ってもらおうと思ったわけだ。リサイクルの精神です。

「次代の憂いとなる……もっと言うなら、キヴェラを混乱に陥れるような要素を事前に潰しましょう。ああ、これは他国も同じです。またアロガンシア公爵夫妻にこっそり接触してくる奴らが居ても面倒ですからね」

「なるほど、そういった意味も含めての『餌』か!」

「これならば、『爵位を維持したまま』という理由になりますよね。権限が全て取り上げられているのですから、彼らに接触する目的は基本的に『キヴェラの次代に係わること』一択でしょう」

「そうなるであろうな」

「これで『第二王子の後ろ盾』という理由の他に、『アロガンシア公爵家への処罰はなし』とする理由ができます。……餌には価値が必要ですから。これまでのこともあり、甘い対処に見えることも好都合かと」

今後は『第二王子殿下の後ろ盾の家』という価値しかないのよね、あの二人。

それでも擦り寄ってくるなら、『どういった目的かな? ちょっと【お話し】しよ♪』(訳:『洗い浚い吐け』)とばかりに尋問すればいい。

「各国の王と一部の信頼できる側近達には今回の裏事情も含め、私が個人的に情報を共有します。ですから、他国でアロガンシア公爵家関連の提案が出ても、公爵夫妻に関してならば、本格的な話が出る前に潰せますよ」

「我が国の恥ではあるが……今回のように、知らぬうちに縁談を組まれても困るな。当主にブラッド達の縁談を纏められても厄介だ」

「そういった警戒も含めての『情報の共有』ですからね。最初からキヴェラの意図を正確に知っておけば、各国の王達が上手く対応してくれますよ。話が拗れて揉めるよりも、王族同士の情報確認だけで済みますね」

家を出ているブラッドさんはともかく、弟さんに関してはマジでこの危険がある。

だからこそ、各国の王達も巻き込むのだ。なに、魔導師が警戒を含めてそういった話を暴露して回るだけさ。

そのために今回、素直に殴られたのだから。

十分な話題でしょ? 『魔導師を殴り、報復された奴が居る』なんて!

「では、最後の『表舞台に出て来ないようにする』ということは?」

「勿論、考えてありますよ! 私個人としてはこれが大本命の嫌がらせですから!」

自信たっぷりに胸を張れば、ブラッドさんが生温かい目を向けてくる。

「嫌がらせ……」

「えーと……。報復! 報復です! 魔導師だもの、泣き寝入りはしない!」

気にしないでください、ブラッドさん。私はいつもこんな感じですし、毎回、割と本気でそう思ってます。