軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒猫さんからお手紙ついた♪

――イルフェナ・エルシュオンの執務室にて(エルシュオン視点)

「……」

ミヅキからの手紙に目を通し、私は……深々と溜息を吐く。

私の様子に気が付いたアルとクラウスは顔を見合わせ、やや訝しげに尋ねてきた。

「どうした、エル。ミヅキが何か遣らかしたのか?」

……開口一番にこの台詞。安定の信頼のなさに、遠い目になった。

普通はミヅキを心配するんじゃないのかと思うものの、即座に『クラウスが正しい』と思い直してしまう。

うちの子、野良本能全開の馬鹿猫だものね。

これまでの所業を知っていれば当然、そういう発想になるか。

「クラウス、ミヅキを案じる気持ちはないのかい? 不測の事態が起きて、助けを求めたとか」

「ないな。あいつは不測の事態が起きようとも、自力で解決するだろうさ」

即答。

クラウスは魔術師ということもあり、実力至上主義な面が強いが、ミヅキのことは何の心配も要らないと確信しているのだろう。

……が。

そこで終わらないのが、我が幼馴染二人。

「ですよねぇ。情報が欲しいとかならばともかく、援軍を求めるということは、その、ないかと」

「親猫に悪戯がバレるからな。まあ、間違いなく、黙ったまま、事後報告だ」

……余計なことまで口にした。ジトっとした目を向けるも、彼らは涼しい顔だ。

そうか、そうか、そういったことにまで『理解』(意訳)があるのかい。

確かに、君達はこれまでもミヅキの味方をした挙句、私への報告を意図的に遅れさせたりしていたよね。

私は、一応、君達の『主』なんだけど、ねぇ……?

「無駄な期待はしない方が良いですよ」

優しく微笑みながら――どこか笑いを堪えているように見えたのは、気のせいだろうか――アルが宥めれば。

「いい加減、諦めろ。教育の段階で躓いているんだから、今更だろうが」

呆れた表情のクラウスが、ばっさりと切り捨てる。

その『教育』には私にも多大なる責任があるため、ついつい目を逸らしてしまう。

し……仕方ないじゃないか! まさか、ミヅキに必要だったのは性格矯正だなんて思わなかったのだから!

「い……一応、私が傍に居れば、軌道修正くらいはできると思う! ……叩いて止めれば」

「まあな」

「エルには懐いていますからね」

ミヅキ自身も『【お手】と【待て】ができる!』と言っているので、これは事実であった。

ただ、そこで『犬や猫じゃあるまいし、叩いて止めるとは何事だ』という言葉が出ないあたり、アルとクラウスがミヅキをどのように思っているか知れる。

……彼らも『素敵な騎士様』とは言い難い性格をしているため、釣り合いは取れているのだろうけど。

「で、今度は何を企んでいるんです?」

興味津々とばかりに、アルが手元を覗き込んで来た。アルの興味は手紙の内容に移ったらしい。

そんな彼に生温かい目を向けつつ、私は肩を竦めて、手紙に書かれていたことを口にする。

「誘拐事件の時に着ていたドレスを送って欲しいらしい」

「「は?」」

「アロガンシア公爵夫人に『きちんとした服装』で会いに行くそうだ」

『誘拐事件』という単語にかつての事件を思い出したらしい二人は、即座に困惑を露わにした。

「あれは誘拐犯達と対峙することを想定したものだったはずだが」

「そうですよね。……もしかして、かの公爵家に殴り込みにでも行くつもりですか?」

「アル!」

「そうは言いましても、普通のドレスではありませんし」

「戦闘前提の装備だと、エルも知っているじゃないか」

あんまりな予想に声を上げるも、即座に二人から突っ込みが。

た……確かに、私もちらっとは考えた! それは否定しない、否定しないけれど!

「……。こちらからドレスを送る以上、さすがにそれはないと思いたい。私達も共犯になってしまうからね」

「ああ、確かに!」

「エルに迷惑をかけるくらいならば、別の方法を考えるだろうな」

「証拠隠滅は大事だと、日頃から口にしていますしね」

「手紙なんて、残さないだろう。まあ、キヴェラ王が共犯になっているのならば、話は別だが」

……ろくでなし感が増したようだ。いくらミヅキでも、常に犯罪者予備軍みたいな真似はしない……と思いたい。

……。

物 凄 く 不 安 だ が 。

「まあまあ、我々の予想はそれくらいにして。ミヅキは何をする気なんです?」

「ん? ああ、人目に触れないよう、アロガンシア公爵家内で、アロガンシア公爵夫人を怒らせ、先に手を出させたいらしいんだ」

「……? ドレスが必要か?」

「茶会……ではないようですね。人の目に触れたくはないようですし」

揃って首を傾げるアルとクラウス。

私も内心、彼らに同意しつつ、話を続けた。

「どうやら、公爵夫人は意外と打たれ弱いみたいでね? 夜会の時に見たミヅキの姿……所謂『魔導師』のままでは、仕掛けてくれない可能性が高いらしい」

「それは一体、何方からの情報提供なのでしょう?」

「聞いたことがないな。夜会でもキツイ口調で、一方的に糾弾するような人物だったが」

リーリエ嬢の一件の際に、アロガンシア公爵夫人の姿を見ている二人は納得できないらしい。

確かに、魔道具に記録された公爵夫人の姿は……失礼ながら、気が強く、感情優先の性格をしているように見えた。

彼女が普段からあのままならば、切っ掛けさえあれば即座に激高し、たやすく手を上げると思うのだが。

「公爵夫妻の長男からの情報提供だそうだ。彼は一時、ルーカス殿の傍を離れていたが、ルーカス殿が表舞台に戻った時のための準備を進めていたらしい」

「おや……」

「ほう」

「リーリエ嬢の件で、ルーカス殿は表舞台に戻ったと言えるからね。それでルーカス殿の下に戻って来たんだろう」

ミヅキからの手紙によれば、公爵子息……ブラッドフォード殿はかなり優秀かつまともな人物らしい。

……ミヅキが『前妻の子』ではないかと血筋を疑ったようだが、しっかり否定された模様。

他にも『亜種』だとか言ったらしいが、アロガンシア公爵家は本来、文武両道の家系らしく、アロガンシア公爵の方が『例外』(意訳)と書いてあった。

「あの方、ルーカス様の傍に戻ったのですね。どこに行ったのかと思っていましたが」

「逃亡ではなく、先を見越して、準備に入っていただけだったのか」

「私も薄ら記憶にある程度だけど……何と言うか、あまり印象に残らない人物だったと思う。あれはわざと目立たないようにしていたのか」

「あの当時、うっかり目立ってしまえば、彼を持ち上げる方達が居たかもしれませんからね。血筋的にも、高い継承順位を持っていますし」

「やられたな。他国に対し、凡庸に見せることで、探られる情報を最小限に抑えたのか」

クラウスはかなり悔しそうだ。そんな姿に、私とアルは苦笑するしかない。

アロガンシア公爵夫妻が中々に問題のある人物のため、王家寄りの息子二人は『親に似ず、まともで優秀らしい』くらいしか情報がなかったのだ。

なお、比較対象が公爵夫妻という状況での『優秀』であることは言うまでもない。

本当に優秀であることが知られていた場合、婚約者の選定やら、王家とのパワーバランスといった問題が噴出していただろう。そういった問題を避けるため、本性を隠したのかもしれなかった。

しかし、そう考えると、今回のことはチャンスでもあった。

ミヅキは彼を共犯者――本当にこう書いてある。『協力者』ではないのか!?――に仕立てているので、ブラッドフォード……ブラッド殿の本性も『正しく』知ることができるだろう。

私達は視線を交わし合い、同時に口元に笑みを浮かべた。

ミヅキにとっては予定外の『お出かけ』だが、こちらからすれば、降って湧いた幸運である。

今回ばかりは、ミヅキに協力的な態度を取ってあげようじゃないか……勿論、記録用の魔道具の所持と報告書の提出を条件に。

「仕方がないね。すぐに必要な物を送ってあげよう」

「いいのか? エル。手紙によれば、ミヅキは自分が殴られることを狙っているようだが」

「ふふ、親猫様としては許し難い事態ですよね」

クラウスの言いたいことも判るし、アルの言っていることも事実だろう。

――だが。

「私はこの国の王族なんだよ、二人とも。ミヅキとて、それを理解しているさ」

二人の目が楽しげに細められた。

ああ、そうだとも。私が最優先にすべきものは『この国』。それは決して揺るがない。

ミヅキはそれを理解しているからこそ、こんな手紙を送ったのではないのかとすら思ってしまう。

……あの子は私の意思を最優先にする、賢い愛猫なのだから。

「それにね……ミヅキは『報復しない』とは一言も書いていないんだ」

「「あ」」

「まあ、その時はキヴェラ王が責任を持って、『色々と』握り潰してくれるんだろうけど」

「……ミヅキの報復の方が酷い気がするが」

「元からそれが狙いだからねぇ……まあ、あの傍迷惑な公爵夫妻には『大人しく』なって貰った方がいいだろう」

だから、今回は見逃してあげるよ。小言を言いつつも協力する『話の解る保護者』でいようじゃないか。

君がキヴェラ王の手駒のように扱われるのは癪だけどね!