軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒猫さんからお手紙ついた♪ ガニア編

――ブレイカーズ男爵家の一室にて(シュアンゼ視点)

ミヅキからの手紙を読むなり、私は苦笑した。

一時的とはいえ、私が頼んだ『課題』の手伝いを抜けるのだ。それを気にしてか、近況報告をしてくれたのだが。

「……キヴェラも大変だな」

それしか言葉がない。

と言うか、私自身、ブラッドフォード殿と似たような状況下に長年居たため、彼ら兄弟に対する同情の念を禁じ得なかった。

『これから書くことはキヴェラ王の許可を得ていると言っても、ヴァイス以外は他言無用で宜しく』

そんな言葉から始まる手紙には……キヴェラの困った人達のことが書かれていた。

いや、実際には『困った人達』程度で済ませていいものではない。

折角、キヴェラ王自身が他国と歩み寄る姿勢を見せているというのに、未だ、『強国キヴェラ』という過去に取りつかれている元王女は大問題である。

……まあ、その『元王女』に対するミヅキの認識も中々に笑える……いやいや、酷いものなのだけど。

『未だに王族気分の年増……じゃなかった、お年を召した元王女様が、自分の我侭は何でも叶うと思い込んでいるんだよねぇ』

『今回のことも、彼女とその夫のボンクラ……もとい、公爵からすれば、【可愛い娘のため】らしい』

否定の言葉が浮かばないあたり、性質が悪い。うっかり、納得してしまいそうになるじゃないか!

ま、まあ、その『お年を召した元王女』と『その夫のボンクラ』という表現はとても的確なので、他の表現を探せと言われても困るのだけど。

そんなのでも、キヴェラ王の実妹とその夫である公爵という事実。

血筋は本物なので、教育の大切さを痛感する現実である。

そして、ミヅキからの手紙はまだまだ続く。

と言うか、要所要所に散りばめられた情報を、私やヴァイスに伝えるため……というのが、わざわざ手紙を送ってきた理由ではあるまいか。

ただ。

その手紙の内容と言うか、書き方が……非常にミヅキらしいのも事実であって。

ついつい、笑みを浮かべながら読んでしまうものだから、三人組が先ほどから怯えている。

……失礼な。君達は私をどのように思っているのかな?

勿論、本気で不快に思っているわけではない。怒ってなどいないし、寧ろ、逆。

だが、これまでの私の状況からは考えられないこの遣り取りが、とても楽しいのも事実だった。

『いくら血を残すことだけが役目と言っても、あれはない。しかも、キヴェラ王の叱責さえも【お兄様に叱られた】程度にしか捉えない頭の悪さ!』

『私の目の前では、息子さんが非常に居た堪れない心境になると同時に、素敵な笑顔で「思いっきりやっちゃっていいよ!」と推奨しております』

『これまでの苦労が偲ばれますね! ……何をしてきたんだ、公爵夫妻』

『なお、ブラッドさんは主であるルーカスが表舞台に立つ時に困らないよう、自力で爵位を獲得後、家を出て、色々と準備をしていたそうな』

『そして、ルーカスの下に戻るべく、ご挨拶に来た直後に両親の更なる愚行!』

『彼の心境は、私にめっちゃ協力的なことから、お察しください』

思わず、目頭を押さえて、会ったこともないブラッドフォード殿を想う。

うん……うん、判るよ、その気持ち。私には察せてしまう。

自分の親とも思えない愚行の数々、子供だからと、無条件に格下扱いしてくる親……。

全て、自分には覚えのあるものだ。寧ろ、他人事とは思えなかった。

しかも、自分の時とは違い、今回は公爵夫妻を罪に問えないらしい。

それだけでなく、できる限り、アロガンシア公爵家に醜聞を持たせたくない、と。

……。

ミヅキが協力を要請されたことに納得した。

それ、ミヅキにしかできないから。

『ブラッドさんもある程度の醜聞は仕方ないと割り切っているので、【気に食わないのは公爵夫妻とリーリエ嬢だけで、まともな兄弟とは仲良しです!】とは広めるつもり』

『勿論、多くの人の前で、彼ら兄弟が私に謝罪して見せることも必要。誰が見ても茶番だと判るけど、やらないよりはマシだと思う』

『ってゆーか、アロガンシア公爵家出身の側室様がマジで可哀想。現在進行形で居た堪れなさから落ち込んでいる。ご子息の第二王子殿下は激おこです☆』

『そんなわけで、さくっとアロガンシア公爵夫人を〆ようと思います♪』

『実際には、ブラッドさんのエスコートで公爵家に行って、ドレス姿を見せてくるだけだよ? リーリエ嬢の時の夜会では、私の魔導師としての装いが気に食わなかったみたいだし』

『そう、優秀な息子さんと一緒に、得体の知れない女が公爵家に乗り込むだけなのよ。ただ、ちょっと、言葉が【色々と】足りなくなる気がするけれど』

『民間人が公爵家にお邪魔するんだもの、緊張して言葉が出て来なくても仕方ないよね! 勘違いされた挙句に、女同士の争いになっても仕方ないよねぇ……?』

『そんな感じで、あくまでも私個人の喧嘩になる予定。大丈夫、共犯者のブラッドさんはこの計画に、非常に乗り気だから!』

『早めに帰る予定だけど、それまでモーリス君達の教育をお願いね。シュアンゼ殿下込みでキヴェラでも研修できそうだから、従兄弟の方も早めに現当主を叩き出してくれると嬉しい』

『頑張るんだよー! あ、魔王様には報告済み。許可を得ているので、問題なしです』

……。

どうやら、ミヅキは私にも『お土産』を用意してくれているようだ。

ここに書いてくるということは、すでに最高権力者に話を通しているか、今回の報酬として強請るつもりなのだろう。

「……楽しみだな」

「え? どうかしました?」

つい口を滑らせれば、たまたま部屋に入ってきたモーリスが不思議そうに問いかけてくる。

以前よりも随分と頼もしくなったとはいえ、その表情からは素直さが見て取れた。

……彼にはまだまだ強かさが足りない。相手を陥れろとは言わないが、誘導したり、煽ったりするくらいは身に着けて欲しいものだ。

「キヴェラで仕事をしているミヅキから手紙が来たんだよ」

かなり暈して伝えると、モーリスは素直に感心したような表情になる。

「ミヅキさん、民間人なのに人脈が凄いですよね。キヴェラの方からも頼られるなんて」

「「「……」」」

そんなモーリスから、三人組はそっと視線を逸らす。

彼らはある程度ミヅキの真実を知っているため、『お仕事』が意味するものを察することができるのだろう。

……それに伴う、ミヅキの所業の数々も。

「ああ、ミヅキ殿は非常に優秀だ」

真面目に頷くヴァイスの言動もまた、モーリスの勘違いに拍車をかけるのだろう。

ただ、ヴァイスの場合は誤魔化しているのではなく、大真面目に言っているだけだ。

サロヴァーラの惨状――惨状でいいだろう、あれは――を覆した魔導師に対する、王家派に属する者達の信頼は、非常に重い。

そして、私も今はまだ、モーリスに真実を告げる気はなくて。

「ああ、ミヅキは優秀だよ。それにね、とても頼りになるんだ」

様々な意味で。

遣り方を問わなければ、結果を必ず出してくれる。

ただ、ちょっとばかり保護者が頭を抱える事態になるだけだ。何の問題もない。

「やっぱり、そうなんですね! 皆様に時間をかけていただいているんです、僕も頑張らなければ!」

「そういった姿勢は大事だけど、あまり気負わないようにね」

「はい!」

モーリスに微笑みながら、ちらりと三人組へと視線を向ける。

……予想通り、カルドとイクスが遠い目になっていた。いくら恩ある教官と言えど、モーリスがミヅキのようになるのは、思うところがあるらしい。

「さて、どうなるか」

手紙を弄びつつ、私はミヅキが帰って来る時を想い、笑みを深めた。