軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お忍びデート 前

これはリカルドが国王に即位して間もない頃のお話――。

雲一つない青空に、穏やかな風が吹いている。

王妃となった私は、その肩書に恥じぬよう華やかなドレスに着替えている――訳ではなかった。

「……これでいいのかしら?」

「リリアンヌ様は何を着られても似合っておりますよ」

「その上で変装がお上手です……!」

「それならいいのだけど」

鏡の前で侍女達に褒めてもらえたものの、変装に不慣れな私はこれで王妃と気が付かれないのか不安で仕方なかった。

キャスケットに髪の毛は後ろで編み込んで縛る形に、落ち着いた色味とデザインのワンピースをまとっていた。とてもではないが、格好自体は貴族には見えにくいだろう。

変装といっても、髪の色はそのままで帽子を深くかぶっただけ。見る人が見たら、すぐにわかってしまう。

(でも……よく考えたら、私の顔はそこまで認知されていないでしょう)

そう考え直したところで、部屋にノック音が響いた。

「リリー、準備できた?」

「えぇ、今行くわ」

扉を開けると、そこには同じように変装をしたリカルドが立っていた。

「リリーはこういう服装も似合うね。凄く可愛いよ」

「ありがとう。……リカルドは変装が私より上手ね」

「そうかな?」

頭からつま先まで、リカルドの姿を確認したところ、とても王族には見えなかった。むしろ街中で新聞を配っていてもおかしくないほど、服を着こなしていた。

「えぇ。素敵よ。……あ。これ、お揃いなのね」

「うん。リリーと同じ帽子を被りたくて。色違いの物を取り寄せたんだ」

「そうだったのね。ありがとう」

侍女が用意してくれたものだとばかり思っていたが、リカルドからの贈り物だとは知らなかった。

「リリーが被ってくれて嬉しいよ。それじゃ、早速だけど行こうか」

「行きましょう」

変装を褒め合ったところで、リカルドが手を差し出した。その手を取ると、私達は目的地へと向かうため馬車に乗り込んだ。馬車は王家の紋章はなく、乗合馬車でも使われていそうな平凡なデザインのものだった。

今日はお互いの国務や政務など仕事が落ち着いてきたこともあって、お忍びデートをすることにしたのだが、目的地に関しては聞いていなかった。

「今日はどこまで行くの?」

「王都に行こうと思ってるよ」

「王都……⁉ さすがにそれは危険じゃ」

「大丈夫だよリリー。王位継承問題解決以降、不穏分子もなくなってきたからね」

「確かに……それもそうね」

(王都は人が多いから何かと心配だけど……護衛がついているなら大丈夫ね)

リカルドの言葉に納得したところで、他愛のない話をしながら到着までの時間を過ごした。

王都のはずれに到着すると、すぐに馬車から下りた。リカルドの手を取った状態でいると、私はそっと手を離した。

「リリー?」

「こういうエスコートは貴族特有のものでしょう? 今日はやめておきましょう」

「それは……そうだけど……」

一応平民のフリをして王都に向かうので、細心の注意を払おうと思った。リカルドは物凄く落ち込んだ表情をしたかと思えば、すぐに私の手を掬い取った。

「平民らしければいいんだよね? それならこうしよう」

「え、ちょっと……!」

反論する隙も与えずに、リカルドは私の手と自分の手を絡ませた。

「これ、恋人繋ぎって言うんだって。この前側近に教えてもらったんだけど」

「恋人繋ぎ……」

「別に平民同士の恋人なら問題ないよね?」

ふわりと微笑むリカルドは、がっちりと手を繋いで離さなかった。私が手を見ている間沈黙が流れたものの、反論できる要素はなかったので頷くことにした。

「そうね。これで行きましょう」

「うん、絶対離さないから」

(……さっき離されたのがよほど嫌だったのね)

笑顔は爽やかなのに、瞳の奥底には黒いものを感じていた。少し申し訳なさを感じたため、私はそっとリカルドの手をぎゅっと握り返した。

「ごめんね」

「……リリー。その上目遣い反則だよ」

「仕方ないでしょう。リカルドの方が、背が高いんだから。上目遣いされたくならしゃがんで」

「いや、されたいからこのままでいいよ」

あきれたようにため息を吐くと、リカルドの手を引いて歩き始めた。

「わかったわ。さ、行きましょう」

「うん。行こう」

何はともあれリカルドの気分が良い方に転んだので、ほっと安堵するのだった。