軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お忍びデート 後

王都は多くの人であふれていた。平民と貴族の割合としては半々ほどだが、身分関係なしに賑わっていた。

(……心なしか、リカルドの即位後は活気が増した気がするわ)

リカルドの妻として贔屓目にはなっているのかもしれないが、素直に明るく穏やかな王都だと一目見て感じた。そしてそれに納得できるほど、彼が努力を重ねていることを知っている。

「リリー、どこか行きたい場所はある?」

「……フレンチトースト」

「フレンチトースト?」

「えぇ。前にね、レティシアに美味しいフレンチトーストのお店があると聞いたの。だからそこはどうかしら」

「いいね、行こう。場所はわかる?」

「……多分。少し歩くのだけどいい?」

「もちろん」

私の案内で動き出した。手は繋がれたままなので、私がリカルドの手を引く形でお店を探し始めた。

「……ごめんなさい、リカルド。迷ったわ」

話を聞いただけだったので、正直うろ覚えな部分もあった。それでもその記憶頼りに歩けば行けると思ったのだが、残念なことにたどり着いたのは隠れ家のようなお店だった。

(どう見てもカフェじゃないわ……)

確かレティシアの話では、フレンチトーストのある人気のカフェだったはずだ。今目の前にあるお店は、聞いていた話と合致する点が一つもなかった。

「ふふっ。いいんじゃないかな? 取り敢えず入ってみよう」

「えっ。でもここ、どう見てもカフェじゃないわ……」

「それでもいいんだよ」

道案内に失敗してしまったことに落ち込んでいると、リカルドは責めずに肯定してくれた。

「間違いだったとしても、リリーが導いてくれたお店だからね。入らない選択肢は僕にはないかな」

さらりと甘い言葉で慰めてくれるリカルドにときめきながら、そっと抗議した。

「……もう。失敗したんだから責めてもいいのに」

「リリーを? ……僕がリリーを責めることは一生ないと思うんだけど」

「そう?」

「そうだよ。こんなにも愛しくて可愛らしい人を責めるなんて。そんなこと言うくらいなら、愛してるって伝えるよ」

つくづくリカルドは私に甘いと思う反面、私はこんなに直球的に伝えられないと感じてしまう。

「私は何度も責めてるのに」

「大丈夫。それも込みでリリーの愛らしいところだから」

「……それ褒めてる?」

「物凄くね」

若干腑に落ちない部分があったけど、リカルドの言葉に甘えて私達はお店に入ることにした。

「……雑貨屋さん、かしら?」

「みたいだね」

店内を見回してみれば、そこには家具はもちろん、茶器やお皿から置物まで、多種多様なものが置かれていた。

「わぁ、いいなここ。雰囲気が僕の好みぴったりだよ。さすがだね、リリー」

「それなら良かった」

店内には私達以外に客はおらず、おしゃれな内装で物静かな雰囲気だった。

私達はゆっくりと商品を見て回った。

「リリー、見て。この髪飾り、リリーによく似合うよ」

見ている間、ずっとリカルドは私に合うものを見つけては嬉しそうに紹介してくれた。その様子を触発されて、私も何かリカルドに合うものがないかと探し始める。

(あ、あのペンダント――)

そう思った瞬間、リカルドに先を越されてしまった。

「このペンダントもリリーにぴったりだね」

言葉にしようかと悩んだ瞬間、すぐにそのペンダントが二つあるのを発見した。

「リカルドにも合うわ」

「僕にも?」

「えぇ。……お互い似合うのだから、お揃いで買いましょう」

そう提案すれば、リカルドは目を丸くして固まってしまった。

「リ、リカルド……?」

「……リリー、本当? 本当に買うの?」

「い、嫌なら良いのだけど――」

「嫌な訳ない」

不安を口にすれば、食い気味に否定された。

「ならどうしてそんな反応……」

「嬉しすぎて、夢かと思ったんだよ。だって、ほら、こういうお揃いとか提案するのは僕の役目というか」

リカルドにとって予想外だったのか、上手く言語化できていない様子だった。それでも言いたいことは伝わった。確かに私はお揃いがほしいなどを口にするタイプじゃない。今日の帽子も、普段社交界でまとうドレスと礼装も、基本的にリカルド主軸で用意されたものだった。

(私、ずっとリカルドに甘えてばかりね)

自覚があったので謝ろうか思ったのだが、口に出すべき言葉はそうではない気がした。

(違うわ。今伝えるべきは謝罪じゃなくて、想いがこもった言葉よ)

そうわかると、私は繋がれていないもう片方の手をリカルドの手に伸ばして触れた。

「それなら今日から私もその役目、もらうわね」

「えっ」

「私もリカルドのことが愛おしいのよ。だからお揃いは何個あってもいいと思わない?」

好きだから。そう言葉にすれば、恥ずかしくなってすぐに触れた手を離して、視線をペンダントの方に向けてしまった。

「……ふふっ。嬉しいなぁ、リリーがそう言ってくれるなんて。あぁ、やっぱり夢みたいだ」

「ゆ、夢じゃないわよ」

「うん、だから凄く嬉しい」

リカルドはにやけがとまらないような表情で、口元を緩ませていた。

その様子を横に、私はお揃いのペンダントを購入してリカルドに渡した。

「……つけてくれないの?」

「あっ……それじゃあ後ろ向いて」

リカルドは私の上目遣いが可愛いと言っていたけど、私だってリカルドがお願いする時の言葉遣いと目線と声色にきゅんとさせられるのだ。今更ながらにお互い様だなと思い返した。

ペンダントをお互いにつけ合うと、リカルドは今日一番の満たされた笑顔を見せた。

「ありがとうリリー。一生つけるから」

いつもの私ならそれは無理だろうと突っ込むところだったが、今回はそういう気分にならなかった。私も口角を上げてリカルドに頷いた。

「……えぇ、そうして。私もつけ続けるわ」

「ふふっ。それじゃあずっとリリーとお揃いだ。嬉しいなぁ」

その後、私達は王都で色々な場所を回りながらデートの続きを楽しんだ。終始リカルドは上機嫌で、笑みがあふれているのだった。