作品タイトル不明
6話「がちで戦国時代ぽい」
「……」
男の視線が俺から火にかけたままの鍋へと移り、地響きが子犬の鳴き声のような音へと変わる。
俺は笑いをこらえるのが辛くなり、すっと視線を下へと向けた。
よく見ると男の恰好は泥だらけであちこちボロボロになっている。
手に持った杖を使いどうにかここまで来た。そんな風に見える……顔は東洋人、というか日本人ぽく見えるがはたして言葉は通じるのだろうか?
「えっと」
俺が声を掛けると男は鍋から視線をこちらへと戻す。
若干顔が赤くなっているように見えるが……さて、どう出るか? ある程度距離はあるからキャンピングカーに逃げ込むこと自体はできそうだが。
「……すまぬ。実は山を二日ほどさまよっていてな。厚かましい願いだが食い物を分けて貰えぬか?」
何やらしゃべり方が古風というか、聞き慣れない発音があり一瞬理解出来なかった……まあ、それも本当に一瞬だったが。
普段使っているのとは異なるが、間違いなく日本語だとは思う……どういうことだ? ここは異世界のはず。たまたま言語が同じだったとかあり得るのかそんなこと。
……いや、後で考える。
まずはこの人の対応をしないと。
「それは災難でしたね。構いませんよ今できたところなので……これに座ってください」
「助かる」
分けない選択肢は無い。
さすがに遭難した人に食事を分けないってのは人としてね? こっちも同じく遭難しているとかならともかくそうではないからな。
あと正直言うと断ったら襲われそうってのもある。
とりあえず予備の椅子を渡して、食器も余ってるの取ってこないと。
箸は割りばしだけどこの際どうでも良いな。
「……どうぞ」
「かたじけない!」
相当腹減っているだろうな……ということで、デカ目の器にたっぷり具を装い、炊きたてのご飯もこれでもかと言うぐらい山盛りして男に渡す。
一瞬割りばしに戸惑った様だが、すぐにパカッと割って飯をかっこみ始める。
そして熱かったのだろう。しばらく口をハフハフさせていた。
さて、男が飯に夢中になっている間にお茶を飲み……男を観察する。
さっき頭頂部を不憫に思ったけれど、あれは俺の勘違いだったようだ。
落ち着いて見てみると髷がついていた……そして杖だと思っていた棒だが、先端にどうみても銃刀法違反しているサイズの刃物がついている。
槍だなこれ。
……そういえば女神は異世界ではなく、別世界に行って貰う的なことを言っていた気がする。
あれはもしかすると平行世界あたりを指していたのではないだろうか。
だとすると今俺がいるこの世界は……平行世界の過去の日本だったりするかも知れない。
何か情報が欲しい。
男が落ち着いたらそれとなく話を聞いてみるか……はたしてどの時代なんだろうか。髷を結っているとなると明治より前だろうか……江戸後期ぐらいだとまだ助かるが。
あと可能性としてはただのコスプレ好きな人ってのも……さすがにないか。
「いやあ、うまかった! 空腹は無しにしてもこんなにうまいのは初めて食べたぞ」
「お口に合ったようで何より」
食うの早いよ。
もう少し考えがまとまるまで時間くれても良いのにさ……って、鍋とかまじで空っぽじゃないか。
締めのラーメンしようにもスープ残っていないんじゃ……しゃあない普通にラーメン作るか。
「ところで何で山をさまようはめになったので……ええと、お名前伺っても?」
とりあえず某北海道のインスタントラーメン(塩)を作り食べ終えたところで、男に遭難いていた理由と名前を聞いてみる。
ちなみにラーメンは男も食ったと言っておこう。総重量3kgぐらい行ってそうだが、胃袋どうなっているんだろうね。
「いや、すまん名乗りが遅れ申した。遊佐重盛にござる」
「御子神真です」
名前聞いたら失礼なのかなと一瞬考えたが、あっさりと名前を教えてくれた。
そして名前聞いてもよく分からん……歴史を専攻してもいないし、興味もそこまである訳じゃなかったからなあ。
有名どころは聞いたら分かるけど……あとで検索してみるとしよう。
男がいる状態ではさすがにやる気はない。
「実はいくつかの村が賊に襲われてな。御屋形様の命で山狩りに来たのは良いが……」
御屋形様! すごいな時代劇ぐらいでしか聞いたことがないぞ。
そしてさらっとやばい情報言っていないか? 賊に襲われたと? この近辺は治安が悪かったりするのだろうか……。
「情報より多かったとかですか?」
「ん? ああ、いや。そこは問題なく制圧出来たのだが……若殿の馬に流れ矢があたってしまってなあ。馬が暴れ谷に振り落とされそうになったちころを咄嗟に庇ったのは良いが、代わりに某が谷に落ち川に流されてな」
「今に至ると」
制圧済みなら大丈夫かな。
そして若殿をかばって川に流され……ってこの寒空の中を? しかも二日さまよってちょっとやつれて見える程度と……化け物か?
とりあえずあまり刺激しないでおこう。
風呂は……今日は中止だな。
「流されたと言うことですが、元の場所には戻れそうです?」
「ああ、元の場所は無理だが、もう少し川に沿って下っていけば町に着くはずだ。最もその前に限界が来てしまったが……いや、本当に助かった! この恩は必ず返す」
「別にお気になさらず……まずは帰ることを優先にです」
おお、近くに町があるのか。
結構重要な情報発信だ……少なくともドローンで見渡しても無かったと思ったけどな。割と距離があるんだろうか……歩いて行くのはしんどいよなあ。
「うむ! さて、そろそろ夜も更けた。せめて某が火の番をするゆえ、そなたはゆっくり休んでくれい」
ゆっくり寝られる訳ないだろ……毛布かぶって寝たふりでもしておくか。
っと、遊佐? さんにも渡しておくかね確か予備のあった気が……。
「って、もう寝てるんかい!」
火の番するって言ったのどこいった。
毛布被ってものの数分でいびきかき出したよこの男。
しかもうるさい。
……もういいや。寝ている間にスマホで検索して……あとは神様信じて俺も寝よう。
耳栓あったかな。
「遊佐……遊佐」
ネットでそれらしいのがないか調べてみるが……名前ではヒットしないな。
苗字と……大名とかそのへんで検索してみるとどうなるか。
「畠山氏に仕えていて、子孫は……能登の守護代か。まじか」
ちなみに俺がキャンプしていた地だけど、能登なんだよ。
有名な温泉があったからそこにしたんだけど……こうも一致しているとなるとやはりここは過去の日本なんだろう。
時代はおそらく戦国時代。
「…………よし。街に行くのは無し」
行くにしても本当に落ち着いて準備万端になってからだ。
温泉行きたかったけれど命には代えられない。