作品タイトル不明
5話「ファーストコンタクト」
「サーキュレーター買えて良かった……」
翌朝。
なんとか洗えたよ……今日は曇り空で乾くのにちょっと時間掛かりそうだったので、乾かす用にサーキュレーターを買ってみた。
風がかなり強く、この分ならすぐ乾きそうだ。
生乾きだけは避けたいからな……ただこの買い物だけで今日の分は使い切ってしまったので、今日の食事はありものでどうにかするしかない。
卵はあって、お肉もそこそこ残っている。
あと野菜類もそれなりに……玉ねぎとお肉で和風オムレツにでもしようか。
オムレツと炒飯に関しては自炊始めの頃に結構作っていたから、作り方はばっちり覚えている。
なれると簡単で美味しいし良いんだよな。
「ん……うまいねこりゃ」
卵のふんわり感。肉と玉ねぎは食感を残しつつ旨味もたっぷりで、ちょろりとかけた醤油がまた合うんだ。
てかこれオムレツというか、具入りの卵焼きだな。
ご飯に合うからどっちでも良いけど。
合いすぎて今日もご飯が進んでしまう……朝食だし、控えめにしておかないと。
「おっし、乾いてる」
朝食を食べ終え洗い物も終わったので、洗濯物を取り込もう。
どうやら生乾きコースは避けられたようでなにより。
ご飯? どうにか2合分ですませたよ。
そして動いたらすでに若干空腹感が……どうなっとんのだこの体は。
「別に体調悪くはない……むしろ絶好調である」
若い体は代謝が良いってことにしておこう。
さて、風呂に洗濯とどうにか一息吐けた感がある。
次はどうするか……炭焼き用の薪をあつめるか。
実際焼くのは明日以降だけど、まずは良さそうな枝なり落ちていないか周囲を見て回るとしよう。
どれだけ拾えるかによって次買うものが決まる。
少ないなら枝を切り落としたりする必要があるので、斧なり鋸なり必要となる。
ある程度拾えたなら炭を焼くのに必要な道具を買うことにしよう。
「落ちてるにゃ落ちてるけど、太いのはあまりないなあ」
長年放置されていたからだろう。枝が落ちていても腐っていたり、朽ちていたりと使えそうな枝が少なかった。
ざっと安全な範囲を一回りしてどうにか一抱えほどの枝を集めることができたが……おそらく一回分ってところだろう。
そんな訳で明日は炭焼きの日と決定した。
そろそろお昼だし、午後は通販サイト眺めつつ動画や映画もみてゆっくりしようかな。
お昼は……炒飯にしよう。
それだけだと寂しいので卵スープもつければばっちりだ。
「このペール缶使ったやつが簡単そうかな」
昼飯を食べ終え映画をみて、今は炭作りの参考動画をみているところだ。
いくつか方法はあったが、缶に枝を突っ込んでやるタイプが手ごろでよさそうだった。
なによりペール缶は1000円ぐらいから買えるのが良い。
とはいえ今日はもうお金がない。
割と良い時間だし、夕飯の準備をして風呂も沸かして……ん。
「今日は冷えるな」
動画に夢中になっていて気が付かなかったけれど、軽く身震いするぐらい体が冷たくなっていた。
炭も燃え尽きてほぼ残ってないな……追加すれば何とかなるか。
ぽぽいと追加の炭をいれて軽く団扇であおぐ。
すると徐々に火が大きくなり、やがて追加した炭に赤い部分が増えていった。
十分火が熾きたなと判断したところであおぐのをやめ、ポンプと川をホースで結びボートに水を貯めていく。
あとは夕飯の支度だけど……どうするかな。
寒い日に美味しいものといえば……そうだ。
「鍋にしよう」
残りの野菜は全部ぶっこんで、お肉も全部いれてしまおう。
味付けは鍋の元があったはず。
足りなければあとで雑炊かラーメンでも作れば良い。
うん、鍋ってのは良い考えだ。さっそく準備するとしよう。
「よしよし。我ながらよく出来てる」
味見したらめちゃくちゃおいしかった。
さすが俺……と言いたいところだが、味に関しては市販の鍋の元が優秀だったということだ。
寒い日にぴったりなみそ仕立てだったのも良い。
食べたら汗かくだろうからお風呂はご飯のあとだな。
それじゃご飯も炊けたし、さっそく頂くとしよう。
お肉とお野菜をバランスよくそそいで、スープもいれてっと。
おっと、七味も忘れちゃいけないな。
「うまあ」
ちょっと濃い目だけど、それがご飯とあってて滅茶苦茶おいしい。
寒い中、温かいお鍋ってのも良いねえ、あったまるねえ。
こりゃ今日もご飯食い切っちゃうなあ……ん?
「がさ?」
川のほうから何やらがさがさと草が揺れる音がする。
音のほうへと視線を向けても叢があるだけで、ほかに何か見える訳ではない。
俺が刈っていた範囲は見渡しが効くが、刈っていない範囲のほうがずっと多いのだ。
ここは安全……そう思っていても何かがこちらに近づいてくるのは確かだ。
嫌な思い出がよみがえり、背中にじっとりと汗が浮かんでくる。
しまったな。せめて手斧ぐらい買っておくべきだったか。
いやいらないか……最悪の場合はキャンピングカーに乗って蹴散らせば良い。
あのくそでかい熊が異常なだけで、普通の熊なら難なく追い払えるはず……そうとなればさっそくキャンピングカーに乗り込んで……あ。
「……」
「……」
草藪から現れた男と目が合う。
行動を始めるのが遅かった……お互いが目を見つめ黙ったまま動かない。
緊張感が漂う中、俺は必死になって今にも上を向きそうになる視線をどうにかおさえていた。
年はおそらく30前後、少しやつれた様にみえるが眼光はするどい。
何より特徴的なのは……頭頂部がみごとにつるりとしている。
炭の明かりを受けて怪しく光るそれが視界に入り……この年で不憫な人だ。と場違いな感想が浮かんでくる。
まあ、そんな感想はさておいて。
ずっとこのまま見つめ合っているわけにもいかない。
安全は保証されているはずだが、やはり不安はある……どうにかタイミングをみつけてキャンピングカーに駆け込むか?
そう考えを巡らせていると、ふいに地響きのような音があたりに響く。
発信元は男の腹だ。
真顔でこっちみたまま腹鳴らすのやめて貰っていいですかね……?