軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第98話 守るべき物は、すぐそこに

俺(おれ) は 剣(けん) を 鞘(さや) に 収(おさ) め、 家(いえ) の 扉(とびら) をゆっくり 押(お) し 開(ひら) けた。

外(そと) はもう 深(ふか) い 闇(やみ) に 覆(おお) われていて、 谷間(たにま) の 森(もり) がざわめく 音(おと) だけが 耳(みみ) に 届(とど) く。

冷(つめ) たい 夜風(よかぜ) が 頬(ほお) を 撫(な) で、木々(きぎ)の 葉(は) が 擦(す) れ 合(あ) う 乾(かわ) いた 音(おと) が、 遠(とお) くから 絶(た) え 間(ま) なく 響(ひび) いてくる。

足元(あしもと) の 小径(こみち) には、 昼(ひる) の 陽(ひ) に 乾(かわ) いた 土(つち) が 積(つ) もり、 俺(おれ) のブーツが 踏(ふ) むたびに 微(かす) かな 砂塵(さじん) が 舞(ま) った。

十年前(じゅうねんまえ) 、ミユウと 結婚式(けっこんしき) を 挙(あ) げてからちょうど 十年(じゅうねん) 。

このアストリアの 辺境(へんきょう) 、 人(ひと) の 気配(けはい) がほとんど 届(とど) かない 深(ふか) い 谷間(たにま) に、 俺(おれ) たちは 小(ちい) さな 家(いえ) を 建(た) てた。

あの 頃(ころ) はまだ、 未来(みらい) がこんなにも 静(しず) かで 穏(おだ) やかになるとは 思(おも) ってもみなかった。

家(いえ) の 中(なか) からは、 薪(まき) が 燃(も) える 匂(にお) いが 濃(こ) く 漂(ただよ) ってくる。

暖炉(だんろ) の 火(ひ) が 窓(まど) の 隙間(すきま) から 漏(も) れ、 地面(じめん) に 細長(ほそなが) いオレンジの 光(ひかり) の 帯(おび) を 描(えが) いていた。

俺(おれ) はブーツの 紐(ひも) を 解(と) き、 土埃(つちぼこり) を 払(はら) ってから 中(なか) へ 踏(ふ) み 入(い) る。 今日(きょう) はいつもより 遅(おく) くなった。

ゴブリンの 群(む) れが、いつもより 執拗(しつよう) だった。

奴(やつ) らの 目(め) は 赤(あか) く 濁(にご) り、 牙(きば) は 以前(いぜん) より 長(なが) く 鋭(するど) く 光(ひか) っていた。 何(なに) かに 怯(おび) え、 何(なに) かに 駆(か) り 立(た) てられているような、そんな 動(うご) きだった。

「あなた……おかえりなさい」

ミユウの 声(こえ) が、 静(しず) かに、けれど 確(たし) かに 響(ひび) いた。

暖炉(だんろ) の 前(まえ) に 座(すわ) っていた 彼女(かのじょ) が、ゆっくりと 立(た) ち 上(あ) がる。

長(なが) い 金髪(きんぱつ) が 火(ひ) の 光(ひかり) を 浴(あ) びて 揺(ゆ) れ、まるで 淡(あわ) い 月光(げっこう) のように 柔(やわ) らかく 輝(かがや) いていた。

十年(じゅうねん) という 歳月(さいげつ) がたったにも 関(かか) わらず、 外見(がいけん) にはほとんど 変化(へんか) はなく、 瞳(ひとみ) の 奥(おく) に 宿(やど) る 優(やさ) しさは、 昔(むかし) よりずっと 深(ふか) く、 温(あたた) かく、 俺(おれ) の 胸(むね) を 締(し) め 付(つ) ける。

「 遅(おそ) くなって 悪(わる) かった。もう 寝(ね) てていいって 言(い) っただろ」

俺(おれ) はそう 言(い) いながら、 腰(こし) の 剣帯(けんたい) を 外(はず) して 壁(かべ) の 木釘(きくぎ) に 掛(か) ける。ミユウは 首(くび) を 小(ちい) さく 横(よこ) に 振(ふ) った。

「あなたが 帰(かえ) るまで、 眠(ねむ) れないの」

その 一言(ひとこと) に、 胸(むね) の 奥(おく) が 熱(あつ) く 疼(うず) いた。

昔(むかし) は 俺(おれ) が「 寝(ね) てろ」と 命(めい) じても、 彼女(かのじょ) は 必(かなら) ず 起(お) きていてくれた。

今(いま) も 変(か) わらない。いや、 変(か) わったのは 俺(おれ) の 方(ほう) だ。 彼女(かのじょ) の 健気(けなげ) さが、 俺(おれ) の 心(こころ) をどれだけ 救(すく) ってきたか。どれだけ 罪悪感(ざいあくかん) を 植(う) え 付(つ) けてきたか。

彼女(かのじょ) が 近(ちか) づいてきて、 俺(おれ) の 頬(ほお) にそっと 手(て) を 当(あ) てた。

冷(つめ) たい 指先(ゆびさき) が、 戦(たたか) いで 火照(ほて) った 肌(はだ) に 触(ふ) れる。

ひんやりとして、 心地(ここち) よかった。 彼女(かのじょ) の 指(ゆび) は 細(ほそ) く、 薬草(やくそう) を 摘(つ) み、すり 潰(つぶ) し、 調合(ちょうごう) するたびに少しずつ 硬(かた) くなっていた。それでも 柔(やわ) らかさは 失(うしな) われていない。

「 血(ち) の 匂(にお) いがする…… 怪我(けが) は?」

「かすり 傷(きず) だ。すぐ 治(なお) る」

本当(ほんとう) は 左腕(ひだりうで) に 浅(あさ) い 切(き) り 傷(きず) がある。

ゴブリンの 短剣(たんけん) が 掠(かす) めただけだ。 服(ふく) の 布地(ぬのじ) が 裂(さ) け、 血(ち) が 滲(にじ) んでいた。

ミユウは 黙(だま) って 俺(おれ) の 袖(そで) をまくり、 傷口(きずぐち) を 確(たし) かめた。

彼女(かのじょ) の 指(ゆび) が、わずかに 震(ふる) えているのがわかった。

「 薬瓶(くすりびん) 、 持(も) ってきて」

「いいよ、そんな 大(おお) した 傷(きず) じゃ——」

「だめ」

ミユウの 声(こえ) は 小(ちい) さかったが、きっぱりしていた。

彼女(かのじょ) は 棚(たな) の 奥(おく) から 小(ちい) さなガラスの 薬瓶(くすりびん) を 取(と) り 出(だ) した。

透明(とうめい) な 瓶(びん) の 中(なか) には、 淡(あわ) く 青(あお) みがかった 液体(えきたい) が 静(しず) かに 揺(ゆ) れている。

蓋(ふた) を 開(あ) けると、かすかに 潮(しお) の 香(かお) りが 漂(ただよ) った。

アストリアの 遠(とお) い 海(うみ) から 運(はこ) ばれた 海水(かいすい) を、 何度(なんど) も 濾(こ) し、 薄(うす) め、 彼女(かのじょ) の 癒(いや) しの 力(ちから) を 注(そそ) ぎ 込(こ) んで 作(つく) ったものだ。

海水(かいすい) の 塩気(しおけ) はほとんど 消(き) え、 代(か) わりにミユウの 力(ちから) が 柔(やわ) らかく 溶(と) け 込(こ) んで、 触(ふ) れるだけで 体(からだ) を 優(やさ) しく 包(つつ) むような、 温(あたた) かな 波(なみ) のような 香(かお) りがする。

彼女(かのじょ) は 布(ぬの) にその 液体(えきたい) を 染(し) み 込(こ) ませ、 傷口(きずぐち) にそっと 押(お) し 当(あ) てる。

ひやりとした 冷(つめ) たさが 皮膚(ひふ) に 染(し) み 込(こ) み、 焼(や) けるような 痛(いた) みが 急速(きゅうそく) に 引(ひ) いていく。

代(か) わりに、じんわりと 温(あたた) かさが 広(ひろ) がった。

まるで 海(うみ) の 底(そこ) から 湧(わ) き 上(あ) がる 潮(うしお) のように、 俺(おれ) の 体(からだ) の 中(なか) を 優(やさ) しく 洗(あら) い 流(なが) してくれる。

傷口(きずぐち) の 周(まわ) りが 淡(あわ) く 光(ひか) り、 血(ち) が 止(と) まり、 皮膚(ひふ) がゆっくりと 塞(ふさ) がっていくのがわかった。

ミユウの 癒(いや) しの 力(ちから) が、 俺(おれ) の 血(ち) の 中(なか) に 流(なが) れ 込(こ) み、 心臓(しんぞう) の 奥(おく) まで 届(とど) く。

十年(じゅうねん) 間(かん) 、 彼女(かのじょ) はこの 力(ちから) で 俺(おれ) の 命(いのち) を 繋(つな) ぎ 止(ど) めてきた。

魔王(まおう) の 呪(のろ) いが 俺(おれ) の 心臓(しんぞう) を 蝕(むしば) んだあの 日(ひ) から、 彼女(かのじょ) は 毎晩(まいばん) 、 自分(じぶん) の 力(ちから) を 削(けず) って 俺(おれ) を 癒(いや) し 続(つづ) けた。

「……ありがとう」

声(こえ) が 掠(かす) れた。ミユウは 首(くび) を 振(ふ) って、

「あなたが 無事(ぶじ) でいてくれるなら、それでいいの」

と 言(い) った。 彼女(かのじょ) の 瞳(ひとみ) が、 火(ひ) の 光(ひかり) を 受(う) けて 濡(ぬ) れているように 見(み) えた。 俺(おれ) は 彼女(かのじょ) の 手(て) を 握(にぎ) り 返(かえ) し、 指(ゆび) を 絡(から) めた。 彼女(かのじょ) の 掌(てのひら) は 小(ちい) さくて、けれど 力強(ちからづよ) かった。 指先(ゆびさき) から、かすかに 海(うみ) の 潮(しお) の 匂(にお) いがした。

暖炉(だんろ) の 薪(まき) がぱちぱちと 爆(は) ぜる 音(おと) が、 部屋(へや) に 響(ひび) く。

外(そと) では 風(かぜ) が木々(きぎ)を 揺(ゆ) らし、 遠(とお) くでフクロウが 低(ひく) い 声(こえ) で 鳴(な) いた。

俺(おれ) たちはしばらく 無言(むごん) で 寄(よ) り 添(そ) っていた。ミユウの 髪(かみ) から、ラベンダーと 薬草(やくそう) と、 彼女(かのじょ) 自身(じしん) の 甘(あま) い 匂(にお) い、そして 微(かす) かに 混(ま) じる 海(うみ) の 香(かお) りが 漂(ただよ) ってくる。 俺(おれ) の 疲(つか) れが、ゆっくり 溶(と) けていくのがわかった。

寝室(しんしつ) の 扉(とびら) が、 木(き) の 軋(きし) む 音(おと) を 立(た) てて 開(ひら) いた。

「パパ!」

小(ちい) さな 足音(あしおと) が 駆(か) け 寄(よ) ってくる。アインだった。五歳になったばかりなのに、 俺(おれ) の 腰(こし) ほどまで 背(せ) が 伸(の) びていて、 毎日(まいにち) 木剣(ぼっけん) を 振(ふ) り 回(まわ) している。

続(つづ) いて、ジュリアが 眠(ねむ) たげな 目(め) をこすりながら、 姉弟(きょうだい) で 後(うし) ろからついてきた。 双子(ふたご) なのに、まるで 違(ちが) う。アインは 俺(おれ) に 似(に) て 気(き) が 強(つよ) く、ジュリアはミユウに 似(に) て 静(しず) かで、 物思(ものおも) いに 耽(ふけ) る 癖(くせ) がある。

「パパ、 今日(きょう) も 魔物(まもの) 倒(たお) したの? すっごい 強(つよ) いんだから!」

アインが 俺(おれ) の 足(あし) にしがみついてくる。 俺(おれ) はしゃが(が)んで、 息子(むすこ) の 頭(あたま) を 軽(かる) く 撫(な) でた。 髪(かみ) は 俺(おれ) と同じ 黒(くろ) で、 硬(かた) く、 汗(あせ) で少し 湿(しめ) っていた。

「まあな。でもお 前(まえ) も 毎日(まいにち) 木剣(もっけん) 振(ふ) ってるだろ。そろそろ 俺(おれ) に 勝(か) てるんじゃねえか?」

「まだまだだよ! でも……パパに何か(なにか)あったら、 僕(ぼく) がママとジュリアを 守(まも) るんだから!」

真剣(しんけん) な 顔(かお) でそう 言(い) い 切(き) る 息子(むすこ) に、 俺(おれ) は 思(おも) わず 笑(わら) ってしまった。 胸(むね) の 奥(おく) が 熱(あつ) くなる。

「 頼(たの) もしいな、アイン。でもな、お 前(まえ) の 母(かあ) さんは 世界最強(せかいさいきょう) なんだぞ」

俺(おれ) はミユウの 方(ほう) をちらりと 見(み) る。 彼女(かのじょ) は 恥(は) ずかしそうに 目(め) を 伏(ふ) せたが、 口元(くちもと) がわずかに 緩(ゆる) んでいるのがわかった。

アインは「えーっ」と 声(こえ) を 上(あ) げ、ジュリアはくすくすと 笑(わら) った。

「ママ 最強(さいきょう) ? 本当(ほんとう) ?」

ジュリアが 小(ちい) さな 手(て) でミユウの 裾(すそ) を 掴(つか) む。ミユウはしゃが(が)んで、 娘(むすめ) を 抱(だ) き 寄(よ) せた。ジュリアの 髪(かみ) はミユウと 同(おな) じ 金色(きんいろ) で、 火(ひ) の 光(ひかり) を 受(う) けて 淡(あわ) く 光(ひか) る。

「あなたたちを 守(まも) るためなら、ママはなんでもするよ」

その 言葉(ことば) に、 俺(おれ) の 胸(むね) が 締(し) め 付(つ) けられる。 十年(じゅうねん) 間(かん) 、 彼女(かのじょ) は 本当(ほんとう) にそうやって 俺(おれ) たちを 守(まも) ってきた。

俺(おれ) が 剣(けん) を 握(にぎ) って 外(そと) へ 出(で) ている 間(あいだ) 、 家(いえ) を 守(まも) り、 子(こ) どもたちを 育(そだ) て、 俺(おれ) の 帰(かえ) りを 待(ま) ち 続(つづ) けてくれた。 夜毎(よごと) 、 暖炉(だんろ) の 前(まえ) で 海水(かいすい) を 薄(うす) め、 自分(じぶん) の 癒(いや) しの 力(ちから) を 注(そそ) ぎ 込(こ) みながら、 俺(おれ) の 無事(ぶじ) を 祈(いの) っていた。

俺(おれ) が 倒(たお) れた 夜(よる) 、 彼女(かのじょ) が 一晩中(ひとばんじゅう) 俺(おれ) の 手(て) を 握(にぎ) り、 涙(なみだ) を 堪(こら) えながらその 薬瓶(くすりびん) を 俺(おれ) の 唇(くちびる) に 当(あ) て 続(つづ) けたことを、 俺(おれ) は 忘(わす) れられない。

あのとき、 心臓(しんぞう) が 魔王(まおう) の 呪(のろ) いで 締(し) め 付(つ) けられ、 息(いき) ができなくなった 夜(よる) 。 彼女(かのじょ) の 力(ちから) が、 俺(おれ) の 血(ち) の 中(なか) に 流(なが) れ 込(こ) み、 死(し) の 淵(ふち) から 引(ひ) き 戻(もど) してくれた。 彼女(かのじょ) の 力(ちから) がなければ、 俺(おれ) はもうここにいなかった。

暖炉(だんろ) の 火(ひ) が 小(ちい) さく 揺(ゆ) れる 中(なか) 、 俺(おれ) たちは 四人(よにん) で 毛布(もうふ) にくるまって 床(ゆか) に 座(すわ) った。

子(こ) どもたちが 俺(おれ) の 膝(ひざ) に 乗(の) り、ミユウが 俺(おれ) の 肩(かた) に 頭(あたま) を 預(あず) ける。 薪(まき) の 燃(も) える 匂(にお) い、ミユウの 髪(かみ) の 匂(にお) い、 子(こ) どもたちの 甘(あま) い 寝息(ねいき) の 匂(にお) い。そして、 薬瓶(くすりびん) からかすかに 漂(ただよ) う 海(うみ) の 香(かお) り。すべてが 混(ま) じり 合(あ) って、 俺(おれ) の 肺(はい) を 満(みた) す。

「……ねえ、パパ」

アインが 急(きゅう) に 顔(かお) を 上(あ) げた。少し 真剣(しんけん) な 表情(ひょうじょう) だ。 火(ひ) の 光(ひかり) が 彼(かれ) の 瞳(ひとみ) に 映(うつ) り、 揺(ゆ) れている。

「アストリアの 神殿(しんでん) の 地下(ちか) に 封印(ふういん) されていた 宝玉(ほうぎょく) って、なんなの?」

一瞬(いっしゅん) 、 空気(くうき) が 凍(こお) りついた。

俺(おれ) の 表情(ひょうじょう) が 強張(きば) るのを、ミユウも 感(かん) じ 取(と) ったらしい。

彼女(かのじょ) の 手(て) が、 俺(おれ) の 腕(うで) をそっと 握(にぎ) った。 指先(ゆびさき) が 冷(つめ) たい。

「……その 話(はなし) は、するな」

声(こえ) が 低(ひく) く 出(で) た。アインがびっくりしたように 目(め) を 丸(まる) くする。ジュリアも 不安(ふあん) そうに 俺(おれ) を 見上(みあ) げた。

「あの 宝玉(ほうぎょく) のことは、 忘(わす) れなさい」

俺(おれ) はそう 言(い) って、 子(こ) どもたちの 頭(あたま) を 交互(こうご) に 撫(な) でた。

言葉(ことば) に 棘(とげ) があったのは 自分(じぶん) でもわかっていた。でも、あの 宝玉(ほうぎょく) のことは……

触(ふ) れてはいけない。 俺(おれ) はただ、 家族(かぞく) にこれ 以上不安(ふあん) を 背負(せお) わせたくなかった。

アインは少ししょんぼりしたが、すぐに「わかった、ごめんね」と 呟(つぶや) いた。ジュリアは 俺(おれ) の 胸(むね) に 顔(かお) を 埋(うず) めて、

「パパ、 怖(こわ) くないよ。ずっと 一緒(いっしょ) にいるもん」

と 言(い) った。 小(ちい) さな 手(て) が 俺(おれ) の 服(ふく) をぎゅっと 掴(つか) む。

俺(おれ) は 二人(ふたり) を 抱(だ) きしめた。ミユウもその 輪(わ) の 中(なか) に 入(はい) って、 四人(よにん) でぎゅっと 寄(よ) り 添(そ) う。

暖炉(だんろ) の 火(ひ) が、 俺(おれ) たちの 影(かげ) を 長(なが) く 壁(かべ) に 映(うつ) していた。 影(かげ) は 揺(ゆ) れ、 寄(よ) り 添(そ) い、 離(はな) れそうで 離(はな) れない。

外(そと) では 風(かぜ) が木々を 揺(ゆ) らし、 遠(とお) くで 夜鳥(よちょう) が 鳴(な) いた。

森(もり) の 匂(にお) いが 窓(まど) の 隙間(すきま) から 入(はい) り 込(こ) み、 部屋(へや) に 満(みた) ちていく。 俺(おれ) は 目(め) を 閉(と) じて、 家族(かぞく) の 温(あたた) もりに 身(み) を 委(ゆだ) ねた。

ミユウの 呼吸(こきゅう) が、 俺(おれ) の 耳元(みみもと) で 静(しず) かに 聞(き) こえる。アインの 髪(かみ) が 俺(おれ) の 頬(ほお) に 触(ふ) れる。ジュリアの 小(ちい) さな 手(て) が 俺(おれ) の 指(ゆび) を 握(にぎ) っている。

この幸せ(しあわせ)が、 永遠(えいえん) に 続(つづ) けばいい。

俺(おれ) はそう 願(ねが) いながら、ゆっくりと 息(いき) をついた。

俺(おれ) たちはただ、ここで 生(い) きていく。

ミユウと、 双子(ふたご) と、 四人(よにん) で。

薪(まき) が 最(さい) 後に 小(ちい) さく 爆(は) ぜ、 火(ひ) の 粉(こ) が 舞(ま) い 上(あ) がった。それが、 夜(よる) の 闇(やみ) に 吸(す) い 込(こ) まれていくのを、 俺(おれ) は 静(しず) かに 見(み) つめていた。