軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第97話 今この瞬間を、永遠に刻んで

俺(おれ) は 祭壇(さいだん) の 石段(せきだん) に立ち、ミユウのヴェール越しにその 柔(やわ) らかな 輪郭(りんかく) を 追(お) っていた。

神殿(しんでん) の空気は 冷(つめ) たく、 重(おも) く、 香炉(こうろ) から 立(た) ち 上(あ) がる 樹脂(じゅし) の 煙(けむり) が 甘(あま) くねっとりと 肺(はい) の 奥(おく) まで 絡(から) みつき、 息(いき) をするたびに 胸(むね) が 締(し) め 付(つ) けられるようだった。

参列者(さんれつしゃ) たちの 衣擦(きぬずれ) の 音(おと) 、 誰(だれ) かの 抑(おさ) えた 吐息(といき) 、 遠(とお) くで 揺(ゆ) れる 小(ちい) さな 鈴(すず) の 音(おと) ――それらがすべて、 俺(おれ) の 鼓動(こどう) と 混(ま) じり 合(あ) って、 頭(あたま) の 奥(おく) で 鈍(にぶ) く、 熱(あつ) く、 切(せつ) なく 響(ひび) いていた。

なのに、どうしても、あの 地下室(ちかしつ) の 七(なな) つの 宝玉(ほうぎょく) が 離(はな) れない。

赤(あか) は 血(ち) のように 熱(あつ) く、 青(あお) は 氷(こおり) のように 冷(つめ) たく、 紫(むらさき) は 毒(どく) のように 妖(あや) しく、 金(きん) は 溶(と) けた 陽(ひ) のように 眩(まぶ) しく、 緑(みどり) は 深(ふか) い 森(もり) の 底(そこ) のように 湿(しめ) って、 黒(くろ) は 闇(やみ) そのもののように 飲(の) み 込(こ) み、 白(しろ) は…… 白(しろ) だけが、 俺(おれ) の 胸(むね) を 抉(えぐ) るように 純粋(じゅんすい) で、 痛(いた) かった。あの 白(しろ) い 光(ひかり) は、まるで 俺(おれ) の 未来(みらい) を 映(うつ) す 鏡(かがみ) のように、 静(しず) かに、だが 確(たし) かに、 俺(おれ) を 責(せ) め 立(た) てていた。

指先(ゆびさき) が 勝手(かって) に 震(ふる) える。ミユウの 手(て) を 握(にぎ) る 力(ちから) が 強(つよ) くなりすぎて、 彼女(かのじょ) の 細(ほそ) い 骨(ほね) が 小(ちい) さく 軋(きし) む 感触(かんしょく) が 掌(てのひら) に 伝(つた) わってきた。

「龍夜くん……?」

ミユウの 声(こえ) が 耳(みみ) のすぐ 傍(そば) で 柔(やわ) らかく、けれど 切(せつ) なく 弾(はじ) けた。

ヴェールの 薄(うす) い 布(ぬの) 越しに、 彼女(かのじょ) の 瞳(ひとみ) が 揺(ゆ) れている。

心配(しんぱい) と 愛(いと) しさと、 少(すこ) しの 戸惑(とまど) いと、 俺(おれ) を 信(しん) じきっている 純粋(じゅんすい) な 信頼(しんらい) 。 俺(おれ) はその 視線(しせん) に 射抜(いぬ) かれて、ようやく 我(われ) に 返(かえ) った。

「…… 悪(わる) い。ちょっと、 考(かんが) え 事(ごと) してた」

声(こえ) が 掠(かす) れた。ミユウは 眉(まゆ) を 寄(よ) せて、そっと 俺(おれ) の 頬(ほお) に 指(ゆび) を 伸(の) ばしてきた。

冷(つめ) たい 指先(ゆびさき) が 触(ふ) れた 瞬間(しゅんかん) 、 心臓(しんぞう) が 激(はげ) しく 鳴(な) り 始(はじ) めた。

「 顔(かお) 、 真(ま) っ 青(さお) だよ…… 本当(ほんとう) に 大丈夫(だいじょうぶ) ? 」

彼女(かのじょ) の 声(こえ) が 震(ふる) え、 唇(くちびる) の 端(はし) がわずかに 引(ひ) きつり、 瞳(ひとみ) の 奥(おく) に 涙(なみだ) が 滲(にじ) んでいるのが 見(み) えた。

その 仕草(しぐさ) が 俺(おれ) の 胸(むね) を 抉(えぐ) った。こんな 幸(しあわ) せな 日(ひ) に、こんな 顔(かお) をさせてる 自分(じぶん) が 憎(にく) くて、 愛(いと) おしくて、 胸(むね) が 張(は) り 裂(さ) けそうだった。

「 大丈夫(だいじょうぶ) だ。ほら、もうすぐお 前(まえ) の 番(ばん) だろ」

無理(むり) に 笑(わら) ってみせた。ミユウは 目(め) を 伏(ふ) せてゆっくり 頷(うなず) いたが、 指(ゆび) の 力(ちから) がさっきよりずっと 強(つよ) くなっていた。

まるで「 離(はな) さないで」と 魂(たましい) ごと 訴(うった) えているみたいに。 俺(おれ) はその 力(ちから) を 感(かん) じて、自分の 震(ふる) えを 抑(おさ) えられた。

儀式(ぎしき) が 進(すす) む 中(なか) 、ミユウが 参列席(さんれつせき) に 視線(しせん) を 向(む) けた 瞬間(しゅんかん) 、 瞳(ひとみ) がぱっと 花開(はなひら) いた。

「……リリアちゃん」

小(ちい) さな 嬉(うれ) しそうな 声(こえ) 。 俺(おれ) もそちらを 見(み) ると、 後列(こうれつ) の 端(はし) にリリアがいた。

かつて 学校(がっこう) でミユウのすぐ 後(うし) ろに 立(た) っていた 少女(しょうじょ) 。

少(すこ) し 大人(おとな) びた 微笑(びしょう) を 浮(う) かべてこちらを見つめ、 目尻(めじり) に 細(ほそ) かな 皺(しわ) が 寄(よ) っていて、それが 妙(たえ) に 切(せつ) なかった。

儀式(ぎしき) の 合間(あいま) の 隙(すき) に、ミユウは 俺(おれ) の 手(て) を 引(ひ) いてリリアの 元(もと) へ 歩(ある) み 寄(よ) った。

「リリアちゃん…… 来(き) てくれたんだ」

二人(ふたり) はそっと 抱(だ) き 合(あ) った。ミユウの 背中(せなか) が 小(ちい) さく 震(ふる) えている。

リリアはミユウの 髪(かみ) を 優(やさ) しく 撫(な) でながら 静(しず) かに 囁(ささや) いた。

「 同時期(どうじき) に 最高天使(イリゼ) になった 子(こ) たちの 中(なか) で、 人間(にんげん) に 生(う) まれ 変(か) わる 道(みち) を 選(えら) んだ 子(こ) もたくさんいた。でも…… 最高天使(イリゼ) の 務(つと) めを 続(つづ) けているのは、ミユウだけなんだね」

その 言葉(ことば) がミユウの 肩(かた) をわずかに 落(お) とさせた。

でも 次(つぎ) の 瞬間(しゅんかん) 、 彼女(かのじょ) は 顔(かお) を 上(あ) げて、はっきり、けれど 涙声(なみだごえ) で 答(こた) えた。

「……うん。でも、 私(わたし) 、それでいい」

ミユウは 俺(おれ) のほうを 振(ふ) り 返(かえ) った。

瞳(ひとみ) の 奥(おく) に 揺(ゆ) るぎない 炎(ほのお) が 灯(とも) っていた。 熱(あつ) くて 眩(まぶ) しくて、 俺(おれ) の 心(こころ) を 焼(や) き 尽(つ) くしそうだった。

「龍夜くんの 最高天使(イリゼ) として、龍夜くんをずっと 守(まも) りたかったから。 世界(せかい) なんかより、龍夜くんだけが、 私(わたし) のすべてだから」

一瞬(いっしゅん) 、 息(いき) が 止(と) まった。

胸(むね) の 奥(おく) が 熱(あつ) い 鉄(てつ) の 棒(ぼう) で 貫(つらぬ) かれたように 焼(や) けた。 痛(いた) くて 苦(くる) しくて、でもそれ以上にたまらなく 愛(あい) おしくて、 涙(なみだ) が 溢(あふ) れそうになった。

こんなに 深(ふか) く 愛(あい) されている 実感(じっかん) が、 全身(ぜんしん) を 震(ふる) わせ、 魂(たましい) を 震(ふる) わせた。

リリアは 目(め) を 潤(うる) ませてゆっくり 頷(うなず) いた。

「……ミユウらしい。 本当(ほんとう) に、おめでとう。龍夜さんも、ミユウを 絶対(ぜったい) に 幸(しあわ) せにしてあげて」

「ああ。 命(いのち) に 代(か) えても」

俺(おれ) の 声(こえ) は 低(ひく) く 固(かた) く 震(ふる) えていた。そこに 込(こ) めた 覚悟(かくご) が、 俺(おれ) 自身(じしん) を 震(ふる) わせた。

その 後(あと) 、ミユウが 俺(おれ) の 両親(りょうしん) の 前(まえ) に 進(すす) み 出(で) た。

彼女(かのじょ) の 手(て) には 薄(うす) い 羊皮紙(ようひし) 。 指先(ゆびさき) がわずかに 震(ふる) えていた。

深(ふか) く 頭(あたま) を 下(さ) げてから、ゆっくりと 口(くち) を 開(ひら) いた。

「龍夜くんのお 父様(とうさま) 、お 母様(かあさま) ……」

最初(さいしょ) の 一言(ひとこと) で 声(こえ) が 詰(つ) まった。ミユウは 唇(くちびる) を 噛(か) んで 目(め) を 閉(と) じ、 涙(なみだ) が 一筋(ひとすじ) 頬(ほお) を 滑(すべ) り 落(お) ちた。

「…… 私(わたし) は、龍夜くんに 出会(であ) うまで、 自分(じぶん) の 心(こころ) なんて 持(も) っていると 思(おも) ったことがありませんでした。 使命(しめい) 。 守(まも) るべき 世界(せかい) 。それだけが、 私(わたし) のすべてだった」

声(こえ) が 震(ふる) え、 途切(とぎ) れ 途切(とぎ) れになるたびに 俺(おれ) の 胸(むね) が 締(し) め 付(つ) けられた。

母(かあ) さんの 肩(かた) が 小(ちい) さく 震(ふる) え、 父(とう) さんの 手(て) が 膝(ひざ) の 上(うえ) で 固(かた) く 握(にぎ) りしめられているのが 見(み) えた。 神殿(しんでん) 全体(ぜんたい) が 静(しず) かに 息(いき) を 呑(の) んだ。

「でも、龍夜くんと 過(す) ごす 時間(じかん) の 中(なか) で…… 初(はじ) めて、 自分(じぶん) の 心(こころ) が、 誰(だれ) かを『 守(まも) りたい』と 叫(さけ) んだんです。この 人(ひと) を 失(うしな) いたくない。この 人(ひと) の 笑顔(えがお) をずっと 見(み) ていたいって……この 人(ひと) の 涙(なみだ) を 二度(にど) と 見(み) たくないって……」

母(かあ) さんの 目(め) から 涙(なみだ) がぽろぽろこぼ(こぼ)れ 落(お) ちた。

父(とう) さんも 唇(くちびる) を 強(つよ) く 噛(か) んでいた。 俺(おれ) は 立(た) ち 尽(つ) くして、ミユウの 言葉(ことば) を 胸(むね) に 刻(きざ) むことしかできなかった。

ミユウは 涙(なみだ) を 拭(ぬぐ) いもせずに 続(つづ) けた。

「お 二人(ふたり) が龍夜くんをこんなに 深(ふか) く 愛(あい) して 育(そだ) ててくださったから…… 私(わたし) は 今(いま) 、ここに 立(た) てています。 本当(ほんとう) に…… 本当(ほんとう) に、ありがとうございます。これから 先(さき) も、どうか 私(わたし) を……龍夜くんのそばに、 家族(かぞく) として、 置(お) いてやってください」

読(よ) み 終(お) えた 瞬間(しゅんかん) 、 母(かあ) さんが 堪(た) えきれずにミユウを 抱(だ) きしめた。

強(つよ) く、 強(つよ) く。ミユウの 細(ほそ) い 体(からだ) が 母(かあ) さんの 腕(うで) の 中(なか) で 小(ちい) さく 震(ふる) えていた。

「ミユウ……ありがとう。ありがとう……! あなたがいてくれて、 本当(ほんとう) に 良(よ) かった」

母(かあ) さんの 声(こえ) は 嗚咽(おえつ) に 変(か) わっていた。

父(とう) さんも 立(た) ち 上(あ) がり、ミユウの 頭(あたま) にそっと 手(て) を 置(お) いた。 普段(ふだん) 無口(むくち) な 父(とう) さんの 声(こえ) が 初(はじ) めて 震(ふる) えていた。

「これからは、 俺(おれ) たちの 娘(むすめ) だ。龍夜を……しっかり 支(ささ) えてやってくれ。そして、 幸(しあわ) せになってくれ」

ミユウは 涙(なみだ) でぐしゃぐしゃの 顔(かお) を 上(あ) げて、 力強(ちからづよ) く 優(やさ) しく 頷(うなず) いた。

「はい……ずっと、ずっと、龍夜くんのそばにいます。お 父様(とうさま) 、お 母様(かあさま) …… 大好(だいす) きです」

その 言葉(ことば) を 聞(き) いた 瞬間(しゅんかん) 、 俺(おれ) の 視界(しかい) が 完全(かんぜん) に 滲(にじ) んだ。

涙(なみだ) なんて 流(なが) すつもりはなかったのに。 胸(むね) の 奥(おく) が 熱(あつ) くて 痛(いた) くて 溢(あふ) れて、どうしようもなかった。こんなにも 大切(たいせつ) な 人(ひと) たちに 囲(かこ) まれて、こんなにも 深(ふか) く 愛(あい) されて、 俺(おれ) は 今(いま) 、 生(い) きている 実感(じっかん) を 魂(たましい) の 底(そこ) から 味(あじ) わった。 涙(なみだ) が 止(と) まらなくて、でもそれがこんなにも 幸(しあわ) せだという 証(あかし) だった。

そして、 最後(さいご) の 儀(ぎ) 。

俺(おれ) はミユウの 前(まえ) に 立(た) って、ゆっくりとヴェールをめくった。

現(あらわ) れたのは 涙(なみだ) で 濡(ぬ) れた 瞳(ひとみ) と 震(ふる) える 唇(くちびる) 。

銀色(ぎんいろ) の 髪(かみ) が 光(ひかり) を 浴(あ) びてきらきらと 揺(ゆ) れている。

そのあまりの 美(うつく) しさに 俺(おれ) は 一瞬(いっしゅん) 息(いき) を 呑(の) んだ。

心臓(しんぞう) が 激(はげ) しく 鳴(な) り、 喉(のど) が 渇(かわ) いた。こんなに 美(うつく) しいものを、 俺(おれ) は 一生(いっしょう) 守(まも) り 続(つづ) けなければならないと 思(おも) った。

深(ふか) く 息(いき) を 吸(す) って、 俺(おれ) は 静(しず) かに、けれど 全身全霊(ぜんしんぜんれい) で 誓(ちか) った。

「ミユウ。どんな 時(とき) も、どんなことがあっても、お 前(まえ) を 守(まも) るために 生(い) きる。 俺(おれ) の 命(いのち) に 代(か) えても、お 前(まえ) を 絶対(ぜったい) に 失(うしな) わない。お 前(まえ) が 笑(わら) っていられる 世界(せかい) を、 俺(おれ) が 作(つく) る。お 前(まえ) が 泣(な) くような 世界(せかい) は、 俺(おれ) が 壊(こわ) す」

声(こえ) が 震(ふる) えた。でもそれは 迷(まよ) いなんかじゃなかった。ただ、 俺(おれ) のすべてをミユウに 捧(ささ) げる 覚悟(かくご) だった。

言葉(ことば) のひとつひとつが 魂(たましい) を 削(けず) るように 重(おも) く、けれどそれが 俺(おれ) の 幸(しあわ) せだった。

ミユウも 涙(なみだ) をこらえきれずに 微笑(ほほえ) んだ。

「龍夜くん…… 私(わたし) も。どんな 時(とき) も、龍夜くんのそばにいる。 最高天使(イリゼ) として、 妻(つま) として……ずっと、ずっと、龍夜くんを 守(まも) るから。龍夜くんの 笑顔(えがお) が、 私(わたし) の 光(ひかり) だから」

神官(しんかん) が 差(さ) し 出(だ) した 指輪(ゆびわ) を、 俺(おれ) はミユウの 左手(ひだりて) の 薬指(くすりゆび) に 滑(すべ) らせた。

冷(つめ) たい 金属(きんぞく) が 温(あたた) かい 肌(はだ) に 沈(しず) む 感触(かんしょく) 。

ミユウも 同(おな) じように 俺(おれ) の 指(ゆび) に 指輪(ゆびわ) をはめてくれた。その 瞬間(しゅんかん) 、 二人(ふたり) の 指(ゆび) が 絡(から) み 合(あ) い、 離(はな) れなくなった。

そして、 俺(おれ) たちは 顔(かお) を 寄(よ) せた。

唇(くちびる) が 触(ふ) れ 合(あ) う 瞬間(しゅんかん) 、 世界(せかい) が 止(と) まった。

ミユウの 柔(やわ) らかい 唇(くちびる) 。 微(かす) かに 震(ふる) える 吐息(といき) 。 甘(あま) い 花(はな) の 香(かお) り。

涙(なみだ) のしょっぱささえ 愛(あい) おしかった。

その 一瞬(いっしゅん) に、 俺(おれ) たちのこれまでのすべてとこれからのすべてが 重(かさ) なり 合(あ) った。 永遠(えいえん) が、そこにあった。

口付(くちづ) けが 終(お) わると、 神官(しんかん) が 大(おお) きく 宣言(せんげん) した。

「これより、 龍夜(りゅうや) とミユウを、 夫婦(ふうふ) と 認(みと) める!」

司教(しきょう) たちの 祝福(しゅくふく) の 言葉(ことば) が 次(つぎ) と 次(つぎ) に 降(ふ) り 注(そそ) ぐ。

でも、 俺(おれ) の 頭(あたま) の 中(なか) は、まだ、あの 七(なな) つの 宝玉(ほうぎょく) で 埋(う) め 尽(つ) くされていた。

幸(しあわ) せに 満(み) ちたこの 瞬間(しゅんかん) 、なぜか 背筋(せすじ) に 冷(つめ) たい 風(かぜ) が 吹(ふ) き 抜(ぬ) ける。

俺(おれ) はミユウの 手(て) を、 強(つよ) く、 強(つよ) く 握(にぎ) り 直(なお) した。

―― 今(いま) は、まだいい。

今(いま) はこの 温(ぬく) もりを、この 涙(なみだ) を、この 笑顔(えがお) を、しっかり 刻(きざ) んでおこう。

それから、 俺(おれ) たちは 祭壇(さいだん) を 降(お) り、 参列者(さんれつしゃ) たちに 囲(かこ) まれながら 神殿(しんでん) の 外(そと) へ 歩(ある) き 出(だ) した。

外(そと) は 柔(やわ) らかな 陽光(ようこう) に 満(み) ち、花びらが 風(かぜ) に 舞(ま) っていた。

ミユウが 俺(おれ) を 見上(みあ) げて、にっこり 笑(わら) う。

「龍夜くん…… 愛(あい) してる」

その 笑顔(えがお) があまりに 眩(まぶ) しくて、 俺(おれ) は 目(め) を 細(ほそ) めた。

「…… 俺(おれ) もだ、ミユウ」

風(かぜ) が 俺(おれ) たちの 言葉(ことば) を 優(やさ) しく 運(はこ) んでいった。

でも、 心(こころ) の 奥底(おくそこ) では、あの 七(なな) つの 宝玉(ほうぎょく) が、 静(しず) かに、だが 確(たし) かに、 俺(おれ) を 呼(よ) び 続(つづ) けていた――そして、その 光(ひかり) は、まるでこれから 訪(おとず) れる 長(なが) い 闇(やみ) を、 優(やさ) しく、 残酷(ざんこく) に、 予告(よこく) するかのように、ゆっくりと、 深(ふか) く、 脈打(みゃくう) っていた。