作品タイトル不明
第40話 救世主覚醒
「ぐ……あああああっ! 」
喉の奥から、獣のような声が漏れた。
俺の中で、抑え込んできた何かが、完全に限界を越えたのが分かる。
今まで必死に押さえつけ、見ないふりをしてきた力が、堰を切ったように溢れ出していた。
まずい。
頭では理解している。
このまま力を解放すれば、敵だけじゃない。
仲間も、この世界そのものも――俺の手で壊してしまう。
それでも、止まらない。
全身を駆け巡る魔力が、俺の意思を置き去りにして暴れ回る。
視界が赤く染まり、耳鳴りが酷くなる。
「龍夜くんっ! 」
ミユウの悲鳴が、遠くで聞こえた。
「龍夜! 正気を保て! このままじゃ力に飲み込まれるぞ! 」
ルゥの声も聞こえる。
切迫した、必死な声だ。
分かってる。
分かってるんだ。
でも――どうすればいい?
今までの俺は、力を恐れてきた。
制御できないから。
暴走するから。
だから、逃げていた。
本気で向き合うことを。
「龍夜くん、落ち着いて……! 」
視界の端で、ミユウが走ってくるのが見えた。
危険だ、来るな、と叫びたかった。
だが、声が出ない。
次の瞬間――
ミユウの唇が、俺の唇にそっと触れた。
……あ。
その感触は、驚くほど柔らかく、温かかった。
暴れていた心臓が、ゆっくりと鼓動を取り戻していく。
荒れ狂っていた魔力が、まるで嘘のように静まっていくのを、はっきりと感じた。
頭の奥が、冷えていく。
恐怖も、焦りも、怒りも――
全部、遠ざかっていった。
代わりに胸の奥に残ったのは、たった一つの感情。
――守りたい。
俺は、ようやく理解した。
力は、持つだけじゃ意味がない。
誰かを想ったときにだけ、それは刃にならずに済む。
剛田唱(ごうだしょう) が持っていた、最強と謳われたチート能力。
あの力は、ただ強かった。
だから、孤独だった。
だが今、俺の中にある力は違う。
暴力じゃない。
破壊衝動でもない。
――制御できる力だ。
ミユウが、力尽きたように俺の胸に崩れ落ちる。
「……今の、癒しの力か? 」
「うん……少しだけ。使いすぎると、ふらふらするから……」
本当に、無茶をする。
「ありがとう」
俺は、ミユウの肩をそっと支えた。
「俺が、必ず終わらせる」
そう言って、彼女を後ろへ下がらせる。
立ち上がり、アストラルブレイドを握った瞬間、はっきりと分かった。
力の流れが、今までとはまるで違う。
リリアの蔦に吸われ、枯渇したはずの魔力。
それが今は、以前よりも澄み切った形で体内を巡っている。
「へぇ……まだやる気? 」
ガレンが、楽しそうに笑った。
「さっきまで、完全に壊れかけてたくせに」
「……さっきはな」
俺は、一歩踏み出す。
「でも、今は違う」
その瞬間――
世界が、爆ぜた。
俺の足元から衝撃波が走り、大地がめくれ上がる。
瓦礫が宙を舞い、空気が悲鳴を上げた。
ガレンが距離を取ろうと跳ぶ。
――遅い。
視界が、静かに研ぎ澄まされる。
世界が、わずかにスローモーションになる。
俺は、もうそこにいた。
剣を振り抜く。
白い閃光が走り、斬撃が空間を切り裂いた。
防御結界ごと叩き割られ、ガレンの身体が岩壁へ叩きつけられる。
「くっ……! 」
爆音(ばくおん) 。
粉塵(ふんじん) 。
だが、俺は止まらない。
「――二撃目」
逆手に持ち替え、そのまま跳躍する。
「 星断(せいだん) ・ 改(かい) 」
剣先から放たれた光が、無数に分裂した。
それは、もはや斬撃ではない。
流星雨だ。
地面が抉れ、森が吹き飛び、魔力の嵐が巻き起こる。
世界が、俺の一撃に耐えきれず悲鳴を上げる。
「はははっ! 最高だよ!! 」
粉塵の中から、ガレンの狂った笑い声。
「これが救世主か! やっぱり、期待以上だ! 」
黒い魔力が、ガレンの全身を覆い尽くす。
形が歪み、人の輪郭を失っていく。
「なら――これも受けてみろ! 」
巨大な魔力弾が放たれた。
空気が焼け、視界が歪む。
「龍夜くん!! 」
ミユウの声が、背中に届く。
だが、俺の心は静かだった。
剣を正眼に構える。
足元に、澄んだ光の魔法陣が広がる。
――守るために使う力。
「 救世剣(きゅうせいけん) ・アストリア」
剣が、光そのものになる。
次の瞬間――
俺は、消えた。
一閃。
ガレンの魔力弾が真っ二つに割れ、
その奥にいたガレンの身体が、地平線の彼方へ吹き飛んでいく。
轟音。
そして、静寂。
風が吹き抜け、粉塵がゆっくりと地面に落ちていく。
俺は、剣を下ろした。
息は乱れていない。
力も、まだ残っている。
「……終わったの? 」
ミユウの声。
「いや」
俺は空を見上げた。
まだ、終わっていない。
だが、もう迷いはなかった。
「来るなら来い」
剣を握り直し、静かに言う。
「俺は――守るために、この力を振るう」
この日、俺は救世主として完全に目を覚ました。