軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第37話 奪われる力、閉ざされる意識

「ふぅん? あなたがこの世界の救世主?」

黒魔道士の女――リリアは、俺を一瞥すると、まるで出来の悪い玩具を見るように鼻で笑った。

「てんでお子ちゃまじゃない。神様も、ずいぶん間違えたものね」

「スローライフとやらに固執してるやつがさ」

隣に立つ二刀流剣士、ガレンが肩をすくめる。

「俺の二刀の剣に、勝てるわけないだろ?」

からかうようなその言葉が、胸の奥に溜まっていた苛立ちを、一気に燃え上がらせた。

「……黙れ!」

叫ぶと同時に、俺はアストラルブレイドを召喚し、構える。

光の刃が現れた瞬間、ガレンがわずかに目を細めた。

「ふぅん。少しはやるんだ。でも――」

次の瞬間、彼の姿がぶれた。

「その程度で、僕とまともにやり合えるかな?」

俺は考える暇もなく、地を蹴った。

一直線にガレンへと突撃する。

ガキンッ――!

二本の剣が、俺の刃を受け止める。

金属同士がぶつかる甲高い音が、耳を打った。

重い。

一撃一撃が、腕にずしりとのしかかる。

これまでの戦いで、剣の扱いには多少の自信がついたつもりだった。

だが、それは――慢心だったのかもしれない。

「ほらほら!」

右の剣を弾いた、と思った瞬間。

視界の端から、もう一本の刃が滑り込んでくる。

「――っ!」

反射的に身体をひねる。

頬をかすめた刃が、熱を残して通り過ぎた。

一太刀防いでも、攻撃が終わらない。

次が来る。さらに、その次も。

休む間がない。

呼吸を整える暇すら、与えてくれない。

「必死だね」

ガレンは、楽しそうに笑っていた。

「僕の力には、全然敵わないのに」

「……黙れ! さっさと、そこをどけ! 」

虚勢だと、自分でも分かっていた。

それでも叫ばずにはいられなかった。

じりじりと、足が後ろへ下がる。

背中に、冷たい感触。

壁だ。

「く……っ! 」

逃げ場は、もうない。

剣を構え直そうとした、その時だった。

「……もういいわ、ガレン」

戦場に似つかわしくない、静かな声。

背筋に、ぞくりと寒気が走る。

「えー? まだ遊び足りないんだけど」

「時間の無駄よ」

リリアは、淡々と言った。

「神様の失敗作に、これ以上付き合う必要はないわ」

彼女が杖を掲げる。

それだけで、空気が変わった。

――ざわり。

足元の地面が、不気味に蠢いた。

「な……っ!? 」

次の瞬間、黒ずんだ蔦が一斉に地面から伸び上がる。

蛇のようにうねり、俺の脚に、腕に、胴に絡みついた。

「くそっ! 」

俺は剣を振るい、蔦を断ち切る。

だが、切ったそばから、さらに太い蔦が絡みついてくる。

「無駄よ」

リリアの声には、感情がなかった。

「それは“奪う”ための魔法。触れられた時点で、あなたは終わり」

――奪う?

意味を考えるより早く、身体が異変を訴えた。

「……っ、は……! 」

一気に、力が抜ける。

腕が重い。

脚が、まるで鉛になったみたいに動かない。

息を吸うだけで、肺が軋む。

「な、なんだ……これ……」

蔦が、ぎゅうっと締め付ける。

ただ拘束しているだけじゃない。

体力が、生きる力そのものが、吸い取られていく。

「安心して」

リリアは、俺を見下ろしながら言った。

「殺しはしないわ。ただ――」

一拍置いて、冷たく続ける。

「二度と立てない程度には、奪うけど」

「……っ、ふざ、けんな……! 」

声を張り上げようとしても、喉が震えるだけだった。

視界が、徐々に暗くなる。

音が、遠のいていく。

剣を握っていたはずの指が、一本、また一本と力を失っていく。

――立たなきゃ。

――ここで倒れたら……。

守るって決めたもの。

逃げないって、決めた生き方。

全部が、頭の中をよぎるのに。

身体が、まったく応えてくれない。

「ほら、ガレン」

リリアが言った。

「もう終わりよ」

「はは……ほんとだ」

ガレンの声が、やけに遠く聞こえた。

「さっきまでの勢い、どこ行ったの? 」

膝が、完全に崩れる。

蔦に吊られるようにして、俺の身体は宙に浮いた。

視界が、完全に滲む。

――まだ……終わって……。

そう思った瞬間。

世界は、完全に暗転した。