作品タイトル不明
第28話 ラフィセルとの対決
俺の光の剣が振り下ろされた瞬間――世界が、止まった。
黄金の刃が空気を引き裂き、轟音が天界アストリア全体を震わせる。
裂けた空から落ちる暗雲が、怯えたように後退し、瘴気が悲鳴を上げて散る。
俺の六枚の翼が最大限に広がり、黄金の光が爆発的に膨張する。
この一撃で、ラフィセルを――魔王子を、完全に叩き潰す。
スローライフへの道が、もうすぐそこにあるはずだった。
なのに。
剣先が、黒い霧をすり抜けるように空を切った。
反動が俺の体を吹き飛ばし、地面に叩きつけられる。
肺の空気が一瞬で抜け、視界が白く揺れる。
「……は? 」
立ち上がった先で、ラフィセルが立っていた。
黒い翼は二十枚に増え、一枚一枚が鋭い棘のように尖り、体中から黒い結晶が無数に生えている。
瞳は深紅に燃え、瘴気が彼を中心に渦を巻く――まるで黒い太陽。
超本気モード。
これまで見せていた余裕の笑みが、完全に消えていた。
代わりに、そこにあったのは――純粋な殺意。
「よくやったよ、瀬野龍夜」
声は静かで、低い。
でも、その底に潜むものが、今までとは桁違いだ。
「君の力は……確かに、救世主級だ。
あの黄金の翼、素晴らしい。 でもね……」
ラフィセルが両手を広げた瞬間、空気が重くなった。
天界の裂け目から、無数の黒い触手が這い出てくる。
一本一本が生き物のようにうねり、俺に向かって殺到する。
「僕の『本当のパパ』は、そんなものじゃ止まらない」
「……パパ? 」
俺の声が、かすれる。
ラフィセルは、ゆっくり笑った。
愉悦と、狂気と、絶対的な自信が混じった笑み。
「魔王だよ。 この世界の、すべての闇を統べる真の魔王。 僕はただの息子……魔王子さ。 だから、どんな救世主が現れようと…… パパの元へは、絶対に行かせない」
その言葉が終わらないうちに、ラフィセルの体が爆発的に膨張した。
黒い瘴気が竜巻のように渦巻き、俺を飲み込もうとする。
大気が圧縮され、耳がキーンと鳴る。
俺は翼を交差させてガードしたが――押し返される。
体が地面に叩きつけられ、骨が軋む。
痛い。
戦闘力が100上がったはずなのに……この圧力は、別次元だ。
「ぐあっ……! 」
血が口から溢れる。
翼の輝きが、わずかに揺らぐ。
息が荒い。
持久戦になったら……俺の負けだ。
遠くから、ミユウの悲鳴が響く。
「龍夜くん!! だめぇ!! やめてぇ!! 」
彼女の声が、胸を抉る。
ミユウはルゥの隣で小さな体を震わせ、両手をぎゅっと握りしめている。
ちっこい羽根が必死にばたつき、涙で顔がぐしゃぐしゃだ。
(ミユウ……)
俺の心が、ぎゅっと締め付けられる。
彼女の失敗のせいじゃない。
この理不尽な世界のせいだ。
なのに、ミユウは今も俺を心配して、泣きながら俺を見てる。
あのうざ可愛い笑顔が、今はただ、怖がってる。
ルゥの声が、緊迫した調子で響く。
「瀬野龍夜、退け! あれは魔王の血統の本気……! 今のパワーでは、持たない! 」
俺は歯を食いしばって立ち上がった。
地面に膝をついた体が、震える。
でも――諦める気なんて、ない。
「……マジかよ」
俺は、苦笑した。
「パパの元へ行かせないって……
じゃあ、ここでラフィセルを倒せばいいんだな? それで、全部――終わるだろ?」
ラフィセルが、クスクス笑う。
「倒せるかな? パパは僕に『絶対に負けるな』って言ったんだ。 だから……ここで君を、完全に、消す」
黒い触手が、無数に襲いかかる。
俺は光の剣を振り回し、翼で斬り飛ばす。
一本、二本、三本……
でも、数が多すぎる。
一本が肩を掠め、激痛が走る。
血が噴き出し、視界が赤く染まる。
「くそっ……! 」
翼の輝きが、急速に薄くなっていく。
息が上がる。
体が、重い。
もう……限界か?
その時――
「龍夜くん!! 」
ミユウの声が、鋭く、強く響いた。
彼女が、ぴょんぴょん跳ねながら俺の前に飛び出してきた。
ちっこい体で、ラフィセルの前に立ちはだかる。
両手を大きく広げ、涙をこぼしながら叫ぶ。
「ラフィセルなんか……ミユウが許さないもん!! 龍夜くんを、傷つけないでよぉ!! 絶対、絶対、ダメなんだからぁ!! ミユウの龍夜くんは……ミユウの大事な人なんだもん!! 」
ラフィセルが、わずかに目を細める。
「……ミユウちゃん。
君はもう、僕の 誘惑(テンプ) から解放されたはずだけど……。それでも、まだ邪魔をするのかい?」
ミユウは、首を激しく振った。
「うるさい!! ミユウは龍夜くんの味方だもん! パパの元へなんて……行かせないよ!! ミユウが、守るんだからぁ!! 」
その瞬間、ミユウのちっこい羽根が――金色に輝いた。
正天使の残滓か、それとも彼女の純粋な想いか。
小さな光の粒子が、ふわふわと舞い上がり、俺の体に降り注ぐ。
肩の傷が、ゆっくり塞がる。
痛みが、温かさに変わる。
力が、戻ってくる。
「……ミユウ」
俺は、彼女の小さな背中を見て、息を吐いた。
胸の奥が、熱くなった。
スローライフを諦めかけた俺に、彼女はまだ希望をくれている。
畑を耕す、昼寝する、一緒に笑う――そんな未来を、信じてくれている。
「ありがとな」
俺は立ち上がり、光の剣を握り直した。
翼が、再び強く輝き始める。
黄金の光が、ミユウの粒子と共鳴するように爆発的に膨張した。
「ラフィセル」
俺は静かに言った。
「お前のパパの元へは……俺が行く。
そして、全部終わらせる。 この世界の闇も、お前の誘惑も、全部」
俺は一歩、前に踏み出した。
黄金の光と黒い闇が、再び激突する。
ミユウが、俺の隣で小さな拳を握りしめて叫んだ。
「龍夜くん、一緒にがんばろー!!
ミユウも、ちゃんと戦うから!!
スローライフ、絶対取り戻すんだからぁ!!
みんなで、のんびりするんだよぉ!! 」
俺は苦笑しながら、剣を構えた。
「……ああ。 約束だ」
触手が再び殺到する。
俺は翼を全開にし、光の剣を振り上げる。
ラフィセルの黒い結晶が砕け、瘴気が悲鳴を上げる。
でも、まだ終わらない。
ラフィセルの体が、さらに膨張し、黒い翼が三十枚に増える。
空が完全に暗くなり、俺の翼の光さえ飲み込まれそうになる。
「まだ……まだだ!! 」
俺は叫んだ。
体が限界を迎えようとしている。
翼が震え、剣が重い。
でも――ミユウの光が、俺を支えている。
ラフィセルが、最後の笑みを浮かべる。
「終わりだよ、救世主」
黒い触手が、俺を完全に包み込もうとする。
その瞬間――俺の胸の奥で、何かが爆発した。
「俺の……スローライフを……邪魔すんじゃねぇ!! 」
黄金の光が、最大限に膨張する。
すべてを賭けた、最後の一撃。
剣が、ラフィセルの胸を貫く。
衝撃波が、世界を震わせる。