軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話 ミユウの「好き」に理性崩壊

俺はラステルの宮殿の一室で、ベッドに横たわるミユウの傍らに座っていた。

部屋は広大で、天井の高いアーチから柔らかな陽光が差し込み、白大理石の床に淡い影を落としている。

窓辺のカーテンは薄い絹布で、風に揺れるたびに甘い花の香りが部屋に満ちる。ラステルの古い宮殿は、神々がかつて憩った場所だと聞く。

壁に掛けられたタペストリーは、恋人たちの神話を描いたものらしく、淡い青と金色の糸が絡み合うように織り込まれている。まるでこの部屋自体が、静かな恋の舞台を用意しているようだ。

ベッドは天蓋付きの豪奢なもので、ミユウの小さな体が白いシーツに沈み込んでいる。

銀色の髪が枕に広がり、閉じた瞼の長い睫毛が小さな影を落としている。頰はまだ熱の名残で薄く紅潮し、唇は自然な桜色に濡れている。

呼吸は浅く、でも確実に俺の存在を感じ取っているかのように、時折小さく胸が波打つ。

また、こうしてミユウを看病している……。

心の奥が熱くなる。これで二度目だ。前回、天界の中心で倒れた時も、俺は夜通し彼女の傍にいた。あの時の記憶が蘇る。

冷たい額に布を当て、小さな手に自分の手を重ねながら、ただ回復を祈った。だが今は、ただ祈るだけじゃない。

ミユウの小さな身体を抱きしめて背中を摩り、出来るだけ痛みを和らげる方法を知っている。

恋愛経験ゼロの俺にとって、こんな感情は未知すぎる。

地球にいた頃は、女子と目を合わせるだけで赤面していたのに。

今はミユウの寝顔を見ているだけで、胸が締め付けられる。こんなに誰かを想うなんて、想像もしていなかった。

俺はそっとミユウの手を取った。細くて冷たい指が、俺の掌に収まる。

まるで壊れそうなガラス細工みたいだ。でも、この手が癒しの光を放つ時、世界を救うほどの温かさになる。

俺は指を絡め、そっと握りしめた。ミユウの指が、眠ったまま微かに反応する気がした。

「龍夜くん……」

小さな呟き。俺の心臓が跳ね上がる。慌てて顔を近づけると、ミユウの睫毛が震え、ゆっくりと紫水晶のような瞳が開いた。まだ焦点の合わない瞳が、ぼんやりと俺を探す。

「ミユウ! 目が覚めたのか……よかった」

声が震えた。安堵と、抑えきれない喜びが溢れ出す。ミユウは弱々しく微笑み、上半身を起こそうとする。

俺は咄嗟に背中に腕を回し、抱き起こすように支えた。小さな体が俺の胸に寄りかかり、熱を帯びた吐息が首筋にかかる。

「うん……ミユウ、もう大丈夫。龍夜くんが……ずっとそばにいてくれたから……」

その言葉に、胸の奥が熱くなった。ミユウは俺の胸に顔を埋め、銀髪が俺の腕に絡みつく。甘い花のような香りが、すぐ近くで漂う。

「バカ……本当に心配したんだから。もう二度と、無理するんじゃない。何度も言ってるだろ」

俺は低く囁きながら、ぎこちなく背中を撫でた。

薄い寝衣越しに伝わる体温が、俺の理性を揺さぶる。ミユウは小さく頷き、俺の胸から少し顔を上げた。潤んだ瞳が、まっすぐに俺を見つめる。

「ごめんね……でも、みんなが苦しんでて……ミユウ、見てられなくて。でも、龍夜くんが怒る顔、想像したら……ちょっと我慢すればよかったかなって」

「怒ってなんかいない。心配で……死にそうだった」

言葉が自然と零れた。ミユウの瞳が大きく見開かれ、頰がさらに紅潮する。

「龍夜くん……ミユウのこと、そんなに……? 」

沈黙が落ちた。部屋に満ちるのは、二人の呼吸だけ。俺は視線を逸らせず、ミユウの顔を見つめ続けた。

小さな唇が震え、期待と不安が入り混じった表情。俺の胸が、熱く疼く。

「当たり前だろ。ミユウが……大事だから」

声が掠れた。恋愛経験ゼロの俺には、これが精一杯の告白だった。ミユウの瞳に涙が浮かび、ぽろりと頰を伝う。

「龍夜くん……ミユウも、龍夜くんが大好きだよ。地球から来たのに、ミユウのわがまま聞いてくれて……いつも守ってくれて……本当に、大好き」

ミユウが抱きついてきた。俺は驚きながらも、そっと抱き返した。華奢な背中、細い腰。すべてが愛おしい。心臓が爆発しそうなくらい鳴り響く。

「ミユウ……」

名前を呼ぶだけで、喉が熱くなった。ミユウは俺の胸に耳を当て、くすくすと笑った。

「龍夜くんの心臓、すごい速いよ。ミユウと同じだね」

「……ばれたか」

俺は照れ隠しにミユウの髪を撫でた。絹のような感触が指に絡む。ミユウは幸せそうに目を細め、俺の胸に再び顔を埋めた。

「もっと、こうしてたい……龍夜くんの……そばにいたい。」

その言葉に、俺の理性が音を立てて崩れそうになる。俺はミユウの額に、そっと唇を寄せた。

キスじゃない。ただ触れるだけ。でも、それだけで十分だった。ミユウの体が小さく震え、俺の服をぎゅっと握る。

「龍夜くん……温かい」

「熱があるのは、ミユウの方だろ」

俺たちはそのまま、しばらく抱き合っていた。窓の外では夕陽が部屋を橙色に染め、二人の影を一つに重ねる。

ルゥの気配は遠くに感じるけど、今はただ、ミユウだけを感じていたかった。

「約束してくれよ。次は無茶しないって。そして……これからも、俺のそばにいてくれ」

ミユウは顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。

「うん! ミユウ、ずっと龍夜くんのそばにいる。約束だよ。だから……龍夜くんも、ミユウだけを見ててね? 」

その言葉に、俺は頷いた。もう言葉はいらない。俺はミユウを抱きしめ直し、額と額をそっと合わせた。青い瞳が、すぐ近くで輝いている。

この瞬間、救世主とか魔王子とか、すべてが遠い。俺の異世界は、ここにあった。ミユウの温もりの中に。

スローライフなんて、もういらない。ミユウと一緒にいる、この時間が、俺のすべてだ。