軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第175話 光を失った翼

床の冷たさが、背中から骨の奥へしみ込んでいた。

砕けた玉座の欠片が頬のすぐ横に転がり、灰を含んだ風が裂けた天井から吹き下ろすたび、黒く焼けたマントの端が、俺の指にかすれて離れた。

胸の穴から熱が抜けていく。アストラルフレイムは手の届くところに落ちているのに、柄を握ろうとした指は石床をこすっただけで、爪の間に細かな砂が入り込んだ。

遠くで誰かが息を吸い込む音がして、それがミユウのものだとわかった瞬間、まぶたの裏に白い羽の影がにじんだ。

「パパ……?」

アインの声が、割れた玉座の間を転がってきた。

小さな足音が石の上で何度も引っかかり、布の擦れる音と、宝玉同士がぶつかる硬い音が混じった。俺は声を返そうとして、喉の奥で血の味だけを噛んだ。

「パパ、まって」

アインの手が、俺の腕に触れた。小さな指先は灰で汚れ、爪の端に黒いすすが詰まっていた。

魔王から奪い返した黒い宝玉を胸に抱えたまま、アインは床に膝をつき、欠けた石の上へ一つずつ宝玉を置いていく。

赤い宝玉が、ひび割れた床の上で鈍く光った。

青い宝玉が、その隣で水面のように揺れた。

緑、金、白、紫、そして黒。

七つの光が円を作り、玉座の間の灰色を押し返した。俺の視界は端から崩れていたのに、その光だけは、まぶたの奥へ針のように残った。

「アイン……だめ、手が……」

ミユウの声が震えた。近づく足音が一度止まり、また走り出す。翼が床をかすめる音がして、白い羽が俺の頬に落ちた。触れた場所だけ、血と灰のにおいが薄まった気がした。

アインは首を横に振ったのだろう。短い息が、俺の耳に届いた。

「パパ、なおす」

「アイン……」

「なおすの」

小さな両手が、七つの宝玉の前でぎゅっと握られた。指の節は白くなり、腕は細かく震えていた。けれど、宝玉から目をそらす音はしなかった。俺にはアインの顔がほとんど見えない。見えないのに、歯を食いしばっている気配だけが、石床を伝ってくる。

ジュリアの泣き声が、途中で詰まった。

「パパ、いかないで」

小さな体が、俺の反対側に倒れ込むように来た。ジュリアの手が服をつかみ、指先が布を引っ張る。力は弱いのに、破れた布の端が胸元で止まり、その重さだけが俺をこの床に縫い留めた。

「おにぃちゃん、パパ、ねんね、やだ」

「だいじょうぶ」

アインの声は短かった。言い切ったあと、鼻をすする音が続く。宝玉の光が小さな頬を照らしているのか、俺の薄れた視界の下で、金色と黒が入り混じって揺れた。

「パパ、まってた。だから、パパもまって」

アインの言葉は途切れ途切れで、玉座の間の風に削られながら、俺の胸の奥へ落ちた。俺は指を動かそうとした。

アインの頭を撫でてやりたかった。ジュリアの手を握り返してやりたかった。ミユウに、泣くなと言ってやりたかった。

何もできない。

肺に入る空気が細くなり、天井の裂け目に見えていた赤い空が、黒い水に沈むように遠ざかった。

魔王の影はもう動かない。崩れた玉座の奥に、溶けた王冠のような黒い残骸が残るだけだった。終わったのだと、体のどこかが先に知っていた。

その代わり、俺の心臓は、次の音を打てずにいた。

「お願い」

アインが、宝玉へ顔を近づけた。声が床に吸われ、また宝玉の光に押し返される。

「パパの心臓を治して」

七つの宝玉が、同時に震えた。

「パパを、生き返らせて!」

叫びは、五歳の喉には大きすぎた。最後の音がひび割れ、アインはすぐに咳き込んだ。

それでも両手は宝玉から離れない。小さな肩が上下し、床に落ちた涙が赤い宝玉の光を受けて、火の粉のように瞬いた。

俺の胸の奥で、止まりかけた何かが、かすかに爪を立てた。

宝玉の円から光の糸が伸びる。赤は血のように、青は水のように、白は羽のように、黒は夜の底のように、それぞれ違う温度を持って俺の胸へ集まってくる。裂けた肉の奥に触れた瞬間、体が石床から跳ねるほど熱が走った。

声にならない息が、口から漏れた。

「あなた!」

ミユウが俺の上に身をかがめた。銀白の髪が頬にかかり、涙で濡れた毛先が唇に触れる。目の前の光が白くぼやけ、その中で、ミユウの瞳だけが揺れずに俺を見ていた。

翼が大きく開いた。

玉座の間の空気が、押し返された。崩れた柱に残った黒い炎の名残が消え、床の灰が円を描いて舞い上がる。

ミユウの背から広がる羽は、今まで見たどの光よりも強く、白い輪郭を裂けた天井へ伸ばしていた。けれど、その白はただ輝くだけではなかった。羽の先から、細かな光の粒がこぼれ、落ちるたびに空気へ溶けていく。

俺は手を伸ばそうとした。

「ミユウ……やめ……」

喉が削れたような音しか出ない。ミユウは首を横に振り、俺の頬に手を添えた。掌は冷えていた。血で汚れた俺の肌に触れても、離れなかった。

「あなたが、帰ってくるなら」

羽の根元から、淡い音がした。糸を一本ずつ断つような、細い響きだった。白い翼の光が、ミユウの背中からほどけ、宝玉の円へ吸い込まれていく。彼女の肩が小さく揺れ、唇がわずかに震えた。

「それで、いい」

「だめだ……」

「あなた」

ミユウの額が俺の額に触れた。熱の抜けた俺の皮膚に、彼女の息がかかる。血と灰のにおいの中で、ミユウの髪に残った花の香りがした。旅の途中、子どもたちが寝たあとに、肩へ寄りかかってきたときと同じ匂いだった。

「もう一度、名前を呼んで」

言われたのに、舌が動かない。

ミユウの指が、俺の頬をなぞった。そこに残った血を拭うでもなく、傷を探すでもなく、ただ確かめるように触れていく。彼女の翼から落ちる光は減っていく。背中の白は薄くなり、天井へ伸びていた輪郭が、少しずつ人の影へ戻っていった。

ジュリアがミユウの服をつかんだ。

「ママ、だめ?」

ミユウは振り返らず、ジュリアの小さな手に自分の指を重ねた。

「だいじょうぶ。パパを、つかまえるの」

「パパ、つかまえる」

ジュリアはその言葉だけを真似て、俺の服をもっと強く握った。布が指の間でくしゃりと鳴った。アインも宝玉のそばから片手を伸ばし、俺の手首に触れた。

「パパ、ここ」

俺の指先に、アインの小さな体温が乗った。

七つの宝玉の光が、ミユウの胸元へ集まっていく。

彼女の羽からほどけた白が、宝玉の色を包み、俺の胸の穴へ流れ込む。熱ではない。冷たさでもない。血が通る前の、まだ名前のない温度が、骨の内側を叩いた。

ミユウの唇が近づいた。

「戻ってきて」

その一言が、俺の口元に落ちた。

キスは、血の味がした。ミユウの涙の塩気が混じり、灰で乾いた唇が触れ合った瞬間、背中の石床が消えたように遠のいた。かわりに胸の奥で、強く拳を打ちつけられたような衝撃が走る。

一度。

俺の体が跳ねた。

二度。

喉の奥に溜まっていた血が、咳と一緒にこぼれた。

三度目の鼓動が来た瞬間、玉座の間の音が戻った。崩れた石のきしみ、風が天井の穴を抜ける音、ジュリアの泣き声、アインの息、ミユウが俺の名を呼ぶ声。全部が胸の中でぶつかり、俺は石床に指を立てた。

「っ、は……」

肺に空気が入った。

焼けるように痛い。胸も、喉も、背中も、指先まで痛む。痛みがある。俺はそれを噛みしめるように、もう一度息を吸った。

「あなた!」

ミユウの声が割れた。彼女は俺の肩を支えようとして、力の入らない腕で抱き込んできた。俺は震える手でミユウの手首をつかみ、離れそうになる体を引き寄せた。

「ミユウ」

やっと出た声は、ひどくかすれていた。けれど、ミユウはその声を聞いた途端、顔を歪め、俺の胸に額を押しつけた。白い翼は小さくなっていた。背中に残る羽は、さっきまでのまばゆい輪を持たず、ところどころ光の抜けた柔らかな白へ変わっていた。

俺はその背中を見て、息を詰めた。

「お前……」

「いいの」

ミユウは俺の服を握ったまま、首を横に振った。

「あなたが、いるから」

俺は言葉を飲み込んだ。胸の奥で新しい鼓動が鳴るたび、ミユウの捨てたものがそこに混じっている気がした。宝玉の光はまだ俺の傷口を縫うように走り、皮膚の下で熱い線を描いている。

アインが、宝玉の円のそばでぺたんと座り込んだ。黒い宝玉を最後まで両手で押さえていたせいか、指先が震えている。俺が顔を向けると、アインは大きく息を吸い、唇を結び直した。

「パパ」

「アイン……来い」

アインは一度だけ宝玉を見てから、膝で床を押した。立ち上がろうとして足がもつれ、前へ倒れかける。

俺はミユウの手を支えにして身を起こし、痛みに奥歯を噛みながら、空いた腕を伸ばした。

「ゆっくりでいい」

アインは返事をしなかった。短い足で駆け、俺の腹にぶつかるように抱きついた。

小さな頭が胸の傷の少し下に当たり、全身の痛みが跳ねた。それでも俺は腕を回した。背中に触れると、アインの肩が細かく震えていた。

「パパ、あったかい」

その声で、俺の息が詰まった。

「……ああ」

アインの髪に灰が絡んでいる。俺は指先でそれを払おうとして、うまく動かせず、ただ頭に手を置いた。アインはそれだけで、服の中へ顔を押し込むように寄ってきた。

「まってた」

「待たせたな」

「もう、やだ」

「ああ」

「いかないで」

「ああ。ここにいる」

ジュリアが、俺の横で足を止めていた。目元を袖でこすり、片方の手はミユウの裾をつかんだまま、もう片方の手を胸の前で握っている。俺が腕を広げると、ジュリアは唇を震わせた。

「パパ……」

「ジュリア」

名前を呼ぶだけで、胸の奥が軋んだ。ジュリアは二歩進んで、また止まる。俺の服に残る血を見たのか、小さな指が空中で縮んだ。

「いたい?」

「少しだけだ」

「だめ」

ジュリアはそう言って、顔をくしゃりと歪めた。次の瞬間、走ってきて、アインの隣に飛び込んだ。二人分の重みが俺の腹に乗り、傷口の奥が熱く波打つ。俺は声を漏らしそうになりながら、ジュリアの背中にも腕を回した。

「パパ、て」

ジュリアが片手を探る。俺は指を差し出した。小さな指が、俺の人差し指と中指をまとめて握った。力は弱い。けれど、その弱さごと離せなかった。

「て、つなぐ」

「ああ」

「おにぃちゃんも」

アインが顔を上げずに、俺のもう片方の手を握った。二人の手は小さく、汚れていて、ところどころ擦りむけていた。俺の血と、魔王城の灰と、宝玉の光が、その指先に入り混じっている。

ミユウが、俺の肩に手をかけた。

「立てる?」

「……立つ」

「無理しないで」

「無理じゃない」

俺はそう言いながら、床に膝を立てた。胸の中で縫われたばかりの何かが引きつり、視界の端に白い火花が散る。ミユウがすぐに俺の腕を取った。彼女の手は震えているのに、離れなかった。

俺はミユウの手を握り返し、ゆっくり引いた。

ミユウは俺に引かれるまま、膝をついていた体を起こした。背中の羽が揺れ、抜け落ちた光の粒が床へ落ちる。彼女の顔色は白く、唇には血がにじんでいた。 最高天使(イリゼ) としての光を差し出した代わりに、彼女の体から何かが削られたのだと、触れた手の冷たさでわかった。

俺はその手を胸の前まで引き寄せた。

「ごめん」

ミユウの眉が揺れた。

「それは、あとで聞く」

「ミユウ」

「今は、抱きしめて」

俺は息を吸い、アインとジュリアを腕の内に寄せたまま、ミユウを引き寄せた。彼女は崩れるように俺の胸へ入り、額を肩に押しつけた。白い髪が俺の首にかかり、二人の子どもの小さな手が、その上から服をつかむ。

四人分の体温が、砕けた玉座の間に重なった。

胸はまだ痛む。血の匂いも消えない。魔王が残した黒い灰は、床にも柱にも、俺たちの服にもこびりついている。けれど、玉座の奥で蠢いていた闇はもうない。空気の底にあった重さは抜け、裂けた天井から差し込む光が、七つの宝玉の上に落ちていた。

「パパ」

アインが俺の服を引いた。

「ん?」

「おきた」

「ああ。起きた」

「ほんと?」

「ほんとだ」

アインは何度も俺の胸に耳を押しつけた。鼓動を聞いているのか、頬が俺の傷の近くで止まる。そのたびに痛みが走ったが、俺は動かなかった。

ジュリアも真似をして、反対側から胸に耳を当てた。

「どん、してる」

「してるな」

「パパ、ここ?」

「ああ。ここだ」

ジュリアは俺の指を握ったまま、小さく頷いた。涙で濡れた頬が俺の服に触れ、そこに丸い跡を残した。

ミユウが顔を上げた。瞳の縁は赤く、頬には涙の筋が残っている。彼女は俺の胸に手を当て、鼓動を確かめるように指を広げた。

「あなたの音……戻った」

「お前の光でな」

ミユウは何も言わなかった。俺の胸に置いた手を、そのまま握り込む。白い羽が一枚、肩から滑り落ち、俺の膝の上に乗った。光を失いかけた羽は、それでも柔らかく、灰の上で白かった。

俺はミユウの手を取り、その羽ごと包んだ。

「返せないかもしれない」

「返さなくていい」

「よくない」

「あなたが、また子どもたちを抱けるなら」

ミユウの声はそこで途切れた。彼女は息を整えるように、俺の肩へ額を戻した。俺はその髪に頬を寄せ、目を閉じた。言葉を重ねれば、今度は俺が何かを壊してしまいそうだった。

アストラルフレイムが、床の上でかすかに光った。

俺は顔を上げた。剣の刃に残っていた炎は弱く、今にも消えそうだったが、その光は魔王の残骸へ向いていた。崩れた玉座の奥、黒い灰の塊が、風に削られている。王冠の影も、爪の跡も、もう形を保っていない。

戦いは終わった。

俺はその言葉を口に出さず、息だけで受け止めた。声にすれば、抱きしめている三人がまた震える気がした。だから、アインの頭を撫で、ジュリアの手を握り、ミユウの背中を支えたまま、剣の光が消えるのを見ていた。

七つの宝玉が、一つずつ明滅した。

赤が沈み、青が澄み、緑が薄い風をまとい、金が小さく弾け、白がミユウの羽へ寄り添い、紫が床のひびへ溶け、最後に黒い宝玉が深く光った。アインがそれに気づき、俺の服を握ったまま顔を上げた。

「パパ、くろいの」

「大丈夫だ」

「もう、こない?」

「来ない」

言い切ると、胸の奥が軋んだ。けれど、その痛みごと、俺はアインを見た。小さな目は赤く腫れていて、鼻の頭には灰がついていた。勇者のような姿ではない。五歳の小さな体で、泣いて、震えて、宝玉を抱えて、それでも俺の命を引き戻した子どもだった。

「アインが、取り返してくれた」

アインは瞬きをした。

「パパの?」

「そうだ。パパの、大事なもの」

アインは少しだけ目を伏せ、俺の服をつかむ手に力を込めた。

「かえした」

「ああ」

「パパ、なくさないで」

「なくさない」

ジュリアがすぐに俺の手を引いた。

「ジュリアも、もつ」

「何をだ?」

「パパのて」

俺は笑おうとして、胸が痛み、息だけが漏れた。ジュリアはそれを見て眉を寄せ、俺の口元を小さな手で押さえた。

「わらうの、あと」

「そうする」

「いたいの、だめ」

「うん」

五歳の手が、俺の口を塞いでいる。魔王を斬った剣よりも、よほど逆らえない力だった。

ミユウが、その手に自分の指を添えた。

「ジュリア、パパに息をさせてあげて」

ジュリアは慌てて手を離し、俺の胸に頬を当て直した。

「いき、して」

「してる」

「もっと」

俺はゆっくり息を吸った。胸が焼ける。ミユウの光が縫った傷の内側で、熱い糸が締まる。それでも吐き出した息は、さっきより長かった。

ミユウの肩から力が抜けた。彼女は俺の腕の中で、ようやく目を閉じた。白い羽が床に広がり、その先で宝玉の光がやわらかく揺れる。

俺はもう一度、立ち上がろうとした。

「あなた、まだ」

「ここで倒れていたら、子どもたちがまた泣く」

「泣く」

ジュリアがすぐに言った。

「パパ、たつの、だめ」

「じゃあ、少しだけ座る」

「すわる」

アインが俺の膝を押さえた。

「パパ、ここ」

「ここか」

「うん」

俺は背中を割れた柱に預けた。石の冷たさが服越しに伝わる。さっきまで命を奪っていた冷たさが、今は体を支える形になっていた。ミユウが隣に座り、俺の肩に寄りかかる。アインとジュリアは、俺の膝と腹にそれぞれくっついたまま離れない。

玉座の間の奥で、黒い残骸が最後に崩れた。

音は小さかった。砂の山がほどけるような、乾いた音だけだった。魔王の気配は、そこに残らなかった。風が灰をさらい、裂けた天井から差し込む光の中へ散らしていく。

俺はアストラルフレイムへ手を伸ばした。剣は床を滑るようにこちらへ寄り、柄が指に収まる。刃の炎は消え、鉄の温度だけが掌に残った。戦いを終えた剣は重く、けれど手放すにはまだ早かった。

「終わったよ」

声に出すと、ミユウが目を開けた。

「ええ」

アインが顔を上げた。

「もう、くらいの、ない?」

「ない」

ジュリアが俺の服を握り直した。

「パパ、かえる?」

その言葉で、胸の奥の痛みとは別の熱が広がった。帰る場所がある。帰りたいと口にする子どもがいる。隣には、すべてを差し出して俺を引き戻したミユウがいる。

俺は剣を床に置き、両腕で三人を抱き寄せた。

「帰ろう」

ミユウの肩が、俺の腕の中で震えた。アインが小さく頷き、ジュリアが俺の指を両手で包んだ。

「いっしょ?」

「ああ。四人で」

「ママも?」

「もちろん」

「おにぃちゃんも?」

「もちろんだ」

ジュリアはそれを聞いて、ようやく俺の服に顔を埋めた。アインはまだ宝玉の方を気にしていたが、俺が肩を抱くと、ゆっくり体を預けてきた。

七つの宝玉は、円の形を保ったまま光を弱めていく。役目を終えたのか、それともまだ何かを残しているのか、俺にはわからない。だが、今はそれを追わなかった。今この腕の中にある重みのほうが、どんな光よりもはっきりしていた。

ミユウが、俺の胸に耳を寄せた。

「もう一度」

「ん?」

「名前、呼んで」

俺は彼女の髪に唇を触れさせた。

「ミユウ」

彼女の指が、俺の服を強く握った。

「もう一度」

「ミユウ」

「……あなた」

その声は、俺の胸の鼓動に重なった。彼女の捨てた光が、俺の中で生きている。そう思った瞬間、息が熱くなった。

俺はミユウの手を取り、指を絡めた。アインとジュリアの手も、その上から重なる。小さな指と、血で汚れた俺の指と、光を失いかけたミユウの指。四人の手が、宝玉の淡い光の中で一つに重なった。

玉座の間には、もう王はいない。

魔王もいない。

残っているのは、崩れた石と、灰と、傷だらけの家族だけだった。

それでも俺は、その全部を抱き寄せた。胸の傷が引きつり、息が浅くなる。ミユウの髪が首筋に触れ、アインの額が腹に押し当たり、ジュリアの小さな指が俺の指を離さない。

俺はその指の温度を、掌の奥まで握った。