軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 朝練中断!双頭熊の群れ襲来

俺は剣を収め、朝の森の空気を深く吸い込んだ。

湿った土と葉の匂いが鼻腔を満たす。まだ陽は低く、木々の隙間から差し込む光が霧を金色に染めている。

静かだ。鳥のさえずりすら遠く、ただ風が葉を揺らす音だけが響く。

ミユウが岩の上から降りてきて、俺の横に並んだ。小さな体で俺の腕にしがみつくようにして、顔を上げてにこにこ笑う。

「龍夜くん、今日もかっこよかったよ! ミユウ、ずっと見てた!」

その笑顔は無邪気で、俺の胸の奥に小さな灯りをともす。

でも、すぐに俺は視線を森の奥に移した。まだ足りない。剣の切れ味も、俺の動きも、すべてが未熟だ。

ラステルには本物の剣豪がいる。あそこに行かなければ、俺は満足できない。

ルゥが静かに近づいてくる気配を感じて、俺は振り返った。白い羽衣が朝露に濡れてわずかに光る。あいつの目はいつものように穏やかだが、どこか心配げだ。

「朝の鍛錬は終わりか? なら、そろそろ出発しよう。今日中にリヴァ川を渡らないと、予定が狂う」

「わかってるよ。……でも、もう少しだけ」

俺は再び剣を抜いた。柄に指を絡め、構える。ルゥが小さくため息をつくのが聞こえた。

「またか。昨日も三時間やっていただろう」

「昨日と今日じゃ違う。少しずつ、感覚が掴めてきてる」

俺はそう言いながら、ゆっくりと呼吸を整えた。

足を踏み出し、剣を横に払う。空気が裂ける音がする。次は縦に振り下ろす。地面に浅い溝が刻まれる。続けて、突き。剣先が空気を突き刺す感触が心地いい。

だが、まだ速さが足りない。俺は目を閉じ、ルゥに教わったイメージを頭に描く。剣は体の一部。意志の延長。力ではなく、流れで斬る。

目を開け、俺は一気に加速した。木の幹を目標に、連続の斬撃を叩き込む。

横薙ぎ、返しで逆袈裟、突きから回転斬り。木皮が飛び散り、削れた部分から樹液がにじむ。息が上がる。汗が額を伝う。でも、止まらない。

「龍夜くん、すごいすごい! ミユウも混ぜてー!」

ミユウが突然手を掲げた。彼女の小さな掌に淡い青の魔力が渦巻く。次の瞬間、俺の周囲に無数の光弾が浮かび上がる。

「おい、やめろ! 」

俺は叫んでミユウの両腕を掴む。

「まだ怪我が完治してないだろ! そんな身体で派手に動いたらまた痛むぞ!」

思わず語気が強まる。ミユウにこれ以上苦痛を味わせたくなくて必死だったのだ。

「あ……、ごめんなさい。」

ミユウが俯く。

「ごめんはこっちだ。ついカッとなった。」

その時だった。

森の奥から、低い唸り声が響いた。鳥が一斉に飛び立ち、木々がざわめく。

俺は反射的に剣を構え直した。ルゥも腰の長剣に手をかけ、羽をわずかに広げている。

「魔獣だ。……しかも、複数」

ルゥの声は冷静だったが、緊張が込められている。ミユウが俺の背後に隠れるようにして、小さく震えた。

「龍夜くん……怖いよ」

「大丈夫だ。俺が守る」

俺はそう言いながら、前方に目を凝らした。

木々の影から、ゆっくりと姿を現したのは、巨大な双頭の熊だった。

黒い毛に覆われ、各頭に赤く光る目。体長は五メートルはある。牙が覗き、唾液が滴る。背後には、さらに三体の同じような魔獣が控えていた。

「ブラックツインベア……リヴァ川周辺じゃ珍しくないが、群れで現れるのは異常だ」

ルゥが呟く。俺は唇を舐めた。胸の奥で熱いものが湧き上がる。

「ちょうどいい。実戦で試せる」

「無茶言うな。お前一人で四体は無理だ」

「やってみる」

俺は一歩前に出た。ルゥが何か言おうとしたが、俺はもう動いていた。

最初の一体が咆哮を上げて突進してきた。地面が震える。俺は低く構え、タイミングを計る。

熊の巨体が目前に迫った瞬間、横に滑り込む。剣を振り上げ、左の前脚を深く斬りつけた。血しぶきが飛び、熊が悲鳴を上げる。

だが、痛みで狂ったのか、もう一方の頭が俺を狙って噛みついてきた。俺は後ろに跳び、辛うじて回避。

着地と同時に、返しで首筋を狙う。だが、毛皮が厚く、浅い傷しか与えられない。

「くそっ、硬い!」

背後から二体目が襲いかかる。俺は剣を逆手に持ち、回転しながら斬りつけた。腹部を裂く感触。内臓がこぼれ、熊が倒れる。だが、残りの三体が一斉に動いた。

ルゥがようやく動いた。白い光が迸り、一体の頭を薙ぎ払う。

首が飛んだ。ミユウも手を掲げ、炎の球を放つ。もう一体の体を包み、焼け焦げる臭いが広がる。

だが、最初の一体がまだ生きていた。傷を負いながらも、俺に向かって突進してくる。俺は剣を構え、真正面から受け止める覚悟を決めた。

「龍夜くん!」

ミユウの叫び。俺は深く息を吸い、足を踏ん張った。熊が目前に迫る。俺は剣を突き出し、全身の力を込めて突き刺した。

剣が胸を貫き、心臓に達する。熊の巨体が俺を押し倒そうとするが、俺は耐えた。血が俺の顔にかかる。熱い。

熊が最後の力を振り絞って爪を振り下ろしてきた。俺は剣を引き抜き、横に転がる。爪が地面を抉る。立ち上がりざまに、俺は首を刎ねた。頭が転がり、巨体が崩れ落ちる。

静寂が戻った。俺は息を荒げながら、周囲を見回した。四体の魔獣、すべて倒れていた。ルゥが剣を収め、ミユウが駆け寄ってくる。

「龍夜くん! 無茶しすぎだよ! 怪我してない!?」

ミユウが俺の体を触って確かめる。俺は笑った。血と汗でべとべとだが、気分がいい。

「平気だ。……少し、強くなった気がする」

ルゥが近づいてきて、俺の肩を叩いた。

「無謀だった。だが……悪くなかった」

珍しく褒められた。俺は照れ隠しに頭を掻いた。

森の空気が再び穏やかになる。朝日が少し高くなり、木漏れ日が俺たちを照らす。血の臭いと焼けた肉の臭いが混じるが、それすら今は心地いい。

俺は剣を拭い、鞘に収めた。この旅はまだ続く。ラステルは遠い。でも、こうして少しずつ、俺は近づいている。

「よし、行くか。リヴァ川まで、まだ距離がある」

ミユウが俺の手を握り、ルゥが少し後ろからついてくる。

三人で森の道を歩き出す。背後には、倒れた魔獣の亡骸。でも、俺の心は前を向いている。

もっと強くなりたい。それだけが、俺の原動力だ。

道は続き、俺たちの影は長く伸びていた。風が吹き、葉が舞う。新しい一日が、始まろうとしていた。