軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第12話 暴走天然天使を本気で叱った件

ミユウとルゥが寝静まった夜中。俺は一人、森の奥深くに立っていた。

月明かりが差し込むその場所には、太く、古い巨木が何本もそびえ立っている。

どれも、人の力などでは到底揺るがせないような存在感を放っていた。

――ちょうどいい。

俺はジャケットを脱ぎ捨て、地面に放る。

シャツはすでに汗で背中に張りつき、肌寒い夜気が逆に心地よかった。

アストラルブレイドを握りしめ、深く息を吸う。

肺の奥まで空気を送り込み、ゆっくりと吐き出す。

心臓の鼓動が、耳の奥でうるさく鳴っていた。

「……はっ!」

気合とともに地を蹴る。

跳躍。

視界が一気に上がり、巨木の幹が眼前に迫る。

剣を振り下ろした瞬間、確かな手応えがあった。

鈍い音とともに、一本目の巨木が軋み、やがて大きく傾く。

地響き。

静止していた天使や妖精たちが、悲鳴のような羽音を立て、四方へ散っていった。

だが、俺は剣を下ろさない。

――まだだ。

「はぁっ!!」

再び地を蹴り、もう一度跳ぶ。

腕が重い。

肩が軋む。

それでも、迷いなく剣を振る。

二本目の巨木が、根元から裂けるように倒れた。

着地。

その瞬間、足に溜まっていた疲労が一気に噴き出し、膝が笑う。

耐えきれず、俺はその場に大の字で倒れ込んだ。

「はぁ……っ、はぁ……っ……」

荒い息しか出ない。

胸が焼けるように熱く、喉がひりつく。

――だが、これだけじゃ足りない。

「……こんなんじゃ、だめだ……」

呟いた声は、情けないほど震えていた。

「もっと……もっと、強くならなくちゃ……」

あの時。

ほんの一瞬の油断。

ほんの少しの慢心。

それだけで、ミユウは――

俺の脳裏に、あの光景が蘇る。

血。

押し殺した悲鳴。

麻酔もなく、震えながら耐える小さな身体。

……俺が、守れなかった。

――もっとだ。

ミユウを守る救世主になるには、こんな程度じゃ全然足りない。

剣が振れるだけじゃ駄目だ。立っていられるだけじゃ、意味がない。

その時だった。

「……龍夜くん?」

微かな声が、森に溶け込むように響いた。

洞窟の方だ。

「……っ」

胸が跳ねる。

振り返ると、月明かりの下に、細い影が立っていた。

ミユウだ。

「もう怪我は……大丈夫なのか?」

慌てて身体を起こし、出来る限り穏やかな声を作る。

「うん。ルゥの即席の鎮痛剤のおかげで、今は平気」

そう言って、ミユウは小さく笑った。

……強がりだ。

声が、わずかにこわばっている。

俺と視線を合わせようとしない。

月明かりに照らされた右足の包帯から、新しい血が滲んでいるのが見えた。

胸の奥が、ぎゅっと掴まれたように痛む。

「……っ!」

次の瞬間、ミユウが苦しげな声を漏らし、その場に崩れ落ちる。

「ミユウ!」

反射的に駆け寄り、身体を抱き止める。

腕の中の体は、思っていた以上に軽く、震えていた。

「龍夜くん……」

「私、行かなくちゃ……」

必死に言葉を紡ぐ。

「みんな、私を必要としてる……」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが切れた。

「行かせない!!」

自分でも驚くほど、荒い声が出た。

ミユウの身体を、逃がさないように強く抱きしめる。

「絶対に行かせない!自分の命を削るってことが、どういうことか分かってるのか!」

「で……でも……」

「一人で全部背負うな!」

言葉が、止まらなかった。

「その力は、俺のためだけに使え!」

……最低だ。

分かっている。

自分勝手で、独占欲丸出しの言葉だ。

それでも、止められなかった。

「俺が魔王を倒す!お前みたいな治療を、誰も受けなくていい世界を――俺が作る!」

「……龍夜くん……」

ミユウの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。

癒しの力を使うたび、自分の命が削れていく恐怖。

それを誰にも言えず、笑顔の裏に隠し続けてきたのだろう。

腕の中で、ミユウは小さく嗚咽を漏らした。

……正直に言えば。

俺は出来のいい人間じゃない。

基礎すら怪しい。

救世主なんて言葉が、似合うわけがない。

それでも。

もう、ミユウの涙は見たくなかった。

怖さを隠して笑う顔じゃなく、本当の笑顔で笑ってほしい。

そのためなら――

どんな代償でも、払う。

俺は、泣き続けるミユウの肩を、そっと撫でた。

――好きだ。

胸の奥から、どうしようもなく湧き上がる感情。

好きだ。

好きだ。

好きだ。

だが、この気持ちが恋なのか、それとも、守れなかった後悔から生まれた保護欲なのか。

俺自身、まだ答えを出せない。

だから、この想いは――

胸の奥深くに、静かに閉じ込めた。