作品タイトル不明
829話 通信機
サーペントさんの背に、意識を失った刺客達が乗っている。
見たところ、怪我も無く呼吸に問題もないみたい。
あの叫び声は、何だったんだろう?
あれ?
刺客の中に、服の濡れている者がいる。
洞窟内に雨水でも溜まっていたのかな?
「ぺっ、ぺっ」
「どうしたの?」
急にサーペントさんが、口の中の物を吐き出した。
ただ、何かが出てきた様子はない。
「口の中に違和感でもあるの?」
「ググッ」
鳴き声がおかしい。
「どうした?」
ジナルさんが慌てた様子で来て、私とサーペントさんを見る。
「サーペントさん、口の中がおかしいみたい」
「ちょっと待て、今水を出すから」
ジナルさんは、マジックバッグから出した大きなタライに水を満たしサーペントさんの前に置く。
その水をサーペントさんは勢いよく飲むと、すぐに吐き出した。
「大丈夫?」
「ククククッ」
いつものサーペントさんの鳴き声だ。
良かった。
でも、洞窟で何があったんだろう?
「悪いな。口に痛みでも出たのか?」
ジナルさんの質問に首を傾げるサーペントさん。
どうやら、痛みではないみたい。
「ん~?」
サーペントさんの様子を見るジナルさんも首を傾げるので、なんとなく面白い光景になっている。
「どうしたんだ?」
「お父さん。サーペントさんが口に違和感を覚えたみたいで。今、水で口の中を綺麗にしたところ」
私の説明に、お父さんはなぜかサーペントさんの背に乗せられている刺客の下に行く。
そして、濡れている刺客の服を調べだした。
「何か、ありそうか?」
「いや、特に気になる物は。あっ」
お父さんが何か見つけたのか、刺客のポケットから割れた瓶を取り出した。
そして臭いを嗅いで、眉間に皺を寄せた。
「毒だ」
お父さんの言葉に、サーペントさんを見る。
もしかして毒を飲んだの?
「大丈夫? 苦しい?」
そっと首元に触れると、サーペントさんは嬉しそうに体を寄せて来る。
苦しくは無いのかな?
「アイビー、大丈夫だ。この毒は人には効くが、サーペントには効かない。おそらく渋みを感じたんだろう」
つまり、ジナルさんに使う予定の毒?
でも、亡くなったサーペントを利用するつもりだったんだよね?
「他にも狙った者がいるという事か」
セイゼルクさんの言葉に、ジナルさんが首を横に振る。
「分からない。ドルイド、どいつが毒を持っていた?」
ジナルさんがお父さんの下に行くと、刺客の顔を確かめた。
そして毒の入っていた割れた瓶を、確認する。
「量から言って、5、6人は確実に殺せそうだな」
「そうだな。あっ、もしかしたら捕まった時に仲間を始末するための毒か?」
お父さんの言葉に、嫌なものを感じる。
「そうだろな。貴族達は、刺客を使い捨てにする者が多い。それと、こいつは要注意だ。始末を任されている者は、契約で縛られている事が多いから」
ジナルさんは刺客の首に着いている奴隷の輪を持つと、小さく言葉をつぶやいた。
「何をしているの?」
傍にいるラットルアさんを見る。
「数日間目覚めないように、奴隷の輪に指示を出したんだ。契約を実行させないための、今できる最善の方法だ」
意識を奪ってしまえば、誰も殺せないもんね。
もちろん自分も。
「そういえば、彼等は貴族が送り込んだ刺客だったの?」
私の言葉に、ラットルアさんが頷く。
そうか、ジナルさんを殺そうとしているのは貴族なんだ。
あっ、その人が私の絵姿を持っていたのかな?
「予想外の貴族の名前が出たから、俺もちょっと驚いたよ。あと、これからの予定に大きく影響するから、ゆっくり話したい。夕飯の後に時間を作れるか?」
ジナルさんの言葉に、全員が頷く。
予想外の貴族か。
あぁだから、洞窟から出てきた時のジナルさんは、険しい表情をしていたのか。
これからの旅に影響もあるみたいだし。
「こいつ等はどうする?」
セイゼルクさんが、サーペントさんに乗っている刺客を指す。
「通信機を使って、カシム町にいる仲間に連絡を入れる。通常の方法では、彼等が殺されるかもしれない。生きたまま、仲間の下に送りたいから」
通信機!
「貴族が関わっていると分かった以上は、仕方ないか。あと何回使えるんだ?」
セイゼルクさんがジナルさんを見る。
「あと2回だ」
2人の会話に首を傾げる。
もしかして通信機には、使える回数が決まっているのかな?
「どうした?」
お父さんが、不思議そうに私を見る。
「通信機には、使える回数が決まっているの?」
「あぁ、最高で5回。1回で使えなくなる物もある」
えっ、1回だけ?
「それに、遠くまで通信出来る物は、いま世界に1個か2個しかないはずだ。一番多いのが、王都からオカンコ村ぐらいまでの物かな」
通信機には、思ったより制限があるみたい。
というか、その制限のせいで通信機が凄い価値になっているよね。
あぁだから、通信機がドロップする洞窟でお父さん達はあんなに興奮していたのか。
そういえば私、通信機に制限があると聞いて、凄い違和感を覚えたな。
それになぜか、無制限という言葉が思い浮かぶし。
「……分からない」
前世の私が通信機に関係してるのかな?
……駄目だ、
なったく、何も思い浮かばない。
「行こうか」
考えていると、ジナルさんから声が掛かる。
仕方ない、また今度考えよう。
覚えていたらだけど。
「アイビー、行こう」
「うん」
お父さんの隣を歩きだすと、サーペントさんが刺客を乗せたまま木に登っていくのが見えた。
「あれ、落ちないの?」
「サーペントが魔法で固定しているから大丈夫だろう」
魔法で固定か。
上に乗っている時も、私達の安全を確保してくれたよね。
「おい、あれ!」
ヌーガさんの声に視線を向けると、1本の木が動いていた。
「木の魔物か!」
ジナルさんが武器を構えると、全員が武器を手にする。
「ドルイド、どっちだ?」
「こんなに遠くからでは分からない」
ジナルさんの言葉に、お父さんが首を横に振る。
近付いて来る木の魔物が、味方か敵か。
全員の緊張感が伝わってくる。
あれ?
木の魔物の動きを見ていると、不思議な感覚がした。
それに首を傾げる。
なんだろう……不思議とあの子を見ていると落ち着く?
「ククククッ」
木の上からサーペントさんの鳴き声が聞こえた。
その鳴き声に、木の魔物動きが少し早くなる。
「ククククッ」
もしかして、木の魔物を呼んでいるのかな?
という事は、
「お父さん。木の魔物は味方だと思う。サーペントさんが呼んでいるから」
「えっ?」
お父さんが上を見ると、サーペントさんが上体を起こし左右に揺れていた。
「あれは、何をしているんだ?」
「それは……分からない」
サーペントさんのダンス?
こんな時に、それは無いか。
「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ」
「ククククッ」
木の魔物の鳴き声に、サーペントさんが鳴き返す。
何度か繰り返すと、木の魔物が少し離れた場所で止まった。
「敵では、無いみたいだな」
ジナルさんが武器から手を放すと、溜め息を吐いた。
「驚いたぁ」
ラットルアさんは、武器から手を放すとその場に座り込んでしまう。
あれ?
他の皆もなんだか凄く疲れている。
「皆、大丈夫?」
お父さんを見ると、苦笑されてしまった。
「マーチュ村で、木の魔物の凄さを目の当たりにしたからさ。あれが敵になったらと思うと、前より緊張するよ」
「そっか。だから皆の緊張感が、いつもより増していたんだね」
マーチュ村で、木の魔物がどれだけ強いか知った。
そして目の前にいる木の魔物が敵だったらと考えて、緊張が増したんだね。
普通は、そうだよね。
でもそれなら、私のあの感覚は何だろう。
今は……うん、今もなんだか落ち着くような気がする。
「どうした? あの木の魔物に何かあるのか?」
ジッと木の魔物を見つめていると、心配そうにお父さんが聞いてきた。
それに首を横に振る。
「大丈夫。なんというか……あの子を見ていると落ち着くの」
「んっ?」
言葉の意味が掴みとれなかったのか、お父さんが首を傾げる。
「あの木の魔物を見ていると……あっ『大丈夫』だ。そう『大丈夫』だと思えるの」
えっ、でも何が大丈夫なんだろう?
自分で言っておいて、意味が分からない。
「ごめん。私もよく分からない」
「そうか」
お父さんが不思議そうな表情で私を見るが、説明する事が出来ない。
本当に、あの感覚は何だろう?