作品タイトル不明
828話 怒鳴り、叫び、泣く
お父さんとジナルさんが火魔法でサーペントを燃やし、セイゼルクさん達が風魔法と水魔法で森を守る事が決まった。
「お父さんの火魔法は、そんなに強いの?」
「いや、ただ俺には剣があるから」
剣?
お父さんの腰にある剣を見る。
「この剣に嵌っている魔石が、威力を数十倍に強化してくれるんだ」
そおだったんだ。
「凄いね」
火魔法の威力を強化してくれるのは知っていたけど、数十倍にするのは知らなかった。
「危ないから下がって」
お父さんが「大丈夫」と思う場所まで下がる。
ちょっと遠すぎるような気がする。
それに、どうしてラットルアさんの後ろなんだろう?
「ここ?」
「そこなら絶対に大丈夫だ。何かあったら壁もあるしな」
壁って……前に立つラットルアさんを見る。
彼を見ると苦笑している。
「安心していいぞ」
ラットルアさんの言葉に頷く。
それは、ありがたいけど。
「クククッ」
隣に来たサーペントさんを見ると、少し呆れられているような気がする。
「心配し過ぎだよね?」
「ククククッ」
サーペントさんは、私の意見に賛成してくれた。
でも、お父さんが安心して魔法を使える場所にいた方がいいよね。
私を気にして、失敗しても駄目だから。
「分かった、ここで見守る。皆も、気を付けてね」
さすがに火を使うので、少しだけ心配になる。
ジナルさん達は凄い冒険者だから、無用かもしれないけど。
準備が整うと、お父さん達の放った火がサーペントを包み込む。
一気に燃え上がる火に、目を瞑る。
『安らかに』
「ククククッ」
隣にいるサーペントさんの、少し寂しそうな声が聞こえた。
目を開けると、灰になったサーペントの姿が見えた。
火の勢いが強かったのか、骨すら残っていない。
「大丈夫だったね」
周りの森には、全く被害を出す事なく弔えた。
それにホッとする。
「ククククッ」
灰をジッと見るサーペントさん。
そっと首の辺りを撫でると、スリっと体を寄せてきた。
「にゃうん」
シエルの声に、サーペントさんが視線を向ける。
「ククククッ」
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「てりゅ」
サーペントさん達の会話をジッと聞く。
でも、何を話しているのかさっぱり分からない。
「いつか、皆と話が出来たらいいのに」
サーペントさんとシエル達が、会話している姿を見ていると羨ましくなる。
「にゃうん」
話しが終わったのか、シエルが傍に来る。
「あれ? 花束?」
シエルの背に、ソルが小さな花束を持って乗っている事に気付く。
触手って色々出来るんだね。
「ぺふっ」
花束を私の方に伸ばすソル。
受け取れって事かな?
「ありがとう?」
でも、どうして花束?
綺麗だけど。
「にゃうん」
シエルの視線が、サーペントだった灰に向く。
そして、私が持つ花束を見てから、私に視線を向けた。
「あっ。あの子に花束をあげたいの?」
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
皆の気持ちに笑みが浮かぶ。
「ありがとう。行こうか」
前にいるラットルアさんを見ると、笑顔で頷いてくれた。
サーペントだった灰の傍に来ると、そっと花束を置く。
お父さんに視線を向けると、目を瞑っている姿が見えた。
私も、もう一度目を瞑りサーペントがゆっくり休めるように祈る。
「ククククッ」
サーペントさんの声に目を開けると、灰が少し風に舞っていた。
「さて、もう魔物に害される心配も無いしないし戻ろうか。奴等に聞きたい事が沢山あるからな」
ジナルさんの言葉に、シファルさんの笑みが濃くなる。
「ほどほどにね」
私の言葉に、笑ったまま頷くシファルさん。
いや、彼だけでなくラットルアさんやセイゼルクさんもだ。
ヌーガさんだけは、いつも通りでホッとする
バキッ。
えっ?
なぜかヌーガさんが、少し太めの枝を握り潰した。
それに首を傾げる。
「ヌーガ。その力で奴等と接したら、骨折だらけになるから気を付けろよ」
シファルさんの言葉に、深呼吸を1回するヌーガさん。
「分かっている」
……えっ?
もしかしてヌーガさんも、かなり怒っているのかな?
もしかして、皆を止める人が誰もいない?
大丈夫……だよね?
「たすけ~」
「こっちにくるな~」
大丈夫じゃないかもしれない。
洞穴から聞こえてくる叫び声に、溜め息が出る。
ジナルさん達が、刺客達から話を聞くための場所を見つけてきた。
それは、洞穴。
たぶんシエルが見つけてきたんだろうな。
皆に褒められていたから。
そして少し前。
ジナルさん達は刺客達と共に、洞穴の中に。
私は遠くからそれを見ていた。
彼等に私の姿を見られないために。
「本当に大丈夫?」
最初は怒鳴り声。
次に悲鳴というか叫び声?
そして今は、
「ごめんなさい」
「こっちに、はなす、ぜんぶはなす」
鳴き声になっている。
「はははっ、気にするな」
セイゼルクさんの言葉が、全く信じられない時が来るなんて。
「本当に大丈夫だって。あいつ等だぞ? 殺したり大怪我させたりは絶対にしないよ。そんな事をしなくても、話を聞き出す方法は幾らでもあるからな。特に今回は、シエルやサーペントが協力してくれているから楽なはずだ」
そうなんだ。
まぁ、怪我や死ぬことがないなら……いいのかな?
「……あっ、鳴き声が止んだね」
終わったのかな?
「そうみたいだな。出てきた」
あれ?
ジナルさんの表情が険しい。
もっとスッキリした表情で、出てくると思ったのに。
「お疲れ様」
セイゼルクさんの言葉に、お父さん達が苦笑する。
「俺達は何もすることが無かったよ」
皆の後から出てきたシエルとサーペントさんを見る。
シエルの尻尾の振られ方から、機嫌がかなりいいみたい。
「お疲れ様、シエル。サーペントさんも、お疲れ様」
「ククククッ」
「あっ」
さっきより少し鳴き声が高い。
興奮? それとも機嫌がいいから?
「サーペントとシエルが、大活躍だったんだぞ」
ラットルアさんがサーペントさんの鼻先を撫でる。
「ククククッ」
それに満足そうな鳴き声を上げるサーペントさん。
一体、何をしてきたんだろう?
―捕まった刺客の1人―
どうしてこうなったんだ?
奴と一緒の仕事はいつも楽だった。
だから今回も、大金が手に入る事した考えていなかった。
それなのに、どうして俺は今、殺す予定だった奴に洞穴に連れて来られたんだ?
洞穴の奥に放り投げられた体が痛い。
「さてと、誰が何の目的で俺を狙ったのか話して貰おうか」
チーム「風」のリーダー。
今回の依頼者は、こいつの『無残な死』を望んだ。
だからあの化け物を使って、追い詰めてから殺す予定にしていた。
それなのにカゴは壊され、あの化け物は逃げた。
「口がきけなくなったのか? それなら話したくなるようにしないとな」
「誰が話すか! いいのか? こんなことして!」
「そうだ。これは不当だ!」
仲間達の言葉に、ぐっと前に立つ奴を睨む。
そうだ、これは正式な尋問ではなく、不当な尋問だ。
こんな事が、許されるはずが無い。
少しでも俺達に怪我をさせたら、冒険者として終わらせてやる!
「ひ~」
なんだ?
えっ……あの化け物か?
どうしてここに?
もう姿を見なかったから、何処かに行ったのだと思ったのに!
「……うわ~」
なんで?
サーペントの口から仲間の足が見えるんだ?
えっ、こっちを見た?
「たす、た・すけ……」
「えっ? 無理」
「はっ?」
どうして?
「助け……」
「今まで『助けて』と言われた者を助けた事は?」
「……」
それは……。
「あっ、そうだ。助けたかったけど、サーペントを刺激する事は出来ないから、無理だったという説明で、上の者達は分かってくれるかな?」
スルスル、スルスル。
あっ、こっちに、こっちに来る。
「くるな・くるなって」
縄を切って、なにか、なにか戦う武器を。
「なわを……きって」
「にゃ?」
えっ?
恐る恐る横を見ると、真っ赤に濡れた牙が……。
「……ぎゃ~」
ドサッ。
仲間の1人が、サーペントの口から吐き出された。
おそらく死んだんだろう。
次は、おれか?
嫌だ、死にたくない。
そうだ。
ジナル達が聞きたい事を!
「はなす。全て話す。だから、助けてくれ」
くそっ、先を越された!
「ん~、話さなくていいよ」
えっ?
「どういう事だ?」
仲間の言葉に、何度も頷く。
どうして?
話すから助けてくれ!
スルスル、スルスル。
……上にいる。
「適当に話して誤魔化すつもりだろう? 俺が知りたいのは全てだから」
そんな。
「ひっ」
肩に、肩に何か……サーペントの口から……。
上を向くと、まっすぐ口を大きく開けて下りてくる!
「俺が知ってる。あの人。王都にいる貴族の事だって知ってる!」
死にたくない!
「ふざけるな。俺の方がよく知ってる。俺を助けてくれ!」
仲間の言葉に焦る。
奴より早く、話さないと!