作品タイトル不明
688話 また会える?
「ぷぷ~」
枝から離れたソラが、なぜか悲しそうな声を出した。
「どうしたの?」
ソラが治療した部分を見るが、黒い状態のままだという事に気付く。
あれ?
変色してしまった所は、元に戻らないのかな?
「ぷ~」
悲しそうな声を出すソラを、ギュッと抱きしめる。
「大丈夫?」
「ぷっぷぷ~」
大丈夫みたいだけど、元気がない。
どうしたんだろう?
治療を終えた後に、悲しそうに鳴いているという事は、
「もしかして、治療に失敗しちゃったの?」
瀕死の怪我も治してしまうソラだから、それは無いと思うけど。
ただ、黒く変色した部分がそのままなのが少し気になる。
「ぷっぷぷ~」
「えっ」
腕の中で力無く鳴くソラに、驚いてしまう。
今の鳴き方は「正解」という事だよね?
本当に治療に失敗していたなんて。
「そうなんだ。えっと」
予想外の事に、ソラにどう声を掛けたらいいのか分からなくなる。
「大丈夫」なんていえないし。
「次こそ」、無い、無い。
何を馬鹿な事を言おうとしているのよ!
えっと、落ち込んでいるんだから……「元気だして」とか?
駄目だ。
ソラに掛ける言葉が何も浮かばない。
どうしよう。
「ぎゃぎゃっ」
木の魔物が、腕の中のソラに向かって枝を揺らしながら鳴く。
「ぷ~」
「ぎゃっ、ぎゃっ!」
なんだか、木の魔物がソラを励ましているように見えるなぁ。
「ぷ~?」
「ぎゃっ!」
力強く鳴いた木の魔物が、ソラに向かって体を傾け始める。
何がしたいのか分からず様子を見ていると、黒く変色した枝をソラに近付けたい様子。
「えっと、近付けたらいいの?」
「ぷっぷぷ~」
「ぎゃっ」
正解らしいので、ソラを持ち上げて黒く変色した枝に近付ける。
ソラは、近付いた変色部分をじっと見る。
あまりに真剣な様子に、私も黒く変色した部分を見た。
やっぱり真っ黒だよね。
あれ?
部分的に、薄くなっているところがあるんじゃない?
……うん、間違いない。
「この部分、少しだけ黒いのが薄くなっているね」
私の言葉に、ソラが腕の中でプルプルと揺れる。
「わっ。急に動くと落としちゃうよ」
腕からピョンと飛び降りたソラは、木の魔物の枝に跳び移りプルプルと揺れだした。
さっきまでの落ち込んだ様子が無くなったのはいいけど、急にどうしたの?
元気になったのは、薄くなった部分を見つけたからだよね。
あっ、ソラの治療が効いたから、色が薄くなったのかも。
「治療は無駄じゃなかったんだね」
「ぷっぷぷ~」
良かった。
いつものソラだ。
それにしても、薄くなった部分はほんの一部。
魔法陣の影響は、やっぱりすごいんだな。
「ソラは、どうしたの? 凄く、はしゃいでいるけど」
リーリアさんが不思議そうにソラを見る。
「木の魔物を、少しでも治療出来て嬉しかったみたいで。それより、もういいんですか?」
消えたと思っていた魔法陣は、壁に薄っすらとその痕跡が残っていた。
それを興味津々に観察していた、アリラスさん達。
ここに来たという事は、満足したのかな?
「うん。もう十分かな。それに完全に消えたし」
リーリアさんを見て首を傾げる。
なぜか彼女の笑顔に違和感を覚えた。
なんだか、いつもと違う。
「んっ? どうしたの?」
あっ、いつものリーリアさんの笑顔に戻った。
「いえ」
何かあるのなら、話してくれるだろう。
あれ?
何かあるとしたら、魔法陣関係?
ん~、聞くぐらいなら出来るからね。
「ぷっぷ~」
ん?
足元に来たソラを抱き上げる。
「どうしたの?」
「ぷ~」
えっと、機嫌は悪くなさそうだし、声に不満な気配もない。
どちらかと言えば……私の様子を窺う感じかな?
「あっ、さっきの態度を気にしているの?」
「ぷっぷぷ~」
「大丈夫だよ」
私がどう声を掛けたらいいのか迷っていたのが、バレてるみたい。
それは、ちょっと恥ずかしいな。
「ぷっぷ、ぷっぷ」
ソラは鳴きながら、木の魔物を見る。
今度は、何か訴えられている気がする。
木の魔物を見ていると言う事は……治療かな?
「治療を続けたいの?」
多分ソラは、木の魔物を完全に治したいのだと思う。
「ぷっぷぷ~」
やっぱり、正解だ。
でも、どうしよう。
治療があと1回で終わるとは思えないし。
木の魔物の為にも「いいよ」と答えたいけど、木の魔物がこの洞窟にいるのは問題になるよね。
別の場所で会う事にしても、大騒ぎになるだろうし。
これは、私だけでは決められないな。
「ちょっと待ってね。お父さんに相談するから」
「ぷっぷぷ~」
お父さんは……いた。
アバルさんと話しているから、少し待とうかな。
そう言えば、一緒に来たランキさんは何処だろう?
あっ、フレムと遊んでいたのか。
いいのかな、仕事をしなくて。
「すまない。終わりという事でいいか?」
終わり?
アバルさんに視線を向けると、彼がお父さんに頭を下げていた。
「まぁ、当然だな。これから調査が入るんだろう?」
あぁそうか。
木の魔物に魔法陣。
調査が入るのは当たり前だね。
「すまない。あと、魔法陣なんだが、わかる範囲でいいから紙に書いてほしいが、大丈夫か?」
ある程度は思い出せるけど、細かい所まで思い出せるかな?
結構、細かかったよね。
特に隅の方が。
「それなんだが、魔法陣を完成させないほうがいいかもしれないぞ」
お父さんの言葉に頷く。
確かに、あの魔法陣はかなり危険だったから。
「どういう意味だ?」
アバルさんが、首を傾げてお父さんを見る。
「魔法陣の発動方法がちょっとな」
「ちょっと?」
アバルさんが不思議そうにお父さんを見る。
「近付くだけで、発動したんだ」
「本当か?」
アバルさんの視線が私達に向くので、頷く。
確かにあの時、リーリアさんとタンラスさんが近付いただけで壁が光り出した。
「それなら、魔法陣を完成させるのは駄目だな」
紙に書いた魔法陣が、間違って発動したら大変だもんね。
しかも、壁の魔法陣は精神に影響があった。
紙に書いた魔法陣も同じ力を持っていたら、本当に危険だ。
「魔法陣の円と、文字と柄を別々に書いてもらえるだろうか?」
それなら魔法陣は完成しないから、発動する事も無いか。
かなりややこしいけど。
「分かった。ただアリラス達にも参加してもらっていいか? 覚える時間が少なかったから俺だけだと不安なんだ」
お父さんや私より、アリラスさん達の方が覚えているだろうな。
残った跡を観察していたし。
アリラスさん達に視線を向けると、少し複雑な表情をしていた。
「もちろん。悪いな」
「アリラス? もしかして嫌だったか?」
アリラスさんが、お父さんの言葉に首を横に振る。
「大丈夫です」
やっぱり何かあるのかな?
魔法陣に思い出が?
「あっ、お父さん」
ソラのことを相談してみよう。
「どうした?」
「この洞窟には、また来られる? ソラが木の魔物の治療を続けたいみたいなんだけど」
私の言葉に首を傾げるお父さん。
そう言えば、ソラの治療が終わっていない事を話してなかった。
「あの、ソラの治療が1回では終わらなかったみたいなの。だから、治療を続けたいみたいで」
お父さんの視線が木の魔物の幹に向かう。
「あっ、そっちじゃなくて、枝の方」
枝を見ると、少し驚いた表情で「黒いな」と口にした。
「アバル。この洞窟内で、木の魔物とまた会いたいんだが、出来るかな?」
「ん~、ある人を引き込めば難しくはないかな」
ある人?
「信用できる人か?」
「問題なし。と言うか、いや、悪い。許可が無いと言えないんだ」
ある人には、秘密があるのかな?
「信用できる人なら、話を通してほしい」
えっ?
お父さんがすんなり許可したので、驚いてしまう。
いつもはもっと慎重なのに。
魔法陣の影響?
「お父さん、大丈夫?」
アバルさんに聞こえない様に、お父さんに小声で聞く。
お父さんが私を見ると、そっと顔を近付ける。
「この村には秘密がある。その答えがだいたい分かったから、大丈夫だ」
この村の秘密?
お父さんを見ると、楽しそうに笑っている。
まぁ、大丈夫ならいいか。