軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

687話 怖くないよ

木の魔物の黒くなってしまった部分に手でそっと触れる。

その状態で木の魔物の様子を窺うが、特に痛がる様子はない。

痛みは無いみたいだから、良かった。

「お父さん。この黒い部分を見ると、前に見た真っ黒な木の魔物を思い出さない?」

「そうだな。もしかしたら魔法陣を消すと、木の魔物の体に影響が出るのかもしれないな」

やっぱり影響があるのかな?

あの時の木の魔物は、全身が真っ黒だった。

あの体になるには、どれだけの魔法陣を消したんだろう?

いや、まだ魔法陣の影響とは限らない。

……でも、この黒い部分を見ると真実のような気がしてしまうな。

「ぎゃっ」

「んっ?」

木の魔物の声に上を見ると、枝を元気に揺らしていた。

「ぎゃぎゃっ」

なんだか「大丈夫」と言われているみたい。

「そうか。大丈夫か」

お父さんも私と同じように理解したのか、ポンポンと木の魔物を撫でた。

「ぎゃっ、ぎゅっ、ぎゃっ」

あれ?

今、途中の鳴き方が違わなかった?

木の魔物を見ると、視線がこの空間の出入り口に向いている事に気付く。

「あっ、誰か来る!」

木の魔物に集中し過ぎた。

近くに来られるまで気配に気付けないなんて。

どうしよう。

木の魔物が隠れる場所は……無い!

「待って、この気配は知り合いじゃない?」

リーリアさんの言葉に、もう一度気配を探る。

あっ、知っている気配だ。

「アバルさんの気配みたい。でも、もう1人は知らない気配だけど」

オカンコ村での協力者であるアバルさんの気配がどんどんと近付いてくる。

それはいいとして、後ろの気配は大丈夫かな?

「アバルなら、大丈夫だろう。他の者への対処は……面倒だからアバルに丸投げしよう」

さらっとお父さんが酷い。

でもまぁ、そうだね。

ここに連れて来たのが、アバルさんなんだし。

「うん。アバルさんにお任せしよう」

「時々2人を怖く感じるわ」

リーリアさんの言葉にアリラスさんとタンラスさんが頷く。

えっ?

「適材適所だろう」

お父さんの言葉に頷くと、3人に苦笑された。

「ドルイド、ここにいたか! 大丈夫か? この周辺で正体不明の上位魔物が、えっ? あぁ~! 何をしているんだ、すぐに逃げろ!」

うわぁ、すっごく焦っている。

でも何も知らないと、そうなるかな?

だって、壁の前にちょっと大きな木の魔物がいて、傍にアダンダラ。

うん、アバルさんの状況判断は正しい。

「落ち着け、アバル。大丈夫だから」

「何が大丈夫なんだ! 木の魔物は人を襲うだろうが。それにアダンダ……えっ? アダンダラ?」

あっ、ちょっと冷静になった。

それよりも、アバルさんと一緒に来た人が剣を木の魔物に向けているんだけど。

怖いから、剣を鞘に収めてくれないかな?

間違って、木の魔物に襲いかかっても困るし。

「ドルイド」

「なんだ?」

少し冷静になったアバルさんが、木の魔物を指す。

「襲わないのか?」

「あぁ、この木の魔物は襲わないな」

お父さんの返答に困惑した表情のアバルさん。

一緒に来た人も、どう対処したらいいのか分からないみたいで困惑した表情を見せた。

「とりあえず、その剣を収めろ。それでは落ち着いて話も出来ない」

「あっ、すみません。えっとドルイドさんでいいですか?」

「そうだ。ドルイドだ。あなたは?」

「はい。アバルの補佐をしているランキです。えっと、本当に襲って来ないんですか?」

ランキさんが、シエルと木の魔物を交互に見る。

「あぁ、大丈夫だ」

お父さんの言葉に頷いたランキさんは、まだ警戒しているようだけど剣を鞘に収めてくれた。

「ぎゃっ」

「ひっ」

ランキさんが、木の魔物の鳴き声に小さく飛び上がるとそのまま座り込んでしまった。

「お前なぁ、怖がり過ぎだろう」

アバルさんの言葉に、ランキさんが彼をきっと睨む。

「だって木の魔物ですよ? あの恐ろしい。それが……それが、目の前にいるんですよ!」

ランキさんの方が、普通の反応なんだろうな。

私も、木の魔物は恐ろしい魔物だと思っていたからね。

「人を襲う木の魔物と、襲わない木の魔物は何が違うんだろうね。見た目が違う部分とかある?」

木の魔物を見上げると、木の魔物がぐっと幹を曲げる。

それを不思議に思いながら見ていると、木の魔物の上部に透明の石が埋まっているのが見えた。

「これ? 魔石?」

「ぎゃっ、ぎゃっ」

木の魔物がトロンを見る。

えっ、トロンにもあるの?

「ぎゃっ」

トロンが私の方へ上部を見せるように動く。

パッと見ただけでは、何も無いように見えるけど……あっ、見つけた。

確かに木の魔物と同じ場所に、凄く小さい透明の魔石が埋まっている。

ただ、凄く小さいけど。

「この魔石で区別するんだ」

でもこれ、近付かないと見られないよね。

という事は、遠目から区別するのは無理なのでは?

お父さんを見ると、肩を竦められた。

やっぱり。

区別は難しいか。

「あれ、小さい。もしかして木の魔物の子供か?」

アバルさんがトロンを見て、首を傾げる。

「この木の魔物の子供ではないが、確かに木の魔物の子供だな。俺達と一緒に旅をしているんだ」

あれ?

ジナルさんかウルさんに、詳しく話を聞いていないのかな?

協力してくれる人だから、ある程度の事は話しているだろうと思ったんだけど。

あっ、契約しているから詳しくは言えないのか。

「ジナルやウルからは、どう聞いているんだ?」

「えっ? ……珍しい魔物をテイムしているが、問題ないとしか聞いてないな」

不審な表情のお父さんに、アバルさんが木の魔物やアダンダラを見ながら答える。

「まぁ、契約があるからな。言っておくが、アダンダラは仲間だが木の魔物はこの洞窟で初めて会ったからな」

「えっ? 仲間じゃないのか?」

「違う」

お父さんの言葉に、木の魔物からちょっと距離を取るアバルさん。

大丈夫なのにね。

「それよりどうしてここに?」

「あぁ、洞窟の中の魔力量が異常に急上昇したと報告があったんだ。それで異常が起きたと判断されて、俺に確認するように指示が出たという訳だ。実はドルイド達がこの洞窟に来ていた事は知っていたから、何かあったら俺に連絡が来るように頼んでおいたんだ。前に入った2つの洞窟でも異常があったから、もしかしたらと思ってな。まさか木の魔物と遭遇するとは思わなかったけど」

アバルさんの返答に、お父さんが苦笑する。

ありがたい配慮だけど、洞窟内で問題を起こして回っているわけではないからちょっと複雑。

とはいえ、この洞窟でも問題に遭遇。

偶然とは言えないよね。

「ぎゃっ、ぎゃっ」

木の魔物を見ると、枝にソラが乗ってぷるぷると揺れている。

「ソラ? どうしたの?」

ソラに近付くと、ソラの体が木の魔物の枝を包み込んだ。

えっ?

今の場所からは、ソラの様子が見えにくいので少し場所を移動する。

「あっ、ここも黒くなっていたんだ」

ソラが見えやすい場所に来ると、包み込んでいる枝の一部が黒い事に気付く。

どうやら、幹の部分だけでなく枝にも黒くなった場所があったようだ。

で、ソラは……もしかして治療中?

「どうした?」

「お父さん。えっと、ソラが木の魔物の治療をしているみたいなの」

お父さんと一緒に様子を見に来たアバルさんが、困惑した表情で私を見る。

「治療?」

「はい。たぶんそうです」

「悪い。なんで木の魔物に治療が必要なんだ?」

えっ?

あっ、ここで起こった事をまだ説明してないや。

お父さんを見ると、頷いてくれたので説明はお願いする事にした。

それにしても、あの黒く変わった部分。

なかなか色が薄くならないな。

ソラは大丈夫かな?