作品タイトル不明
689話 宿に帰ろう
洞窟から出ると、自警団員達と冒険者達がいた。
それにちょっと驚いてしまう。
この人達が、洞窟に入って来なくて良かった。
アバルさんが、制限してくれたのかな?
「あとでアバルにお礼を言わないとな」
お父さんの言葉に頷く。
「そうだね」
「あ~、見つけた! 大丈夫ですか?」
洞窟に入る前に会った自警団員さんが、心配そうにこちらに駆けて来る。
「大丈夫ですよ。全員、問題ありません」
お父さんが手を上げると、少し安心した表情を見せた。
「すみません。この洞窟は安定していたので、異常が起こるとは思いませんでした。お詫びも兼ねてこれをどうぞ」
自警団員さんが商品券の束をお父さんに渡す。
それをちょっと困った表情で受け取ったお父さんは、自警団員さんに頭を下げた。
「ありがとうございます。屋台で使わせてもらいますね」
アリラスさん達を見ると、ちょっと複雑な表情をしていた。
目の前の人が悪いわけでは無いし。
どちらかと言えば、3ヶ所全てで異常な事が起こっているので、私達の方に問題がありそうな気がする。
言わないけど、ちょっと申し訳ない気持ちになるよね。
「真っ暗なので、村まで送ります」
「えっ? いえ、大丈夫ですよ?」
お父さんが断るが、自警団員さんは送っていく気で既に準備が調っていた。
「この洞窟以外に、魔力の異常はありません。ですが、姿の見えない魔物がウロウロしているので、送らせて下さい」
「正体は木の魔物ですよ」とは言えないからね。
お父さんが苦笑して、頷いた。
「それではお言葉に甘えて、よろしくお願いしますね」
「はい」と元気に答える自警団員さん。
村に向かって歩き出すと、後ろで声が上がった。
振り返ると、冒険者達が洞窟内に入って行くのが見えた。
木の魔物が移動できる時間を稼いでから調査を始めると言っていたけど、大丈夫かな?
「心配ですか? でも、サブギルマスのアバル先輩が指揮をしているので大丈夫ですよ。先輩は本当に強いので、何かあっても対処が出来ます」
「はい。そうですね」
どれくらいかは分からなかったけど、確かに強い事だけは分かった。
気配の消し方や、動いた時に出す音の小ささ。
あと、一瞬で周りを把握する観察力などを見ていれば、だいたいは予想が出来るから。
それと心配したのは、魔物が襲って来ることではなく木の魔物が無事に逃げられたかどうかなんだよね。
やっぱり、ちょっと申し訳なく思ってしまうな。
自警団員さんを先頭にしばらく歩くと、村に入る門が見えた。
夜なので、門はぴったりと閉まっている。
「ん? もしかして、異常があった洞窟に入っていた冒険者達か? 大変だったな。怪我は無いか?」
門に近付くと門番さんが私達に気付く。
そして一緒にいる自警団員さんを確認すると、怪我の心配をしてくれた。
この村は、情報をしっかりと共有しているみたい。
「大丈夫です。ありがとうございます」
お父さんの言葉に、門番さんが私達を見て安心したように頷いた。
「今、開けるから」
門番さんが何処かに指示を出すと、ゆっくりと門が開く。
1人が通れるほど開くと、門は動きを止めた。
「悪いな、夜は全開にしないんだよ」
「いえ、大丈夫です。それでは、ここまでありがとうございました」
お父さんが、村まで一緒に来てくれた自警団員さんにお礼を言うので合わせて頭を下げる。
「いえ、俺はこれで。お休みなさい」
「お休みなさい」
門の隙間から村に入ると、通りに少し灯りが見えるが全体的に暗かった。
通りのお店が全て閉まっているから、そう思うのだろう。
そう言えば、この時間に起きているのは珍しいかもしれない。
「お休みなさい」と門番さんと別れると、人がいない大通りを歩く。
夕方まで人が溢れている大通り。
今は、人の気配が無くちょっとドキドキする。
「この時間に、村を歩くのは珍しいよね」
「そうだな。何か問題が起きた時ぐらいだからな……今も、そうだな」
お父さんの言葉に、笑ってしまう。
「そうだね」
「それにしても、人がいて当然の場所に人がいないと、不気味ね」
リーリアさんが、大通りを歩きながら、少し不安そうに周りを見る。
特に気配が無いから、怖がる必要はないけど、暗さが不安感を煽る。
「急いで宿に戻ろう」
落ち着かなくなったのか、リーリアさんが少し急ぎ足で歩き出す。
それに合わせて歩いたので、かなり早く宿に着くことが出来た。
宿に入ると、「ふぅ」と息を吐き出す。
自分でも気付かなかったけど、少し緊張していたみたい。
「早いじゃない、どうしたの? 怪我でもしたの? それとも何か問題があったの?」
階段を慌てて降りて来る音に視線を向けると、宿の店主チャギュさんの姿が見えた。
しかもかなり焦っている様子。
「大丈夫です。洞窟内で問題はありましたが、全員無事です」
「でも、洞窟内での問題は崩落か魔物の暴走がほとんどでしょ? 気付いていないだけで怪我をしているかもしれないわ」
確かに洞窟の壁が木の魔物によって崩落した。
でも魔物は暴走していない。
むしろ、とても友好的な魔物だった。
「本当に大丈夫です。えっと、すぐにサブギルマスのアバルが来てくれたので」
お父さんが慌てて説明すると、私達に怪我が無いか見ていたチャギュさんが力を抜いた。
「本当に怪我は無いようね。それにしても……3ヶ所目でも問題が起きたのね。もしかしてとは思っていたんだけど」
チャギュさんの言葉に、お父さん達は苦笑する。
それを言われると何も言えない。
「私たちが引き起こしているわけじゃないわよ」
リーリアさんが、少し迷うように言う。
入った洞窟全てで問題が起きるので、自信がないようだ。
「分かっているわ。洞窟を操れるわけは、ないのだから。それにしても、凄い確率よね。100%よ」
全く嬉しくない!
ため息を吐くと、チャギュさんが残念そうな表情になった。
「洞窟に泊るのを楽しみにしていたのにね。でも、まだ機会はあるだろうから、諦めないで」
「はい。ありがとうございます」
そう、凄く楽しみにしていた。
だって、久々に皆を自由に遊ばせることが出来るから。
木の魔物に出会えた事は嬉しいけど、問題になってしまったのは駄目だな。
でも、アバルさんが言った「ある人」が協力してくれたら、また洞窟に行けるかもしれないんだよね。
どんな人なのか分からないけど、協力してくれたらいいな。
「今日は不測の事態に疲れたでしょう? ゆっくり休んでね」
「「「「「ありがとうございます」」」」」
言われると、疲れたような気がするのが不思議だよね。
3階に上がり、アリラスさん達と分かれて部屋に入る。
「もう出てきていいよ。今日はお疲れ様」
音が外に漏れないようにマジックアイテムを作動させると、ソラ達が入っているバッグを開ける。
お父さんは、トロンが入っているカゴの中を見て、そのままベッドの傍のテーブルに置いた。
トロンは、既に寝ているようだ。
ソラ達は、バッグからピョンと飛び出すと、そのままベッドに上がり寝始めた。
「久々に遊んで、疲れたみたいだな」
「そうだね」
お風呂はどうしようかな?
今日は色々あったからなぁ。
……明日の朝に入ろう。
ベッドを整えていると、その振動でソルが顔を上げる。
「ごめん、寝ていていいよ」
「ぺ~……ふっ」
カクンと寝落ちするソルに笑みが浮かぶ。
可愛い。
「いつもなら寝ている時間だし、寝ようか」
「うん。あのさ、お父さん。魔法陣を見たあとなんだけど、アリラスさん達の様子、おかしかったよ」
気になる事はお父さんに、言っておこう。
「あぁ、知っている。壁に残った魔法陣の跡を見ていた時からだ」
知っていたのか。
しかも私より早く気付いていた。
「そうだったんだ」
「まぁ、無理に話させる必要はないだろう。きっと、話してくれるさ」
そうだね。
待てばいいか。