軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外 森の中の調査隊

「よぉ、ビグ。向こうの動きはどうだったんだ?」

この調査隊に入って、そろそろ5年。

同じ時期に入って比較的一緒にいる事が多いタビルが、酒が入ったコップを渡しながら訊いてくる。

「向こうもそろそろ動き出しそうだという話だ。お前、昼間っから酒かよ」

特別な魔除けを持っているとはいえ、少し油断し過ぎだろう。

まぁ、俺も飲むけど。

受け取った酒を飲む。

まぁまぁの味だな。

「問題ねぇよ。それより久々だな、先遣隊に入るの」

「そうだな。あとからくる奴は気楽でいいよな~」

今俺たち調査隊は、2つに分かれて行動している。

俺たち先遣隊が村へ先に入り、調査と状況を確認。

後から来る仲間たちが、すぐに動けるように整えておくのが仕事だ。

とりあえず、先遣隊は面倒くさいから好きじゃない。

「隊長命令には逆らえないから仕方ねぇよ。俺たちもそろそろ移動なんだから用意は?」

「そこ」

タビルが指す方を見れば、先遣隊全員の荷物が既に纏められていた。

「さすが。タビルはこういう仕事が早いよな」

俺の言葉に、コップの中の酒を飲みながら肩を竦める。

酒が手放せない事以外は、完璧なんだけどな。

「なぁ、この間の問題はどうなったんだ?」

タビルの言葉に、視線を向けるとこちらをじっと見てくる視線と合う。

「王子に解決してもらった」

「そうか。いつも通りか」

この調査隊は、王子の指示によって作られている。

仕事も王子からの命令で、王家からの正式な命令ではない。

正式ではないが、王子からの命令。

誰かに止められることは無い。

しかも王子は、俺たちのやる事を止めない。

その結果、少しやり過ぎたり、ちょっと羽目を外しすぎてしまう事が起きてくる。

ある時、調査隊員の1人が取り調べの時に、村の人間を2人殺してしまった。

さすがに焦ったが、なんと王子が守ってくれてお咎めなし。

あれには驚いたが、王子には調査隊員の全員が感謝した。

「それより、今回の事件は魔法陣関連だって話だが本当か?」

「そうらしい」

「本当なのか? 前も嘘だったろ?」

俺の言葉にタビルは酒を飲み干す。

「今回は本当に魔法陣関連のようだ。既に魔法陣によって気が狂った者がいるらしい。死者もな」

本当だったのか。

最悪だな。

「あ~、今回の仕事は外れか~」

王子の命令は多岐にわたる。

その多くは、気楽にできる仕事が多い。

王子命令で動いていると言えば、情報もすぐに集まるしな。

だが、魔法陣関連の事件だと本当に調査が必要となる。

これが、面倒くさいんだよな。

「ハタカ村だっけ? 王子派? それともあっち?」

「調べたが不明だ」

つまり中立の可能性があって、調査に協力的ではないかもしれないという事か。

「あ~、やっぱりこの仕事外れだ! 最悪!」

空になったコップをタビルの前に突き出す。

酒を入れろ~っと念を送ると、コップに酒が満たされる。

「ビグも飲むんじゃねぇか」

「飲まないとやってられるか」

2人でコップをカチンと合わせ乾杯する。

喉を通る酒の味にとりあえず満足していると、慌ててこちらに駆けてくる仲間の姿が目に入った。

「何かあったみたいだな」

「大変だ!」

こちらに慌てて駆けてきたのは、この調査隊で後輩にあたるワルビ。

「何があったんだ?」

息を整えたワルビは、周りを見ると小声で話し始める。

「俺と、チッピが周辺の森の調査をしていたんだけど、3人の冒険者を見かけたんだ」

3人の冒険者?

ハタカ村の冒険者か?

「チッピと様子を見ようという事になって見ていたら、慌てた様子で2人の自警団員が現れて。どうも冒険者たちを探していたみたいで」

何だか嫌な予感がする。

当たるなよ。

「慌ててたんだろうな、周りを警戒しながら話していたんだが声がちょっと大きくて」

そうとう焦っていたという事か?

うわ~、本気で聞きたくないな。

「村でまた隠されていた魔法陣が発動して、その術に掛かった者たちが村で大暴れ。数人が森に出てしまったらしいんだ」

「はぁ? 本当に?」

「待て、落ち着け。罠じゃないのか?」

俺の焦った声にタビルが落ち着いた声でワルビに問いかける。

「俺も最初はその可能性も考えたんだが、自警団員たちの様子から嘘をついているようには見えなくて」

「チッピは?」

「隊長の所に説明しに行っている。それと……」

「まだあるのかよ!」

俺の声にワルビの肩が揺れる。

「落ち着けって」

タビルが俺の肩をポンと叩く。

タビルもワルビもいいよな、強いから。

でも俺は、2人ほど強くない。

だから、嫌なんだよ。

戦うとか。

「それで他にも何かあるのか?」

タビルがワルビに訊くと、ワルビは少し俺の様子を見たが口を開いた。

「自警団員たちと冒険者たちが森の調査を続けるべきか話し合っていたら、森の奥から3人の冒険者が慌てて駆けてきて、洞窟で魔法陣が発動し、そこにいた魔物が凶暴化した可能性があるから村まで一旦引き上げた方がいいと」

「「えっ」」

魔法陣で魔物が凶暴化?

ゴミで魔物が凶暴化するのは知っている。

魔法陣でも?

……そう言えば、隊長がそんな話をしていたような……。

「彼らは冒険者たちの話を聞いて、すぐに村に引き返した。この話はあっちの奴らも聞いてたみたいだ。こっちに戻ろうとしたときに、向こうの奴と目が合ったから」

それはある意味、失敗したという事だがそれは仕方ない事だよな。

魔物が凶暴化したなんて話を聞いたばかりなんだから。

「だ、大丈夫だよ。魔物除けがあるし」

そうだ、落ち着け。

俺たち調査隊員は、王子から特別な魔物除けを貰っている。

これがすごいマジックアイテムで、どんな魔物も寄ってこない。

だから、大丈夫。

貰った魔物除けがあれば。

「いや、ゴミによって凶暴化した一部の魔物には、魔物除けは効果がなかったらしい」

えっ?

「本当に?」

タビルの肩を手で掴む。

彼は俺を見ると1つ頷いた。

「あぁ、他の調査隊が調べた報告書に載っていた。同じような報告が数件あったとも聞いているから安心はしないほうがいいだろう」

嘘だろ。

「おい、集まれ」

隊長の声に、体がびくりと震える。

「話はワルビから聞いたな?」

「「はい」」

「あちらが動くかどうか、様子を見る」

はっ?

森には凶暴化した魔物がいるのに?

「すぐに村へは向かわないのですか?」

タビルが隊長にすっと近づく。

「森に凶暴化した魔物がいるんですよ」

「まだ、確定したわけではない。その情報が罠の可能性も捨てきれない」

そうだよな。

そうだ。

……でも、なんでそんなウソの情報を流す必要があるんだ?

「それはそうですが」

「タビル、怖いのは分かるが落ち着け」

ん?

タビルが怖がっている?

こいつが?

「すみません」

俺の横に戻ってきたタビルを見る。

こいつが怖がっているのを見た事が無い。

本当に?

「凶暴化した魔物って、考えられないほど強くなるらしいぞ」

俺の耳元でタビルが話す。

その内容にびくりと体が震える。

なるほど、それを知っていたからタビルでも怖かったのか。

「あちらの調査隊に弱い所など見せられない。俺たちの行動次第で王子の顔に泥を塗る結果になる事を忘れるな」

泥を塗る前に、死んだら意味がないだろうが。

あ~、でも隊長が決めた以上はあと数時間はここで待機か?

最悪だ。

「なぁ、タビル」

「なんだ?」

「凶暴化した魔物の特徴は他にもあるのか?」

「気配が薄いらしいぞ」

隊長に報告しに行っていたチッピが、俺たちのもとに来て言う。

「気配が?」

ワルビの顔色が悪くなる。

「チッピ、それは本当か?」

俺の言葉に何度も頷くチッピ。

何だよ、気配が薄いとか。

それじゃ、逃げられない事も……。

「とりあえず、装備を整えよう。あと武器の確認だな」

タビルの冷静な声に、全員が頷き各自戦う準備を始める。

隊長を見ると、少し青い顔をした補佐と何か話し込んでいる。

「はぁ、早く森から抜けたい」

緊張感が続く中、2時間。

そろそろ限界だ。

「大丈夫か?」

声に視線を向けると、タビルが周りを見回している。

こいつはもう落ち着いたのか?

さっきは怖がっていたのに……。

「ここから村までどれくらいだっけ?」

俺の言葉に首を傾げるタビル。

なんで疑問に感じるんだよ。

早く安全な場所に行きたいのに。

「2時間弱だな。おそらく」

2時間弱……

「なぁ、そろそろ隊長――」

「びゃ゛~!」

不意に森に響き渡った低い低い鳴き声。

「ぎゃ~!」

「うわ~」

「ひっ」

「ん?」

周りを見るが、森に響き渡った鳴き声の出所は分かりづらい。

「なんだ? 何なんだ?」

「村へ行くぞ、すぐ行動!」

隊長の声に慌てて荷物を持つ。

くっ、重い。

置いて行きたいが、それは出来ない。

早く早く。

まるで駆けるような速さで村へ向かう。

しばらくすると、がさがさと聞こえてくる音。

それに恐怖を煽られていると、視線の先にもう1つの調査隊の面々が。

「あっ」

「あっ」

隊長たちの視線が合ったが、無言で村まで急ぐ。

「村に行ったら、こっわ~い人たちが待ってるんだけどな~。ご愁傷様」

左斜め後ろから、小さな声が聞こえた。

小さすぎて内容までは聞き取れなかったが、気になったので視線を向ける。

「どうした?」

タビルが、俺の顔を不思議そうに見る。

「いや、今何か言わなかったか?」

「……こっちに魔物が来ているような気がしてな」

「なっ! 早くそれを言えよ」

気配を探ると、確かに魔物がこちらに向かって走ってきているのが分かる。

「隊長、魔物がこちらに向かってきています」

「「い、急ぐぞ」」

2人分の隊長の声が重なると、2つの調査隊員たちが村に向かって走り出す。

「ぷっ」

耳に何か不思議な音が聞こえたが、後ろを見る余裕はない。

急がないと、凶暴化した魔物が!