作品タイトル不明
120.成る
竜杖ハクはギルバートの強さに舌を巻いていた。
(すごいわ……ギルバート。あんた……魔法がなくてもこんなに強いなんて……!)
ハクは生まれたばかりである。
いわば赤ん坊だ。
しかし、赤ん坊にしては流ちょうにしゃべるし、知識量も赤ん坊を遥かに凌駕している。
おかしな話ではあった。
先代八宝斎、ヴィル・クラフト曰く、『八百万の神って言葉がある。魂をこめて作られたモノは、ある種の神になるんだ。神っていうのは、人間を超越している。だから、人間の道理が通用しないんだよ』とのこと。
最高の杖として生を受けた時点で、ハクは人間の赤子を凌駕する言語力、知識量を身につけているのだ。
それらがどこから降ってきたのかはわからない。
そもそも神にしては精神が未熟だという問題……否、不具合もある。
一つ確かなことは、ハクは人と同等の情緒を持っているということ。
ハクから見ても、ギルバートは魔族を凌駕しているように見えた。
(ギルバートの実力……賢者に匹敵するんじゃあない……?)
ギルバートは手錠を魔族にはめて、完全に拘束する。
彼が虚無ノ庭を解いた……が。
「ぜは……はぁ……はぁ……はぁ……!」
ギルバートが突如として苦しみだしたのである。
『これは……魔力切れ……』
彼と繋がっていたからこそわかるのだ。
虚無ノ庭が消費する魔力量は尋常ではなかった。
それこそ、一度の発動で、彼の魔力全てが無くなってしまう程。
魔力を失い、ギルバートはその場に倒れ伏す。
魔族はにやりと笑い、そして倒れている彼の頭を踏みつける。
「人間の分際で、調子乗りやがってよぉ!」
「ああ、まったくその通りだな」
「は……? が……!」
魔族がとんでもない速さでぶっ飛ばされる。
木の幹に激突し、完全に沈黙した。
ふわり……とギルバートの前に、一人の女神が舞い降りる。
「ギルさん!」
「フィー……それに、ファフニール……」
神竜ファフニールが、ソフィアとともに現れたのである。
「貴様なんぞ死んでもどーでもよかったんだが、まあ、可愛い我が弟子が泣いて頼むものでな。連れてきてやったのだ。ソフィアに感謝しろよ」
もう何度目になるかわからない、『ソフィアはオマエの弟子じゃあないだろ』というツッコミは、しなかった。
ソフィアという幸運の女神が現れた時点で、ギルバートは役目を果たしたのである。
「ふん……しかし、まさか神域に、こんな若い人間が踏み入れるなんてな。天才ノア・カーターの再来……か」
かつて魔法協会では、ギルバートのことをそう呼ぶ風潮があった。
ノア・カーター。帝国の祖であり、天才魔法使いであり、英雄。
ギルバートには彼の生まれ変わりではないかという噂が流れたことがあったのである。
だが、それにしては魔力コントロールが雑ということもあり、その噂は自然消滅した。
……だが。
「竜杖を手に入れたことで、完成したか」
自分のうろこが、ギルバートの覚醒を手助けしてしまったことを、あまり面白いとは思わなかった。
愛する弟子を奪う不届き者。それが、ファフニールのギルバートへの評価であったからだ。
有り体に言えば、ファフニールはギルバートが気に食わなかったのだ。
だが……。
(八賢者会議に、議題として出してやるか。【九番目の席】を用意する……とな)
それはすなわち、ギルバートを魔法使いの最高峰、特級魔法使い【賢者】へ推薦するということだった。
……本来なら、それはガンダールヴルの仕事だったろうが。
ファフニールは、竜だ。
弱肉強食の世界で生きてきた女である。
そんな彼女が、ギルバートの力を、認めたのである。
これは相当なことだった。
(これから死ぬほど忙しくなるぞ。小僧、覚悟しておくのだな)