作品タイトル不明
119.ただの人間
ギルバートの新魔法により、魔族は完全に、無力化されてしまった。
「く、くそっ」
魔族は魔法を捨て、素手で殴りかかってきた。
『ギルバート!』
ハクが声を張り上げる。
敵が最後の反撃に出てきたのだと、竜杖もまた理解したのだろう。
「問題ない」
ギルバートは杖を腰のベルトに挿して、すっ……と両手を前に突き出す。
手負いの獣ほど恐ろしいものはない。
捨て身で襲いかかってくるのだから。
しかしギルバートはどんなときでも冷静だった。
魔族も、そして相棒すらも、わかっていなかった。
「ふっ……!」
「な、なんだ……ぐあぁ……!」
ギルバートは一瞬で組み付き、てこの原理を使って、魔族を転ばした。
腕をひねり上げて、完全に無力化する。
「魔法だけで、軍大佐になれるわけがないだろ」
軍部では、かつて冷徹妃ミシェルと呼ばれた人物によって、戦闘訓練に大改革が行われた。
魔法だけでなく、対人格闘にも力を入れるようにと、お触れが出たのである。
ギルバートは対人格闘術もきちんと身につけていたのだ。
……彼の新魔法、虚無ノ庭を手に入れたことで、その技術が更に生かされる。
「諦めろ。おまえはもうお仕舞いだ」
「ぐ、ぎ……く、くそおぉ……」
魔法、そして格闘、全てにおいてギルバートは魔族を上回っていた。
魔族はギルバートをにらみつける。
だが……ギルバートの冷たい目に、萎縮してしまった。
その瞬間、魔族の脳裏には、巨大な竜の前に立っているイメージが浮かんだ。
神竜ファフニール。
それと同等の圧を、覚えていた。
ぺたん……と魔族は力が抜けたように、膝をつく。
「あの糞ドラゴンの嫌がらせも、たまには役に立つな」
ギルバートは、ファフニールに一時期師事していた。
その際に、竜が使う技術をある程度、習得していたのである。
ギルバートが放ったのは、【気】と呼ばれる技術だ。
ファフニールのざっくりした説明によると、自然界にあふれるエネルギーを、体内で練り上げて、生命力に変換したものらしい。
言語化の上手い、ソフィアとは異なり、ファフニールは非常に抽象的な説明しかしなかった。
だからギルバートも完全に身につけているかと言われると、そうではないが。
けれど、訓練により、竜が放つ圧を、気に乗せて放つ……という技術を身につけていた。
「なんだ……なんなのだ……おまえ……ほ、本当に人間か……」
すると、ギルバートは場違いにも、ぷっ、と吹き出してしまった。
「ああ、ただの人間だよ」
脳裏には、 神竜(ファフニール) 、そして 神職人(ソフィア) の顔がよぎる。
「あの化物たちと比べたら、な」