作品タイトル不明
118.虚無ノ庭
魔族をも圧倒してみせるギルバート。
杖を構えるその姿に、魔族は「とある人物」を重ねた。
「ノア・カーター……! 忌々しい……! 貴様、あのノア・カーターの生まれ変わりか!?」
ギルバートは困惑するほかなかった。
生まれ変わり等と言われても、そんな自覚はない。
ノア・カーター。
帝国の祖にして、偉大なる英雄。
「自分はそんな大層な人物じゃあない。ただの魔導士だ」
応えるその声には、奢りも、驕りもない。
ただ事実を述べているだけ。
……それが、魔族にとっては、我慢ならなかった。
(魔法力において、奴のほうが一枚上手……そんな事実、到底、飲み込めない……!)
魔族は人間を常に見下していたい。
亡き魔王から、人間とは争うなという遺言があったせいで、人類を滅亡させることはしなかった。
そんな戯言さえなければ、自分ら魔族はとっくのとうに、人間界を手中に収めてるはずだった。
魔族は魔法力において、人間を遥かに凌駕してる。
言葉にするものもいれば、言葉にせずともそう思ってる物も多い。
魔族は常に人の上を行ってる……はずだったのに。
「賢者でもないこいつが、わたしの上を行くなど許せぬ!」
ごぉ! と魔族の体から炎が噴出する。
超火力の炎が集まり、竜の形を取る。
ギルバートは、これが敵の奥義であることを直感的に悟った。
(…………いける)
魔族の全力の魔法を前に、ギルバートは心の中で安堵の息をついていた。
これ以上の手が、相手にはないということ。
これをいなせば、自分は勝利できると。
(ハク……いけるよな)
『だれにいってるの?』
竜杖は自信たっぷりに、使い手に答えて見せた。
ギルバートはそれ以上の言葉を必要としなかった。
自分がこれからするのは、自分が思い描く最強の魔法の体現。
「灰燼に帰せ……! 始祖ノ炎(エンシェント・イフリート) !」
この世界ができばかりの、原始の炎。
超高熱の炎が、波濤のように、竜の口から吐き出される。
熱波だけで人が、森が、炭化する。
地面はガラス化し、衝撃波でえぐれていく。
とてつもない一撃を前にして、しかし若き魔道士は杖を構えたまま微動だにしない。
ギルバートがイメージするのは、愛する女性の姿。
魔力ゼロの、天才杖職人ソフィア・クラフト。
彼女の生き様を、情熱を、魔法という形に変える。
「 虚無ノ庭(ゼロ・フィールド) 」
瞬間……魔法が消える。
フッ……と、消えた。
水をかけられたとか、酸素を失ったとか。
物理的な干渉を受けた感じではまったく無かった。
魔法が、かき消された。
そう言い表すほかに、眼前で起きた現象を言語化できなかった。
「な、なんだこれは……どうなっているのだ!? わたしの魔法はなぜ消えた!?」
「おまえは虚無ノ庭に足を踏み入れた」
「なんだそれは!?」
「俺を中心として、魔力をゼロにする領域を構築したのだ」
「魔力をゼロ……だと……?」
どんな魔法も魔力でできている。
裏を返すと魔力が無ければ魔法は発動しない。
ギルバートが創り出したのは、新たなる結界の魔法。
ただし、その結界に入った魔法の魔力は、ゼロに……無に帰してしまう。
「俺の愛する人は、魔力ゼロの特異体質なのだ。正確に言うと魔力絶縁体質。魔力を通さない。それを結界に付与したのだ」
簡単にギルバートは言う物の、恐るべき魔力コントロールがあってこそ、発動できている魔法であった。
なにせ、魔法を打ち消す結界魔法、という矛盾を抱えているのに、普通に発動しているのだから。