軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117.慮外の魔法

魔族。

かつて存在した魔王の部下だという。

魔王は初代皇帝ノア・カーターによって倒され、以後、魔族は息を潜めていた。

ところが、最近魔族の活動が活発化している。

現に、魔導士試験の際、魔族によって試験を邪魔された。

あのとき捕らえた魔族からは、たいした情報が抜けなかったと、ガンダールヴルから聞いてる。

どうやら重要情報を取られる前に、自決したそうだ。

ギルバートのミッションは、この敵を撃退することだ。

捕縛は今の技量では無理だろうとの判断のようだ。

それに、捉えたとて、前回のように情報を吐いてくれるか不明瞭。

……故に、ギルバートは、勝利条件を一つに定める。

こいつを撃退し、生きてソフィアのもとに帰る。

「なんだ貴様は……? 魔導士か?」

魔族がギルバートを見て、あざ笑うように言う。

一人きりで、こんな若造が現れたのだ。

その反応はしょうが無い。

ギルバートだって、相手の力量を見抜けないほど愚者ではない。

強い。わかっている。

だが……不思議と恐怖はなかった。

逃げるつもりはなかった。

杖を握る手が、むしろ、強くなった。

「マデューカス帝国軍、大佐。ギルバート・フォン・ヴォルグだ。貴様がこの村を焼いた魔族だな」

声は震えなかった。

それが相手は気に食わなかったらしく、チッ……と舌打ちする。

ギルバートへの返答は、言葉ではなく、魔法で襲いかかってきた。

ボッ……!

一瞬で、ギルバートの体が炎に包まれた。

通常、魔法による炎攻撃は、炎の球や弾丸などに変えて、相手に打ち込むことで成立する。

相手を一瞬で焼く魔法なんて、存在しない。

だがそれは、人間が開発した魔法の中には存在しないというだけだ。

「他愛ない」

魔族の声音に失望の色はなかった。

なるべくしてなった。

当然の結果を見ているような、つまらなさを覚えているのが、ギルバートにはわかった。

「何がだ」

すっ……と一瞬で炎が引く。

ギルバートの体には火傷の痕がまったく無い。

「ほぉ」

そこで、魔族は初めて敵であるギルバートに興味を抱いた。

魔族の中では、攻撃はつまり、戦闘終了の合図でもあった。

自分が力を使えば簡単に、目の前の生命は命を失うのだから。

「人間の魔導士にしてはやるではないか」

興味とともに、殺意のボルテージも上がっていくのが、ギルバートにはわかった。

彼から吹き出す魔力量が跳ね上がったのである。

虚無の魔眼持ち・ソフィアほど正確ではないが、ギルバートも相手の魔力量を感じることができる。

膨大な、それこそ竜と相対してるときのような、プレッシャーを感じる。

それでもギルバートは背中を向けなかった。

愛する人からもらった、相棒の先端を、魔族に突きつける。

「今すぐこの場から消えろ。そうすれば無傷で返してやる」

ぴくっ、と魔族の額の血管が浮く。

「……舐めるなよ、下等生物が!」

魔族が手を、ギルバートに向けてくる。

「杖がなければ魔法一つ使えぬ劣等種族の分際で! よくもそんなでかい口がきけたものだ!」

周囲の温度が急上昇していく。

「燃えろ!」

ごぉ! という音とともに、彼を中心として凄まじい熱波が発生する。

地面を、建物を、そして……眼前に立っていたギルバートを焼く。

魔族の中では、敵は何が起きたのか理解できず、消し炭になった……。

そう思っていた。

だが、ふっ……と。

熱と炎が消えたのだ。

「な、なんだ……? 一体どうなった……?」

魔族は、そこで初めて困惑の表情を浮かべた。

自分の作った魔法の炎と熱が消え去ったのである。

(魔法をキャンセルしてないのに、消えただと!? どうなってるのだ……?)

「悪いが、おまえはもう俺に傷一つ負わせることもできない」

杖先を魔族に向けたまま、ギルバートが近づいてくる。

……魔族の背中に、汗が流れる。

(馬鹿な……まさか、この若造が? 魔族の魔法を打ち消したというのか? 人間ごときが?)

魔族とは、魔法に長じる種族のこと。

人間より魔法の技量で勝っているという、絶対的自信が彼にはあった。

……その自信が今、崩れ去ろうとしている。

目の前の、正体不明な男の使う魔法によって。

……正確に言えば、その杖によって。