軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

121.母の愛

ファフニールが珍しく、「魔族は余が処理して奥から、おまえたちは先に帰れ」と気を利かせてきた。

傲岸不遜なこの竜にしては珍しいことだ。

本当に珍しくて、裏に何かあるのではないか。

ギルバートはそう疑ったが、「女をこんな夜中に出歩かせるな愚者め」と、とてもまっとうな理由だった。

確かに今は深夜……というかもう明け方近かった。

ギルバートはファフニールの言葉に甘えることにした。

「ファフニールのやつ……妙に優しくないか?」

地獄のしごき、およびソフィア関連で何度も虐められてるギルバートからすれば、今日のファフニールは異常すぎた。

しかし隣を歩くソフィアは、こてん、と可愛らしく首をかしげる。

「ファフニール様はいつだってお優しいですよ?」

ソフィアが気を遣っているのではないだろう。

虚無の魔眼を持ち、他者のココロを見透かせる彼女には、ギルバートが見えぬ何かが見えてるのだ。

そこで判断してるのだろう。

「ついた。母上を起こさぬようにしないとな」

「ですね」

ホテルの部屋のドアを、そぉ……と開ける。

瞬間、ソフィアの視界が真っ黒になった。

柔らかく、温かな感触。

ぎゅうっと誰かに、強く抱擁されたのがわかった。

「お、おかあさま……」

「ソフィアちゃん、お帰りなさいっ」

ギルバートの母、エスメラルダが、ソフィアを熱烈に出迎えたのである。

「ああもうっ、心配してましたよっ。直ぐ帰るって言ったのに、全然戻ってこないからっ、もうっ!」

そうはいっても、一時間くらいで帰ってきたのだが……。

ソフィアは内心で首を振り、そしてエスメラルダを見上げる。

「遅くなってごめんなさい。ただいま、帰りました、おかあさま」

「おかえりなさいっ!」

ぎゅぎゅ、っとソフィアを抱きしめる。

そして、ちらり、と息子を一瞥。

「ああ、帰っていたのですか」

「ええ、ただいま母上」

「ふんっ。おまえなんぞどうでもよいのです」

……しかし、だ。

ソフィアの魔眼は、エスメラルダのココロを捉える。

彼女の魔力は、乱れていた。

何かに心配するようにだ。

では何にか?

言わずとも、ソフィアにはわかった。

「ギルさん。ハクを貸してください」

「竜杖を? どうしてだ」

……この人は、どうやら母親が息子をどんな思いで迎えているのか、みじんも気づいていない様子。

ソフィアの脳裏には、ヨランダの「バカボン」だの「鈍感バカボン」だのといった、罵倒してる姿が浮かぶ。

くす……とソフィアは思わず笑ってしまった。

「ヨランダさんって、的を射たことをいっていたんですね」

「?」

今まで、ソフィアはギルバートが鈍感だとは気づいていなかった。

自分に向けられてる、好意の視線に気づけなかったからだ。

でも、ギルバートに向けられてる、別人からの思いに、彼がまったく気づいていない。

それを見て……ソフィアはようやく、ギルバートの一面に気づいたのだ。

「ギルさん。私は、ちょっとあっちの部屋で集中して作業してますので、中に入らないで」

「あ、ああ……」

ギルバートたちが泊まっているホテルの一室には、何個も部屋があるのだ。

ソフィアはハクを胸に抱いて、手を振る。

ぱたん、とドアが閉まる。

それと同時に……エスメラルダは、息子に抱きついてきた。

「ギルバート、大丈夫でしたか? ケガはありませんかっ?」

「は、母上……?」

何度も何度も、母が自分の体に触れてきた。

治癒魔法までもかけてくる。

「魔族との戦闘だったのでしょう? ソフィアちゃんの杖があったから大丈夫だとは思いますが……でも……」

ここに至り、ようやく、ギルバートはようやく気づいた。

置かれている状況、そして……己の愚鈍さに。

(母上……俺を心配していたんだな……)

今も。

そして……実家を出て、軍人になった後も。

ずっと。

息子をこんなにも、心配している。

でもそれは、息子を、ギルバートを愛してるがゆえに……だ。

虚無の魔眼がなくとも、ギルバートは理解できた。

……ソフィアの行動の真意にも気づけた。

(おそらく自分がいては、母上が素を出せないと思って、身をひいたんだろう。あの子は本当に、優しい子だ……)

「ソフィアちゃんを見習いなさい」

急に、お説教が始まった。

「あの子は、自分がいてはわたくしがおまえを説教できないと、あえて離れたのですよ」

(ああ、ちゃんと、ソフィアを理解してくれてる……いい人のもとに、俺は生まれたな)

「わかっております。母上……」

改めて、ギルバートは言う。

「俺はソフィア・クラフトを、愛しております。必ず、彼女といつか婚約をし、彼女をヴォルグ家に迎え入れたいと思っております」

決然と、ギルバートは言う。

爽やかな笑みを浮かべながら……。

すると、エスメラルダは顔を真っ赤にして、頭を叩いてきた。

「な、何をするんですか……母上……?」

「馬鹿が! いつか婚約? いつか結婚? 馬鹿者!」

何度も何度も、エスメラルダはギルバートを叩きまくった。

顔を真っ赤にして、その怒りをぶつけるように。

「な、なんで怒ってるんですか……」

「あんな良い子を、いつまでも、世の殿方がほっとくわけないでしょうが! 何を悠長に構えてるのですか!」

「ええー……」

「今日にでも婚約をしなさい! 明日には結婚! 早くあの子を我が義理娘にするのです……!」

どうやら今回の一件で、エスメラルダはさらに、ソフィアを気に入ったようだ。

絶対に自分のもとへ起きたいのだろう。

だから、息子の尻を蹴っているのだ。

「おまえは! 昔から! 恋愛ごとにかけては鈍すぎるのです! おまえこの好機を逃したら! わたくしはおまえを人外魔境の絶壁からたたき落としてやりますからね!」

その後何時間もお説教が続いたのは言うまでも無い……。