軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

112.対話する杖

竜杖。神竜ファフニールの鱗が核に使われている。

竜の鱗はそれ自体、強力な魔道具である。

なにせ、自身の炎から、身体を守っているのだ。耐熱・耐火性能は備わってるし、ブレスの衝撃から身を守る結界の役割を持っている。

ただの竜の鱗でこの性能なのだ。永劫にも等しい時を生きる老竜のうろこには、比べ物にならないくらいの魔力が内蔵されている。

加えて、木材。

これもソフィアが、ファフニール・ギルバート両名の魔力特性を理解して、選ばれたものだ。

天竜樹。はるか上空に自生する特別な樹木。

酸素の薄い上空で生き続けられるほどの、高い酸素吸収効率を持つ。故に炎と相性が良いのだ。

神竜の鱗と天竜樹。二つの特性をよくよく理解し、ギルバートに最も適した長さ、しなり、重さ。

それらをかみして、オーダーメイドされたのが、この竜杖。

神業職人ソフィアが手がけた最高傑作。

最高の素材を用いて、最高の職人が完成させた、至高の一品。

それが何を産むか?

『他の女となにいちゃついてるのよ』

ギルバートは、竜杖を握ると、そんな声が聞こえてくるのだ。

「は……?」

一瞬、何が起きてるのか、ギルバートは理解できなかった。

『なによギルバート』

「あ、いや……は?」

ギルバートは驚愕、そして困惑の坩堝にいた。ありえない。物が喋るなど。

いや、たしかに竜杖には、自我めいたものがあるような気がした。

こちらの思いに答えてくれる。

こちらを意思を汲んで、魔力を流してくれる。

生きてるように、思えた時はあった。だが……

「ふ、フィー。これは一体……? 杖の声がはっきり聞こえるのだが」

ソフィアが手を加える前は、杖がこんな喋ることはなかった。彼女がなんらかの機構を加えたのだろうかと思い、尋ねたのである。

「それだけ深く、杖と繋がれたのでしょう」

「杖とつながる?」

「はい。杖は使い手の魔力回路と繋がって、魔法をアウトプットします」

ソフィアの元いた世界で例えるなら、杖はアンプ。使い手はギター。

ギターだけでも音は奏でられる。

しかしそこにアンプと繋ぐことで、より多彩、より大きな音が出せるようになる。

「杖を握る時、魔法使いとつえは一時的に一体化します。ただ、正確には擬似的な繋がり。完全に一体となるわけではないのです」

「まあ、物を体に取り込むなんてできないからな……暑っ」

竜杖が抗議してるのか、杖の表面温度を上げたのである。

『女とばかり話すんじゃ無いわよっ。この浮気者ー!』

きゃんきゃんと、子犬のように、高い声で吠える杖。耳からではなく、脳内に直接声が響く。

「杖とより深く、完全に一体化した結果、杖との精神的対話が可能となったのです」

「よくわかるな……俺はそんな話聞いたこともなかったぞ」

するとソフィアは微笑むと、自分の額に触れる。

「八宝斎の知識を使いました」

前世代の八宝斎たちが、連綿と受け継いできた、知識。黄金の手の紋章から、情報を引き出したようだ。

「しかし、これはすごいな。喋る杖なんて聞いたことないぞ」

感心したようにギルバートが呟く。しかし、ソフィアは首を振る。

「杖は、どの子もちゃんと意思を持ち、そして会話してくれますよ。声なき声で」

素材の息遣い、魔力の通り、エトセトラ。

杖は何もせずただそこにあっても、音を発するし、状態は刻一刻と変化する。

杖は生きてる。そして、職人や使い手に語りかけているのだ。常に。

「急に喋れるようになったわけじゃありませんよ。その子は」

「そ、うか。最初から」

『そーよ。アホギルバート。そんな女に解説されなくても、わかっててよね』

まだきゃんきゃんと吠えている。が、杖は元の熱さに戻っていた。おそらくは機嫌を直したのだ。本当、生き物みたいであった。

「フィー。なぜ急に、こいつとこんなに深く繋がれるようになったのだ?」

「ギルさんの魔力回路を、今までよりずっと鮮明に、見れるようになったからです」

脱力が生んだ、魔力回路のみを見抜く術。血管や神経、骨といった部分に重なって隠れていた部分も、彼女は見れるようになったのである。

「木材、芯材、ギルさん。それら回路を100%繋がるように、調整したのです」

やったことはごく単純。

木材に走る回路を削り、調整した。しかも、側から見れば、ほんとに削ったのかと疑うほどの、極小の変化にしか見れないだろう。

だが効果はご覧の通りである。

ソフィアは容易く言ってるが、正直言って神業だった。

人体の神経同士を完璧に、少しのズレもなく繋ぎ合わせるに等しい。

しかも現代的な道具を一切用いずにだ。

「ほんと、たいした職人だよ、君は。しかしどうして、こいつと喋れるようにしたんだ?」

そう、急にメンテした意味が、ギルバートにはわからなかった。

「もちろん、ギルさんに、より上手に杖を扱ってもらえるように、するためです」

なんだか妙な言い方だった。

メンテしたのだからもう上手に扱えるのでは……?

するとソフィアもまた、竜杖に触れる。

「さ、話し合いましょう。三人で。将来のことを」

たらりとなぜだかギルバートの背中に、汗が流れる。

なんだこのシチュエーションは。

一人の男、二人の女が顔を突き合わせてるようではないか。

しかも、女たちは同じ男を愛してる。どちらを選ぶのか……といったシチュエーションに、感じたのである。

「ふ、フィー。落ち着け。相手は杖だ」

「だから? ギルさんは少し黙ってて」

ソフィアの目には静かなる対抗心が浮かんでいた。愛する男を取られまいとする、固い決意。

そしてこの問題に余計な茶々を入れるなという、意志。

気おされたギルバートは、ただ一言。

「はい……」