軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ザヒア湖の引率係

「見えてきた。ザヒア湖だ」

「やっとっスかぁ」

「やっぱりそこそこ歩くわね」

「疲れた。レオ、この荷物を持て」

「ええ……? しょうがないな、副団長は……」

途中まで同じ方面に走る馬車をどうにか捕まえ、薄暗くなる前にザヒア湖に到着できた。しかし今日はもう時間的に水鳥を狩猟する余裕はなさそうだ。

「ザヒア湖に来たのは初めてだなぁ。へえ、良い景色……あっ、水鳥がいる。すごいなぁ。確かにこれは狙いやすいかも」

「ですね……! 思っていた以上に広いです! 奥にもまだ続いているんですね!」

「うんうん。ボートを借りてね、漕ぎながら行くんだー。そうだ、ボートの振り分けはどうしよっか?」

「まずは借りるとこからだな。前回みたいにしっかり数があるかどうかだ」

湖畔での色々を生業としているこじんまりとした集落、そこにある管理棟まで歩いてみると、以前来た時にも対応してくれた爺さんたちが居た。

小屋の近くに野ざらしで置いてあるレンガ造りのオーブンで魚を焼いているようだ。ちょっと美味そうな香りが漂っている。

「おお? なんだべっぴんさん揃いじゃねえの。ギルドマンか。お? しかもゴールド!」

「こんにちは。狩猟パーティー“アルテミス”よ。私は団長のシーナ。以前もお会いしたことがあったはずだけれど、お忘れかしら」

「……おー! そうかそうか! ああこの前の! あー!」

爺さんはつい今しがた思い出したみたいな反応してるけど、本当に思い出してるのかちょっと怪しい感じがするぜ。

「ギルドのもんか。また調べ物でもすんのかね」

「ボートだろ」

「ああ、ボートか。こんな時期に珍しい」

以前いた爺さんの他にも、ちょっとした剣鉈を腰に佩いている爺さんたちも一緒にテーブルを囲んでいた。よく見るとテーブルには酒の土瓶とジョッキが置かれている。夕暮れ前から酒盛りをしていたようだ。

ちょっとした武装を整えてるこの爺さんらは、ザヒア湖周辺の集落を守ってる自警団なのだろう。

「前みたいに二人一組が良いだろうな。まず順当に“アルテミス”の連中をまとめると……シーナとナスターシャだろ? で、ウルリカとレオ。あとはライナとゴリリアーナさんってとこか。モモは俺と一緒に乗るか?」

「スゥゥゥ……」

「モングレル、ちゃんと漕いでくださいね!」

「お前も漕ぐんだよ」

必要なボート四隻は問題なく借りることができた。

なんだったら以前湖に来た時よりも貸し出し用のボートがたくさん置いてあったくらいだ。前は修理に出していたものが多かったらしく、今では冬の間にしっかり整備してきっちり揃っているのだそうな。いやでも修理したボートってのもなんか怖いな……新品の方が嬉しいんだが……まぁ格安の貸しボートだし、こんなものか。

「ほーら。ライナも早くボートの準備しなよー」

「っス。……ボートはどれが良いっスかねぇ……」

「ライナさん……私、一生懸命漕ぎますからね」

「ゴリリアーナ先輩……あざっス」

手漕ぎボートの中央に荷物を積んで、二人で向かい合うようにして座る。モモが小柄で助かったぜ。俺の荷物はなかなかデカいからな。

「野営のしやすい場所を選んで、その近くに船を繋留すると言っていましたね。魔物は大丈夫なのですか?」

「この辺りは比較的穏やからしいぞ。大型は少ないそうだ。ただ、農業の被害がアホみたいにデカい小型の魔物が多いせいで開発は進まないんだそうだ」

「はー、そういうことなのですか。いい場所なのに、もったいない」

ボートを漕ぎ始めると、既にゴリリアーナさんの舟とナスターシャの舟は先に進んでいた。

ゴリリアーナさんは持ち前の膂力で。ナスターシャはロッドを水中に浸けて、謎の魔法動力で推進している。

「それじゃあ、初日だし私達は前の場所に泊まることにするわ。お先に失礼」

「あっ、いいとこ取りやがって」

水しぶきをあげながらナスターシャの舟が遠ざかっていく。モーターボートかよ。羨ましい。

「モモ、ナスターシャのやってるあれ真似できるか?」

「無理です! あれは簡単そうにやっていますけどね、ちょっと水魔法を使えるくらいではまともに動かないのですよ!」

「あ、そーなの」

「そもそも水魔法を学ぶのでしたらモングレルが学ぶべきでしょう。ミセリナさんから店を教えてもらったのですから……」

「よーし、喋ってないで漕ぐぞモモ! ほら、気合い入れろ!」

「ごまかした!」

ドライデンに立ち寄った時、シーナがザヒア湖周辺の魔物の出没状況について改めて確認してくれた。

マーマンはいないとのことだ。まぁレゴールで聞いた通りではある。しかし入念にダイビングして調査したってわけでもないので、万が一ということもある。過信は禁物だ。

もし今この瞬間に現れるとしたら、モモを守れるのは俺だけだ。……息抜きでやってきた旅行先で神経を尖らせるのもあれだが、自分の目で安全を確認できるまでは色々注意深く見ておこうと思う。

「ねーねーモングレルさーん。テントはどこに立てるのー?」

俺らと同じくらいの速度で舟を進めるウルリカとレオのペアが横から訊ねてきた。

ウルリカ、漕ぐのをサボるんじゃない。

「まー、そうだな。前と同じところで良いんじゃねーかな。あそこは釣りの実績もあるし、広々としてるからな」

「あっ。向こうの小島はどうですか!? 離れ小島! 雰囲気がとても良いですよ!」

「モモちゃん、あっちはシーナ団長たちが泊まる予定のスペースだから駄目だよー」

「えー……? 団長特権……? むむむ……」

「あははは、そういうわけじゃないんだけどねー。ま、私達はモングレルさんの近くでいいかなー? 寝起きは近い方が何かと便利だし!」

そういうわけで、俺達は同じ場所を目指して舟を進めることになった。

シーナたちは……まぁ、あの二人は色々あるんだろ。知らんけど。正直言って見れるもんなら何してるのか滅茶苦茶見たくはあるが、大人なんでね。そっとしておくさ……。そっとしておかないと危険とも言う。

「ふぁああ……ねみぃ……つーかさみぃ」

波の少ない穏やかな水面。春と呼ぶにはまだまだ肌寒い風。木々の緑もまだまだこれからといったところか。

……ゴチャゴチャしたものの無い、良い景色だ。ぼーっと遠くを眺めながら釣りしたり、飯食って寝たりするには丁度良い。ゆっくりできそうだな。

「モングレル、漕いでください! 私じゃ全然進まないんですけど!?」

「おっと。いやモモお前それは漕ぎ方が良くねえよ。オールで波の上を撫でてるだけじゃ推進力は得られないだろ」

「ぐぬぬぬ」

まあ、騒がしい連中も一緒ではあるが。

そのくらいが俺には丁度良いのかもしれない。

「もうすぐ暗くなりそうっスけど……鳥……いや、でも先に野営の支度が良いっスかねぇ……」

「な、慣れないことをしている時に日が落ちると大変ですから、今日は……ひとまず野営の方が良いかと思います……はい……」

結局、ライナとゴリリアーナさんも俺らと同じ場所で野営地を共有することにしたようだ。

これから鳥撃ちに出るかどうかで悩んでいるようだが、そうして悩んでる間にも日は暮れちまうぞ。俺としてはわざわざ薄暗い中でやることでもないと思うけどな……。

「さー、それじゃあ俺らの拠点を構築しちまうか。ここらへんはゴブリンも出るからな。魔物除けのお香は焚くが、それが無くても大丈夫なようにしっかり整えるぞー」

「……っス! じゃあ私も今日は狩りはしないでおくっス!」

「それがいいですよ! 欲を出して狩りをすると身を滅ぼしますからね! 私のパーティーでもよく言われていることです!」

「へー、“若木の杖”でもそういうとこしっかり考えられてるんだー。さっすが元王都のパーティー」

「さすがゴールドランク。しっかり者なんだね、モモのお母さんは」

「……いえ。よく母がみんなから言われてる言葉でして……」

サリー……注意されてるのはお前かよ……。まぁ想像に難くねえけど。

「まずはテントを張っていくぞー。今回は複数あるからな……ゴリリアーナさん、そっち側広げるの手伝ってくれるかい?」

「は、はい!」

「私この棒を立てちゃうねー……ん、しょ……」

「ウルリカ、僕のこっちのもお願いできるかな?」

「はーい、まかせて!」

「……うーん……私は鍋に水を張っておきます!」

「周りに警戒用の簡単な罠を張っておくっス」

俺達のキャンプは……これからだ!