軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

御当地限定の迷彩装備

ドライデンに到着した。

狩人の街と称されるここでは、周辺地域に出没する魔物に対処するために大勢のギルドマンが逗留している。数だけで言えば、レゴールよりも多いかもしれない。いや、これは適当に言った。実際のとこはわかんね。ギルドマンは流動的なのでね。

今の時期はドライデンもまだ春の狩猟のために本格的に動き出すほどではないようで、道を行くギルドマンの姿も疎らだ。どちらかといえば以前来た時よりも商人が多く、レゴールに似た活気に満ちているように思える。

「“アルテミス”さんどうもありがとう、助かったよ。また機会があれば護衛を頼めるかな?」

「ええ。こちらの方面に足を運ぶことがあれば、その時は」

シーナとナスターシャはギルドへ護衛完了の報告に。俺もギルドについて行っても良かったんだが、以前ギルドの中で絡まれたこともあり、今回はやめておいた。特に用事も無いしな。

それよりは明日に備え、宿の確保と市場で買い出しをした方が良いだろう。

「ドライデンの宿は僕に任せて。ここで活動していた時に顔も通ってるし、いい宿を知ってるから」

「レオ先輩さすがっス。私はレゴールに来るまでに数日泊まっただけなんで全然馴染めなかったっス……」

「ああ、ライナもこっち側からレゴールに来たんだよね。けど、結果的には良かったんじゃないかな。ドライデンは狩猟対象も豊富だけど、バロアの森の方が狩りやすいよ」

宿の選定はレオに任せた。いい感じに部屋の空いてる、セキュリティのしっかりした宿屋をとれたので、ようやっと重い荷物を部屋に下ろせるぜ……。

釣り竿を宿に運び込む時にちょっとだけギョっとされたが、まぁ部屋を傷つけずに入れられれば大丈夫だ。外に置いといたら盗まれそうだしな……。

「よーし、じゃあ買い出しに行くかー。つっても時間的に生鮮物は少なそうだから……明日の朝にバタバタしないよう、日持ちするやつだけ見繕って先に買っちまおう」

「うぃーっス」

「チーズとか買っちゃおっかー!」

「良いね。あとは道中で使った消耗品の補充もしたいかな」

「で、ですね……」

「若いくせに欲のねえ奴らだな。護衛任務で入った金でなんか面白いもん買おうぜ?」

「モングレル先輩はそんなだからいつも金欠になっちゃうんスよ……」

シーナとナスターシャはギルドの他にもまだ寄っていく場所があるとかで、夜までいないらしい。口うるさい保護者がいないうちに若者に浪費の仕方ってやつを教授するしかあるまいて。

「護衛の途中で聞いた話だと、ドライデンでも発明品を作ってるらしいじゃないか。元祖発明の街出身としちゃ、敵情視察の必要があるよな?」

「なるほど……モングレルにしては一理ないこともないですね! 離れた土地であればまた異なる発想の品が見られるかもしれません!」

よし、モモは乗り気だな。言い方になんか引っかかるものはあるがまぁ良しだ。一緒に何か買っていこうぜ。

「……モングレル先輩また変なツルハシとか買っちゃいそうだし、私も一緒に見て回るっス」

「えー、じゃあ私も一緒に回ろうっと」

「僕もそうしようかな。ゴリリアーナさんもそうするよね?」

「は、はい。他所の街では、固まって行動した方が安全ですからね……!」

なんだかんだで全員で見て回ることになったのだった。

俺としてもドライデンの連中に絡まれたくないからな。群れて歩けるのはありがたいことだ。

“アルテミス”のエンブレムをつけたこいつらがいれば、まぁ安全だろう。

「兎皮のミトンだよー。まだ寒い日もある時期だ、安くしとくよー」

「ハルパーフェレットの帽子だ。そこのギルドマンの方々、どうだい! 暖かいよ!」

討伐クエストの多い街だからか、売られている品々は革や毛皮製品が多い。

が、冬も終わってそろそろ春も本番になろうって時期に買うほどのものではないな。……いや、けどあっちに並んでる敷物はそこそこ良いな? 高級だから外で使うよりは部屋の中で使う方が良さそうだが……。

「こういうファー系の皮はやっぱレゴールよりも品揃えが良いな……」

「毛皮よりは革の方が使いやすいっスよ。忌憚のない意見ってやつっス」

「防御力も低いし、時期外れだしねー。物によっては可愛らしいけどさ」

「僕は結構良いと思うけどな。首もととか温めるには……」

しかしどうにもこいつらの中では、毛皮よりしっかり鞣した頑丈な革製品の方が良いようである。まぁ当然か。レザーでなければ任務には不向きだ。手入れも気を遣うしな……。

「ちょっとちょっと!そこの素敵なお嬢さん……!」

「はい? なんでしょうか!」

「お嬢さん、あ・な・た・だけに……! 良いお話がありまして……!」

「商談ですか? 聞くだけなら良いですよ!」

ふわふわの鍋つかみみたいなミトン製品を眺めていると、少し離れた場所でモモが露天商に話しかけられていた。

カモられたりしないだろうな? 相手の男の顔がなんだかいやらしくにやついてて明らかに怪しいんだが……いや大丈夫か。モモはあれでしっかりしてるからな……。

「秘密の狩猟迷彩装備がなんと、たったの五百ジェリー……!」

「はあ? 高すぎますね! 他を当たってください!」

「に、にべもなさすぎる……!」

おいおいぶった切るのは良いが立ち止まるくらいはしてやれよ。ろくに見てもないじゃねえか。

「なんだよモモ、そっちのは」

「よくわからないですけど、私は魔法使いですからね。狩猟装備は特に関係ないですから!」

「……おお? これは……」

「興味が出てきましたか? ふふふ……これはですねぇ……」

怪しい商人は台の上に並べられた幾つもの商品の中から一つを手にとって見せた。

「魔物や動物の耳を模して作った装備品、いえ、髪留めです……! もちろん本物の耳ではなく、似せて作ったものではありますが……ドライデンの発明家によって生み出された最新式の迷彩装備となっています……!」

「ケモ耳か……」

怪しいおっさんが売っていたのは、色々な獣の耳をヘアバンドにくっつけた……まぁいわゆる、ケモ耳であった。発明家に謝れよ。

「いやそう落胆しないで! 見たところ皆様ギルドマンのようですが……魔物の不意をついて狩猟するにはまず何より、相手に気づかれないようにしていなければなりません。相手に警戒されず、近づいたり、攻撃の準備を整えたり……! こちらのヘアバンドは、野生生物に化けることでより高度な狩猟を可能とする道具なのですよ……!」

すげぇこじつけ方しやがるな……ケモ耳ヘアバンドをそんなに頑張って売ろうとするやつ俺初めて見たよ。

「えー……? これそんなに効果あるかなぁ。草陰からこういう狼の耳を出しててもより警戒されるだけじゃない?」

「いやそれはまぁ、物によるといいますか。狩猟環境に合わせて装備していただければ……」

「こっちの兎の耳なら油断を誘えそうだけど、そう上手くいかないんじゃないかな。生き物だって耳だけで判断してるわけではないだろうし」

「ま、まぁまぁ。実践していくうちに幾つか効果はあるかもしれませんから……」

「ハッキリ言ってこれは効果ないっスよ」

しかも狩猟経験豊富な“アルテミス”からのダメ出しが激しい……可哀想過ぎる。

「ぐぉおお……! 仕方ありませんね……であれば、三百。ひとつ三百ジェリーとしましょう……!」

「さ、三百ですか……うーん……効果があまり見込めないのであれば、正直高すぎますね……」

「二百!」

「すげぇ必死で値下げするじゃねえか……おっさん、そいつらそんなに売れてないのかい?」

「……売れてねえよ……! 全然売れねえよ……! けど上から売れって言われてんだよこっちは! なぁ兄さん頼むよー、買っていってくれって、な?」

どうやらこのケモ耳ヘアバンド、ドライデンの発明品の一種らしいのだが売れ行きがかなり悪いようである。

ここに並んでいるのは全部不良在庫ってことか……哀れだな……。

……うーん、けど俺から見たら結構良く出来てるとは思うんだよな。質感も本物の獣の耳っぽいし。装着して効果が見込めるかは知らんけど、パーティーグッズとしては悪くないんじゃないか。

「まぁまぁ、こんくらい小さければ土産物としては良いんじゃねえの? 邪魔にもなりにくいしよ。ほれ」

「あはははっ! モングレルさんが犬になった!」

「ぶふっ……に、似合ってるっス」

みんな笑いやがって……そんなに犬耳が面白いか。逆にそんだけ面白けりゃ悪くない商品だろこいつは。

「ライナも一つ選んでみろよ。ほらこの猫っぽいやつどうだ」

「えー、私猫っスか。……はい、どうスか」

「かなり猫だな」

「ラ、ライナさんとても可愛らしいです……!」

「……えー? マジっスかぁ?」

ファッションとして着ける方向に持っていくと、途端に皆ワイワイと選び始めた。

仕事用と遊び用をきっちり分ける辺り真面目な連中だよな……。

「うーん私はー……これ! 狼! どうー? 似合うー?」

「うん、とっても似合ってるよウルリカ。僕は……これはなんだろう。猫っぽいけど。パンサーかな?」

「レオ先輩も似合ってるっスね。……あ、モモちゃんは兎っスか! 良いっスね!」

「どうせなら狩猟で一番効果のありそうなものにしてみましたが……うーん、本当に効果あるんですか? これ」

皆で好みのヘアバンドを物色し始めると、露天商のおっさんはニコニコと現金な笑みを浮かべはじめた。良かったな……。まぁ一個二百ジェリーなら負担にもならないし、喜んで買わせてもらうさ。

「こ、この角のヘアバンドもいいですね……!」

「ゴリリアーナさんは……なんか、強そうだな……」

そしてゴリリアーナさんは鬼のような二本の角を生やしていた。髪でバンド部分を隠すと、もはや自前の角なんじゃないかっていう自然さを感じるぜ……。

魔物と間違われるかもしれないからやめといたほうが良いんじゃないか……?

「シーナ先輩とナスターシャ先輩にもお土産に買っていくっス」

「狐と猫でも買っていこっか!」

「毎度あり……! いやぁ助かったよ……しかしここまで一気に捌けるなら、ひょっとして売れる商品なのでは……」

今後このケモ耳ヘアバンドが流行るのか廃れるまでもなく売れないのかはわからない。

だが、値段設定は五百はまぁ高えなって感じはするぜ……。