軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゴールドの露払い

馬車の護衛は退屈だ。少なくとも俺にとってはそうだ。

金銭的に割が良くても、このダラダラ移動してるだけの時間ってのに耐えられないんだ。だからあまり護衛依頼は受けたくない。

けど、こうして目的地への移動ついでにってんならまぁ、アリだな。

御者の人と話すのも、たまにだったら面白いもんである。

「レゴールの品は良い物が多くて助かるよぉ、ほんと。レゴールに出回ってる物だったら、多少見慣れないもんでも売れるからね」

「ははぁ、発明品ってやつですか?」

「んだーね。いや、俺は仕入れてるのが発明品なのか前からあった物なのかはわかんねえんだけどさ。良いものだってのは確かなんだろうよ。売れるからね」

レゴールを中心に活発になり始めた経済の波紋は、俺達が今目指す先であるドライデンにも強い影響を与えている。

概ね良い影響と言って良いだろう。ドライデンはレゴールにない様々なものを供給してくれる街だ。レゴールが発明品などの加工品を供給する一方で、同時にドライデンの品を求めてもいる。摩擦はさほどないと考えても良い……はずだ。

というのが俺の考えだったのだが、御者の世間話を聞くに、どうもそうではない空気を感じているらしい。

「しっかしねぇー……ドライデンの方の発明品はあんまり良くないねぇ」

「ドライデンの発明品? そいつは初耳というか……あまり聞かねえなぁ」

「ああやっぱギルドマンの人からしてもそうかね。……ドライデンの方でも、何かこう、新しい商品を作って売り出そうって意気込んでる人らがいるんだけどね。ちょっとズレてるというか、から回ってるというか……足の引っ張り合いの多い商工会が珍しく手を組んで色々作ってはいるそうなんだが、他所に持っていってもなかなか売れねえんだって嘆いてるのよ。いや、嘆きたいのはこっちなんだがね? あいつらは良いよ、俺等に売っぱらっちまえばあとは気にしなくて良いんだから。売れねえと困るのはこっちなわけよ」

「ははは、そりゃあ確かに。細かいとこに売って回る方のが大変だ」

「だろう?」

どうやら発明ブームはドライデンの方にまで波及しているらしい。だがヒット商品ばかりをバシバシ打率三割で飛ばせるほどではないらしく……相応に苦労しているようだ。

「ドライデンの中ではあれだ。バロアソンヌってあっただろ、あのゲーム」

「おー知ってますよそりゃあ。俺らレゴールのギルドマンから生まれたやつですからね」

「そうそう。それを真似たやつは結構流行ってたな。商工会もそれでちょっとした儲けにはなったらしいんだが……他にも似たようなゲームが出たせいで長くは続かなかったんだと」

「あ、俺それ知ってる。ドライデンボードってゲームでしょ。一回だけやったことある。あれはあれで結構面白かったなー」

「本当かい? 嬉しいねぇ。いや、俺もドライデン出身だからよ、ああいうのを他所の人にやってもらうってのは、なんかこう、良いね」

「魔物マスめっちゃ多くて大変でしたよあれマジで」

「ははは! それは俺らの中でも言われてる!」

後発でぽこじゃか生まれたボードゲームは色々ある。俺も暇な時はそういうパクリゲーにも手を出したものだ。……まぁだいたいバランスの崩壊したクソゲーばっかりだったけどな!

贔屓目とか抜きに普通に俺の考えたオリジナルのやつが面白い。ヤケクソみたいな金貨プラス百枚マスとか置くんじゃねえよ……そういうの設置したくなる気持ちはわからんでもないが……。

「……ドライデンの連中も色々知恵を絞って、新しい商品を考えているんだ。お前さんらも、向こうについたらなんでも良いから買ってやるといい。喜ぶぞ」

「ははは……まぁ、そんなに高いもんじゃなければ。それに、俺等も大荷物だからなぁ……あんまりかさばる物は……って、もしかしてこういう話を広めるように言われてたりします?」

「バレたか」

「やっぱりそうかぁ」

「いやすまんな。ドライデンの連中も必死なんだよ、わかってやってくれ……」

ドライデンも街だ。畜産や酪農の製品を売ってる人たちばかりではない。他にも色々な人がいるのだろう。困っているのはそういう連中だと。なるほどね。

……まぁ、安くてかさばらないものだったら少しは買ってやるとしようか。

持っていれば多少はドライデンの中で魔除け代わりになってくれるかもしれないからな。

「……向こうからの敵意は……マレットラビットね。ただの小動物よ! 進んで良し!」

「うーっす」

「なんだ、ただのウサギだったかぁ。びびらせやがって」

「わ、悪かったよ。けど結構派手に茂みが揺れてたんだぜ」

道中はほとんど事件らしい事件も起こらず順調に進んでくれた。春も始まったばかりで、まだ魔物も活性化していないのかもしれない。

顔を出す魔物も小物ばかりで、護衛が護衛らしい仕事をする機会はほぼ無かった。

「なんか静かっスねぇ。街道には魔物も出ないし、バロアの森とはえらい違いっス」

「ああ。春の魔物はまだ軒並み土の下で寝てるのかもな」

今日で護衛も二日目になるが、治安の悪さを実感するようなイベントは欠片も起こっていない。ライナと一緒に軽口を言えるほど、気の抜ける旅路であった。

いや、ライナの方は別に気を抜いてもいないか。しっかり弓を手に取って、警戒を怠らずに歩いている。

「真面目だな」

「そりゃそうっスよ。シーナ先輩も頑張ってるし……」

「敵襲ッ! 盗賊の待ち伏せよ!」

「お」

「! ま、マジっスか!?」

張り詰めたようなシーナの声が前の方から聞こえてきた。

前側はレオとナスターシャがいるから……まぁ大丈夫だろう。

しかしライナはまだ慣れてないのか、弓を構えているのは良いが周囲への警戒がなっていない。

「おいライナ、前だけ見てるなよ。待ち伏せの時は大抵挟まれてるんだ。横も後ろもしっかり注意しておけ」

「っス……!」

隊商の人たちもショートソードなどの最低限の武装を取り出し、緊張した面持ちで周囲を睨んでいる。商人や御者だってこの手の事件は慣れっこだろうが、だからこそ一切気を抜いていないのがわかる。

「全員武器と金目の物を捨てていけば命までは取らねえよ!」

「こっちの方が数は多いぞ! 諦めろ!」

右側の林の方からガラの悪そうな男の声が聞こえてくる。

どうやら向こうに何人か潜んでいるらしい。……どれほどの数がいるか、実際のとこはわからないけどな。向こうのほうが多いと言ってはいるが、ただの虚仮威しって線の方が濃厚だ。

「前側は倒木で封鎖されてるわ! “アルテミス”戦闘態勢! 敵の数はおよそ……十人!」

馬車の幌の上からシーナの声が聞こえてくる。しっかり索敵もやってくれているようだ。……林の中の敵の数までどうやって把握してんの? って感じではあるが……今はそのギフトかスキルかもわからん力が頼もしい。

「十人か。ライナはこのくらいの規模の襲撃を受けた経験はあるか?」

「え、まぁ何度か……」

「マジかよすげぇな。そういう時どういう風に戦ってるんだ?」

「えっと、どういう風っていうか……」

「ぐえっ!?」

男のうめき声が林のどこか高い場所から聞こえた。同時に、バキバキと枝を折って落下する音。

「まずは一匹。樹上の斥候はもういないわよ」

マジかよシーナが仕留めたのか。こっちは音だけで何も状況が見えてこないんだが。

「モ、モングレルさん! こ、ここは私が前に出ますから、ライナさんの護衛を、お任せします……!」

「ゴリリアーナさん。良いのか?」

「はい……! こういう時のために、鍛えましたから……!」

待ち伏せた盗賊側はいきなり一人仕留められたことで混乱しているようだ。

こういう時に素早く追撃の判断が下せるのはなかなかスマートだな。

「じゃあ任せるよ。気を付けてな、ゴリリアーナさん」

「はい……! ■■■■■ーッッッ!!」

そうして、ゴリリアーナさんは咆哮をあげて林の中へと突っ込んでいった。

同時に隊商の前方側からウルリカとシーナが射撃を再開し、向こうで見えている敵を攻撃し始めたようだ。

「うわっ!? なんだこいつは……ぐえッ」

「ぬうんッ!」

「ざ、残像だとっ……ぎゃあっ」

「滅殺ッ!」

「だ、駄目だ、こいつは勝てねえ! 撤収! 撤収だー!」

林の中からゴリリアーナさんの裂帛の声やら盗賊たちの悲鳴やらが聞こえたかと思えば、どうやら向こうさんはすぐに戦意を喪ったらしい。俺達の方からでもわかるくらい慌てた様子で撤退を始めた。

「あと一匹はいけるわね……“ 曲射(アーチショット) ”」

「ぐああッ……!?」

木々を迂回しながら突き進む一本の矢が盗賊の一人を射抜き、そのダメ押しを最後に戦闘は終了した。いや、戦闘というよりはかなり一方的だったが……。

「フーッ……た、ただいま戻りました……!」

「ゴリリアーナ先輩! 大丈夫っスか!?」

「はい……! 全て返り血ですから……!」

「すげぇなゴリリアーナさん……」

「え、えへへ……」

「そこで照れるんだ……」

戦闘はこちら側は無傷、完勝で終わった。

ゴリリアーナさんは盗賊たちの血を浴びて殺意の波動に目覚めてそうな見た目になったが、それも洗い流せば問題ないだろう。……早速モモが慌ただしい様子で水の準備を始めている。さすが便利だな、水魔法……。

「おら、しっかり歩けよ。下半身は傷もねえんだ。自分の足でしっかり動いてもらうからな」

「いってぇ……いてえよ……頼む、もうちょっと縄を緩めてくれ……」

「甘ったれるなよクズ共め。いいか、お前らが倒れても俺達は止まってやらん。街道で擦り下ろされて死にたくなければ、必死で歩くことだな」

「くそぉ……」

死んだ盗賊はその場に捨て置くか、遺品らしい遺品を回収。動ける連中は縄で厳重に縛った上で、隊商の最後尾を自分らの足で歩かせる。わざわざ馬車に乗せて丁重に護送してやるつもりはない。これが一般的なこの世界の捕り物である。

連中は次の宿場町で拘束され、厳しい取り調べを受けることとなるだろう。逃げた盗賊仲間の情報を引き出さなきゃいけないからな。相当に厳しいことになるはずだ。

「……なんもないかなって思ったっスけど、起きたっスね。事件……」

「だな。盗賊に襲われるなんて随分久しぶりだわ」

「うーん……私も少しは活躍したかったっス……」

「まぁまぁ、今回は位置取りがちょっと運が無かったよな。また次があるさ」

「いや次は無い方が良いんスけどね」

そりゃそうだ。俺としてもあと三年は来なくて良いイベントだぜ。