軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

突発的な祭り

翌朝からは再び神輿担ぎだ。

レゴールの力自慢が揃って声を上げながらえっさほいさと大木を運んでいく様は、どこか神話的ですらある。特にゴリリアーナさんを見ているとそう思ってしまうのだが、これは別に他意はない。

「声上げていけぇ!」

「ギルドマンに負けるなぁ気張れ気張れェ!」

身体強化を使いながら大人数で大木を持ち上げ、運ぶ。ここにいるのは選ばれた力持ちばかり。わからないやつにはわからないかもしれないが、そんな中で真っ先に音を上げるというのは、結構プライドにくるものだ。

特に兵士達には領地を守っているという矜持もある。一介のギルドマンよりも先にヘバった姿を見せたくないという気持ちは強いだろう。

それでも、体力や魔力は無限ではない。緊張感もあって早めに力を使い果たした脱落者は出てきてしまう。

「ぐぅ……! 誰か、ここ代わってくれ……!」

「おう、任せな!」

もとより最初から最後までずっと背負い続けられる前提の仕事ではない。キツイ場所の担当になればなおさらだ。他の場所でやっている奴のバランスによっても、担ぐ重さは変わってくる。

だから気にしなくて良いのだが、早めに担ぎ手から抜けた連中の表情は大げさなくらい暗かった。

「もうすぐ休憩だ! 最後のもう一踏ん張り、力を出していけ!」

「おおおおッ!」

「っしゃー!」

ちなみに俺は今日もまたギルドマンの武器担ぎである。

いやぁ、これはこれで楽で良いけどな。必死こいて働いてる奴に話しかけるわけにもいかないから暇で暇で……。

「……お」

そんな風に周囲を適当に見回していると、森の離れた場所に魔物の影を発見した。

索敵と呼べるほど集中していたわけではない。真っ先に発見できたのは偶然、運が良かったおかげだろう。

「魔物発見、チャージディア一体だ! 運び手はそのまま待機!」

「なんだとっ」

「モングレル、やれるか!? 降ろさないでいいのか!?」

「一人でやれるが、心配なら荷物番何人かを後ろで警戒させておけ!」

チャージディアが現れたのはちょうど俺のいた側の森だった。

前側に向いた槍のように尖った角を持つ、凶悪な鹿。草食のくせに人間を好んで刺し殺そうとする生態はまさに魔物だ。大木を担いでいる人間の集団を見て何事かと面食らっているようだったが、デカい物を運んでいるからといって殺意を抑えるほど殊勝な奴ではないだろう。

「モングレル殿、一人でやれるか!?」

前に出た俺の背後から、ブリジットの声が掛かる。

「余裕ですよそりゃ。大木は降ろさなくて良いですよ」

「……わかった! 荷物番は念の為にモングレル殿の後ろに! 私も後詰めに構えるぞ!」

「はいよ!」

「お任せください、ブリジットさん!」

魔物が現れたら立ち止まる。それは仕方ない。相手によっては無防備なまま襲われ大惨事になるのだから。

それでも、ちょっとした事があるごとにいちいち重荷を地面に降ろすのは避けたかった。というのも、この大木は持ち上げるのが非常に大変だからである。そういうこともあって、軽く一休み……ということができないのだ。

チャージディアは決して侮って良い魔物ではないが、そんな魔物の出現でも念の為に大木を地面に下ろそうとはならない辺り、かなりのものである。

「ロレンツォ、このロングレイピア使って良い?」

「おいお前な……曲げないなら良いけどな……! 曲げたらお前、弁償もんだぞ!」

「よっしゃ!」

「くそ……こいつ絶対使いたいだけだろ……」

ロレンツォの許しもあって、俺は全身に装備した武器の中からロングレイピアを取り出した。

ロングレイピアは刀身がやや太めの、長いレイピアだ。ロングソードと比肩するほどのリーチがあると言えばその長さが伝わるだろうか。

「おお……抜いてみると、なかなかこいつは。まるで槍みたいな武器じゃねえの」

相手の鎧の隙間を突く……なんて器用な使い方はしない。このロングレイピアの貫通力は生半可な鎧すら無力と化すほどだ。相手の急所に向かって思い切り突く。そんな力押しが許されているのがこの武器なのである。

「任せたぞモングレル、俺の武器も使え!」

「――俺の剣も、試して良いぞ……――」

「あーわかったよ、けど相手は一匹なんだ。使い勝手の良さそうなもんだけでやらせてもらうぜ」

ノリの良いギルドマン連中の声援を受け、俺はとりあえずロレンツォのロングレイピアと……マシュバルさんのロングソードを抜き放った。

どちらも俺が普段使っている武器よりリーチが長い。これならチャージディアが相手でも簡単に先手を取れるだろう。

「動いたぞっ!」

チャージディアが駆け出した。

標的は一番近い場所にいる俺。思った通り、頭を軽く下げて角を向けるようにして迫ってくる。

時折左右にステップを踏んで翻弄しながら、致命の刺突を見舞うために。

「弁慶相手に牛若丸気取りかよ?」

「!?」

だが、大荷物を背負っているからといって今更俺がチャージディアに遅れを取るはずもない。側面に回り込んできて角を抉り込んできたそこにロングソードを合わせ、角を防いだ。

離れた場所で上がる歓声とどよめきがうるさいぜ。

「槍使いじゃ弁慶には勝てねえんだ、よッ」

「ギュィイイッ」

ロングソードで角の反撃を抑え込んだまま、ロングレイピアで目玉を突く。

甲高い悲鳴が長々と響き渡る前に、剣をそのまま脳にまで突き込んでやれば……そのままチャージディアは沈黙し、脱力した。

「いっちょあがりだ、どうよ!?」

「見事だった! レイピアの刀身は拭いておけよ!」

「良いぞモングレル! 相変わらず力任せだな!」

「やるじゃないのモングレルさん! 今度腕相撲しましょう!」

ギルドマンから褒めているんだか褒めていないんだかよくわからないお褒めの言葉をいただいた。はいはい、剣はしっかり拭いておきますよ。……うええ、脳漿がついてる……。

「俺モングレルが戦うところ初めて見たな……街をぶらついてるのと酒場で飲んでる姿しか見たことないから知らなかったぞ」

「力持ちなのは知ってたが、ちゃんと剣を使えるんだな」

「お前もうロングソード使えよ。片手で使えるじゃねえか」

そして知り合いの兵士達からはちょっと厳しいお言葉もいただいた。うるせえ、俺はロングソード使いじゃねえんだ。バスタードソード使いなんだよ。ほっとけ。

「ふっ……さすが、この仕事に抜擢されるだけのことはあるということか。……よし! モングレルが邪魔を退けてくれた! もうじき休憩、そして街も目前だ! 皆、最後までしっかり頼むぞ!」

「おおーっ!」

再び大所帯が動き出し、熱気を帯びて前へ前へと進んでゆく。

さて、重い荷運びもそろそろ終盤だ。はりきって行こうじゃないか。

「あっ……チャージディアの肉とか採集したら……駄目か……?」

「さすがに今日はかまけている暇もないだろう。さっさと歩けよ。あと、レイピアはくれぐれもしっかりと布で拭いておけ」

「はいはい……ロレンツォ、この剣良いな」

「やらねえぞ」

「いや欲しくはねえけど」

「お前が言うとなんか欲しがってそうに聞こえるんだよ……」

街道に出ると、既に路面には専用の荷台が用意されており、そこに大木の中央部分を乗せることができるようだった。とはいえ台車に乗せただけで簡単にコロコロと運んでいけるほど楽なものではなく、あくまで補助輪のようなもの。運ぶ負担を大きく減らしてくれるというだけで、全てを肩代わりしてくれるわけではなかった。そりゃそうだ。そこまで荷台も頑丈ではない。

街道に出て荷台に乗せてもまだまだ、荷運びは終わらないのである。

それでも多少安定感が出れば心強いもので、俺達の歩みは滞ることなく進んでいった。

道行く人々はえらいものを運んでいる俺達を見て驚いたり、歓声を上げたりしていた。中には後ろの方からついてくる人もいる。もう完全にお神輿のような感じだ。

「俺達、目立ってるな……!」

「こぉらルラルテ、みっともない笑い方してるんじゃないよ!」

「でもよぉアレクトラさん。俺ら、今日は主役って感じだぜ」

レゴールの東門が近づくにつれ、俺達を取り巻く賑やかさは増してゆく。

先頭を歩くブリジットも手を振ったり、愛想よく振る舞っている。こういうことも仕事の一環なんだろうな。……あ、街の方からやってきた兵士の一団が護衛に加わった。いよいよ大詰めだ。

「すげー大木」

「あれがレゴール伯爵の御子息のための……」

「あんな魔物みたいなバロアの木、初めて見るよ」

「向こうにはギルドマンもいるぞ!」

歓声のような、見物客のような。そんな人々の賑わいに囲まれながら、俺達はようやくレゴールへと到着した。

運び込まれた大木は後から増援としてやってきた兵士たちも加わり、より高く担ぎ上げられ、いよいよ本当に神輿のような扱いをされ始めた。おお、ぐわんぐわんと上下に揺さぶられて時々人の手を離れてやがる。

「レゴール伯爵夫人ステイシー様のご懐妊を祝し、我らレゴール伯爵領の民は力を合わせ、この偉大なバロアの樹木を伐りだした! これは近い未来に削り出され、様々な素晴らしい家具やモニュメントとして生まれ変わるであろう!」

ブリジットが声を張り上げ、民衆を前に演説している。

なるほど、こうやってアピールするのも大切なわけだ……普段俺はこういう場所に居合わせないから、なんだか新鮮な気分だぜ。当事者として聞くってのもかなり珍しい気がする。

「……つ、疲れましたね……モングレルさん」

「ああ、ゴリリアーナさん。ゴリリアーナさんは最初からずっと運びっぱなしだったな。お疲れさん」

「い、いえ……これもまた、修練ですから……」

今回の仕事に携わった俺達はギルドマンにも兵士たちにも妙な一体感が生まれていた。

やるじゃねぇか……お前もな……そんな感じである。別に敵対してたわけでもなんでもないが、共に重い荷物を背負うと気持ちが一つになるのかもしれない。

「しかし……街に着いたなら、もうそろそろ俺達を解放して欲しいもんだよな。さすがの俺もだいぶ疲れちまったよ。隙を見て帰ろうかな」

「……モ、モングレルさん。この後、仕事に参加した人に店を貸し切って、食事とお酒が振る舞われるそうですよ……? さ、参加しないんですか?」

おいおい……タダ飯とタダ酒かよ、ゴリリアーナさん……。

「それを聞いちまったらもう、最後まで居るしかねえじゃんかよ……」

「ふふふ……で、ですよね」

「しょうがねえ。このセレモニーが終わるまでは付き合ってやるか」

運び終わった後の賑わいもまた、祭りのひとつ。そう思うことにしておこう。

……タダ飯、タダ酒。待っててくれ……俺もすぐに行くぜ……。