軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大人数での野営

根っこ側はやや外側に突き出した根本部分があるものの、そう何人も取り付けるほどではない。せいぜい大木がゴロンと回転するのを防ぐ程度の出っ張りがあるだけだ。それでも、このくらいの根っこを残して伐採してみせたヴィルヘルムの手腕はすげえなと思う。極端に低い位置を狙って、しかも∨字に切ってるのかねこれは。よくわからんけど、雑にズバッと切ったわけじゃないのだけはわかる。

対して枝側はやや広めに残されており、こっちは三列以上になって運搬役が取り付ける。運ぶ際にはこの枝側を後ろ側にし、大木全体を前に押すような運び方をするようだ。なので、根っこ側や大木中央は力持ちが重量をグッと支えるポジションとなっている。

……というような、他ではあまり活かせなさそうな運搬のノウハウが夕方までの間に蓄積されましたとさ。

「うおー、疲れた……」

「最初は調子良かったが、後々響いてくるな……」

「足元が沈むのがしんどい。靴を間違えたぞこれは」

「物を運んだだけで魔力が空になったぜ……人力で運ぶもんじゃねえな。体壊しそうだ」

「お、お疲れ様です」

全員でちょっとだけ運んだので、今日はもう野営である。続きは明日の朝からだ。

俺はギルドマンの武器をまとめて運んで、周囲を警戒するだけで終わった。途中で何か魔物が出てきたら皆の武器を使って華麗に戦いたかったんだが、全く出番がなかったな……。

「飯だ飯、腹が減った!」

「粥を作ろう。汗もかいた」

「塩多めにしておこうか」

水辺の近くで大木を降ろすことができたので、スムーズに調理に移ることができる。

しかし今回は大人数だ。通常の野営と違って大所帯なので、事前に準備は整えられている。特に、食事に関しては兵士たちが率先して動いていた。

「うむ、ひとまず明日の朝までは休憩としよう。……諸君! これより夕食の調理に移る! 食事はギルドマン含め全員に行き渡る量があるので、遠慮なく食べて明日に備えるように!」

女騎士のブリジットが声を張り、本日の終業と飯の支度を伝える。

ギルドマンの飯も用意してくれるのはありがたいな。何より兵士の飯は美味いんだ。ギルドマンみたいに“とりあえず食えればいいや”的な適当な飯ではなく、しっかり元気が出てくるまともな飯だからな。味はまぁ、俺目線だとそこそこではあるけども。

「――これだけの人数ならば、火を焚いて集まっていれば問題ないだろう。雨さえ降らなければ凍えることもあるまい――」

「イーダさん、アタシらは向こうでブリジットさんと一緒にいましょうよ。女は女で固まってた方が良さそうだ」

「あ、そう? じゃあそうしようかな」

「兵士の作る粥かぁ。美味いんだよなー」

「贅沢な具が入ってると良いな!」

大木の近くで兵士とギルドマンがそれぞれ野営の支度を始める。ここにいるのはベテランばかりだから慣れたものだ。

逆に、そういった連中の野営に慣れておらず手持ち無沙汰になっている人もいる。

木こりのヴィルヘルムと、アーレントさんだ。

ヴィルヘルムは淋しげにヒゲをもしゃもしゃと撫で、アーレントさんはどこか哀愁漂う表情で大木に寄りかかって立っていた。いや、アーレントさんの表情はいつも通りか。

「ヴィルヘルム、お疲れさん。お前も随分とデカい仕事を任されるようになったな」

「おう、モングレル。ようやくまともに話せるな」

「おや……二人は知り合いなのかい」

「まぁ、そこそこ旧い仲だな。つっても俺くらいの若造の旧いなんて大したことはないんだけどさ」

「なんだなんだ、モングレルはアーレント殿とも知り合いだったか。顔の広い奴だ」

「不思議と縁があるんだよ」

実際森の中で半裸のアーレントさんに遭遇したのはギャグみたいな奇跡だったけどな……。

「今は兵士さんが飯を作ってくれてるから、それ食わせてもらったら野営だな。アーレントさんも前の方で担いでて疲れただろ? 今日は夜ふかししたら駄目だぜ。外交問題になっちまうからな」

「いやいや。久々に重い物を担ぐことができたおかげで未だ興奮冷めやらぬほどだよ。いい仕事だね……」

俺とはちょっと違う仕事観を持ってるな……まぁひとまず元気はありそうで良かったが……。

「アーレント殿、それにモングレル殿。大鍋の粥がそろそろできるから、向こうでもらってくると良い」

パワー系の男同士で駄弁っていると、金属のマグカップを持ったブリジットが寄ってきた。

……さすがの俺でもここまで付き合いがあると、このブリジットという女騎士についてなんとなくわかってくるところもある。この澄ました顔のお貴族様、見た目ほど理知的ではないというか……かなり雑に考えるところがある人だ。喋り方こそ貴族らしいが、兵士と一緒に力仕事をしていても嫌な顔をしないあたり、なかなか彼女も脳筋っぽい気がする。

剣士として色々活動してたって話だから、そういう経験もあって慣れてるのかね。

「それと、一人一枚だがクラッカーとコンデンスミルクもあるぞ。私はお茶に入れてもらった」

「なにっ!? マジかよ食わなきゃ」

「ほほう! コンデンスミルクか! それは良い!」

コンデンスミルク。つまり練乳。その単語を聞いて、俺とヴィルヘルムのテンションは一気に最大になった。特に甘党のヴィルヘルムには堪らないだろう。

よくわかっていない顔をしているのはアーレントさんだけだった。

「コンデンスミルクとは?」

「あれ、アーレントさんはコンデンスミルク知らないのかい? サングレールでもヤギのサンセットゴートのミルクはあるんだろ? ……あー、そもそもそういう使い方をできないのか」

「コンデンスミルクは良い……」

「うむ。良いな」

ヴィルヘルムとブリジットがただただ頷いている。気持ちは良く分かるが、何も知らない人に対する情報量はゼロである。

「とりあえず並んで貰っておこう、アーレントさん」

「美味しいのかい?」

「あー、ミルクと砂糖を煮詰めた保存食っていうか……シロップっていうか、そういうやつかな。ハルペリアでも結構高いけど、これがまた美味いんだ」

一人の兵士が小鍋でコンデンスミルクを配給していた。鍋というか水筒に近いかもしれない。小さなクラッカーにコンデンスミルクを乗せて配っているようだ。

確かに、力仕事した後のあの甘さは得難いものがある。大勢が粥と同じくらい並ぶのも頷けるぜ。

「はいよ、ギルドマンのモングレル。それとアーレントさんだな」

「もうちょっと多めに垂らして……」

「悪いな、量は決まってるんだ。おっと、アーレントさんには少しサービスしよう」

「外交特権ってやつか……?」

「おお、ありがとう。甘い匂いがするね」

「こりゃたまらんな」

男三人で練乳のかかったクラッカーを手に取り、こぼれないうちに一口でパクリ。

すると、口の中で一気に甘いミルクの香りが炸裂した。

「おお……うめぇー……」

「むほほ、舌が蕩けるようだ……」

「……」

アーレントさんは目を閉じ、感じ入っている。……いつも以上に垂れ下がった眉を見るに、美味しさに打ちのめされているようだ。

「……これは……口にした瞬間、甘味が全身へと駆け巡るかのようだね……素晴らしい……」

「キツい運動の後の甘いものは最高だからな……」

実際、運動後のプロテインや甘味は筋肉に素早く届いてくれる。アーレントさんはほぼ筋肉で出来ているので、俺なんかよりも強く実感できるのかもしれない。

その後は大鍋で結構豪華な具の入った粥やら何やらを頂いたが、コンデンスミルクの衝撃の前に感動がちょっと薄れてしまった。いや、美味しく頂いたけどな。普通に美味かったよ。

夜はさすがに結構冷え込むので、複数箇所で強めの火を焚きながら就寝する。

魔物を警戒するために全員が寝ることはないが、人数が人数だし、寝ずの番が必要ないのは楽で良い。というより頼まれなくても誰かしら起きている。安心感があって良いもんだ。

兵士はこのあたりキッチリしてて、起きるやつは起きる、寝るやつは寝るでしっかりと分けられており、起きている奴らがうるさいおしゃべりに興じることはない。

反面ギルドマンは起きている連中で結構うるさく会話してたりする。

「きっと街に帰ったら英雄扱いだぜ俺たち。出発する時も賑やかだったからな」

「もう寝とけよルランゾ……」

「俺はルラルテだ」

「そうだった……すまんな……つーか寝ろ……」

ルラルテとロレンツォが話している。俺もまだ眠れないし、会話に混ぜてもらうかな。

「よう、ロングレイピアと素手」

「人を武器で呼ぶな……というか寝かせろ……疲れてんだよ」

「モングレル。街に戻る時は俺は前の方で担ぐぜ。目立つからな」

「いや前の方はもっと力ある奴の方が良いだろ。というより兵士たちの方が良い。ギルドマンが先頭じゃ格好つかねえよ」

「なにぃ。それを言ったら腕力でならディックバルトさんが一番だろ」

「ディックバルトが先頭か……」

「なんだよディックバルトさんだぞ」

口には出さないけど、それはちょっとな……いや別に隔意はないが……。

「けど俺もな……たまにはディックバルトさんの影に隠れず、こういう時くらい目立ちたいわけよ……街のみんなが暖かく迎えてくれたら、それだけで気分良くなれそうじゃねえか」

「そういうもんかね……俺にはわかんねえけどな」

「二人とも俺を挟んで会話するなよ……」

「酒場で自慢するわけよ。俺はあの人たちと一緒に仕事したんだぜってな……それで……」

「おう」

「……」

……静かになったと思ったら、ルラルテがいびきをかき始めた。睡眠への移行がシームレス過ぎるだろお前。

「嘘だろこいつ……好き勝手喋ってさっさと寝やがった……」

「ロレンツォもさっさと寝とけよ。俺も寝るわ」

「こいつらマジで……」

天幕無しの寂しい野営だが、これだけの人数なら安全にぐっすり眠れそうだ。

そいじゃおやすみー。