軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神の居ない神輿

大所帯で歩いているために目立つのだろう。移動中はちょくちょく魔物が寄ってきた。

痩せたクレイジーボア、鼻水垂らした栄養失調ゴブリン、何故か根っこの間に挟まったまま動けなくなっていたペジュリオ、そして何匹かで群れを作っていたハルパーフェレット……。

まぁ、どれも雑魚だ。俺達ギルドマンの誰かが前に出て、魔物なりの正しい対処をすればすぐに片付く小物ばかり。

これがもうちょい強めの魔物だったら“おお、さすがはギルドマンだ……魔物への対処を心得ているな……!”って反応がもしかすると兵士達からもらえたのかもしれないが、相手が小粒すぎてそんな展開にはならなかった。

まぁ、平和であるならそれに越したことはないんだけどな。何も起こらないのが一番だ。

「随分と奥深くまで行くんだな……我々兵士の討伐では踏み入らないような奥地だ」

「わぁーほんと、バロアの樹もでっかいのがこんなに……ここまで大きくなるもんなんだねぇ……」

「なあに、まだまだ奥があるさ。作業小屋が無くなってからが本番よ」

「――それすら越えると、魔物の性質も変わってくる。危険な大型の魔物も増え、非常に危険だ……――しかし、今回はその手前辺りまでだろう――」

「おお、だったら安心だ……というより、この人数なら怖いものもないだろうぜ」

今回の目的地はかなりの奥地にある。が、俺がいつも冬キャンするほどの場所ではない。もっと手前だ。それでもこの筋肉バカのメンツで速度重視の行軍をしても行きだけで半日かかるのだから、相当に遠い場所である。

喋りながらも素早く進み、魔物と出くわせばその度にギルドマンが戦い、時折兵士たちも剣を抜く。

兵士の中にちょっとした水魔法を扱える人がいるおかげで、行軍中は水場を探す必要もなくて非常に楽だった。やっぱ良いよな水魔法……俺も覚えたいぜ、水魔法……。

「この先だな。なるべく平坦な道を選んだが、さすがに足元も荒れている。気をつけて進め」

やがて日も傾いてこようかという頃になって、起伏に富んだ地形を歩いてゆくと……小川が見えてきた。

その手前には大木と表現するしかないような、デカい物体が横たわっていた。

「うお……おおおお……! こ、こいつは……!」

「この辺りの木を見て、思ってはいたことだが……デカいな……! いや、周囲のものよりも一際デカいぞ……!?」

「人間の力で持ち上がるのか、これが……」

「――ご立派ァッ!」

「面白くなってきたじゃねーか……こんなもの持って帰ったら英雄扱いだぜ!」

屋久杉でも道を譲るレベルの真っ直ぐな巨木。それを目にしたギルドマンや兵士たちは、不安がったり興奮したりと様々な反応を見せた。興奮するってのはちょっとよくわからないが、まあ力自慢にとっては逆に心躍るものがあるのかもしれない。

俺は別にそうでもない。どっちかといえば不安がるタイプだ。俺個人は大丈夫だとしても、全員で運べるものなんだろうか……。

「……うむ。皆、ひとまずはご苦労であった! 見ての通り、ここに横たわっている大木こそが今回我々が運搬するべきものである! これから休憩を取った後、薄暗くなるまでの間だけ試験的に運んでもらうことになるが……詳しくは、私などより専門のヴィルヘルム殿に説明してもらうとしよう」

ヴィルヘルムが大木の根からよじ登り、上に登った。それだけで小柄なヴィルヘルムでさえ、俺達の誰よりも背が高くなる。声掛けするには一番良いポジションだな。

「あー、これが前もって俺ら……伐採専門の集団が切り倒しておいた材木になる。切り倒してちっとは経っているが、乾燥はあまり期待しないほうが良い。そもそもこれほどの大木、ちょっとやそっとの期間で乾燥するものでもないからな」

横倒しの丸太はその名の通り丸いのだが、その上でヴィルヘルムが身じろぎしても全く揺れる気配はない。人一人の体重をかけたくらいじゃビクともしないってことだ。すげー。

「気になった者もいると思うが……切り倒す上で、少し工夫を施してある。枝と根の部分だな。こいつを一部、平らに残しておくことで運び手が持ちやすいようにしてある。根や枝を上手く掴むなりして、大人数で担いでもらいたい」

言われてみれば、横倒しになった大木には一部枝と根が残されていた。

なるほど、確かにあれらを使って担ぎ上げれば丸太本体だけよりもずっと運びやすそうだ。感覚としては担ぐ部分がちゃんと用意された神輿に近いだろうか。これなら丸太がバランスを崩してゴローンと横に転がっていくこともなさそうだ。まっすぐに安定しているというだけでもかなり持ちやすいと思う。

「行きの道は少々遠回りな部分もあったが、同じ道を通って運んでいく。この大木の幅であればどうにかなる道を選んだつもりではあるが……所々、樹木と干渉する場面もあるだろう。そういった際には、強引ではあるが邪魔な木を伐採して道を切り開いていくつもりだ。よろしく頼む」

「質問、良いだろうか?」

「む……が、外交官殿? ああ、もちろん……構わないが……」

「この大木を運ぶとして、最も重くなるのはどこなのだろうか」

「……ふむ。それならば、持ちにくい中央部分となるかもしれないな。上下は枝と根を使って大人数で運べるが、中央にはそれがない。いくつか道具を用いて担ぎやすいようにはするが、大変だろうな……」

「おお……では、私はそこを担当しようかな……」

「そ、そうか……」

どうやらアーレントさんは重い場所担当になりたいらしい。筋肉を虐めたいのはよくわかった。けどあんまり無理しないでくれよ……怪我して無理な強制労働させたなんて話が出たら国交に響くからな……。

ちょっとの休憩と軽食を挟んだ後、俺らはどっこいせと立ち上がって大木の周囲にまとわりついた。

日が落ちるまでの間、少しでもこの大木を運んでおこうというわけだ。

事前にちゃんと運べるかどうかをチェックしておきたいということでもある。暗くなったら、後は野営して、朝になったら再び大木運び。うーん、重労働の予感がする。

「おら、ギルドマン連中の武器はこの俺に預けておけー。いざって時は投げ渡してやるからなー」

そして俺は今回、皆の荷物や武器を一時的に預かっておくポーターとしての役割を買って出た。まぁ今回は全員がポーターみたいなものではあるんだが……。

ロングソードや重量武器の運搬を一手に引き受け、いざ魔物が現れたとなれば必要な奴に分配する。結構大事な役割だ。何より、預かっている武器のどれが誰のだかをわかっていなければ難しい役目である。その点、俺ならほぼ全部の武器の持ち主がわかるし、弁慶みたいな重装備でも苦も無く動けるからな。適任と言って良いだろう。まぁ俺が大木を運ぶ係になっても良かったけどさ。こっちはこっちで大事だしな。

「――モングレルよ……俺の得物、任せたぞ……――」

「あ、はい。丁重に取り扱うからな……」

「モングレル、あたしの剣の鞘、乱暴に扱わないようにね!」

「はいはい。……うわぁ、スリングまみれだ」

短めのものは腰に吊るし、長いものはロングソードのように背中に背負う。

鞘の革ベルトで全身縛られ、かなり重苦しい。重苦しいが……。

「今の俺、めっちゃ強そうな格好してね……?」

「鏡がなくて良かったな、モングレル。ほらよ、俺のレイピアだ。折るなよ」

「なんだよロレンツォ、完全武装って感じで良いだろうが。……おお、随分しっかりしたレイピアだな。結構刀身も太い」

「鑑賞してんじゃねえよ」

腕力の強いギルドマンたちなので、当然ある程度腕の立つ連中が集まっている。そんな奴らの武器なわけだから、その重厚感といったらない。俺の愛用するバスタードソードよりも平気で長かったり重かったりするものばかりだ。よくもまあこんな日常生活に差し支えそうな得物をプラプラさせて仕事ができるぜ……。

特にゴリリアーナさんとディックバルトのグレートシミター。デカさがやばい。めっちゃ斜めにしてないと地面についちまうから背負うだけでも大変だ。

「よーし、持ち上げるぞー!」

「せー、のッ……!」

「うおおおお……! お、結構楽に上がった!」

「重いは重いが、思っていたほどじゃねえな!」

「ここから長く歩くから、それ考えるとちとしんどいがな……!」

「ようし、いけるとこまで運ぶぞ! 声出していけー!」

「ういーっす!」

こうして、俺達大木運びチームは本格的に仕事を始めたのだった。

……俺も武器背負いまくってめっちゃ重いんだけど、いまいち一体感の得られないポジションだな……くっそー、神輿の最初と最後に担ぐことの大切さを思い出したわ……。