軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハードボイルドな休日

アルコールの耐性は先天的なものだ。俗に言われる酒に強いというのは、文字通り才能と言って良い。生まれ持っての素質だ。

これは後天的に身につくものではない。だから酒を飲みまくって強くなるなんてことはないので、弱い人は無理しない方が良いだろう。

特に酒の強さは遺伝的な要因が大きいと言われている。強い家系に生まれた人は強くなりがち……みたいなやつだな。

前世の俺は、まぁそれなりだったと思う。ビールとかウイスキーとかはよく飲んでいたし、遊びに出たらテキーラもよく飲んでいた。酔えればいいやって時は度数が高い割に安いストロングなやつに手を出したりもしたし、人並みよりは上だったんじゃないだろうか。

それでも多分ライナと比べるとライナの方が強いんだからこの体質ってのはマジでよくわからんね。体が大きければそれなりに解毒能力も強い……かと思いきやそうでもなかったりするんだから謎だ。

で、なんで酒の話をしたかというとだ。

今日の俺は、二日酔いでかなり死んでいる。

「解毒薬が効かねぇ……」

「また昨日は随分と飲んだみたいねぇモングレルさん」

「美味い飯と酒がたくさんあったから……ああ、水ありがとう、女将さん……」

「良いのよ。久々にモングレルさん相手に宿屋やってる気分だわ。あっはっは!」

今俺は宿でダウンしている。小中大で言うと大ダウンだ。俺の経験上、このダルさは夕方前まで持続する。そしてこれからもう一生酒は飲まねえって気分になっている。ちなみにこの一生ってのはだいたい三日間くらいのことだ。

「新しい桶が欲しかったら言ってちょうだいよ! 床に吐かれるのは嫌だからね!」

「ウッス……」

女将さんありがとう。けど女将さんのパワフルな笑い声が今はダメージになってしまうので、超身勝手ながらもうそっとしておいてほしいぜ……。

「くそー……なんだってこの体はこんなに酔いが回るんだ……前世はもうちょい強かったぜ……転生してなんで弱くなってんだ……転生だったら無条件で全体的に強くなれよ……」

一人きりの部屋でベッドに突っ伏し、具合の悪さをひたすら堪える。

眠ってしまえればその方が楽だったが、生憎と今は朝。昨日の夜ぐっすり眠ったせいで全く眠くなかった。頭痛と気分の悪さを真正面から受け止め続けるのがしんどすぎる……。

それもこれも、昨晩マッチョ連中たちとの飲みに長々と付き合っていたからだ。筋肉自慢は酒を飲んでも意地を張りたがる。おかげで久々に自分の酒のペースを見失ってこのザマよ……。

くそぉ……非常用に取っておいた 解毒草(ダンパス) 丸ごと齧って食ったんだけどな……全快とはいかないか……。

「先輩先輩ー、モングレル先輩ー」

「……」

うめき声をあげるだけのゾンビになっていると、扉の向こうでライナの声が聞こえた。

聞き間違えるはずもないダウナーな声だ。平時なら特に待ち合わせをしているわけでもなくても快く招き入れる相手だが……今の俺はちょっと世間話をするのもキツい……。

「あー……すまんなライナ……今はちょっとな……」

「話は昨日ゴリリアーナ先輩から聞いたっス。モングレル先輩が飲みすぎてすごいことをやらかしたとか……今は二日酔いでヤバいんスよね?」

「えっ、俺昨日何をしたんだよ。ちょ、ちょっとライナ。鍵開いてるからちょっと入ってくれ……」

話したくはない気分だったが覚えてないやらかしはさすがに無視できない。

待て待て、昨日の記憶なんて飲み始めてからはほとんどないぞ。変なこと言ってないだろうな俺……。

「お邪魔しまー……うっわ酒臭っ!」

「よお……好きなところに座ってくれ……」

「それに相変わらず物が多いっス……座れそうな場所がモングレル先輩のベッドの端っこくらいしかないんスけど……良いんスか、これ……」

「ぁあ……? 椅子とテーブルあるだろ……?」

「椅子の上になんかトゲトゲしたプレートアーマーが乗ってるんスよ」

「……装備の位置動かしたっけ……? ああ、昨日俺がやったのか、いやいいよ、じゃあそこらへん座ってくれ……」

「マジでヤバそうっスねモングレル先輩……」

来客が入ってきたというのにうつ伏せのまま顔を向けることもできない辺り俺のダメージの深刻さを察してもらいたいものだが……それよりあれだ。俺の昨日の話だよ。

「ライナ、それで俺昨日……」

「あ、これウルリカ先輩が作ってくれた酔い覚ましの薬っス。これ渡しに来たんスよ」

「えっなにそれほしい……くれ……!」

「水と一緒に飲まないと駄目らしいっスよ」

「ありがたくいただくぜ……最高のタイミングすぎる……女神だわ……」

「め、女神って……」

マジかよライナ最高だ。今俺が一番欲しい物を持ってきてくれるとは。ありがとうライナ。ありがとうウルリカ……。

お、丸薬か。小さめだけど噛まないと厳しそうなサイズではあるな……噛んでから水で流し込む感じか。どれどれ……。

「にっが!」

「あ、それ苦いっスよ。ゴリリアーナ先輩が飲んだ時も顔の影が濃くなってたっス」

良薬は口に苦しとは言うが、この苦みだけで目が醒めるようだぜ……ダンパスを生で齧る時よりも僅差で苦いって一体どういうことだよ? けど効きそうな味ではある……。

「……ふう。いや、助かったぜ。ありがとなライナ。ウルリカにもお礼言っといてくれ」

「うっス。まあ、ゴリリアーナ先輩の分の余りみたいなものらしいっスから」

「かたじけねぇなぁ。今度ウルリカに何か奢ってやるか……ああそうだ、それよりもライナ。俺が昨日やらかしたことって何だったんだよ。記憶無くて気になってるんだけど」

迂闊にケイオス卿と結びつくような転生者っぽい事を口走ってたり、ましてやもっと不味い事を喋ったりしてたら大変なことになってしまう。

内容によってはマジで一生禁酒するパターンもあり得るぞ……。

「いや、なーんか皆に囲まれてモングレル先輩の気が大きくなったって話は聞いたんスけどね……内容がいまいち、よくわからないというか、難しいというか……本当なのかなぁって……」

「……ええ、なにそれ。どんな内容?」

「なんか……モングレル先輩が“一発芸やります!”とか叫んで、ガラス瓶の口の上にゆで卵を乗せて……」

「……乗せて?」

「なんかそれが、ひとりでに瓶の中に入っていったらしいっス!」

ズコー。しょうもな! 地味すぎるだろ俺の一発芸!

酒のんで酔っ払ったテンションですることがそれかよ俺! なんも覚えてねえ!

「……で、実際どうだったんスか。瓶の口よりも卵は大きかったらしいんスけど……」

「いや気になるのかよそんなの」

「めっちゃ気になるっス」

そう……?

いやまぁ原理がわからないと難しいのかねこういうのは……。

「まあ大したことではないんだけどな……瓶があるだろ。卵が入らないまでも、それなりに口の大きな奴が良いな。まずはそれを温めておくんだ。熱湯とかを中に入れておくと良い感じになる」

「ふむふむ」

「で、温まったらその口の上にゆで卵を乗せておく」

「ふむふむ、それで……?」

「それだけだぞ」

「それだけなんスか!?」

「瓶の空気が冷えていくとそのままゆで卵がニューッと中に入っていくんだ。不思議だよな」

小学生の科学実験だな。お湯じゃなくても中にマッチを入れるような温め方でも確かできたような気がする。ちなみに中に入ったゆで卵は、逆さにして再び瓶を温めるとニューっと出てくるぞ。

……昨日の俺はちゃんと瓶から取り出すところまでやったんだろうな? ゆで卵が封印された瓶を放置して帰ったとはあまり考えたくないんだが……。

「不思議っスけど……なんでそんなこと知ってるんスか、モングレル先輩……」

「いや……なんでだろうなぁ……それよりライナ、俺ってどういう流れでその一発芸を披露したか知ってる……?」

「そんなの私に聞かれたってわかんないスよ!」

だよなぁ。……いや、まぁ別にその程度のやらかしというか妙な宴会芸を見せた程度なら良いや……これ以上の詮索もしないぜ……。

瓶の中に入れたゆで卵がどうなったかも正直あまり知りたくないしな!