軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

デッドスミスの森見学

鉄槌のフーゴと鉄床のイーダと言えば、地元じゃ知らない奴は居なかった。

幼馴染で相棒のイーダがガントレットで敵を受け止め、重量級のハンマーで俺が止めを刺す。どんな魔物や盗賊相手でも、二人が居ればどうとでもなる。そんな最強パーティーこそが、俺達“デッドスミス”だ。

いや、“だった”。

そりゃ最初は若さに任せてガンガン仕事も達成できたし、運も味方して一気にシルバーまで駆け上がって来れたけどな。

当然というかなんというか、普通に二人じゃ厳しかった。

実力もまぁ、広い世界に出てみりゃ最強ってほどでもなかったしな。

身の程を弁えて、ゴールド目指して生き急ぐような真似はやめたんだ。

それでも王都でもそこそこ名は売れたし、堅実にやってきたおかげで二人ともシルバー3にまではどうにか上がれた。

まぁここからゴールドを目指そうとするとデカい壁が立ちはだかるもんだから、これ以上は欲をかけねえんだけどさ。王都で試験を受けるのもタダじゃねえし。

……イーダと、そして俺達の子供を養っていくためにも、これからはより一層無茶もできなくなるしよ。

そういう理由で、俺達は金のかかる王都からレゴールへと移ってきたわけだ。

レゴールは今かなり盛り上がっているみたいだし、拡張区画っていう、街をデカくする都市計画もあるらしいからな。家や拠点を構えて暮らすにはいい場所だと判断した。何より、街の近くに魔物の討伐ができるデカい森があるってのが気に入った。ギルドマンにとっちゃ最高の環境だ。ここでなら、俺とイーダも上手くやっていけると思う。

「まーバロアの森で稼ぐんだったら今だな、今。この時期が一番金になる。ただし深入りは禁物だぞ、森の奥にはシルバーランクでも危ない魔物がゴロゴロいるって話だからな。欲かくと死んじまうぞ」

「なるほど……この作業小屋ってとこを限界点と考えればいいってことかな? バルガーさん」

「だな。作業小屋自体はいくつもあるからこれは地道に覚えていくしかねえ。最初は迷わないように浅い所で森を覚えていくのが良い。うっかり罠猟の区画に踏み込んだら危ないしな」

レゴールにやってきた俺とイーダは、レゴールで大手のパーティーとして活躍しているという“収穫の剣”のベテランから森の案内を受けていた。

四十近い歳で現役のギルドマンをやっているというバルガーさんだ。知らない土地や狩り場のことは、金を払って現地のギルドマンに聞くのが一番良い。依頼を出してバロアの森の案内を頼んでみれば、バルガーさんはとても丁寧に森を案内してくれた。やっぱり情報料はケチるべきじゃねえ。

「秋が儲かるのはわかりましたけど、冬はどうなんです? クレイジーボアってのは冬のほうが美味いイメージありましたけど」

「あー、バロアの森では違うんだ。冬になると魔物たちは暖を取るためにバロアの森の深部へ逃げる」

「暖を取るために?」

「奥地にサンライズキマイラがいる……らしい。見たことはないけどな。だから冬は猟期になんねぇのよ。その分伐採作業が捗るんだけどな」

「うわ、マジすか……」

サンライズキマイラ。伝説級の魔物じゃないか。そうか、バロアの森に居るんだな……奥地に行くのはやめておこう。冗談じゃない。

「だからその分、レゴールでは秋に稼ぐ。今は結婚祭も近づいてるから、あらゆるものが高値で売れるぜ。今金に困ってるのならそこらへんの仕事がおすすめだぞ」

「なるほど……考えときます」

「ねえフーゴ、浅い所だったらうちのラーラでも連れていけるかしら」

「いや無理だろ。まだ九歳だぞ」

ラーラはうちの娘だ。俺達が19の時にこさえた可愛い娘である。

賢くて可愛くて最強の娘なんだが、見知らぬ土地の森に連れて行くにはさすがに危ない。

今はレゴールの知り合いのとこに預けている。ゆくゆくはラーラにとって、このレゴールの土地こそが故郷になるのかもしれないが……だとしてもラーラには、あまり危ない真似をしてほしくないぜ。

「娘がいるのか。良いねぇ。……けどま、そうだな、バロアの森は危ないから子供が入るべきじゃねえよ。護衛が十人近くいるなら歩かせてみることもできるが」

「ほれみろ、危ねえって」

「言ってみただけじゃないの」

「ははは、仲良いんだな。二人はどこから? その髪色、近場じゃなさそうだが」

「ああ、これですか。親が連合国の人間なんすよ。生まれはハルペリアですけどね」

「私もそう」

俺は前髪を摘んでみせた。

明るいオレンジ色の髪。そして陽に焼けたような褐色の肌。見ての通り、俺達はここらへんの者ではない。

俺もイーダも、親はアマルテア連合国からやってきた移民だ。その血がかなり濃いらしい。だから見た目のことでちょっとした冷遇を受けることもちょくちょくあった。今となっては慣れたもんだし、気にならないけどな。

ただ、ラーラのことだけは心配だ。

もし肌の色や髪のことでラーラが何か言われるようだったら、俺は自分を抑えられんかもしれん。ぶっ殺してやる。

「レゴールもどっちかと言えばサングレール寄りの都市だからな……白髪や金髪には厳しいとこはあるぜ」

「あー、やっぱりそういうのあるのか……」

「けどその分、連合国っぽい人間への当たりは強くはねえかな。だからま、全員が全員そうだとは限らんが、少しは安心しても良いと思うぜ」

「本当ですか、良かった」

「レゴールのギルドにはサングレールの血が入った奴も馴染んでるしな。あんたらだったら普通に歓迎してもらえるさ」

「へー」

「サングレール混じりの人もいるのか」

確かに、俺達は人種的に差別されがちではある。けどそれもサングレール混じりの人らほど露骨でも悪辣でもない。

そういう人らは本当に大変だと思う。俺もいくつかそういうのを見てきたが……自分の境遇も考えちまって、あまり良い気分はしない。

「そいつはモングレルっていってな。ちょうどあんたら二人と歳も近いギルドマンなんだが、なかなか面白い奴だよ。人望もあるし、意外とよく物を知っている。ギルドの酒場でよく変なことしてるから、暇だったら絡んでみると良い」

「おー……モングレルか、覚えときます」

「私達と同じくらいの歳かぁ。負けてらんないね」

「へっ、だな」

俺達は28だ。このくらいの歳になってくると、そろそろ引退ってのも視野に入ってくる。バルガーさんのように長くギルドマンを続けられるならそりゃもう一番ではあるが……そうは思っていても続けられなくなってしまった仲間を、これまで何人も見てきた。

そんな不意の引退をした時に、娘のラーラを路頭に迷わせるわけにはいかない。

……いつまでも若い頃みたいに、最強目指してってわけにはいかないもんだ。

「モングレルに聞けば、バロアの森案内でもレゴール市内の案内でもやってくれるだろう。あいつはブロンズ3で、万年金欠野郎だからな。依頼として頼めば喜んで受け取ってくれるぞ」

「ブロンズ3?」

それは意外というか、俺達のような歳にしてはちょっとランクが低いな。

そりゃ腕っぷしが強くない真面目なだけのギルドマンだったらずっとブロンズ3ってこともあるだろうが……。

「ああ、モングレルはランクを上げたくねえんだよ。強制依頼が嫌いらしくてな、実力はあるぞ? シルバー……まぁ、そうだな。シルバー3はあるだろ。変なこだわりはあるが、優秀な剣士だ」

「……それだけの実力があってブロンズに留まるなんて、勿体ない」

「護衛をしたってあまりお金入ってこなさそうだわ……」

「だろぉ? あんたらからも言ってやってくれよ。本当に変なとこにこだわる奴なんだ」

呆れているような言い方だったが、モングレルの話をする時のバルガーさんは、どこか楽しそうだ。仲が良いのだろう。

「あいつもそろそろ結婚すりゃ良いのになぁー……ライナちゃんも可哀想に……」

「ははは……」

しかし込み入った話になると新参者の俺達ではわからないことだらけだな。

そこらへんはもっとレゴールに馴染んだ後、ありがたく聞かせてもらうことにしよう。

「あ、そういえばバルガーさんは結婚とかされて……」

「俺はしねえよ? レゴールの娼館の姉ちゃん達は綺麗どころが揃ってるからな! 結婚なんて勿体ねえって! おっと、こりゃ夫婦の前で言うことじゃなかったか。ハッハッハ!」

「……」

「……」

まぁ……バルガーさんもいい人だけど、やっぱりギルドマンらしいギルドマンだな……。

「フーゴ」

「わ、わかってるって」

隣のイーダが俺のことをキツく睨んでる……だ、大丈夫だって。そういう店には行かねえからもう。多分。きっと……うん。

でもバルガーさんとの付き合いでちょっと話を聞くことはあるかもしれないから、うん。確約は……できねぇ!

「またいやらしいこと考えてるわね!?」

「おぶッ、ち、違う、勘弁してくれイーダぁ……!」

「うわっ、夫婦喧嘩か!? おいおいここで始めるなよ!? 街に戻ってからにしてくれ!」

俺達“デッドスミス”の新しい拠点、レゴール。

ここでは近々領主様の結婚式が開かれ、大きな祭りがあるらしい。

……よし、その雰囲気でイーダにプレゼントを渡すことにしよう。そうすりゃ機嫌も直してくれるだろ。