軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談204話、ある守護者たち

意識を失っている。

青髪ツインテール少女――の姿をしているアクアドラゴン。大地の守護者ノーマは、深々とため息をついた。

「ドラゴンって、ヘタに殺すと呪われるのよね……」

しかも人間の姿になれる力を持っているレベルになると、面倒な能力がある種の可能性もある。

銀髪眼鏡の戦乙女は、少女を軽々と肩に担ぐと入り口方向へと歩き出した。先に進めてはいけないが、送り返すのが駄目とは言われていない。

と、正面から激しい戦いの気配を感じた。先ほどから髪がなびくほどの風圧を受けていたのだが、ノーマはその辺り疎かったりする。相性的に風に対しては鈍感なのである。

「おやおや、まあまあ」

先客がいた。水の守護者ディーネである。

「乙!」

「何やっているのよ?」

次女は三女を叱るように言った。ディーネはニヤリとした。

「そんなもの、妹が戦っているのを観戦しているに決まっているじゃない」

「決まっているのか」

眼鏡の奥で呆れの色を浮かべるノーマ。

その先で、四女である風の守護者シルフィが、灰色髪の美女――クラウドドラゴンと目にも留まらぬ速さで戦っていた。

「あー、駄目だ。速すぎてよくわからん。どっちが勝ってる?」

ノーマが尋ねるとディーネは淡々と返した。

「まだやりあっているってことは、互角ってことでしょうが。あったま硬いな」

「大地属性ですから」

ノーマはアクアドラゴンをかついだまま、ディーネのそばで立ち止まった。

「どうせ脳味噌までカッチカチよ」

「頭んなか、石ころって悪口じゃない、ノーマさんや」

さすがのディーネも、次女の自嘲に苦笑する。

「まあ、シルフィはガチで戦っているよ。あの相手、風使いは相当なものだね。同じ土壌で戦って互角っていうならさ」

「……気のせいかしら?」

ノーマは顔をしかめた。

「あの子、笑ってない?」

「ガチだからね」

ディーネはノートを取り出すと何事かを書き始める。

「同じ属性で自分と同等かそれ以上の相手と戦えること。それがシルフィの好戦的思考に火をつけているんだろうね。正直、本気で戦っているんだけど、物凄く楽しんでいると思う」

「そういうもの?」

「自分を高められる相手と認めたってことでしょ」

さらさらと筆を走らせるディーネの言葉は、感情のこもらない淡白なものだった。

「己の限界を引き出せる。己をどこまで高められるか。戦いながらワクワクしているんだと思う。要するに『ゾーンに入っている』とか、『最高にハイになっている』ってやつ」

「……あら、可愛い」

ノーマが、ディーネの書き込んでいるもの――戦う戦乙女のイラストを褒めた。そう?と満更でもない笑みを浮かべるディーネ。

「漫画でも始めるの? 小説家さん」

「二刀流ってのもいいものだよ、ノーマ」

イラストがかけて、漫画もできる小説家ってのも素敵じゃない?

「漫画が画ける人は、小説書かないってよく聞くけど」

「絵で表現できるなら、そっちのほうが早いというのはある」

ディーネは冷めた目でノーマを見上げる。

「でもどちらかしか駄目って決まりはない。一芸を極めるのも、やりたいことをやりたいようにやるのも、人それぞれ。色々な姿勢があってこそ、表現は自由であるのよ」

「……そう。あなたがそういうのなら、そうなんでしょう」

小説家でも絵描きでもないノーマは淡々とした返事をするのである。

「でも、参ったわね。ここ通行止め?」

シルフィとクラウドドラゴンのめまぐるしい戦いは、迂闊に近づけない。迂回しようにも飛び回っているせいで、迂回が成立しない。

「ここ、一本道だし、ノーマは飛べないもんね」

「岩が飛ぶわけがない。というか飛べないのはあなたも同じでしょ」

「風か水で動かしてやるしかないってか。あたしは嫌だよ。あんた重いもん」

「だれが体重70キロよ!」

「7トンの間違いじゃね?」

「埋まるわ」

「戦う時埋まってるじゃん」

ディーネは皮肉った。

「太った?」

「むしろ60キロにまで減った」

「うそつけー、さば読むなー」

じろっと三女は睨む。

「それだけでっかいお胸があって軽くなるわけがないっ!」

「いや、あんたも胸大きいほうでしょうが! 水でも詰まっているんじゃないの?」

「水増しってか? やかましいわ! 人間の体内はほどんど水分でできてるんだぞ」

言い争う二人。だが仲のよい冗談みたいなものなので、すぐに流れる。これがシルフィ相手ならナイフが飛んでくるほど危険な話題ではあるが、当人は本気バトルで周囲のことは眼中になし。

「で、外に行きたいの、ノーマ?」

「この荷物を放り出してきたくて」

「あー、アクアドラゴンだっけ、それ」

ハンマーで吹っ飛ばしたディーネである。

「さすがにそれ担いで地面潜れないかー。まあ、しょうがないね。シルフィが戦い終わるまで待ってるしかないね」

何とも言えない顔になるノーマ。いつまで人を担いでいなければならないのか。

「それ、置いたら?」

「そうするわ」

面倒なので、その辺に転がしておく。ディーネは言った。

「ここを通りたければ、サラ姉を呼んだら? あの人なら問答無用で焼き払って、道ができるんじゃない?」

「シルフィが怒るわよ。邪魔するなって」

「――呼んだか?」

ぬっと炎の守護者サラが現れた。わっ、とビックリするノーマ。不意打ちに弱いのだ、次女は。

「あれ、サラ姉じゃん。そっちは終わったの?」

「まあな」

愛想がないのはいつものことである。ディーネは構わず続けた。

「勝った?」

「負けた。通してやった」

「嘘ぉー!」

ノーマは驚くが、サラは睨む。

「お前だって負けただろうが」

「負けたというか、何というか……」

「それで、お前たちは何をしているんだ?」

サラは尋ねる。ディーネは「観戦」と答え、ノーマはアクアドラゴンを外に放り出してくる途中、足止めをくっていると答えた。サラは鼻をならす。

「そんなことか。ノーマ、お前はそのドラゴンとやらを担いで、そのまま道の真ん中を歩いていけ」

「え、戦闘の真っ只中よ!?」

「行け」

有無を言わせずサラは命令した。

「話の通りなら、シルフィもその戦っている相手も、ドラゴンを担いだお前を攻撃しない。だから行ってこい」

「邪魔じゃない?」

「舌打ちはされるだろう。それだけだ。……行け」

「はい」

すん、となるノーマは、アクアドラゴンを再び担ぐのだった。