作品タイトル不明
後日談203話、生き死の考え方
「これも一つの精神攻撃だったのかな」
ソウヤは一歩一歩足を進めながら呟いた。その足取りは重い。
光の守護者レイとの問答。直接、剣を交えることはなかったが、彼女と闇の守護者は、結局、去っていった。
「どうなんだろうな」
ソウヤは、老魔術師を見た。
「あの守護者は、どういう人間なんだ? いや、あんたも知らないって言っていたっけ」
「名前と姿は知っているが、中身は私の知る彼女たちとは違ったな」
ジンは昔を思い出すような顔になった。
「レイはいささか髪が短く、リアンは逆に長かったような気もする」
「そのリアンって名前もなかったみたいじゃない」
ミストが口を挟んだ。
「お爺ちゃんと知り合う前ってこと?」
「だろうね。守護者が襲名制とは知らなかったが」
今のは冗談だったのか。ジンは軽口にも似た調子だった。
「他の守護者――四姉妹のほうは私のよく知る彼女たちではあったが……。まあ、自分たちをオリジナルではないと言っていたから、光と闇の守護者たちのことも、あまり気にしなくていいと思うよ」
人生は、一期一会。ソウヤの今後の人生に、おそらく彼女たちが絡むことはない。
「人を蘇らせることに、否定的だったな」
ソウヤの声のトーンは低かった。ガルたち、カリュプスメンバーの復活のためにここまでやってきたが、レイはそれを否定的に受け取った。
「あの光の守護者は、復活を嫌悪していた。……何故だろうな」
きっとあの守護者の人生において、死からの復活、それにまつわる考え方を形成する何かがあったのだろう。ソウヤはそれが気になった。
「自分の行いに自信が持てなくなったのかね?」
ジンは問うた。ソウヤは答える。
「ガルたちを復活させようっていうのは、俺の自己満足かなって。……そうなのかなって、考えちまった」
「あら、ワタシはガルたちが蘇ったらうれしいわよ」
ミストは言った。
「でも、何故そう思うのか。ワタシ自身、よくわからないのよね。考えたこともなかったのに。あの暗殺者たちと別段親しかったわけではないし、ワタシはドラゴン。あのコたちは人間。人間の生き死に、さほど関心がないはずなのにね」
「まったく関心がないわけではない」
ジンは首をわずかに傾けた。
「とくに君の場合は、ガルたちの復活自体には、そこまで大きなウェイトを占めていない。これは私の偏見だが、ガルたちが蘇って、ソウヤが喜ぶ顔を見たいというのが本音ではないかと思う」
ソウヤは目を剥いて、ジンを見た。ミストは考える素振りを見せる。
「……言われてみると、そうかもしれない。ワタシは、ソウヤが笑顔でいること、楽しそうにしているところがみたいんだわ」
だから命を賭けて、人間の復活のための旅についてきているのだ。
「喜びも、悲しみも、すべてを共有したいという気持ち。これはワタシのエゴね」
「正直だね」
「ドラゴンだからね」
ミストは悪びれない。ジンはソウヤへと視線を向けた。
「結局のところ、生き物というのは自分のしたいこと、本能に従っている。自己満足? 大いに結構。それが人間だよ」
「……」
「これは余計なお節介だが」
老魔術師は自身の顎髭を撫でた。
「レイの言ったことは、しょせんは彼女の好き嫌いの話だ。それを真に受けるのも構わないが、君が考えを改める類いではない。……もっとも、君が彼女の言葉が実にもっともだと納得するのであれば、考えを変えてもいい。それも人間だ」
「彼女の言葉が正しいかどうかはわからねえけども、ちょっと引っかかったところはある」
ソウヤは認めた。
「ガルたちは自分たちが死んだ時、蘇らせてほしいと思っていたかどうか。俺は、俺の勝手であいつらを蘇らせようとしている。あいつらがどう思っているのか、オレはもっと考えるべきだったんじゃないかって」
「次からは知り合い全員に遺言を書かせておくんだな」
ジンはやはり軽かった。
「あなたは自分が死んだとき蘇りたいですか? イエスかノーで書かせておこう」
そうすれば、あれこれ悩まずに済む。
「大抵の人間は、蘇らせてもらって文句を言わないだろうがね。……まあ、一部例外というか、先に逝った人のもとにいきたいから死なせてほしいという人もいるにはいるが。死後の世界のことなんて知るわけがないのだから、勝手な思い込みではある」
要するに――老魔術師は続けた。
「生きる、生きたい、という感情は生き物として自然なことだ。死にたいと口にする者が生にしがみついていることもまた生き物の本能なのだ。もしガルたちが復活したことを迷惑に感じるのであれば、それはそれ。君はこう言えばいい。『次からは復活させないから安心しろ』って」
ミストが噴き出した。ソウヤは首を振る。
「爺さん、人の死に対して軽くね? さっきから気になっていたんだけど」
「不快にさせたのなら謝るよ。私は生と死に関しては、君らより饒舌だ。私がどれくらい生きて、どれほどの人を見送ってきたか、知らないだろう?」
不死なる者。異世界トラベラー。この世界では数千年前のカイザードラゴンを演じていたのも彼だ。生き物の死について、たかだか数十年の人間が説教できるような相手ではない。神様に片足を突っ込んでいるような人間なのだ。釈迦に説法である。
「お爺ちゃんの前でこう言うことを言うのは生意気かもしれないけれど」
ミストは口を開いた。
「ソウヤには、『オレが蘇らせたかったから蘇らせた。文句あるか?』って言ってほしい」
「え……?」
「ガルたちがどう思っていようと関係なくて、オレが決めたと胸を張ってほしい」
あれこれ考えて悩むよりも。その言葉にソウヤは苦笑した。
「それは……実に、ドラゴンらしい考え方だな」
そういう考え方もあるのか、と、今のソウヤには胸に染みた。少し傲慢になってもいいのかもしれない。